私の小たたら製鉄マニュアル
 
天野武弘(愛知県立豊橋工業高等学校)

目次 
1.はじめに
2.鉄づくりの捉え方
3.小たたら製鉄の原料および燃料
(1)原料砂鉄について
   ■原料入手について■海岸等での砂鉄採取■砂鉄の精選
(2)石灰について
   ■石灰の入手■石灰の準備
(3)燃料木炭について
   ■木炭の入手■木炭の準備
4.築炉の方法
(1)築炉の準備
   ■築炉材の準備■炉の設計■土練り■羽口づくり■築炉(操業)場所
(2)築炉作業
   ■移動式炉の築炉法■固定式炉の築炉法
5.操業法
(1)炉の乾燥
   ■自然乾燥■強制乾燥
(2)操業の準備
   ■送風装置■鉄製補助炉■測定器具■作業環境と配置■作業内容と人員
(3)たたら操業
  ■操業時間■操業の初期■操業中盤■操業終盤■ヒ出し■ヒの回収
6.作業の安全
  ■準備作業時■操業時
7.使用器具道具類
  ■砂鉄採取■炭切り■石灰準備■築炉■操業
8.操業のまとめ
(1)記録と報告、公開
(2)操業費用
9.おわりに
 

 
1.はじめに
 私が小たたらによる鉄づくりを始めたのは1980年であった。岐阜県関市の大野兼正刀匠に手ほどきを受けて以来、今日まで学校での課題研究や実習の授業などを主に操業を重ねてきた。これまで23年間に私が実施したあるいは操業に加わった小たたら製鉄は、大野刀匠のところで指導を受けた操業を含め、おそらく40回近くになると思われる。その操業経験から、大野刀匠が研究開発した大野式操業法を私なりに会得し、機会あるごとに報告もしてきた(1)。ここでは、私が行ってきた小たたら製鉄の操業法をもとに、操業マニュアルとしてまとめたものを述べる。
 
2.鉄づくりの捉え方
 今日、小規模なたたら炉による鉄づくりが各地で盛んに行われるようになった。日本古来の製鉄法が復活しつつあるとも感じられる状況である。その操業の形態は、私が知る限り、全体としては大野式またはそれに準じたものが多いようであるが、キュポラに似たような鉄製の大型のものから、オイル缶などを積み重ねた簡易なものまでじつに様々である。また操業の目的も様々で、古代炉を復元し研究として本格的に実施するところや、大学の研究テーマとして、小、中、高の授業として、また地域や文化祭等でのイベントとして、なかには中学生が夏休みの研究として単独で実施したり、営業的に操業を始めたところもあるようである。
 したがって、小たたら製鉄の操業法は一律にマニュアル化できない状況ではあるが、私の経験からはその操業法の基本はいずれの場合も同じと考えている。すなわち、砂鉄や鉄鉱石から木炭を燃料にして金属鉄を取り出すことに変わりはなく、操業法もほぼ同じように捉えて大差ないと考える。違うところは、古代炉の復元、再現を目的として土の炉による操業と、主に鉄づくりを目的として現代的な手法を取り入れて実施するところと思われる。ただ発掘事例やその研究成果に基づいて炉をつくり操業するところ以外は、厳密には鉄づくりが主体となっている事例が多いようである。その意味では私が実施している小たたら製鉄もその範疇である。
 私の小たたら操業では、古代製鉄を想定した鉄づくりを銘打って、これまでその多くを教育の場で実施し、鉄づくりの苦労と楽しさを実際の作業を通して体験し、鉄の果たしてきた技術史的な意味を少しでも解ってもらうことを主眼に行ってきた。必ずしも思い通りにはいかなかったが、嬉しい気分にしてくれる時も何度かはあった。
 小たたら製鉄は、その目的や目標によって操業法は多少は変わってくる。ここであげる操業のマニュアルは、いちおう私が実施している古代炉を想定したたたら炉による観点から記したものである。見方によってはそれ以外の炉による操業にも適用できるところが多いと思っている。
 
3.小たたら製鉄の原料および燃料
(1)原料砂鉄について
 わが国の古代製鉄における原料は、おもに砂鉄、鉄鉱石が使われた。ここでは砂鉄使用の観点から述べる。
■原料入手について
・原料は、入手しやすさを第一に考える。
・できるだけ地元の鉄資源(砂鉄、鉄鉱石、鬼板など)を使う。
・比較的入手しやすいのは海岸での砂鉄採取。
・近くで砂鉄採取が困難な場合は鋼材店等に問い合わせをする。
・鉄鉱石を使いたい場合は、採取地が限られるため鉄鋼会社などに問い合わせする。
■海岸等での砂鉄採取
・堆積地を事前に調査する。
・海が荒れた数日後の晴れた日が採取しやすい。
・採取では磁石を用いる(着磁面積の広い大型磁石ほど効率的)。
・採取地は、乾いた砂地であること、砂が湿っていると着磁が悪い。
・採取は、できるだけ干潮時、砂浜が乾く午後がよい。
・砂鉄採取は、操業環境を知るため可能な範囲で関係者全員で行う。
■砂鉄の精選
・採取した砂鉄は砂分やゴミを除去するため磁石で数回精選する。目の細かい篩があればゴミは除去しやすい。
・精選度は、鉄回収量など正確さを求める場合は、できるだけ砂分を除去するが、そうでなければある程度砂分があってもよしとする。
・精選後は塩分を除くため水洗し乾燥させる。
・海岸砂鉄にはチタン分(TiO2)が多い。チタン分を除くには、200℃以上に加熱したあと4.5cmほど離した位置で磁選する。
・準備する砂鉄量は、目標とする砂鉄装入量にもよるが、精選した量で20〜30kg程度あればよい。
 
(2)石灰について
 石灰使用の目的は、鉄の還元作用を助け、ノロを軟らかくするなど、鉄回収率をよくするためにある。使わない方法もあるが、ここでは使用する場合で述べる。
■石灰の入手
・石灰石の代わりに貝殻など石灰質のものでもよい。あるいは、砂鉄精選で選別した砂を用いてもよい。
・入手は石灰産地であれば採取、又は建材店、石灰工場、鋳造工場、鉄鋼会社などに問い合わせる。
■石灰の準備
・石灰石や貝殻などはハンマーや鋳造の型込め用スタンプなどで、できるだけ5mm以下に細かく粉砕する。その際、防塵めがねをかけるようにする。
・準備する量は、粉砕などして使える状態で、5〜8kg程度用意する。
 
(3)燃料木炭について
 たたら製鉄における原料は木炭が使われ、石炭やコークスが使われることはなかった。ヒの純度の良さは燃料木炭によるところが大きい。
■木炭の入手
・木炭の種類は火付きがよく火力が出るという点で、松炭、栗炭など柔らかい木炭がよいとされる。しかし、広く市販される雑炭などでも操業にとくに支障はない。
・松炭を使いたい場合、今ではほとんどが特注品のため、炭生産者または鍛冶屋などに問い合わせする。
・身近に雑木があれば炭焼きによって確保してもよい。
■木炭の準備
・操業用の木炭の大きさは、炉内で還元状態を保てるかどうかの重要なポイントになるため、炉の大きさに合わせて炭切りする。
・炭切りでは3〜5cm程度に鉈などを用いて行う。
・炭切りの時、防水シートなどを敷いて行うと作業しやすい。作業場所は、風通しのよい屋外がふさわしい。
・1cm以下の小さな粉炭は、操業には使わないようにする。炉内通風を妨げ操業失敗の原因になる。
・粉炭はとくに細かいものは炉床に使うとよい。
・粉炭が大量に出るようであれば、乾燥時に燃料として少量ずつ使ってもよい。
・操業用の木炭は、50〜80kgほど準備する。
 
4.築炉の方法
 さまざまな製鉄炉があり一様にならないが、ここでは古代製鉄炉に近い小規模な炉による大野式に準じた築炉法を主に述べる。
(1)築炉の準備
■築炉材の準備
・築炉材料は、煉瓦、土、藁すさ、粉炭、耐火モルタルなどを用いる。
・煉瓦は炉の骨格に用いる。使わなくてもよいがあった方が築炉しやすい。
・煉瓦の種類は赤煉瓦でよい。耐火煉瓦はとくに必要ない。断熱煉瓦があれば炉底部に使うとよい。日干し煉瓦をつくる方法もある。煉瓦造解体現場から廃棄煉瓦を分けてもらうことができれば費用の点で助かる。
・煉瓦は割れたものを含め何度でも再利用できる。
・土は、サバ土(花崗岩が風化した土、マサ土ともいう)があれば使いやすいが、地元にある赤土でよい。身近になければ、どんな土でもまた土を使わず煉瓦だけでも可能である。
・藁すさは土のつなぎとして土練りの時混ぜる。長さ5cmほどに切って使う。
・粉炭は炉底部の断熱材として使用する。炭切り時に出る粉炭を利用する。
・耐火モルタルは羽口に使用する。SK32(耐火度1710℃)かSK34(耐火度1750℃)程度でよい。土の代わりに炉内全体に使ってもよい。ただし目的や費用とのかねあいで考える。
・これらの材料が身近になければホームセンターや建材屋に問い合わせる。
■炉の設計
 次のことを基本要件として設計する。
・還元帯の長さ(羽口から炉頂までの高さ)を80cm以上とする。1mあるとよい。
・ヒだまりとなる羽口から炉底までの高さは20cm以上あるとよい。
・羽口は1〜2本までとする。
・炉床および炉底部は熱の放散を押さえる構造とする。
・ノロ(鉱滓)の取り出し口を炉底部に設ける。位置は炉底より3cmほどのところとする。
・ノロの取り出し口は、羽口付近まで縦長につくる。幅は広くしない。
・炉内構造は、炉内が冷えて固まる棚つりが起こらない構造にする。
・炉の大きさは、目標とするヒ量に応じて決める。
■土練り
・土練り用のプラスチック製ふねがあると都合がよい。
・土は砂利等を除き藁すさと水を入れて練る。力仕事になるが、左官用のスコップあるいは農作業用の備中が使いやすい。地下足袋による足練りをしてもよい。
・土練りするこつは、一度に多く入れず少しずつ練ること。その方が労力がいらずによく練れる。
■羽口づくり
・羽口は鉄製の瓦斯管(インチパイプ、内径27.6mm)を用いると便利である。
・羽口の作り方は、鉄製パイプの周囲に練った土あるいは耐火モルタルを厚さ2〜3cmほどに巻いて成形し、乾燥させておく。とくに熱のかかる炉内部分は耐火モルタルで作るとよい。
・羽口が乾燥する前に、羽口炉内側部分のパイプを少し引き抜いておく。操業中に鉄製パイプが加熱溶解しないためである。
■築炉(操業)場所
 築炉や操業では、第一に作業性の良いところを選ぶことである。すなわち次の条件を満たせるところがふさわしい。
・水道、電源が近くにあるところ。
・原材料が搬入搬出し易いところ。
・一定期間作業スペースが確保できるところ。
・練り土、木炭粉などによる汚れがある程度容認できるところ。
・できるだけ雨露のしのげるところ。
 
(2)築炉作業
 移動式のキャスター付き台車につくる場合と、固定式の屋外につくる場合のふたつがある。雨天時や作業性を考えると前者の方が利点がある。築炉完了後は炉の主要寸法を測定する。
■移動式炉の築炉法
・台車は鉄製取っ手付の頑丈なものを自作する、または同様なものをホームセンターなどで購入しもよい。いずれの場合も車輪が小さいものは避ける。
・炉の大きさに比べ台車が小さい場合は、少し厚めの鉄板等を敷いて台車面を広くする。
・炉床づくりでは、まず台車の上に基礎煉瓦を2段積みにする。ここは炉底温度を保つことがポイントになるため、断熱煉瓦があればよりふさわしい。
・基礎煉瓦の上に炉の骨格となる煉瓦をほぼ正方形になるように組む。煉瓦は平面を積むようにし、煉瓦の目地には練った土を使う。
・骨格煉瓦を2〜3段(目地土約1cm含め高さ約13〜20cm)積んだところで、炉の正面中央部にノロ出し穴(底羽口を兼ねる)を付ける。羽口パイプが入る程度の幅にする。
・ノロ出し穴は煉瓦2〜3段分ほど細長く開けるようにする。これは炉底部が冷えた場合を考慮した予備的なもの。
・煉瓦をさらに3〜4段(同高さ20〜26cm)積んだところで正面向かって右側面中央部に羽口パイプを取り付ける。
・羽口は炉内に約1/3ほど出っ張る位置に取り付け、角度は25〜30度にする。
・さらに煉瓦を7〜8段積み上げ、その高さが羽口より約50cmになるようにする。
・煉瓦を積む際、炉正面部の煉瓦はヒ出しの時はずしやすいように組む。
・羽口より上の煉瓦を数段積んだところ、すなわち炉底に手が届くうちに炉内成形にはいる。
・炉内成形では、練り土を使用し、とくに羽口付近を丁寧に成形する。要点は燃料の炭がスムースに下降するような形状にすることである。
・炉底の成形に入る前に炉床部に粉炭を入れる。粉炭は柄の長い鉄製スタンプなどで付き固める。
・炉底部は粉炭の上を薄く練り土で覆い船底型(扁平球形状)に仕上げる。
・炉底部のノロ出し穴には底羽口をつける。底羽口は、炉底より高さ3cmほどのところに取り付け、羽口周りを耐火モルタルで成形する。
・羽口より上部の炉内壁成形はほぼ円形状になめらかに仕上げる。徳利状に上部をすぼめる必要はとくにない。
・炉の外壁は、練り土で化粧する程度でよい。煉瓦面のままでもよい。
・炉の移動時に炉が崩れる心配のあるときは、台車の取っ手を利用して鉄製のアングル材などで炉を固定する。ただし移動経路に段差や急坂などがない限りとくには必要ない。
・温度測定などの補助具を炉に取り付ける場合は、築炉の段階でその都度必要箇所にセットする。熱伝対を使う場合は、1/2インチ瓦斯管(内径16mm)を測定個所に取り付ける。
■固定式炉の築炉法
・築炉場所は、この項のはじめにあげた条件に加え、水はけのよいところとする。
・築炉はできれば土面がふさわしいが、コンクリート面に築く場合は、作業スペースを含めトタン板などを敷くようにする。
・地面に直接築く場合は、炉床は地下からの湿気と雨水等の浸入を防ぐ構造にする。
・そのため基礎煉瓦を若干厚めに敷く。またはコンクリートブロックや鉄板等を敷いてもよい。
・炉床以外の炉のつくり方は、移動式の炉と同様にする。
 
5.操業法
(1)炉の乾燥
 炉の乾燥状態は、操業効率に影響するため、できるだけよく乾燥させることが肝要。
■自然乾燥
・自然乾燥による乾燥は数ヶ月かかる場合もあるが、日中はこまめに外気にさらして乾燥させる。
・乾燥期間を短くするためにも炉壁や煉瓦の目地に使う練り土は、あまり厚くしない。
・天日による急激な乾燥は、炉壁のひび割れの原因になる。
・ひび割れができた場合は適宜補修する。ただし大きな割れ以外はそれほど気にしなくてよい。
・屋外築炉の場合は、雨露の対策が必要。
・雨天時、夜間は防水シートなどで覆うようにする。
・夜間晴天時にはトタン板などで覆う程度でもよい。
■強制乾燥
・強制乾燥は操業前日か数日前から行う。
・強制乾燥開始時に火入れ式を行う。
・強制乾燥では、とくに炉床、炉底をよく乾燥させる。
・強制乾燥の燃料は、木炭でなく枯れ木などを利用してもよい。この場合、操業に入る前に一度灰などを掻き出す。
・自然乾燥に時間がとれないときは、築炉直後に強制乾燥に入ってもよい。ひび割れは大きなもの以外はとくに補修しない。
・操業当日の強制乾燥に入る時点で、操業の体制をとるようにする。移動式の炉では操業場所にセットすることをはじめ作業環境を整える。
 
(2)操業の準備
 操業では送風が重要なポイントとなる。古来のふいごによる送風はとくに作業に困難を伴うため、送風機を使うことをやむ得ないとする。鉄製補助炉は還元帯をかせぐために鉄製のものを自作して用いる。操業では、原燃料の装入量、時刻を追っての記録など必ず作業記録をとり、データ化する。
■送風装置
・送風機は市販のものを利用する。風量の調整ができるものがよいが、電圧調整できるスライダックスを利用する方が扱いやすい。
・送風機使用が難しい場合は、掃除機などを利用してもよい。
・ふいごが準備できるようであればその方がより雰囲気を出せる。ただし送風機を予備にまたは併用できるようにしておく。
・ふいご使用の場合は、短時間ごとに交代できる相当数の送風担当者を決めておくことと、一定の送風が保たれるよう事前の練習が重要。
■鉄製補助炉
・高さ50cm、幅25〜30cm角(円形でもよい)の寸法で、炭を入れやすいように上部が若干開いている鉄製の補助炉を自作しておくと便利。何度でも使用できる。ただし炉上で安定する構造に作る。板厚は薄いものだと熱で変形するため2〜3mmはあった方がよい。
・自作が難しい場合は、これに近い寸法、形状の代用品があれば利用してもよい。
■測定器具
・測定する項目によって準備すればよいが、原燃料の装入量をはかる上皿ばかりは必要。
・このほか、温度測定など目的に応じて各種の測定が可能であるが、測定機器が準備できるようであれば行う。
・炉内の温度測定する場合は、熱電対(1500℃前後がはかれるPR熱電対)がもっともふさわしい。しかし高価なため無理はしない。身近に借りるところがあれば問い合わせする。なお、火の色を見て判断することが訓練できるようであれば行う。
■作業環境と配置
・操業では、一酸化炭素ガスが大量にでるため、風通しのよい作業環境が必要条件となる。閉め切った部屋は絶対に避ける。屋外がふさわしい。
・作業スペースは、火気を扱うため広いことに越したことはないが、作業性を考えると築炉場所であげた条件のところがよい。とくに炉の上部は相当熱が昇るため、近くに立木などのないところにする。
・炉を中心とした送風機や作業台等の配置は、特別に定まったものはない。作業の流れを考慮すればよい。炉前部分はノロ出しするため若干のスペースをとる。
■作業内容と人員
・操業時における作業の内容は、大まかに見て、作業長、砂鉄装入、木炭装入、記録である。それぞれ1〜数名ずつで、作業長以外は交代しながら行う。
・人員は少なければ数名からでも可能であるが、作業がきつくなるため、少なくとも6、7名はいたほうがよい。操業が始まると比較的単純な作業が続くため、交代しながら行うようにする。参加人数が多くなるほど楽しくできる。
 
(3)操業
・操業は、強制乾燥に引き続いて行う。
■操業時間
・操業にかかるおよその時間は、当日の強制乾燥に最低2時間、操業に入ってから砂鉄装入に至るまでに約1時間木炭だけで空焚きする。これは炉温を高めるために最低必要。本操業が3時間前後、ヒ出しまでに約1時間、計7時間前後となる。これを見て開始時間を決める。
・操業時間が十分とれないときは、以下のようにしてもよい。ただし鉄回収率は悪くなる。
・前日までに強制乾燥をよくしておき、前夜は一晩火種を残し炉温を保つ。当日は強制乾燥を省き直ぐに操業に入る。1時間ほど空焚きしたのち、砂鉄装入量を10kgまでに押さえれば本操業は2時間前後。ヒ出しまでの時間が短いと砂鉄の還元が不十分となり鉄回収率が悪くなるが、これも止む得ないとして30分程度でヒ出しする。この場合終わり数回の砂鉄装入量を少なくする。こうすれば最短操業時間はおよそ4時間程度でも可能となる。
■操業の初期
・強制乾燥後、一端火を落として灰を掻き出したのち、再度火入れを行う。
・操業用の燃料は木炭以外は入れないようにする。
・炉に鉄製の補助炉をのせ、送風を強くして炉の温度を高めるようにする。
・操業初期は炉底温度を高めることが重要なため、底羽口から送風する。または羽口と底羽口から同時に送風する。この場合、風溜まり装置などを作るとよい。
・1時間ほどで炉温が高温度に安定するため、砂鉄装入にはいる。
・砂鉄装入の方法は、炉頂の木炭が10cmほど燃焼降下した頃を見計らって、はじめに木炭を入れ、その直後に十能を用いて、炭の上に振りかけるように入れる。
・木炭は常に1回1kgとし、砂鉄は500gからはじめ、炉の状況を見て順次100gずつ増量する。
・砂鉄装入にあわせて、細砕した石灰を同時に装入する。砂鉄と混ぜて装入してもよい。石灰の装入量は1回に200g程度とし、炉の状況によって増減させる。
・砂鉄は上昇熱で多少は飛散するため、湿らせた状態あるいはペレット状に固めたものでもよい。
・砂鉄や木炭は正確に計り、その都度装入時刻とともに記録する。炉の温度測定などをする場合は、砂鉄装入時刻にあわせて計測し記録する。連続記録計などの機器が備えられている場合は確認する程度でよい。
■操業中盤
・砂鉄を入れ始めて1時間ほどすると炉底にノロが溜まるようになる。
・ノロの溜まり具合は、ノロによる底羽口の詰まり具合で判断できる。
・ノロで送風が妨げられるようになったとき、1回目のノロ出しを行う。
・この時、流れるようなノロが出れば順調な操業の証となる。
・ノロ出しの方法は、ノロ出し口を鉄棒で破り開ける。流動性のノロの場合は流れに任せ、出が悪くなったところで少し掻き出すようにする。作業は短時間で行うようにし、炉冷えを防ぐ。
・ヒは流動性のノロの中に潜り込んで成長するため、初期の段階で炉底にノロのプールを形成させることが重要となる。これが鉄回収率を上げるポイントとなる。
・流動性のノロにならないときは、若干送風量を増し、石灰装入量を多めにする。
・ノロ出し後は底羽口をふさぎ、その後は側面の羽口で送風する。
・以後、ノロ出しは底羽口のところで行う。
・ノロ出しのサインは、経験を積めば炉頂の炎が赤みを帯びた状態で見分けられるが、実際には難しいため、羽口の詰まり具合、炭の落ち具合が悪くなってきたとき、すなわち砂鉄装入の間隔が長くなってきたときで判断する。
・操業中盤のころより、羽口にノロが垂れてくるようになる。
・羽口にノロが垂れたときは鉄製のノロ突き棒でつついて取るようにする。これを怠ると送風量が妨げられ炉冷え原因となる。
・砂鉄装入量は、炉の状況にもよるが、順調な場合は1回最高1kgまで増量する。
■操業終盤
・砂鉄を入れ始めて3時間に近づくと、羽口の詰まりは頻繁に起こるようになる。
・炉底のノロも溜まってくるため、必要に応じてノロ出し穴より排出させるが、炉底部の長さ、すなわち羽口下が長いようであれば無理にノロ出ししなくてもよい。送風に支障を来すようになった段階で始めて出せばよい。
・終盤にノロ出しする場合、ノロを出しすぎないようにする。とくに粘性ノロでは生成したヒの小粒を一緒に掻き出してしまう。
・終盤は炉底部のノロが冷えてくるため、流動性のあるノロは羽口付近に次第に上がってくる。このときノロ出し穴が長手に作ってあるとノロ出しに都合がよい。
・砂鉄装入終了は、目的とする砂鉄装入量で判断あるいは、羽口の詰まりが頻繁になり送風が妨げられるようになったときで判断する。
・最終盤の砂鉄装入量は、ヒ出しまでの間に砂鉄の還元が完了しないことも予想されるため順に少なくする。
・砂鉄装入終了後は炭だけを入れ、通常は、最後に入れた砂鉄が還元される1時間程度続ける。
・砂鉄装入後ヒ出しまでは、木炭の消費量を抑えるため切り炭の代わりに粉炭、生草などを入れてもよい。最後まで還元雰囲気を保たせることが大事。
■ヒ出し
 ヒ出しでは、二通りの方法がある。操業後直ぐにヒ出しする方法と、数日後に炉が冷めてからヒ出しする方法である。操業直後のヒ出しは、鉄づくりの醍醐味が味わえる。冷めてからのヒ出しは、炉内でのヒの出来具合を調査することができる。これらの目的によって決めればよい。ここでは前者について述べる。
・ヒ出し作業は、補助炉内の炭がなくなった頃を見計らって行う。
・送風を止め、補助炉をはずして作業に取りかかる。その際、補助炉内に残る炭がある場合は飛び散らないよう気をつける。
・燃焼炭による輻射熱が激しいため、やけどに注意しながらすすめる。
・炉の解体では、できるだけ炉の正面部分のみはつるようにする。三方の炉壁を残すことによって炉内状況の観察が可能となる。
・炉正面部の煉瓦を1枚ずつ丁寧に取り外して解体するが、炉内の炭はできるだけその都度回収し輻射熱を少なくするようにする。
・炉底のヒを含むノロ塊は、炉壁にしっかりくっついているため、鉄棒で炉壁からはつるようにして取り出す。その際、急いで取り出さないようにする。塊が柔らかすぎてバラバラに崩れる場合がある。
・取り出したノロ塊は直ぐに水槽などに入れ冷却させる。このとき気をつけることは大量の水で冷却させることである。少ない水の場合水蒸気爆発を起こすことがある。
・水槽から取り出した後も、ノロ塊内部はまだ相当熱を持っているため、水道水などでしっかりと冷却させる。
■ヒの回収
・ノロ塊から内部のヒを取り出すには、ハンマーなどでノロをはつるようにして行う。
・ヒの判別は、ハンマーで崩れないものや、磁石に着くもので見分ける。
・ヒは大きな塊だけでなく、小さな粒状塊になっているものも相当数あるため、ていねいに回収する。
・操業で粘性のノロが多かった場合は、大きな塊にならず、小さな粒状塊がノロ内に潜り込んでいることが多い。そのため着磁した塊を回収し、ハンマーなどでていねいに崩すと、小さな粒状のヒを結構多く取り出すことができる。
 
6.作業の安全
 たたら操業では、とくに操業時に火を扱うことから若干の危険を伴う。安全面から注意すべき点について述べる。
■準備作業時
・炭切りでは、鉈を用いることから、指のけがに注意する。作業手袋をつける。また、粉炭が舞うことから、風通しのよいところで行い、マスク、防塵めがねをつける。
・石灰石を粉砕する場合は、粉砕時に石が飛び散るため、その対策と、防塵めがねをつける。
・築炉作業では、土や煉瓦などを扱うことから、作業用手袋をつけた方がよい。
■操業時
・乾燥時を含め火を扱うときは、とくにやけどに注意する。
・やけど防止では、肌を出さないようにする。作業服は長袖、長ズボン、胸元を開けない、帽子をかぶる、作業手袋をつけるなど。
・作業服、作業手袋など火を扱うときは化繊は避ける。手袋はできれば作業用革手袋がよい。
・作業靴は安全靴がふさわしい。
・とくにヒ出し作業時は以下の点に注意する。炭の輻射熱によるやけど、飛び散った炭火やノロを踏まない。取り外した煉瓦や壁土などは熱を持っているため安易にさわらない。取り出したノロ塊は内部までよく冷めるまでさわらない。ノロ塊を崩すとき作業用めがねをかけるなど。
・操業時は炉頂から一酸化炭素ガスが大量に出ているため、室内操業する時は換気に気をつける。
・火災防止にも気を配り、大きめの防火用水(ノロ塊冷却用を兼ねるとよい)などの準備、とくに炉の上方に立木の枝など燃えやすいものがないこと。近くの消防署にも連絡する。
・操業時は連続操業となるため、適宜交替し休憩をとる。晴天時操業の時は日射にも気をつける。水分はできるだけ補給する。体調管理に気をつける。
 
7.使用器具道具類
 一例として主要なものをあげるが、たたら専用の道具というより、身近にあるものを工夫して用いればよい。
■砂鉄採取
・磁石(着磁面積の大きなものほど効率がよい、市販磁石を利用して自作も可、解体屋で探す方法もある、採取人数分はあるとよい)、プラスチック容器、作業用手袋、乾燥用、磁選用の防水シートなど
■炭切り
・鉈(数丁)、作業用の防水シート、炭切り台(太めの木材など)、作業用手袋、マスク、防塵めがねなど
■石灰準備
・ハンマー(スタンプ、クラッシャーなど)、粉砕台(鉄製)、防塵めがねなど
■築炉
・煉瓦(150個前後)、練り土(左官用ふねに2杯)、藁すさ(数束)、羽口用鉄製パイプ(1インチ(内径27.6mm)の瓦斯管)、耐火モルタル、築炉用台車、必要に応じてコンクリートブロック、鉄板、トタン板、防水シートなど
・左官用ふね(二つあると便利)、土練り用スコップ、土練り用備中、藁すさ切断用押し切り、左官用こて、鉄製スタンプなど
■乾燥および操業
・送風機(ふいご)、送風用ビニールホース(内径32mmほど、羽口用鉄製パイプに差し込める内径のもの、長さ2〜3m、2本、網入りがよい)、鉄製補助炉、砂鉄秤量用上皿はかり(可能であれば1kg用)、木炭秤量用はかり(10kg用)、作業台、記録用カメラ、準備できれば測温用の熱電対など各種測定器具、など
・砂鉄装入用十能、木炭装入用竹み、火箸(数本)、鉄製ノロ出し棒(直径12〜14mm、長さ1mほど、2本、先端を少しかぎ状にするとよい)、鉄製ノロ突き棒(直径12〜14mm、長さ1mほど、2本、先端は平のままでもよい)、ヒ出し用鉄棒(直径16〜20mm、長さ1mほど、2本、先端を少し尖らせたもの)、ハンマー(大きめのもの数本)、鉄製バケツ(やや大きめのもの2つ)、ヒ冷却用水槽、水道用ホース、作業用手袋、作業用革手袋など
8.操業のまとめ
 たたら操業に限らず一つの実験をしたときには、その経過や結果をまとめることが重要である。とくに、たたら製鉄ではその操業実態がまだ十分つかまえられているとは言えないため、準備や操業の記録をとり、結果の考察をすることがより求められる。これらの報告の積み重ねが、また公開操業が、たたら操業の一層の普及につながっていくことになる。
(1)記録と報告、公開
・たたら操業では準備から操業までの経過を記録する。使用原材料の調達方法、調達数量、費用の記録、築炉など準備段階の記録、そして操業当日の詳細な記録(分担を決めることが落ちのない記録となる、とくに数値に現れない作業操作や炉の状況などを記録することが重要)を必ずとることとする。
・操業後の炉の状況調査(炉壁、炉床などが残っている場合)、ヒやノロの観察(可能であれば化学分析、顕微鏡観察等)なども重要。記録し考察の材料とする。
・可能な範囲で分担して報告書づくりを行う。そして公開する。
・操業の公開も可能な範囲で行う。
 
(2)操業費用
・当初に原材料から器具道具などすべてを買い揃えようとすると費用がかさむ。
・身近にある道具類を極力利用するように心がける。
・協力者を募ることや各種情報を集めることで費用軽減の助けとなる場合がある。
・継続的な操業でない場合は必要機材を借りることも考える。
・継続して行う場合は、当初にある程度機材道具類を揃えておけば、その後は原燃料の調達程度で行える。砂鉄は採取することを前提にすれば、おもに木炭の費用だけで操業できる。
 
9.おわりに
 私の小たたら製鉄は、基本的には大野刀匠の操業法を継承と思っている。ただ操業の未熟さから失敗もたびたび経験し、その都度、若干の改良や試みもしてきた。いまも大野刀匠の域に近づく努力をしている昨今である。そんな中でのマニュアル化はすべきではないかもしれないが、これまでに私が行ってきた操業法をまとめ、あらためて公にするという観点から、あえてマニュアル化することとした。適切さを欠いているところも多々あると思われる。ご意見ご叱責を頂きたいと思っている。
 この操業マニュアルは一つの目安としてみてほしい。私の操業では大野式を採りつつも、つねに種々の工夫を行っており、ときには生徒のアイデアを採用することもある。小たたら製鉄法による鉄づくりでは、操業ポイントは押さえながら、操業の目的、目標によって、また作業環境に合わせて、もっとも実施しやすい方法をとればよいと私は考えている。

 
1) これまでに報告した主なもの
@加藤誠・天野武弘『現代における小たたら−実操業と関連技術の全て−』コンパス社、1986年
A愛知県立豊川工業高等学校『課題研究報告集』機械科第1号〜第12号、1988年〜1999年
B天野武弘「鉄づくりの操業法」『産業考古学会第19回(1995年度)総会、研究発表講演論文集』、1995年
C天野武弘「たたら製鉄で授業を楽しく−誰もが取り組めるたたら製鉄をめざして−」第1回たたらサミット報告『バウンダリー』第13巻第7号、1997年7月号
D天野武弘「私の小たたら製鉄法」『日本工業大学工業技術博物館ニュース』第39号、2000年11月
E天野武弘「技術教育における製鉄実験−たたら製鉄は技術史教育の絶好のテーマ−」技術史教育学会全国大会(釜石)報告集、2001年11月

本稿は、第4回たたらサミット報告(2002.10.12)
於:岡山県新見市「まなび広場にいみ」小ホール

小たたら操業の方法とそのポイント(天野武弘・1998.7)
私の小たたら製鉄法(天野武弘・2000.7)


Update:2003/10/4 0000

Copyright(C) 2003 Takehiro Amano All Rights Reserved.(禁無断転載)
This site is maintained by Takehiro Amano.