2000年(平成12年)度論文
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実践的コミュニケーションに意欲的に立ち向かう生徒の育成
ーポートフォリオを用いた英語学習方略の体験を通して

1 主題設定の理由
 
21世紀を迎え、私たちを取り巻く社会は、世界を意識することなしには生活できない程の国際社会となってきている。そしてそこで用いられている言語は英語であり、今私たちに求められているのは、英語の実践的コミュニケーション能力であると言えよう。
 生徒に「英語のどんな力を身につけたいか」と尋ねてみると、下のグラフに現れているように「話す力」や「聞く力」が上位を占めている。生徒の意識の中にも「実際に外国人との会話で使える英語力を身につけたい」という意識があるからであろう。しかし、本校の生徒とAETとの会話の様子を観察してみると、学んだ英語表現をただ機械的に使っているだけのことが多い。そこには教師からの指示でただ活動をさせられている生徒の姿があり、自ら学習を組み立てていこうとする意欲的な態度が不足しているのであろう。
 そこで私は、ポートフォリオを用いたコミュニケーション単元を仕組むことで、生徒が自らの学びを振り返り評価しながら、学習を組み立てていく英語学習方略を体験することができ、実践的コミュニケーションに意欲的に立ち向かう生徒を育てることができるのではないかと考えた。本論文では、1年生のコミュニケーション単元「ペラペラ英会話」の実践を通して考えていきたい。


2 研究の概要
(1)研究の仮説
 ポートフォリオを用いたコミュニケーション単元を仕組むことで、生徒は実践的コミュニケーションに意欲的に立ち向かうようになるのではないか。

(2)研究の構想
ア 
コミュニケーション単元
 下の図に示すようなコミュニケーション単元を構想した。ここでは実践的コミュニケーションの体験として、AETとの自由な話題での会話活動を設定した。中学1年という英語の入門期であるので、外国人と初めて会った時に実際に体験するような、自分と相手の共通の話題を探す会話場面を想定した。この会話活動は、1人1分間とし、単元の始めと終わりに位置付けてある。また自信をもって英語を使うことができるよう、単元を通して多くの聞く活動(インプット活動)や話す活動(アウトプット活動)が位置付けられている。
イ コミュニケーション単元を支える3つの手立て
(ア)ポートフォリオとポートフォリオ評価
 ポートフォリオは具体的にはA4サイズのクリアーファイルで、授業で使ったプリントや会話で使えそうな資料を入れておける物理的なファイルとしての役割と、単元での学びを振り返り何を目標としていき、実際何ができるようになったかを振りかえるためのポートフォリオ評価に用いられる役割がある。ポートフォリオ評価では、グループ内でお互いに自分の学びを振り返った結果を発表しあい、お互いに良い所を認め合い、アドバイスしあう中で、自分の学びを高めていくことができる。
(参照 ポートフォリオとは? 鈴木敏恵ホームページへ)
(イ)AETとの1分間英会話とそのテープおこし
 単元の最初と最後に行うAETとの1分間英会話は、その場で生徒にテープおこしさせ、文字化しておく。文字化した会話内容は、自分の会話を客観的に振り返る資料となるし、英語を集中して聞くことでリスニング力育成にもつながる。従来教師が研究のために生徒の会話を記録し、その伸びを調べていたが、それを生徒自身の手にゆだね、自ら自分がどこでなぜつまずいたのかを知ったり、コミュニケーション能力の変化を分析する重要な資料となる。これを行うことで次の目標ができ、次への意欲付けができると考えた。
(ウ)インプット活動とアウトプット活動
 英語が話せるようになるには、英語を話す活動をさせなければならない。従来、文法を学習し問題を解くことで定着を図ろうとしてきたが、それでは、文法のルールはわかっても、発話能力へと結びついてこない。そこで、新しく学習した表現はすぐにコミュニケーション活動(アウトプット活動》で実際に使う中で定着させようと考えた。

(3)検証方法
 本論文の主旨は、コミュニケーション単元を進める中で、生徒のコミュニケーションに対する意欲の変容を調べることである。そこで、生徒のコミュニケーションに対する態度と英語運用能力から抽出生を決め、本単元を通しての変容を調べることで、仮説を検証していくことにした。

3 研究の実践 1年単元「ペラペラ英会話」(10時間完了)
(1)授業の実際
ア、ポートフォリオの有効性を話す
 まずは先に述べたアンケート結果(「英語のどんな力を身につけたいか」)を生徒に紹介した。「みんなが一番身につけたい力は、話す力と聞く力という結果が出ているから、今日から10時間かけて、その練習を集中的にやっていくよ。」と、学習内容が生徒のニーズにあっていることを強調した。そして次の時間にAETと1分間会話をすること、そして単元は10時間完了で、9時間目にもう一度同じ1分間会話をすること、その2回の会話をカセットテープに録音しておいて、どれだけ進歩したかを比べることなど授業の進め方を説明した。そして次にポートフォリオの実物(クリアーファイル)を見せて、使い方の説明をした。「英会話の時にこのファイルに写真や絵などをはさんでおいて見せながら話をしたり、会話に必要な表現集などを入れておくと役に立つよ。」と、ポートフォリオの有益性を強調した。ファイルの色は3色。生徒には自分の好きな色を選ばせた。自分のお気に入りの色のファイルを手に入れただけで生徒は非常にうれしそうな顔をし、何を入れようかという話題で持ちきりとなった。最後に単元の目標を書かせた。ポートフォリオに書かれた目標にも会話への意欲が感じられた。
イ、1分間英会話で実態把握
 クラスを9つの4人グループにわけ、1班から順に英語ルームの後部に設置した会話コーナーに連れて行き、AETと会話をさせた。その会話は録音し、4人の会話が終わるとテープを渡した。そのテープは教室に各班1台用意したラジカセで使って、テープおこしをさせた。会話を待っている班には、教師とAETの会話をあらかじめ録音しておいたテープを渡し、テープおこしの練習をさせておいた。会話では、さっそくポートフォリオに好きな歌手やサッカー選手の写真を入れてきて会話を始める者もいたが、とまどいながらAETに話題の提供を求め、AETの質問にYes, Noで答えるだけの者もいた。テープおこしは始めての体験であり、どうしていいのか戸惑う姿も見られた。授業はJTE2人AET1人のティームティーチングで行ったので、サブTの先生にテープおこしの指導をしてもらった。
ウ、ビデオ画面から進行形の導入
 3時間目は、生徒や先生の学校生活をあらかじめ録画しておいたビデオ画像を見せながら、He is eating lunch.とかHe is walking. He is listening.などの進行形の表現を導入していった。その後、ピクチャーカードでもう一度それらの英文を発話しながら、生徒とやりとりをしながら導入していった。ビデオで見せながら何度も進行形の文を言いインプットしたので、その後OHPにビデオで見た画像を1つ1つ示しながらクイズとして生徒と行ったやりとりでは、次のようにだんだんと生徒から文の形の発話を引き出すことができた。

T: What is he doing?
S: (drinking)
T: Yes, he is drinking.
T: What is he doing?
S: (running)
T: Yes, she is running. She is running very fast.
T: Who is she?
S: (Ms. Yoshiko)
T: That's right. She is Ms. Yoshiko.
....
T: What is he doing?
S: (He is listening.)
T: That's right. He is listening to music.

その後、再度写真をOHPで示したり、新しいピクチャーカードを示しながらリピート練習を何度も繰り返した。アウトプットの活動としては進行形を使ったビンゴを行った。What are you doing? I'm playing tennis.の会話を使って相手が答えた文を意味する絵に○を打っていくビンゴである。生徒はかたことながらなんとか新しく導入された表現を使って、楽しそうにビンゴゲームをしていた。
エ、写真から会話意欲を
 4時間目は、ポートフォリオに写真を入れておくと会話で役立つことを示すために、教師の学生時代の写真を見せながらshow and tellの実演をしてインプット活動とした。次に生徒に自分が何か動作をしている写真を持ってこさせ、I am eating takoyaki.など英文を作らせ、それを使ってAre you eating takoyaki? Yes, I am.と会話をさせながら、Yesだったら○をうつというビンゴゲームのアウトプット活動を行った。

オ、5時間目:ポートフォリオ評価と相互アドバイス
 授業の前半はテープおこしの続きを行った。AETとの会話の時に授業後半で会話をやった班はテープおこしをする時間がなかったので、ここで時間を確保した。後半は、ポートフォリオを使った相互評価の活動をした。自分のテープおこしした原稿を見ながら、まず自己評価をする。「何ができていたのか、何が不足していたのか。」を考える。次にそれを前後の座席のペアや隣の座席とのペアで伝え合い、お互いにアドバイスを書いたポストイットを交換した。これがポートフォリオ評価である。自分のよいところを自分で評価し、人に伝える。それを聞いてその人のよいところをさらに伝えるという活動で、自分の学習を振り返っていく。生徒は真剣に考え、相手にアドバイスを行っていた。
カ、ビンゴで繰り返ししゃべってみる
 6時間目は、授業の最初にポートフォリオ評価を何人かに発表してもらい、それぞれの気づきを共有する機会とした。その後、「会話のこつ」というプリントを配布し、AETとの1分間英会話の様子から不足していると感じたアドバイスや必要な表現をまとめた。授業後半では、ピクチャーカードを示しながらMy sister can play the piano.などcanを使った表現を導入した。まずはインプットを中心とし、少しずつ生徒との会話を入れていった。

T: Do you have a flute?
S: (No)
T: My sister has a flute. She can play the flute.
....
T: Do you like winter?
S: (Yes)
T: I don't like winter. I don't like winter sports?
T: Can you ski?
S: (Yes)
T: Oh, Kato-san can ski.

はじめはYesなら挙手をさせるとかの動作による反応をさせ、意味の伝達を確認しながらインプットしていった。ピクチャーカードを用いてcanの文をリピートさせたり、その疑問文なども発話練習した後、ビンゴゲームでのアウトプットを行わせた。練習した表現をグリッドに書かせ、友達にCan you play the piano? Yes, I can.の会話を用いて、Yesと答えが返ってきたら○を打たせてビンゴとした。
キ、犯人は誰だ
 7時間目は、canを用いたアウトプット活動の発展的活動を行った。まず、Can you ski? Can you play the piano?などの教師の質問に自分の答えを書かせた。次に隣同士のペアでお互いのできるかできないかの情報をCan you play the piano? Yes, I can.などと会話をして伝え合う活動をし、さらに前後の座席のペアで同じ会話をさせた。最後にまとめとしてインタビューした結果をHe can ski.とかShe can play the piano.という三人称主語の文で書かせた。授業後半は「犯人を探せゲーム」を通してアウトプット活動を行わせた。犯人が誰かを特定する情報としてHe can ski.とかHe can swim very well.などを聞かせ、一覧表からその情報にあてはまる一人を特定させる活動である。クラス全体でOHPを使って練習した後、グループで別の表を使って活動させた。ジグソー活動として展開できるよう、4人グループのうち1人が情報を書き取りに教室の隅に貼ってある紙のところに行く、それをグループの他の3人に英語で伝え、そのメモを頼りに4人で相談して犯人を特定するというアウトプット活動である。楽しそうに活動している生徒の姿が印象的であった。

ク、I can カードで会話の準備
 自己表現カードである「I canカード」作りをした。まずはパターンプラクティスでcanを使った表現を復習した後、「I canカード」に家から持ってきた自分でできる何かの写真や絵などをアレンジしながら、I can ski.とかI can play the piano.とか英文も添えていった。教師が与えた英作文ではなく、自分が会話で使える情報としてのカード作りであるので、生徒は楽しそうに写真を貼ったり、絵を描いたりしながら活動していた。そして最後の活動として、そのカードを使ったアウトプット活動を行った。友達に「I can カード」を示してLook at this picture. I can ski.と言う。相手はOh, you can ski.と答える練習である。6時間目に示した「会話のこつ」にある表現を使って実際の会話を想定した会話の練習となる。会話ができたらお互いにサインをもらっていく。目標は「10人にサインをもらう」であったが、非常に意欲的に次々と相手を見つけポートフォリオを見せながら活発に活動できていたのが印象的であった。
ケ、定着度を見る1分間英会話
 AETとの1分間英会話を再度行った。先回授業後半で会話をした班は、順番を変えるなどして、今回はテープおこしをする時間を十分に確保できるように配慮した。会話の前は自分なりに会話の流れを組み立てる準備の時間にあて、会話後は、先回同様テープおこしをする時間とした。前時で練習したLook at this picture.など自然なかたちで会話に用いている姿も多く見られたし、それまでの授業で練習してきた進行形やcanの表現も自然に使われており、写真を見せながら会話をするなどの技術も高まっていた。
コ、学びの振り返り
 授業の前半はテープおこしをする時間とした。授業後半はポートフォリオ評価の時間とした。先回のポートフォリオ評価と同じような手順で行った。まず2回の会話をテープおこししたプリントを見比べ、自分が何ができるようになったのか、自分のどんな力がついてきたか、最初にたてた目標は達成できたのかなどを、自己評価としてまとめさせた。次にペアで自己評価を紹介しあい、相互評価としてアドバイスやコメントをポストイットに書いて交換した。どの生徒も、1回目の会話より2回目の会話では落ち着いて会話に取り組めたり、沈黙が減ったり、AETの言っていることがわかるようになったなどの進歩の様子を述べていた。

(2)検証と考察
 先に述べたように、本論文では、抽出生徒の単元を通しての変容から仮説を検証していきたい。抽出生徒は次の様な観点を用いて、生徒の代表として選んだ。本論文では、会話に対して今までどちらかというと消極的であった生徒の中から、英語運用能力の違いによって3人の抽出生を選んだ。

抽出生 英語運用能力 会話への態度
A子 ある程度高い 消極的
B子 普通程度 消極的
C男 十分ではない 消極的

資料としては毎時間授業の最後に書かせた「授業日記」、ポートフォリオ評価などで書いた生徒の感想、会話の録画ビデオなどを用いる。授業日記には、話す活動や聞く活動についての10点満点の自己評価「がんばり度」を書かせた。以後用いるグラフはこの数字の変化を表したものである。

ア、A子は単元を通して実践的コミュニケーションへの意欲を高めることができたか
 A子は10時間目のポートフォリオ評価で単元を振り返り、こう述べている。「同じことを何回も授業でやったり、トレビー先生(AET)と話せたことが、実際にやらなければと思ってがんばるから英語の授業に集中してやることができた。」A子の話す活動と聞く活動へのがんばり度を見てみたい。まず話す活動(黄色のグラフ)であるが、グラフにあるように2時間目に6であったがんばり度が、授業が進むにつれ伸び6時間目からは8にまで高まっている。A子は自分の話す活動へのがんばり度の変化をポートフォリオ評価でこうまとめている。「最初の時は、自信がなくて小さい声で言ってしまったり、言いたいことを思い出せなかったりしたからで、でも、最後の方は、授業で何回もやったりいろいろ分かってきて、少し小さい声だったけれど、前よりちゃんと言えるようになった。」話すことが苦手なA子であったが、ビンゴゲームの形式で好きな友達と習った表現で会話をすることを繰り返し行っていくうちに、ゲームの楽しさも加わり徐々に自信をつけていった様子がわかる。8時間目の授業では参観に見えた他の先生にも積極的に会話しに行き、授業日記にもこう書いている。「今日はいろんな先生と会話をしたので緊張しました。今度トレビー先生と話す時は、うまく話せるといいです。」何度も繰り返してきた話す活動がA子に話すことへの自信をつけてきたことが読み取れる。次に聞く活動(青色のグラフ)を見てみたい。聞く活動も、話す活動同様、2時間目に5であったがんばり度が、単元が進むにつれ伸び、9時間目では9に達している。A子はポートフォリオ評価で聞く活動へのがんばり度の変化をこうまとめている。「数字が小さい時(2時間目)は、トレビー先生の言っていることがよく分からなかったので、あまり返事ができなかったけれど、数字が大きい時(9時間目)は、トレビー先生の言っていることがだんだん分かってきて、しっかり返事を言うことができた。」AETの言っていることが聞いて分かったよろこびが、会話に対する意欲になって現れている。
 実際の会話を比べてみよう。1回目のAETとの1分間英会話でA子は、次のような会話を行った。A子のテープおこしした原文を紹介する。最初のあいさつの部分は省略した。( )内の英文は生徒が聞き取れていなかった部分を私が書き足した。

I: I like スター. I like コウイチ ドウモト.
Trevy: She is pretty.
I: Yes, he is very nice.
Trevy: She is very nice.
I: He is. 《トレビーにHeなのにSheと言われて驚いた)
Trevy: (Oh, he? It's a he?) He is very pretty.
I : What スターs do you like?
Trevy: What スターs? I like a ユキ from ジュリーマリ and チャラ. (Some others, also.) Do you like チャラ?
I: I like so so.
Trevy: Oh so so.
I : Yes. (この後にDo you know him?というのを忘れて言えなくてトレビーと笑ってしまった。)

A子はテープおこしをしたこの会話を見て5時間目に行ったポートフォリオ評価で自分の会話を次のように分析している。「トレビーが男の人なのにSheと言っているときに『He is です。』と言うことができた。」A子は自分の好きな歌手の写真を見せながら会話を始めたが、AETが男なのにSheという主語を使ったのにこだわり訂正をしている。それが理解してもらえた喜びがこの言葉に表れている。しかし、反省点としてこう書いている。「最後のところでまだ話すことがあったのに、『彼を知っていますか?』の英語が思い出せなくて笑って終わってしまった。」テープおこしをした段階では、「彼を知っていますか」という英文が「Do you know him?」であることを理解し、自分の反省点としてA子はしっかりと認識できている。AETと会話をするだけで終わるのではなく、テープおこしをしてポートフォリオ評価にまとめたからこそ、このような振り返りが可能になったと言えよう。次に2回目のAETとの1分間英会話をA子のテープおこしした原文から紹介する。( )内の語は私が書き足した部分である。

I: I can swim very well. Can you swim?
Trevy: Yes, I can.
I: I can play クロール and バタフライ. Do you play クロール and バタフライ?
Trevy: Do I play?
I: Do you play クロール and バタフライ?
Trevy: No, I don't (think so. Please show me. 《ポートフォリオを覗き込んで》 クロール? l. I don't know. Is it a game? ) Oh, (crawl and butterfly.《ジェスチャーをしながら》) Yes, (yes. I was very good when I was at school.) Is バタフライ ( your best?)
I: Yes.
Trevy: Me, too.
I: That's great.

この会話で困っていたのはAETのほうであった。A子が言うクロールやバタフライがカタカナの発音であったためか、AETは理解できず、彼女の持っているポートフォリオをのぞきこむようにして見て、やっとそれがcrawl and butterflyであることを理解したAETは、Oh yes.と言ってジャエスチャーでクロールとバタフライを真似してみせた。決して成功した会話とはいえないが、1分間という限られた時間であるので、このようなコミュニケーションの行き違いがあると会話がストップしてしまう。しかしこれも実践的コミュニケーションであり、この場面をいかに乗り切るかという会話方略(communicative strategy)も習得する必要があるのであろう。このような会話活動だからこそ体験できた場面ではないだろうか。A子はこの2回目の会話をどう評価しているのであろうか。ポートフォリオ評価にA子はこう書いている。「前の1分間トークと比べてトレビー先生の英語がはやくてもだいたい分かるようになりました。それにトレビー先生が英語で言ったあとにすぐに返事ができるようになったし、自分が言いたいことが最後まで言うことができた。」確かに1回目の会話でA子は「彼を知っていますか」と言えずに沈黙を作ってしまっていたが、2回目ではあらかじめ言おうとしていた英文は全て言い、沈黙を作ることなく会話を終えている。最後に10時間の授業を振り返り、1時間目の授業で立てた目標を評価した文でA子は次のように述べている。「目標1,2の『相手の言葉を理解できるか』と『英語で聞かれたとき、どれだけ早く答えれるか』というのは達成できたけれど、3の『英語でどこまでくわしく説明するか』がしっかりできなかったので残念だけど、できなかった。1・2の目標はなんとかできたからよかったです。」A子は聞いて理解しすばやく返事をする力が高まったと評価し、次の目標を英語でくわしく説明する力と認識したようだ。この単元を通して次なる目標がみつかったと言えよう。
 これらの分析からA子は、この単元を通してコミュニケーションに必要な力が高まるのをインプットやアウトプットの活動から実感し、意欲的に2回目の英会話に臨み、その会話の体験からさらに次なる課題を得ていることが読み取れる。またテープおこしをした原稿を用いてのポートフォリオ評価があったからこそA子は具体的な事実として会話力の伸びを実感できたと考えられる。その意味でA子はこの単元を通して実践的コミュニケーションへの意欲を高めることができたと言えよう。

イ、B子は単元を通して実践的コミュニケーションへの意欲を高めることができたか
 B子の毎時間の自己評価を見てみよう。まずグラフで話す活動(黄色)の変容を見てみると、単元の前半(2.3.4時間目)に比べて後半(6・7・8時間目)のがんばり度が伸びていることが分かる。扱った言語材料が前半の進行形に比べ、後半のCanの表現のほうが分かりやすく話す活動でもたくさん会話ができたからであろう。ポートフォリオ評価にも数字が大きかった時は、「たくさん会話をすることができた」とB子も言っている。6時間目に新たに学習したcanの表現をB子はたいへん気に入っている。授業日記にB子は次のように書いている。「canという英語を習いました。いろいろなときに使えそうなので、使ってみたいです。」会話で使えるという意識がこの時間の話す活動のがんばり度を急に高めたのではないかと考えられる。そして最もB子の意欲を喚起したのは、8時間目の授業である。この日の授業は参観授業で多くの先生が見に来ていたが、B子はA子にもまして多くの先生と積極的に会話をすることができ、その日の授業日記にも、「いろんな先生に話しかけるのはとっても恥ずかしかったけど、4人もの先生と話せてよかった。」と恥ずかしさを乗り越えた話す意欲の高まりをがんばり度10点という数字で表現している。次に聞く活動へのがんばり度の推移を見てみよう。4時間目と6時間目にがんばり度の高まりが見れるが、そのどちらの授業でも教師による生徒とのインターラクション(言葉のやり取り)をもったインプット活動を行っている。4時間目では、教師の高校時代からの写真を見せながらのインプットで、6時間目はピクチャーカードを見せながらのCanの導入のインプットの場面である。ただ英語を聞くだけではなく、手を挙げたり返事をしたりのやりとりの中での聞く活動に興味を示した結果なのかもしれない。ポートフォリオ評価にも、聞く活動のがんばり度が高かった理由に、「授業に集中して聞けた」と書いている。さらに9時間目の授業でも聞く活動のがんばり度が高いが、AETとの2回の会話を分析してポートフォリオでB子は次のように述べている。「前回はトレビー先生の言うことを『まあまあ、理解できた。』って感じだったけど、今回は聞き取って考えることが出来るようになった。」前よりも聞き取って理解することができたという満足感ががんばり度を高めたのであろう。
 次にB子の2回のAETとの1分間英会話の内容を検討したい。1回目の会話原稿は次のようである。

I: Do you like animal?★1
Trevy: Yes, I do. I like (animals) very much.
I: What animal do you like?
Trevy: I like dogs and ドルフィンズ. ドルフィンズが聞き取れなかった How about you? Do you have dogs?
I: No, I don't.
Trevy: How many dogs do you like (本当はhaveだった) ?★2
I: I like ハスキー.
Trevy: ハスキー? ハスキー is very nice dog. Do you have a ハスキー?
I: No, I don't.
Trevy: (That's too bad. If you buy a hasky ... Nmm, ) Do you have a pet?)
I: No, I don't.
(Trevy: Oh, I see. Please buy a pet.)

ポートフォリオ評価にB子はこの会話を振り返り、次のように述べている。「うまくいった文章とかは、あんまりないけど、トレビー先生の言っている事が一応全部分かって自分のそれに対応できたことがうまくいったところだと思います。」テープおこししたプリントにも資料中の★1の位置から★2の前まで矢印が引いてあり、B子のコメントはこの部分を指していると示してある。実際B子は、★2の文を勘違いしている。テープおこしの段階でもB子はそれに気づかずHow many dogs do you like?と書き、返事としてI like ハスキー.と答えている。意味を考えれば「何匹の犬をあなたは好きですか」という文はおかしいことがわかるが、緊張している会話場面だったので、likeという単語から「どんな犬が好きですか」と聞かれたと想像して、答えてしまったのだろう。生徒のこのような間違いを授業の中で指摘できなかったのは残念である。B子の2回目の会話を見てみよう。

I: You can play the ミュージカルインストゥルメント? 
Trevy: Yes. I can play the guitar a little.(How about you?)
(I: I can....)
Trevy: You can (本当はCan you ) play the ミュージカルインストゥルメント?
I: I can play the Hrom.
Trevy: (Horn?) Oh, I シン (see) very good. And do you play the .. very good? (本当はit very well?)
I: No.
Trevy: What music do you like?
I: ......え?
Trevy: Do you like ロック music?
(I: ........うなづく)
Trevy: What ロック do you like?
(I: ....... ほほえむ)
Trevy: Do you like B'z?
I: Yes, I do. (I see very good.)
Trevy: Do you like GLAY?
I: Yes, I do. (very good)
Trevy: (Larc? Larc-An-Cel?)
I: No, I don't
(Trevy: No?).

ポートフォリオの中の「I can」カードには、ホルンの絵が描いてあり、I can play the horn.と書いてある。またB子が最初に尋ねたYou can play the ミュージカルインストゥルメント?も書かれており、会話の前にこのことを話そうと準備したことがわかる。B子は2回の会話を比べてこう評価している。「前回はトレビー先生の言うことを『まあまあ』理解できたって感じだったけど、今回は聞き取って考えることができるようになった。」確かにポートフォリオを常に見て英文を読んでいるような1回目の会話の状態から、しっかりとAETを見て相手の言うことを聞きながら次の答えを考えている2回目の会話の状態へはかなりの進歩が見られた。落ち着いた会話のやり取りからB子の会話への自信が感じられた。10時間の単元を振り返りB子がポートフォリオに書いたのは次のような言葉であった。「(あなたが身につけたことは何ですか?)特にやっぱり話してそれに対応する力です。目標1は達成できたと思います。《トレビー先生と話して会話にしたい。》2・3は《特に3》あんまりできてないような気がします。《2=話す相手が何を話しているのか分かりたい。3=自信をもって話したい。》」今後の課題として、さらに聞く力を高め、自信をもって会話に取り組めるようにしたいという意欲が表れている。会話への意欲の表れは、単元を振り返り今後の授業について尋ねたポートフォリオ評価から分かる。「トレビー先生や他の先生と話した時が『ちゃんとしっかりやらなきゃ!』って思ったので、その時が一番自分のためになったと思います。トレビー先生と話すのは英語を身につけるのにはすごくいいと私は思っています。だからもっと増やしてください。」たった1分間の会話体験であるが、生徒に大きな意欲を育てているのを確信できる言葉であると感じた。
 これらの分析からB子は、AETとの会話体験から自分の会話力を客観的に評価し、その進歩を感じながら、次なる意欲を高めていることが分かった。その意味でB子はこの単元を通して実践的コミュニケーションへの意欲を高めることができたと言えよう。

ウ、C男は単元を通して実践的コミュニケーションへの意欲を高めることができたか
 C男の話す活動・聞く活動へのがんばり度の変容から見てみたい。まず話す力のがんばり度(黄色)を見る。ポートフォリオ評価にあるC男のコメントを見ると次のようにある。「(数字が大きい時は何をがんばったのですか?)たくさんしゃべることがあった時。(数字が小さい時はなぜがんばれなかたのでしょうか?)しゃべることがなかった時。」3時間目の話す活動へのがんばり度が低いのは、ビンゴゲームをする時間が十分なかったためであろう。話すことへの意欲はほぼ常に高いことがわかる。聞く活動へのがんばり度の推移を見てみよう。話す力と同じく3時間目が低い。ポートフォリオ評価に表れたC男の分析は次のようであった。「(数字が大きい時は何をがんばったのですか?)何を言っているのか分かったから。(数字が小さい時はなぜがんばれなかったのでしょうか?)しゃべっていて聞き取れなかった。」自分なりにどれだけ内容が聞き取れたかでがんばり度を出していたらしく、3時間目はビデオを見ながらの進行形の導入の聞く活動であったので、ビデオに友達が登場するたびに騒がしくなったことから教師の英語が聞き取りにくかったためであろう。聞く活動も、話す活動同様、C男はほぼどの活動に対しても意欲的であったと言えよう。
 次に2回の会話の様子について調べてみたい。1回目のAETとの1分間英会話は次のようであった。テープおこしした英文を紹介する。

I: I have a cat. Do you have a cat?
Trevy: No, I don't. (Ah,...but a... Do you have... What is your cat's name?)
(I: Kuro. )
(Trevy: Kuro? Is it a black cat?
(I: Yes )
(Trevy: Oh, great. Is Kuro a boy or a girl?
(I: A girl. )
(Trevy: A girl. Ah, so... )
Do you like dog?
I: Yes, I do.
(Trevy: Do you like cats?)
(I: Yes, I do.)

Trevy: Do you like ハムスター?
I: Yes, I do.
Trevy: Do you like ホットドッグ?
I: (..... まわりの友達を不安そうに見て、しばらく戸惑ってから) Yes, I do.

落ち着いたゆっくりした口調ながら確実に質問に答えていたC男であったが、最後のジョークには戸惑ったようである。「犬が好きか?」「猫が好きか?」「ハムスターが好きか?」の後に「ホットドッグが好きか?」と聞かれ、どう答えていいのか分からないようだった。ポートフォリオ評価では自分の会話をこう自己評価している。「質問にちゃんと答えられた。最後少しトレビーが言った所がわからなかった。」授業日記にも「けっこうできたからよかったと思いました。おもしろかったです。」と書き、話す活動のがんばり度も10点満点を記入している。自分なりに満足した会話だったのであろう。では、C男の2回目の会話を見てみよう。

I: Look at this picture. I can snowbourd.
Trevy: (Is that you?) Oh, (Wow, Look at that. ) Very cool.
I: Thank you.
(Trevy: Do you snowboard many times?)★1
(I: ..... 何を聞かれているのかわからない様子)

Trevy: ( One time, two times, three times? Nmmm ...) Do you like snowbourd(ing) ?
I: Yes, I do.
Trevy: Can you ski?
I: Yes, I can.
Trevy: Great. Can you play (本当はplayはいらない) iceskate?
I: No, I can't.

前の授業で練習したLook at this picture.をうまく使い、今回はスノーボードをしている自分の写真を見せながら会話が始まった。会話に取り組む様子も意欲的で、前傾姿勢でAETの方を見ながら話をする姿からも意欲がうかがわれた。しかし、★1の文でmany timesという単語がわからないのか、戸惑ってしまい、この頃から椅子の背もたれに背中がつくほど姿勢が後退してしまった。AETはその後その質問をあきらめ、別の話題にふってくれた。C男はまた落ち着きを取り戻して、Doの疑問文にはdoで、Canの疑問文にはcanを使って確実に返事ができていた。このことはポートフォリオ評価の自己評価にも表れており、「トレビーとの会話でcanを使えるようになった。」と書いている。その自己評価に対する友達の評価も「Yes, I do.とYes, I can.をうまく使い分けているところがよかったと思う。難しい質問もしていて、日本語を使っていなかったところもよかったと思う。D男」「写真を見せて話したところがよかったと思う。あと、canで聞かれたらYes, I can.とかで答えたからよかったと思う。E子」など、このことを高く評価している。C男も単元を振り返ってどの授業が一番自分のためになったかの質問にポートフォリオ評価で、次のように述べている。「トレビー先生と話したことで、あまり外人の人と話す機会がないけど、英語をおぼえたてだったので、ちゃんとしゃべれて頭にはいると思うから。」C男にとって、AETとの会話は、それを目標にがんばれるステップとなっているようである。2回目の会話では写真を見せながら話ができたのも、会話への意欲の高まりを示しているのではないだろうか。また新たに学習したcanの表現をうまく使いこなしている点も評価したい。
 これらの分析から、C男は毎時間の話す活動において、簡単なことをたくさん話すことで表現を覚え、話す活動で使った会話表現やポートフォリオに写真を入れておいて会話の話題を作ることなど授業で学習したことを着実に実行して、コミュニケーションへの意欲を高めるとともに、楽しみにもしていると言える。その意味でC男はこの単元を通して実践的コミュニケーションへの意欲を高めたと言えよう。

4 まとめと今後の課題
 どの抽出生を見ても会話に対してもともと消極的であったが、派手さはないが、AETとの会話において自分なりの意味や楽しさを感じ、意欲的に実践的コミュニケーションに立ち向かえていたと言える。会話で使われていた文法事項を検討してみると、どの抽出生もcanの表現を使っている。すぐ前の授業で習ったばかりであることもあるだろうが、その前に学習した進行形に比べ、会話の中で実際に使われやすい言語材料であり、なおかつ複雑ではないことがよかったのであろう。さらに写真などの手助けもあれば、運用能力が低い生徒でも十分に会話を楽しめることがわかった。今回の実践的コミュニケーションは、外国人と初めて会った時のお互いの共通点を探すという設定だったので、likeとかcanという表現が使いやすかった。会話の場面と使われやすい言語材料には深い関係があることもわかった。会話を録音し、テープおこしをさせ、文章化した具体的資料を基にポートフォリオ評価を行ったことはたいへん意味のあることだと分かった。どの抽出生も自分のよい点を見つけることができ、緊張している会話の最中には気づけなかったことに気づくことができたことも意義深い。このように、ポートフォリオを用いたコミュニケーション単元を仕組むことで、何をどうがんばればよいのかを実感でき、実践的コミュニケーションに意欲的に立ち向かう生徒が育ってきたと結論づけてよいだろう。
 今後の課題として3つのことが考えられる。1つ目は、つづりや文法に関わる問題。生徒のテープおこしをした文章を見ていると、つづりの間違いや発音では区別しにくい細かい部分の文法ミスが多いのに気づく。今回の実践では、話す力と聞く力に焦点をしぼって指導してきたが、実践的コミュニケーション能力には読んだり書いたりする力も含まれるので、別の単元で補充強化していく必要があろう。2つ目は、ポートフォリオは今回だけのものではなく、中身をさらに充実させて、いつでもこれを持っていれば外国人と会話できるという資料集としても引き続き活用していきたい。3つ目は、テープおこしのハード面の充実である。今回の実践ではグループ(4人)に1台であったが、40台の小さなラジカセとヘッドフォン、それに高速ダビング装置があれば、生徒全員がそれぞれ自分の会話をヘッドフォンでじっくり聞け、時間も有効に使えるようになるであろう。今後も、実践的なコミュニケーションの場面を工夫しながら実践を続けていきたい。