2005paper
愛知万博プロジェクトへの取り組み
ー本物との会話体験から意欲の喚起ー
依佐美中学校 犬塚章夫
1、はじめに
「全校で愛知万博に行くことになった。」その言葉からこのプロジェクトが始まった。「愛知万博に生徒を連れて行くなんて、たいへんなことになるぞ。」「企業館はいっぱいで入れないぞ。」「何時間くらい向こうにいることができるんだ?」「何しにいくんだろう。」様々な声が職員室に飛びかっていた。しかし、私は「こんなチャンスは二度とない。」とわくわくしていた。万国博覧会なんだから、世界中から人々が集まる。生徒に直接いろいろな国の人々と英語で会話をさせることができる。ちょっとした会話でも、○○という国の人と話をしたんだという経験は、生徒の国際感覚を大きく左右させることにつながるに違いない。私自身、中学生の時に、英語塾に突然現れた「外人さん」とちょっと会話したことが、その後の英語への興味につながっている。英語を好きな生徒を育てたい。英語を通して世界と関わる生徒を育てたいと思って英語を教えてきた。そんな直接会話体験を愛知県内で体験させることができる愛知万博を最大限利用したいと考え、本研究を始めることにした。、
2、研究の仮説
生徒に外国の人と直接会話させることで、外国への興味や英語学習への興味を喚起させることができるのではないか。
ステップを踏んだ学習を取り入れることで、外国の人に進んで話しかけられる態度を身につけさせることができるのではないか。
3、研究の流れ
(1)授業単元を作る準備
3月31日、まだ始まって間もない愛知万博に私自身でかけてみた。手には公式ハンドブック。参加国の情報が書かれた冊子である。この冊子にサインをもらってこよう。うまくいったら、生徒のも外国の人と会話させてサインをもらってくる授業ができる。そう思いながら、まず訪れたのがアメリカ館だった。誰に話しかけよう。忙しく仕事をしている人はむずかしいから、時間がありそうな人を探さなきゃ。そう思いながらきょろきょろしていると、入場口で待っている人たちと会話をしながら入場数の調整をしている人が目に入った。そうだ、この人なら、次の入場時間まで話をする時間がとれそうだ。ちょっと、恥ずかしかったが勇気をだして話しかけてみた。Excuse me. I am teaching English at a junior high school in Aichi. Will you give me a message? Please write on this book.と言って、ガイドブックのアメリカ館のページを差し出した。にこにこしながらも、何を書いたらいいの?と言いながら困っている様子。こんなふうにサインを求められるのが初めてだったのかもしれない。その姿を見て、「ああそうか、何でもいいからメッセージを書いて欲しいと言われても、困るんだな。かと言ってピースメッセージをください。というのも難しすぎるし、生徒にどんな会話をさせればいいんだろう。」と私も迷い始めた。その次に、カナダ館に行って同じ様にメッセージを求めてみた。すると、彼女はバンクーバー出身なのだろう、Vancouver is No. 1!と書いてくれた。「ああ、そうか。」私はその時、これだと思った。「ただ漠然とメッセージをもらうよりも、具体的にある質問をしてその答えを書いてもらったほうが、尋ねやすいし、相手も短時間でさっと答えることができるんだ。」と。こうやって、実体験から生徒に授業を通して何をさせてあげることができるのか、最終目的としてどんな活動がよいのか、イメージすることができた。
次のALTの訪問日にカナダ出身のALTにその話をしてみた。「バンクーバーが1番って言ってるよ。」と言うと、「何を言うんだ、東海岸のほうがいいに決まってるだろ。」東海岸出身のALTは、そう言って怒っていた。いやそれは冗談なんだろうが、同じカナダ館でも違う人に話をすれば、それぞれの人が違った答えをくれるに違いない。万博プロジェクトとして、生徒に外国の人たちと会話をさせたいんだという話をALTにもちかけた。アメリカ館での様子や、カナダ館での様子を伝えながら話し合った結果、次の様なプロジェクトを行うことを決めた。
愛知万博プロジェクト
自分の好きな国のパビリオンに行き、その国の人に、その国を訪れるとしたら、どこに行くのがお勧めかを尋ねて来なさい。
(2)授業構想作り
最終目的は決まった。これで、生徒に実際の英語使用場面を与えることができる。それもただ話しなさいというのではなく、具体的な会話のテーマも与えた。では、本当に万博で外国の人と話をすることができるためには、何を授業でやっておかなければいけないのだろうかと考えた。本校が愛知万博に出かけるのは5月19日。これはもう行事で決まっていてバスの手配も進んでいるので変更することはできない。では、その日までに会話に対する自信をつけさせ、外国の人と会話することへの意欲を高めておかなればならない、そのためには、まず模擬体験が必要だ。ALTの訪問日程を調べると、それまでにどのクラスも2回のティームティーチングの授業を持つことができる。そこで、ALTと話し合って、次の様なモデル会話を作成した。
資料(モデル会話)
2回のALTとの授業で、まず1回目はこのモデル会話を意味を理解したうえで、使わせてみる、そして2回目はモデル会話を暗唱した状態で、ALTの目を見て会話をし紙を差し出して実際にメッセージをもらうところまで体験させることにした。その前にまず単元の導入をしておかなければいけない。どの国の人と会話しようか、下調べとしてその国のことを知っておけば、会話にも役立つ。次に、万博で会話させた後は、どうしようか。ただ会話させて終わりではいけない。まず、どの国の人と会話をして、どんな結果がでたのかをまとめさせよう、そしてそれぞれがALTに万博プロジェクトの結果を口頭で報告し、さらにそれをレポートという形でまとめさせたい、と単元全体の授業構想を作ることができた。授業構想は以下にまとめる。
資料(授業構想図)
(3)授業の実際
@単元の導入
まずは愛知万博の概要をつかませるために、会場の地図、各グローバルコモンの出展国一覧を示した。「どの国のパビリオンに行ってみたい?」と投げかけると、生徒たちは「この国に行ってみたい。」言いながら、珍しい国を選んでみたり、ヨーロッパの有名な国を選んでみたりと、生徒同士で楽しそうに会話をしていた。
そして授業単元を説明した。5月19日に学校から愛知万博に出かけること、時間がそれほどないので、企業館ではなく外国間を訪問するとよいこと、外国館で誰とどんなふうに会話をしたらよいのかなどを説明した。そしてモデル会話を導入し、意味を確認した後、読みの練習を行った。
AALTとの第1次会話
ALTのダグラス先生を外国館の人とみたてて、1対1の会話練習を行った。生徒はモデル会話の書かれたプリントを見ながら、なんとか会話をしていた。しかしまだせりふを覚えているわけでもなく、プリントから目が話せない様子であった。したがって当然、英文を目で追っているので、会話相手とのアイコンタクトをしたり、身振りなどを使ったりできていなかった。このあたりが、第2次会話への目標となった。
会話の順番を待っている間や、会話後の時間を使って、英語レポートの予習をさせた。万博で会話をした後、単元の最終活動として英文レポートを書いてもらうことを示したが、その練習を兼ねて、どの国の人と会話をして、どんな場所を行くと良いところとして推薦してくれたかを英文で書かせた。
BALTとの第2次会話
ALTのダグラス先生との2回目の会話である。より万博での会話が意識できるように、会話場所の後ろに外国のポスターを貼って、ダグラス先生にもいろいろな国の人になってもらった。生徒には、モデル会話の例文を暗唱してくるように言い、当日の会話は評価に入れる会話テストということにして、ALTに評価もお願いした。評価観点と基準をあらかじめプリントに記入しておき、会話中にALTが該当する項目に○をつけるだけでよいようにした。そして万博会場で行うように、ダグラス先生にメッセージも書いてもらった。生徒たちは、万博でのリハーサルをしながらも、ダグラス先生との会話を楽しんでいたようだった。会話後も、ダグラス先生のメッセージを友達と見せ合いながら、どの国のどの場所なのか情報交換を楽しんでいた。
また、会話を待っている間や、会話後の時間は、実際に万博会場にメッセージを書いてもらうための「自作パスポート」作りを行った。実際のパスポートに似せたもので、画用紙を切って張り合わせることで、冊子になる。その裏表紙の部分に会話をした人の国名や氏名、お勧めの場所などを記入できるようにした。生徒は、パスポートの個人情報記入欄を見本を見ながら楽しそうに記入していた。
C愛知万博での会話体験
いよいよ実際の会話当日。どの生徒も楽しそうに各パビリオンに散っていった。途中行き違う生徒が近寄ってきて、「先生、メッセージもらったよ。」と声をかけてくる。パスポートにたくさんのサインやスタンプをもらっている生徒も多くいた。グループで行動することもあり、実際には一人ひとりが会話をするのではなく、グループで一人会話をしたら、他の生徒はスタンプを打ってくることにし、会話相手に迷惑のかからないように配慮をした。
Dプロジェクト結果のまとめ
万博に出かけた次の授業では、プロジェクトのまとめの活動を行った。まずは、どの国のパビリオンに出かけてメッセージをもらってきたのかを世界地図の白地図上にシールを晴らせることで示させた。クラスの様子を見てみると、どのクラスも世界中の人たちと会話ができたようだった。たった1日でこれほど多くの国の人と実際に英語を通して会話(情報交換)ができるなんてすばらしいと、改めて感じる瞬間であった。
EALTとの第3次会話
万博に行った次のALTとの授業では、ALTと1対1で、会話の報告を行わせた。どの国の人と話をしてきたのか、どんな場所に行くとよいと進められたのかを生徒のほうから話した後、ALTからの質問に即興で答えさせた。メッセージを書いてもらってきたパスポートを見せ、世界地図でその国を示しながら、会話が始まった。中にはメッセージが読みにくいものもあったり、地名の発音がわからないものもあったが、ALTに読んでもらい理解を深めていた。どの生徒もメッセージが書かれていたり、スタンプが押されているパスポートを見せながら話をする様子はうれしそうであった。この会話活動も会話テストとし、あらかじめ評価基準をプリントに示し、ALTに会話中に該当する項目に○を打つことで評価をしてもらった。生徒も自分の伝えたい情報がしっかりあるためか、真剣にメッセージの書かれたパスポートを示したり、世界地図を指し示したりしながら会話に取り組んでいる姿が印象的であった。
会話を待っている間と、会話後には、英文での万博レポート作りに取り組ませた。どの国の人と話したのか、どの場所を勧めてもらえたのか、そのほかの会話の内容やパビリオンで見たり聞いたりした内容などを英語でまとめさせた。書かれた英文は添削をして返した。
F万博プロジェクト・レポートの作成
いよいよ単元のまとめとしてのレポートの作成。どの生徒も一度は添削を受けて、英文を完成させていった。完成した英文はA4サイズの清書ノートにきれいにまとめさせた。正しい英文をもう一度ノートに書くことで自分の文法的な間違いに気づかせたいという目的と、読んでもらうことを意識してきれいにレイアウトなどをまとめさせたいという目的がある。完成作品は、2つの観点(コミュニケーションへの関心意欲と、表現の能力)で評価した。あらかじめ観点を決めておき、2人の教師でいっしょに作品の見ながら評価を決めていった。
4、研究の結果と考察
(1)生徒に外国の人と直接会話させることで、外国への興味や英語学習への興味を喚起させることができたか
(2)ステップを踏んだ学習を取り入れることで、外国の人に進んで話しかけられる態度を身につけさせることができたか
5、研究のまとめ
今回の授業実践で一番の収穫は、実際に様々な国の人たちと会話をさせることができたことだ。学校で国際理解を深めるために外国の人を呼ぶことはあるが、それほど多くの人を呼ぶことはできないし、生徒の会話したい国の人が全て来られるわけでもない。しかし、万博では世界中の国の人が実際にパビリオンにいてくれて、生徒に会話をするチャンスを与えてくれていた。実際の会話は非常に短いものであったが、その国の人と触れ合うことで、その国が身近に感じられるようになったようで、それは生徒のこれからの人生において、非常に大きな意味がある出来事になったのではないかと思う。ただ単に万博に見学しに行くだけでは味わえない体験が得られたと実感している。