自由研究発表第3会場発表要旨

3−1
「貸す」と「借りる」の言語学 -貸借関係を表す英語動詞の意味素性分析-
松原健二(松商学園短期大学)
 英語で貸借関係を表す際には、'borrow''lend''rent'の3動詞のいずれかを用いて表現するのが一般的である。しかし、これらの3動詞は混乱を招きやすく、実際にこれらの動詞をめぐって「貸す」と「借りる」の混同や取り違えなどの誤りを犯す学習者も多い。 表現する行為自体が貸借という単純なものであり、使われる動詞も比較的平易な単語でありながら、なぜ難しいのであろうか。主に次のような4つの理由が考えられる。
(1)'lend'と'rent'が発音の上で似ており、'l'音と'r'音の区別が曖昧な学習者には  まぎらわしい。
(2)'lend'が不規則動詞で'lend>lent>lent'と変化するために、過去形および過去分  詞形が発音の上で'rent'に近く、音声的な識別が難しい。
(3)'rent'が「貸す」意味に用いられたり、「借りる」意味に用いられたりして、その意  味素性上の方向性が単語レベルでは把握できない。
(4)有料の貸借には'rent'が用いられるという原則があるのに、金銭の貸し借りについ  ては利息を取る場合でも'rent'ではなく、'borrow'や'lend'が用いられる。
 本発表では貸借関係を表す'borrow''lend''rent'の基本的な用法を概観した後、
'rent'が「貸す」意味に用いられたり、「借りる」意味に用いられたりするのはなぜか、金銭の貸し借りでは利息を取る場合にも'borrow'や'lend'が用いられるのはなぜか、という2点について、これら3動詞の意味素性分析を通して考察する。

3−2
研究開発校で英語に接した児童の英語能力(1)---音素識別能力---
白畑知彦(静岡大学)・芦田有紀(静岡県湖西市立岡崎小学校)・雨宮 正(山梨県山梨市立山梨小学校)・小野正雄(静岡大学大学院)
 国際理解教育の研究開発学校(以下、A小学校)として、文部省(当時)より3年間の指定を受けた小学校で英語学習を経験した児童の英語能力を2つの点から調査した。今回はその1つである、英語音素識別能力の調査結果に焦点を当てたい。国債理解教育の一環として英語の授業を経験したA小学校の児童(Exと呼ぶ)は全員、B中学校に進学する。B中学校にはA小学校卒業生とほぼ同数の生徒がC小学校からも加わる(この卒業生たちをNon-Exと呼ぶ)。B中学校にご協力を頂き、在校生全員にに音素識別テストを実施した(2000年12月1日と2日)。本発表では、最も長い期間(小学校4年次、5年次、6年次の3年間)英語学習を経験した中学1年生の実験結果を報告したい。有効被験者数は、Ex:115人、non-Ex:122人であった。その結果、ExとNon-Exの平均得点には、統計的(Z検定を実施)になんら有意差が認められなかった。すなわち、A小学校で行われた、週1回のALTを含めたteam teachingの英語授業は、児童の英語音素識別能力を向上させるには有効な方法ではなかったということである。

3−3
インタラクティヴな授業が、語彙の習得に及ぼす影響
平林 寿一(長野県長野東高等学校)
 英語の授業(特にリーディングの授業に)において、教師が教科書本文を「日本語に翻訳、説明」しない事はまずないと言っても過言ではないでしょう。 しかし、この「翻訳(英文和訳)」によって原義を伝えることは非常に難しく、また、日本語と目標言語(英語)が単語レベルにおいても、必ずしも一対一の意味の対応をしている訳ではないということを考えると、授業においては、できるだけ目標言語を用いる必要があると考えられます。問題は、テキスト内容や、その中に出てくる新出語彙をどのように「翻訳」しないで説明するか、そしてその結果、どのようにしたら生徒がその語義を「習得」できるか、にあります。本実践では、できるだけ目標言語を使った、インタラクティヴな授業を実践し、その結果を語彙の定着の度合いを通して考察しようとするものです。

3−4
「英語および外国や外国人に対する高校生の意識調査」
安達理恵(名古屋大学大学院 国際開発研究科)
 この研究は、高校生を対象に、今後も学びたい外国語や外国についての関心度、英語公用語に対する意識について、および在日外国人についての意識などを調査したものである。外国語や外国に対する意識調査を行うことで、日本の国際化や、英語教育、異文化理解教育の方向性についてなどを考察することを目的として調査したものである。2001年の1月終わりから2月初めに、愛知県内の2つの私立高校に在学の高校1年生約200人を対象にして、アンケートを行った。データは、分析のための処理や集計を行った後、さらに仮説をたて、相関、T検定などで検証した。

3−5
日本人高校生による語彙学習ストラテジー使用について-L2学習環境が及ぼす影響を中心に-
中村太一(松山大学)
 本発表では、第二言語(英語)の語彙学習において、異なった学習環境が日本人高校生のストラテジーの選択と使用にどのような影響を与えているかに焦点を絞って論じる。具体的には、英国在住日本人高校生と日本在住日本人高校生から収集したデータを比較分析することによって、未知語攻略ストラテジー、辞書使用ストラテジー、ノート・テーキングストラテジー、反復ストラテジー、記憶ストラテジーのうち、第二言語学習環境の違いによって使用頻度に顕著な差があらわれたストラテジーを取り上げることになる。
 従来、第二言語語彙学習ストラテジー使用を左右する要因としては、学習者のプロフィシェンシーが大きく関係するとされてきたが、第二言語の学習環境が学習者のプロフィシェンシー以上に大きくストラテジー使用に影響を及ぼしていることが判明した。第二言語語彙学習指導に対する示唆にも言及するつもりである。

3−6
性格(外向性・内向性)要因が子供の活動に与える影響に関する事例研究―公立小学校の英語クラブを通して―
石浜 博之(聖霊女子短期大学) 佐藤 博晴(秋田公立美術工芸短期大学)
T.研究の背景: 1997年度から石浜らは公立小学校のクラブ活動などで英語指導をしている。1999年度・2000年度の2年間、実際に英語クラブの中で性格要因が子どもの活動にどのように影響してかについての調査を実施した。公立小学校に英語指導が導入された場合、小学生を対象として性格要因による活動の相違や類似を示すことは指導などを検討する際、意義があると考えた。
 外国語学習においては、一般的に外向的学習者が内向的学習者よりも有利であると見なされがちである。しかしながら、「外向性―内向性」と言語学習との関係を調査した実証研究では、外向性の優位を報告しているのはあまり見られない。
U.調査の目的と内容: 小学校段階で性格要因が子供の活動にどのように影響しているかに焦点を当てて、子供の活動に対する指導を検討することである。調査方法は、Y―G検査(矢田部・ギルホード性格検査)の外向性・内向性に関する部分のみを使用し、子どもの自己評価(英語ふりかえりカード)の結果とのクロス集計を試みた。さらに、自由記述も分析した。
V.検証と提案: 口頭発表する際、詳細な調査結果を提示する。その結果と4年間の実践で得た知見から小学校段階における英語指導の方法を提案したい。

3−7
「動機づけ」、「ストラテジー」、「習熟度」、三者の関連性
大和隆介(岐阜大学)
 多様な学習者要因が言語習得において果たす役割は、これまで多くの教師や研究者の関心を集めてきた。中でも、学習者の言語学習ストラテジーーの使用やそのメタ認知、また学習者の言語学習に対する動機づけについて、多くの研究・報告がなされている。
 Oxfordを始めとするストラテジー研究者は、習熟度が増すにつれストラテジーを適切に使用し、ストラテジーの指導が学習効果を高めることを実証的研究によって明らかにしている。またGardnerに代表される動機づけに関する研究者は、動機づけのタイプ(統合的と道具的)と学習指向性(Orientation)や言語習得との関係を主に社会心理学の枠組で説明してきた。これら多くの研究では、学習ストラテジーや動機づけと習熟度との関係を解明することに主な関心が持たれ、ストラテジーと動機づけとの関係やストラテジー、動機づけ、習熟度、三者の関係は、これまで研究対象とはあまりされてこなかった(前者に関してはOxford&Nyikos,1989; Wharton,T,2000等いくらか見られる)。
 本発表では、ストラテジー、動機づけ、習熟度、三者の関係を探るパイロットスタディとして行なった研究を報告する。大学生を対象に、材料としてストラテジーに関してはOxfordのSILL(Version7.0)、動機づけに関してはGardnerのAMTB (Attitude/ Motivation Test Battery)から動機づけの強さと学習願望の計20項目、習熟度に関してはTOEICを用い、得られた結果に対して共分散分析に基づくパス解析を行なったものである。

3−8
児童英語教材の高校英語教育における適用の試み
江田治美(叡明館高校)
 現代は、英語教育が重要であることが,強調される時代となってきている。しかし、いったん英語学習レースから落ちこぼれて英語嫌いとなった生徒たちは、学習能力があっても,もう学習意欲を ほとんどなくしてしまう。
 本稿は,このような生徒をSLM(Students with low motivation)と名づけ、どのように動機付けさせたか、また 学習意欲を高める方法として児童英語教材を使用し、ある程度の学習成果をあげたほぼ3年間の結果報告である。
 SLMの中でも特に成績の振るわない 学習習得の遅い1人の学習者に的を絞り分析しどのような方法が,適切であるかを述べるものである。
 追跡期間の初めの2年間を1期とすれば後の1年間を第2期とする。今回は、特に第2期について、児童英語教材の特質を捕らえた絵本を使用することで、まったく英語から目をそむけた生徒が、英語を読んで理解することにつなげることができた。その特徴は、母語習得過程を織り込んだことにある。また 大人と同等な精神年齢を持つ高校生が、児童教材を受け入れた工夫の報告でもある。