自由研究発表第5会場発表要旨

5−1
英語授業へのDramatistic Presentationの導入 ー劇とコマーシャルビデオ制作を通しての英語指導ー
木下順次(愛知県知立東高等学校)
 英語T及びUで使用する教科書は、話題が豊富で興味深い内容のものが多いが、ともすると英文読解や、異文化理解のための扱いだけで終わってしまいがちである。しかし、そこに書いてある英文や豊富な話題を利用し、英語で話すことができたり、教材から得た知識を応用、実践ができれば、教材の利用価値がさらに高められるのではないかと考え、今回の研究を始めるに至った。
 ここでは英語Tと英語Uの2つの教材を利用したが、1つはシベリア横断鉄道についての説明文で、それを会話形式の文に書き換えて演じることで、よりコミュニケーションの実態に近い形で英語を取り組むことを試みた。2つ目は、広告がどのように作られるのかを扱った教材を学習した後、その知識の応用として、生徒による自作のコマーシャルの制作を試みた。作品中で使用される言語はすべて英語とし、それをビデオに収め、完成後クラスで鑑賞会を開くことを目標に行った。この2つの作品における共通点は、指導にKennethBurke の Dramatistic Pentad の概念を導入した点である。それは、決して上手な演技を行うことを目指ものではなく、Dramastic Pentad を正確な英文解釈を行うための視点ととらえ、自然なコミュニケーションの形を通して英語を身につける方策としての試みである。
 使用教材 LEGEND ENGLISH U “A Trip on the Trans-Siberian”(KAITAKUSYA)
 Genius English Course T Revised “Types of Advertisement Appeals”(Taisyukan

5−2
「日本人英語学習者による英語補文構造の獲得」
横田 秀樹(三重県立桑名西高等学校)  
 日本人英語学習者による以下の文に対する文法性判断の許容性は獲得段階によって変化する。
(1) What do you think that John bought?
(2) What do you think John bought?
日本人高校生を被験者とする予備実験において、(1)と(2)では、獲得段階によって許容する学習者数の比率が異なる。(2)におけるデータは、U-shaped behaviorを示す。そのような現象がなぜ観察されるのか、WH句の継続的循環移動(successive cyclic movement)に基づき分析すると共に、位相不可侵条件(phase impenetrability condition)(Chomsky 1999)の枠組みからも検討する。その中で機能範疇CPの獲得の問題について議論する。

5−3
映画の日英版比較によるコミュニケーション方略の指導
江利川 春雄(和歌山大学)
 本発表では、同一映画の日本版と英語版を比較することによって、文化圏によるコミュニケーション方略(strategy)の違いを学習者に自覚させ、適切な方略の利用により異文化コミュニケーション能力を向上させるための指導法を提起する。
 日本語的な発送をそのまま英語に直訳しただけでは、必ずしも円滑なコミュニケーションは成立しない。相手の方略が日本人のそれと異なる場合が少なくないからである。たとえば、万感の思いを込めた「沈黙」という方略による日本的な愛情表現は、「言語による直裁的な」表現方略を好む英米人には理解しにくい。
 こうした方略の違いを認識させるために、学習者になじみ深く、かつ日本的な主題の「となりのトトロ」などの映画(ビデオ)をその英語版と比較させ、「発話」と「沈黙」の日英格差に主眼を置いて考察させた。日本語版では、「沈黙」にあたる部分が、英語への翻訳版では「発話」するように改変されている場合がきわめて多い。
 日本人学習者の感想では「英語版はしゃべりすぎ」とする者が多く、逆に英語圏からの留学生は「日本語版は沈黙が多すぎて何を言いたいのかわからない。英語版の方がずっと自然」との感想を述べ、相互にカルチャーショックを共有した。

5−4
ダイアローグ中心の英語学習者におけるコミュニケーション能力の検証-公立小学校を対象として-
西尾由里(名古屋大学大学院)
 1989年学習指導要領では、学習者のコミュニケーション能力(Communicative Competence)の育成を掲げ、現在、公立小学校での総合的な学習においても、歌やゲーム、買い物をするなどダイアローグを使った体験的学習を通して英語コミュニケーションの基礎作りにつながる活動が行われている。
 Canale(1983)によると、コミュニケーション能力とは、語彙・形態・統語・意味・音韻面の知識という文法的能力、言語使用の社会文化的なルールの知識を表す社会言語的能力、統語的または意味的な結束と談話内容の首尾一貫性という談話の知識を表す談話的能力、コミュニケーションに支障をきたした場合の支障を補うためのコミュニケーション・ストラテジーを示す方略的能力の4つである。しかし、いままでの小学校英語実施校での研究報告などでは、英語学習を通して、どのような能力が培われているかという実験はあまりなされていない。そこで、本発表ではダイアローグ学習を中心とした英語学習を受けている小学校の子どもたちに、どのような能力がついているかを測定し、その結果を踏まえて、今後の学習方法を提案する。本実験協力校は1997年から2週間に1度、ないしは3週間に2度の割合で英語学習を行っている名古屋市内にある公立小学校であり、実験協力者は3年生から6年生まで49名である。電話をかけてパーティに誘うという設定のロールプレイを行い、分析する。

5−5
複数技能が同時に習得可能な通訳訓練ソフトの開発―英文を意味の固まりとして捉える合理的な理論と実践―
木戸口英樹(三重県立飯野高等学校)
 近年、通訳者訓練が英語教育に徐々に取り入れられて来ている。通訳者訓練における、話し手のことばをリアルタイムに理解する能力と同時に、聞き手にわかりやすく情報を伝える能力は外国語コミュニケーションに要求される最たる能力であると言えよう。
 本研究ではVisual Basicを使って、聴覚・視覚を音声と文字で刺激しながら同時に英語を発話するという、複数技能が同時に訓練できるソフトをプログラム化した。この訓練ソフトの基本的理念はslash reading にある。英文をslashし意味の固まりに分け、頭から順に個々の意味の固まりを捉えてゆく。この方法論自体は決して真新しいものではないが、コンピュータを使うことで読む・聞く・話す能力の訓練が同時に外部の強制的なペースで行えることが、本プログラムの最大の特徴である。約3秒間でslashされた意味の固まり(音声、文字)が強制的に消えては現れる本プログラムは、スピードと言う今までそれほど注意が払われなかった要素を大きく前面に打ち出している。つまり英文を(音声であれ文字であれ)頭から固まりとして捉えてゆく姿勢は言語習得の本質であろうが、学校教育では疎んじられてきたと言う反省をもとに、外部の強制的なペースを学習者に提供した。
なお、本研究の基本的理念である、'個々の意味の固まりの集合は、全文把握につながる'は、その妥当性を実験により確かめ、本プログラムの理論的根拠を明確にする。

5−6
語彙分析ツールの開発とそれを利用した語彙分析研究
柴田純子(岐阜工業高等専門学校) 青谷法子(東海学園大学) 柴田良一(岐阜工業高等専門学校)
 初級、中級向けの英語学習教材において、難易度を下げるために語彙数をコントロールするということが一般に行われている。しかし、何を最初の3,000語、もしくは 5,000語として教えるか、万人の目的を満たす語彙リストというものは存在せず、それぞれのカリキュラムの目的に沿うように、指導者が適切に選択し、計画的に指導すべきである。
 本研究では、英語指導者が学習者の語彙レベルや学習分野に合った教材を容易に選択できるように、語彙リストを入力することによってテキストの中での出現状況を視覚的に把握できるようなツールを提案し、一例として、Voice of America の 1,500語の語彙リストや、代表的な高校教科書の語彙リストを使い、単年で100万人を超える受験者を持つ、TOEIC の問題に使用されている語彙の分析を試みる。

5−7
多読活動初期における学習者の読解処理の変化について
千田誠二(育英短期大学英語科)
  多読活動は第二言語や外国語の読解処理能力を高めるといわれている(Elley and Magubhai,1983; Tubor and Hafiz,1989; Pilgreen and Krashen, 1983; Koda,1996; Paran,1996)。なかでも学習者が訳読中心(ボトムアップ式)の処理に加えて、意味内容を推測しながら(トップダウン式)読む力を身につけることは、多読活動の持つ大きな効果の一つである。
  本研究では、多読開始後比較的早い時期において、学習者の読解処理がどのあたりでどのように変化していくかを調べる。調査の手段として、Carrell(1989)らのリーディングストラテジーに関する質問、学習者が毎週提出する読書日記等を使用する。

5−8
英文法指導に関する一提案(1)-時・条件を表す節の時制に関して-
今井 隆夫(愛知みずほ大学)
 高校レベルの英語教育においては、過去から現在に渡って英文法について学ぶことが、教科としての英語(英語科)の暗黙の学習内容になっているように思われる。文法というのは本来、自転車に乗る場合に例えると補助輪的な役割を果たすものでなければならない。つまり、あくまで英語を学ぶための手段であるべきものだが、それ自体が目的化され、定期試験や入学試験においてもその知識が問われる場合が多く見られる。
 例えば、「時・条件を表す副詞節では、未来のことでも現在形が用いられる。未来形は用いられないことに注意。」という「文法ルール」?がある。この内容の記述はほとんどすべての学習参考書に載っているものであり、大学入試センター試験を初めとする多くの入学試験での頻出項目の1つでもあるが、この「文法ルール」?を暗記し、入学試験で得点することはナンセンスに思われてならない。なぜならば、そもそも、英語の時制には未来形というものは存在しないし、時・条件を表す副詞節の中でwill + 「動詞の原形」が用いられる場合もある。このようなルールを暗記して問題を解くのではなく、現在形が用いられる場合とwill + 「動詞の原形」が用いられる場合の意味の違いに言及する方が、時制に関する理解が一歩深まり、本来の英文法学習にならないだろうか?
 本発表では、この学習項目に関して、参考書・入試問題・指導法・学習者のストラテジーの実際を提示し、それらがナンセンスであることを証明し、別の角度からの指導法を提案してみたい。