20030107(3)jh-shougakkoueigo
テーマ:小学校英語教育の現状
群馬県中之条町立西中学校講演(3)

平成15年1月7日
刈谷東中学校 犬塚章夫

「小学校における英語教育の現状」

8、愛知県刈谷市の現状

(1) ALT主導による授業
 平成14年度、市内15校の小学校に対して、2名のALTがいてクラス数に応じて各校をまわっている。
 小学校3年生以上の全クラスに、年間7回程度の授業ができるようになっている。
 ALTは(中学校用3名を含めて)全て派遣会社を利用している。
   

(2) 市内15校の英語活動担当者へのアンケートより (平成14年6月実施)
 @時間割に英語活動が位置づけてあるか
  15校中3校が「はい」=毎週、あるいは隔週に英語活動あり。

 A市の派遣ALT以外に英語の授業のためにボランティアをお願いしているか
  15校中6校が「はい」=ドイツ、フィリピン、アメリカ、インドなど学校の近くに住んでいる方に依頼。
                 またアメリカ在住経験のある英語の堪能な日本人の場合もある。

 B英語の授業の内容に国際理解が入っているか
  15校中6校が「はい」=他の9校は純粋に英語会話活動。

 C英語活動の授業でよくなった児童の様子(抜粋)
   
  意欲的に活動している。
  英語の時間をとても楽しみにしている。
  外国の人に対して、偏見を持たずに自然にふるまうことができるようになった。
  日ごろの授業で活躍できない児童が大きな声を出し元気よく参加できている。
  まちがえてもいいから堂々と話す子が増えてきた。
  話すことに対して抵抗なく話せる子が増えた。
  恥ずかしさや抵抗感が減って楽しそうに取り組む子が増えた。
  自然な態度でALTと接することができるようになった。
  子供が英語に興味を持つようになった。
  身体表現や音声での表現をはずかしがらずにのびのびとできた。
  普段おとなしい子が活躍できる。
  算数などでは自信を持つことができない児童が、積極的に授業に参加している。

 D英語活動の授業で悪くなった児童の様子(抜粋)
  ない。
  塾等で習っている子は、しらけている。
  英語嫌い、外人嫌いの子も少数でた。

 E今、英語活動の時間について困っていること(抜粋)
  学校内で系統的な指導がしたいが、カリキュラムを研究する時間がない。
  現段階では時数の確保ができてない。
  担任の入り方として、現状のように子供と一緒に授業に参加し時々説明の補助をする程度でよいのか。
  事前に学習内容を知るために5〜10分程度ALTとの打ち合わせの時間が欲しい。

 H市への要望(抜粋)
  英語ルームが不足している。
  ALTの増員、あるいはボランティアへの謝礼の予算化してほしい。
  教材を購入する予算の確保してほしい。
  小学校教員を対象とした英語研修の場が欲しい

(3)名古屋市はどうか
 @現状は
  緊急雇用対策の費用を使って、英語に堪能な日本人がAll Englishで英語活動の授業を担当
  任期は6か月。

 A指導している松香洋子先生の考え (松香1999)
  期待される成果
  ア、学校が開かれた場所になる 
   外国人の先生、ボランティアの先生などが小学校に訪れたり、ティームティーチングが増える。
  イ、人間関係が広がる
   個人対個人、ペア対ペアなどのアクティビティでコミュニケーションが活発になる。
  ウ、積極的な態度が育つ
   日本人は表情に乏しいと言われているが、活動で訓練される。
   研究指定校の成果にも、よく声が出る、手があがる、活発になったとある。
  エ、マナーが向上する
   あいさつをする、よく聞く、すぐに答えるなどができるようになる。
  オ、外国語そのものの知識や運用力がつく
   英語でコミュニケーションしたいという積極的な態度が育つ。
   聞いて理解する力が伸びる。
   単語をよく覚えるようになる。
  カ、総合的な学習の成果
   子どもは英語を通して自分の身の回りのことに関心をもち、素材を集め、工夫をして整理し、それを発表する。
   このような活動で子どもの興味・関心を育て、人間の幅を広くすることができる。
 
 指導上の留意点
  ア、机のない空間が理想
   自由な空間でこそ伸び伸びとしたコミュニケーションが達成できる。
  イ、声を出したり、体を使うクラスに慣れる
   私語をしない、はめをはずさないなどの約束を守りながら、よく声が出ているクラスが理想。
  ウ、日本語でいちいち説明しない、訳さない
   新しい単語や英文を教える時には実物を見せたり、ジェスチャーをしたり、絵で表す。
  エ、カタカナをふらない
   せっかくALTがよい発音を教えた直後にカタカナをふってしまってはだいなし。
  オ、徹底的に遊ばせる
   子どもは体を動かすと、頭が動きはじめ、頭が動くと心が動き、興味・関心が増し、習得もおこる。
  カ、単語で教えないで文単位で教える
   英語は文章言語。日本語で「食べる?」「食べる。」と会話は通じるが、英語で Eat? Eat.とは言えない。
   必ず主語+動詞の文になっている。
   子どもにとっては、ひとつの文を覚えるのも、ひとつの単語を覚えるのもほぼ同じ努力でできる。
  キ、国際的なマナーを養成する
   よく他人の発表を聞き、聞いたらほめる。=じょうずに発表する。
   人前に立ち、自分が出来る範囲の英語で堂々と自分の言いたいことを発表する訓練は必要。
  ク、リズムを使って繰り返す
   何か音のでるもの(リズムマシン、タンバリンなど)を利用すると覚えることに対する負担が減る。
  ケ、先生の日本語を減らす
   英語について学ぶのではなく、英語を学ぶ。

9、小中の連携

(1)刈谷市の指導上の留意点 中学英語

1 個に応じ、個を生かす指導
(1) 小テストを実施し、一人一人の単語や文法事項でのつまずきを見つけ、個別指導に生かす。
(2) 少人数授業では、クラス分けや指導方法・学習形態など、一斉授業よりもきめ細かな個に応じた指導ができるよう工夫する。
(3) 選択「英語」では、生徒の興味・関心をもとに発展的活動や基礎的・基本的な事項の補充的活動を工夫する。

2 確かな学力を育てる指導
 (1) 基礎的・基本的な言語材料の定着を図る。
  ア 新出の単語や基本文をドリルする時間を十分に取り、定着を図る。
  イ 教科書本文や基本表現を積極的に暗唱させる。
 (2) 教材内容や生徒の実態を考慮し、単元における4つの指導領域の重点化を図る。
  ア 聞く・・・言語材料の導入や活動の指示で、教師が英語を使い、英語を聞く場面を作る。
         ビデオやCDを使い、ネイティブスピーカーの英語を多く聞かせる。
  イ 話す・・・生徒同士や生徒対ALTなど、コミュニケーション活動を多く設定する。
         会話表現のドリルを用いたり、実際の英語使用場面を授業で作ったりする。
  ウ 読む・・・教科書本文の内容を把握させ、正しく音読できるように練習させる。
         リズムを用いた音読練習などで英語のリズムに慣れさせる。
  エ 書く・・・基本文を使った自由作文や相手を意識した自己表現作文を工夫する。
         電子メールなどインターネットを利用したコミュニケーションにも慣れさせる。
 (3) 話す力を評価するための会話テスト、聞く力を評価するための聞き取りテスト、文化についての理解を評価するためのレポートなど、評価方法を工夫する。

3 ALTとの効果的なティーム・ティーチング
 (1) 事前に授業内容とその目的についてALTと十分話し合う機会を設ける。
 (2) JTEとALTの役割を明確にした授業展開がなされるようにする。

4 小学校英語活動との連携を意識した授業
 (1) 音声での表現導入や会話活動を体験してきた生徒に、抵抗なく着実に文字を導入するため、第1学年の始めの段階で、フォニックスや細やかなドリルの実施に心がける。
 (2) 形式的な会話活動から、より発展した心通いあう本物のコミュニケーション活動へと展開できるよう活動内容を工夫する。

5 実践的なコミュニケーション活動ができる環境を整備する
 (1) 会話場面作りに必要な小道具などを準備し、準備室等に蓄積・保管する。
 (2) 余裕教室などを、英語ルームとして活用することに努める。

(2)刈谷市の指導上の留意点 小学校英語活動

1 英語に興味・関心が持てる指導の工夫
   英語は楽しい学習で、「英語嫌いの児童を作らない」を基本理念として授業を展開する。
 (1) 新出単語や表現の導入の際には、ALTの発音、ビデオ教材などで英語をくりかえし聞かせることに心がける。ALTに英語で指示をしてもらい、その通りに動かせるなど、聞いて、理解して、行動する活動などを工夫したい。
 (2) 新しい文の反復練習をする時に、ウッドブロックなど音の出る物を利用し、英語特有のリズムを体感できるようにする。教え込もうとするのではなく、楽しみながら自然に英語を聞いたり、話したりする中で習得していくようにする。
 (3) 活動はゲーム的な要素を取り入れるようにする。活動は学んだ表現を使う場と考え、
ゲームの勝敗だけにこだわらないように注意したい。

2 国際理解につながる活動内容の工夫
 ○ 授業の題材は、児童が知りたい、学びたいと思っている「生活英語」から選ぶようにする。
  その題材は外国の文化と比較しやすく、国際理解の内容が包含されているものがよい。

3 ALTとの効果的なティーム・ティーチング
 (1) ALT主導の授業の場合、事前に指導内容(扱う単語・表現)や活動内容をALTから聞き、担任として主体的に授業に参加できるようにする。
 (2) 担任主導の授業の場合、事前にALTと授業内容と授業のねらいについて話し合うようにする。担任は、ALTとの役割を明確にした授業展開がなされるように、指導案の中に担任とALTの活動内容の欄を分けて作成する。
 
4 中学校英語との連携を意識した授業
 (1) 英語の単語や文の構造などについて詳しく説明しすぎないようにする。
(2) 英語でのコミュニケーション活動は、自分の言いたいことが相手に伝わり、相手の言うことが理解できるかが重要で、間違いのない完全な英語を求めすぎないようにする。
(3) 小学校では書くことへの抵抗感を持つ児童が多く、英語嫌いの児童を作る要因になるので、英単語を書かせる指導は避けたい。ただし、ローマ字学習を通して、名前を書くことなどはできるようにしておきたい。

5 学習環境の充実
 (1) 授業の内容に合せて、会話場面に必要な掲示物、小道具などを準備し、英語の活動にふさわしい環境を整える。
 (2) 英語の授業はできるだけ、普通教室で行うのではなく、児童が動きやすいオープンスペースで行うようにする。

6 教師の資質向上を図る場の設定
 ○ 簡単な英語の指示や児童が学ぶ英単語の発音ができるように、ALTが来校している機会などを利用し研修の機会をもちたい。

参考文献
松香洋子 1999. 『小学生は英語が大好き 72 Activities』東京:松香フォニックス研究所