20011004el-hyogen
テーマ:表現の苦手な子
小高原小学校主題授業全体会資料

平成13年10月4日
刈谷東中学校 犬塚章夫

「表現の苦手な子が活発に活動できる手だて」

1、活発な活動とは

 授業の中で見られる「活発な活動」とは・・・
   英語をペラペラしゃべる。
   元気よく
ゲームなどの活動をする。
   英語をリピートするとき、大きな声で発音できる。
   英語の歌を歌うとき、動きも入れて元気よく歌う。
   質問したら、元気よく手を挙げる。
   「前に来てやってくれる人?」と言うと積極的にやってくれる。

 つまり、必ずしも英語を話すことだけが、「活発な活動」ではない。
 
安心して、「活発に活動」できる活動をさせる。 
   = たくさんの聞く活動・体を動かして反応させる活動を取り入れる。 


2、表現の苦手な子とは

 英語の授業で見られる「表現の苦手な子」とは・・・
   英語を話す活動で何を言っていいのかわからないでいる。
   ゲームの動きがわからずにうろうろしてしまう。
   間違ったことを言うと恥ずかしいという気持ちがある。
   みんなの注目している場所で何かするのが嫌い。
   みんなに聞こえるように英語をしゃべるのがいや。
   
 つまり、失敗して恥ずかしい思いをすることが「苦手」につながる。
 安心して、「表現」できるまでドリルをさせる。
   = チャンツ活動の工夫をする。


3、TPR(Total Physical Response)

 AETに動作を導入してもらい、英語の体操状態で動き回る。音楽なども効果的。Head Shoulders Knees and Toesのような歌でもよい。Simon Says ゲームのようなゲームでもよい。

 カードを渡しておいて、AETが発音したカードを取って上に持ち上げるなどの活動や、そこから発展したゲーム活動などをする。はじめは英語の単語を発音する(リピートする)のを強制せずに、何度も何度も聞かせるうちに、自然に発音しだすのを待つ。英語の歌なども、英語で歌うことを目的とせず、動作をつけて、その動作をさせることを主として、自然に英語をまねして歌いだすのを待つ。


4、チャンツ

 会話活動で使うパターンをチャンツで練習するだけでなく、英語のもつ音やリズムを楽しむためにチャンツを工夫する。ウッドブロックなどの音でリズム読みをすると、教師がリズムのスピードを容易に変えることができ、その変化を楽しむことができる。

 単語の練習でも、単調なリピートではなく、音楽をともなったチャンツ読みをすると楽しく、何度もリピートすることができる。


5、BGN(Background Noise)

 音楽を利用して、ゲーム活動を盛り上げる。スタートの音楽や終了の音楽の工夫もできる。スピードのある活発な音楽を流せば、活動も活発になる。



(参考) 信州大学渡邉時夫「第4章英語教育の発想転換ー長野県堀金小学校の実践ー」『モノグラフ 小学校における英語教育の研究』中部英語教育学会「小学校における英語教育」研究プロジェクト、2000年 より抜粋

A メッセージから文法へ
 子どもたちに、理解できる英語を十分に触れさせていると、下記のように(1)から(2)の過程を経て英語が習得されることが分かっている。授業担当者は、英語教育へのアプローチとして、この点を信じて教育に当たることが大切である。
 (1)(初歩の段階では)英語で話された内容(メッセージ)は残るが英語自体は残らない → (2)(次第に)メッセージと共に英語も心に残るようになる。
 現在の中・高の英語教育は正にこの逆であったといって良いだろう。単語や言い回しを覚えたり、文法規則を正確に学べば、英語でコミュニケーションが可能になる、と何となく信じて来たというのが実態である。この考え方や指導法が成功しなかったことは疑いの余地がない。従来の英語教育では、表層的な発話はできても、深い内容について語り合える英語力を習得することができなかった。特に弱い点は、相手の言うことが理解できるようにならないということであり、実はこれが深刻なのである。「聞いて理解する力」は、「英語のすぐれた使い手」になるための必要条件なのである。また、「英語を聞いて理解する力」は、発話する力と比べて、個人差が少ないことも見逃せない。ALTの説明を聞いて児童全員が楽しめる、ということが英語を好きにさせているのである。
 聞くことに重きを置いた授業を続けると、やがてメッセージだけでなく、英語そのものも残るようになり、必要があれば自然に使えるようになるだろう。

B 話すことを強要しない→自然な発話は大いに奨励(自然さ・自主性のすすめ)
 これまでに70校ほどが開発学校として研究を重ね、その結果を公開しているが、この点で失敗していると思われる学校も少なくないように思う。特に、平成8年度から各県1校ずつが指定されるようになってからは、教科の名前も「英会話」となったために、テキストを暗唱させたり、1文、1文を無理に言わせるような教え方をしている学校が多くなった。これでは、正に中学校の先取りといわれても仕方が無いであろう。テキストを見ると、「あいさつ」「好き嫌いを問う」などの機能や場面を取り上げている場合が多い。これらは中学校のテキストが取り上げている内容と重複している。たとえ文字を使わず、文法用語や説明をしなくとも、指導の中身や発想は中学校で長年行われてきた方法と、それほど変わらないのである。このような英語教育では、英語の習得は期待できないばかりか、高学年を経て中学校に進むころにはかなり多くの子どもが英語嫌いになってしまうであろう。
 Y小学校の例
 一見、「聞く」活動を重視しているように見えるが、話す活動を多くしようという姿勢が強く見受けられる。例えば、gamesの中に、"Who am I Game" "Interview Game"など「話す力」がかなり求められる活動が行われている。また指導過程を見てみると、1あいさつ、2前時に習った語句や表現の復習、3本時の学習課題を知る、4既習の文を想起、(あとは省略)など、話させる(強制)場面が多く、まるで中学校英語教育の小学校版になっている。これでは、高学年になると英語学習に疲れてくるであろうと心配になる。アンケート結果は次の通りである。

英語の授業は好きですか?
1年 2年 3年 4年 5年 6年
好き 74% 69% 67% 66% 54% 35%
普通 24 30 33 30 39 58
嫌い 2 1 0 4 7 7

C 「体ごと学ぶ」を重視すること(TPRの活用)
 「ことば」の「意味」を自分のからだを動かして体験しながら学ぶことが大切である。ある時、6年生の子どもたちが、スコットランド出身のALTに、得意げに「お手玉」を3つも4つも自在に使いこなしてみせたところ、ALTは、その遊びならスコットランドにもあると言って沢山のお手玉を見事に使って見せ、そうすることを英語ではjuggleというんだと説明を加えた。多くの子どもがその時間の内に、juggleということばを上手に使っていた。また、ある時、いかの煮物を食べるように勧められたALTがその皿を近くにいた子どもたちに、Smell it.と言って差し出したところ、皆鼻を突き出して匂いを嗅いだ。初めて耳にした英語だったが、素直に理解できたようだった。からだで覚えることの大切さと効果を大いに利用しなければならないと思う。ALTの英語による指示に対して、子どもたちが、からだの動きによって反応する過程を繰り返すことによって、英語を効果的に習得することができる。このような指導はTPRと呼ばれている。英語による口頭練習が必要だ、という反論もある。しかし、実際に教えてみると分かるように、子どもたちは、もともとおしゃべりなので、黙っている時間はむしろ少なく、日本語や、場合によっては、英語で反応する事が多い。これは自発的な行動や言語活動であり、大いに奨励すべきことである。

D 英語の使い方のコツー子どもに分かってもらうためにー(抽象のはしごを上下する)
 まず、英語の使い方をALTに教えなければならない。ALTは、英語の母語話者であるから英語の優れた使い手ではあるが、日本人の子どもたちを対象に、「外国語としての英語」という立場から英語を使うことには慣れていない。これまで繰り返し述べてきたとおり、子どもたちが多量の英語を浴びることが必要であるが、英語を通して話者のメッセージが理解できなければ意味がない。そこでALTには一般的に言って次のような視点から、示唆を与えるtことが求められる。
(1)子どもたちにメッセージが伝わっているかどうか、常に留意する必要があること。
(2)あまり早口で話さないこと。
(3)長い文は避け、できるだけ単純な単語や構文を使うこと。
(4)あるメッセージを伝えるために、様々に言い換えをしたり、発想を変えたりして、より的確に理解してもらうように努める。
(5)例えば、スコットランド出身のALTが母国の描写をする際に、There is a lot of grassland in my country.と言った直後、grass, grass,grass. There is grass everywhere in my country Scotland.と言い換えて成功した例もある。
(6)常に「抽象のはしご」を下るように心がけ、具体的で視覚化できるよう工夫すること。In Scotland we eat potatoes every day.と述べた後、子どもたちの表情がさえないため、We eat potatoes every day. Monday, Tuesday, Wednesday.などと補ったところ、イメージが具体化し、子どもたちは正しく理解できた。
(7)大切なメッセージは繰り返し語り掛けることも必要である。
以上の留意点は、ALTのみに適応するものでなく、JTE(日本人英語教師)にもそっくりそのまま当てはまる。