自由研究発表第4会場発表要旨 |
4−1
スキーマの活性化を促す「異文化理解なるほどリーディング」
永倉由里(常葉学園高等学校)
ここ数年、異文化理解を促す英語教育を目指し、自作教材『異文化理解おもしろクイズ』を作成するなど、面白みのある情報を提供し、関心と学習意欲を高めるようと働きかけてきた。これらの実践が、有効に作用することは確認したが、残念ながら、提供される情報の選択も授業展開も、教師の主導であり、学習者にとっては受動的なものであった。
そこで、昨年度より、学習者のより主体的な活動を促す試みとして「リーディング」に着目し、独自の実践を行っている。「リーディング」は未知なる情報を得る手段であり、きわめて個人的な活動である。それ故に
‘自立した’ 学習活動が求められる。しかし、学校教育の場でどう扱うかについては、レベルの差、授業形態などの問題点も多い。そこで、先行研究を参考にした上で、それまでの実践で確認された‘異文化すなわち未知の情報への気づきは学習者に満足感を与え、英語学習に積極的な態度をもたらす’
という点を生かしたリーディング指導に着手した。名付けて「異文化理解なるほどリーディング」。すなわち、「スキーマ理論」に基き、類似のトピックスを、より主体的な読みを身につけさせようというものである。本研究の理論と実践を説明させていただき、読みの速度と理解度の伸張、および「リーディング」に対する意識の変化、また採用したpre-reading,
while-readingの活動の有効性にも触れる。
4−2
EILを目的とした異文化理解の位置づけ
平野朝将(信州大学大学院)
英語科において、異文化理解という言葉が叫ばれ、多くの識者によってその定義、基礎研究、実践が成されるようになって久しい。しかしながら、英語科教育において、それらがどのような位置づけをもち、どのようにくみこまれていくのが最適であるかはあまり論じられていないと思われる。その理由として本来、英語の学習=英米文化理解であるべきなのだが、なぜ、英語科教育においては、英語の学習=多様な異文化の理解となるのか、その関係が明確にされていないためだと考えられる。 そこで本稿では、まず、この鍵をとくために、英語に「手段言語」「目的言語」「交流言語」という三つの分類を加え、「交流言語」を目標とした英語教育の中で国際英語や日本式英語の確立が可能かどうか吟味する。次にその枠組みにおいて、異文化理解が英語科教育の中でどのような位置づけをもち、どのようにくみこまれていくのが最適であるかを論じることとする。
4−3
外国語教育の類型一考察
伊原 巧(信州大学)
鈴木(1999)の考察の中に、学習の対象とされる言語の側の事情から見た言語の類型として、朝鮮語やアラビア語のように、その国やその国の人をよく知り、その人々と交流する目的に限定されて使用される「目的言語」、ドイツ語やフランス語のように、普遍的な技術や知的文化的情報を手に入れるための手段として使用される「手段言語」、英語のように、さまざまな国の人々のお互いの交流のために使用される「交流言語」があげられている。
この3類型は固定的なものではなく、時代や世界情勢の変化とともに変わりゆくものであるし、やや簡略化されて捉えられている点も見られる。しかし、この類型は世界における現在の言語状況を簡潔に理解する上で役立つし、このような認識をもつことによって、今後の日本での英語教育を従来とは違った視点からながめることが可能になる。
そこで本発表では、まず、この3類型を、使用目的、コミュニケーションのメディア、学習者、文化的重点、認識モデル、表現ターゲットなどの点から分析することにより、それぞれの性格を明らかにする。次に、そのことから、今後の日本の英語教育のあり方に示唆を与えることにする。
4−4
高等学校英語科教科書内の「会話」に見られるジェンダー表象
中村 信子(愛知工業大学 非常勤講師)
国際相互理解、個性、多様性の重視に基づく、communication能力の獲得、向上を趣旨とする英語教育は、人権擁護の追及とともに、"awareness of gender issues"を積極的に推進、増進させるものでなければならない。そこで、communicationの基盤である"conversations"「会話」に焦点をあて、現行の英語科教科書「英語T」を調査する。教科書本文、Introduction、練習問題に表れる「会話」を、主に"quantity of talk,""topics of talk,""same-sex talk,""cross-sex talk" (L.P.Arliss) 等に注視し、そこに表れるジェンダー表象を調査する。
genderは「"influence on communication"でもあり、また"the product of communication"でもある」 (L.P.Arliss) ことを踏まえ、幅広い英語教育関係者による"awareness of gender issues"の向上と英語教育によるジェンダー・フリー教育への積極的な関与の推進を目指したい。
4−5
英語劣等感をつけさせない英語教育―教科書における英語至上主義
加藤 主税(椙山女学園大学)
英語によって少数の者にとっては優越感、大部分の者にとっては、劣等感を蓄え付けられています。化粧品、薬品、電化製品などの名に疑似英語が好んで使われています。日本製品を外人タレント使用するというCMを見て、視聴者が購買欲をかきたてられるという不思議な国なのです。このような英語崇拝、英米人崇拝とか、さらに、それらに対する、日本人の卑屈な態度の責任の一部は、英語教育にあると言ってよいでしょう。本研究では、中学英語教科書から、日本人の英語に対する劣等感を引き起こす要因を考察します。
1.英語に対する劣等感とは?
1.1 歴史 1.2 現象 1.3 要因 1.4 影響
2.外来語
2.1 物とコトバが入ってくる 2.2 物だけ入ってくる 2.3 コトバだけ入ってくる
3.中学英語教科書における異常な状況設定
3.1 New Crown 3.2 Total English 3.3 Suncshine 3.4 One World 3.5 Everyday English 3.6 Columbus 3.7 New Horizon
4.劣等感、憧れを引き起こさない工夫
4.1 発信型英語 4.2 日本語尊重 4.3 英米国家(文化)の適性評価に基づく理解
5.英語劣等感についてのアンケート
6.まとめ
4−6
日本人の英語コミュニケーションの問題点とその対策―ロンドン語学学校から学ぶー
加藤和美(静岡大学大学院生)
近年、海外へ長期語学留学する人が増えている。英語のスピーキング力を上達させるためには六年間の英語教育(大学卒では十年間)だけでは満足せず、海外に一、二年留学して英語をものにしようと考えている人が多いようだ。このような日本人に英語を教える専門学校が語学学校である。ロンドンにある語学学校の講師から日本人生徒特有のコミュニケーションやスピーキング等の問題点をたずね、さらにその対策や教授法を聞くことにより日本での英語教授法の見直しをはかる。
4−7
英文におけるModality表現
竹内春樹(岐阜県、中京高校)
YesとNoの中間概念を述べる手段として、Modality表現がある。その種類として、probability,usuality,obligation,inclinationが考えられる。相手の感情を考慮して円滑なコミュニケーションを行うために、また正確性を期すために、can,may,will,should,ought to,must といった助動詞や、I think,it is possible,sometimes,I'm willing for,it is necessary といった様々な表現が用いられているのである。 学習者に英文を正確に読み取らせたり、書かせたりするためには、Modality表現の習得が重要と思われるが、従来それほど系統立てて、学校教育の中で教えられていないように思える。今回の発表では、英文を分析し、Modality
がいかに効果的に用いられているかを検証し、英語教育への応用を考える。
4−8
インタラクションを中心とした英語授業
足立智子(浜北市立北浜中学校)
生徒どうしのインタラクション、および教師と生徒のインタラクションを中心に展開する英語の授業を通してコミュニケーション能力を育成することができると考え、以下のresearch
questionsを設定して3カ月間のリサーチを行った。
(1) 教師と生徒が、どのような場面で、どのように、目標言語でのteacher talkを用いて、インタラクションを行ったらよいか。
(2) 生徒どうしが、どのように目標言語でインタラクションを行ったらよいか。
@ どのようにしたら生徒どうしでインタラクティブに英語を使うことができるか。
A 生徒どうしが英語を使ってインタラクトする場面をどうつくるか。
B インタラクションの質をどう高めるか。
具体的には、リサーチの目標を生徒に示し生徒自身の目標を設定させる、授業の最初にteacher's
small talk を行う、the PPP cycleの the Presentation and Practice stages
を短くする、双方向コミュニケーションを成立させるために必要なconversation
skills を教えると共に、それが可能なactivityを構想する、という方法を実践した。このリサーチから、「生徒は、友達や教師とのインタラクションを通して効果的に英語を学ぶ。」「教師は、意味に重点をおき、より効果的なteacher
talk を身に付けることにより、生徒とgenuine interaction を維持することができる。」という2つの結論が得られた。