簡単英字新聞を使ったリーディング授業

―中学校英語選択授業への取り組み

愛知県刈谷東中学校

犬塚 章夫

1 生徒に英語を読む活動をさせたい・・・主題設定の理由

 国の英語戦略構想が発表され、全ての生徒に実践的コミュニケーション能力を育てる必要性が強く叫ばれている。実践的コミュニケーション能力のうち、聞くこと・話すことが強調されているので、授業では話す活動(会話活動)が多く行われてきているし、教科書もそれを意識した構成になっている。また、話す活動に関連させて、自分の意見を英語で書く活動も多く実践されてきている。英語の授業が週3時間になった今、4技能の中で学習活動が不足しているのが読む活動ではないだろうか。

教科書の本文は会話文が多用されているので、読み物教材が少ない。読み物教材が教科書に出てきても、塾などですでに意味を知っている生徒もいるので、ストーリーを予測するなどの一斉リーディング授業がなかなか成立しにくい実情がある。そのため英文を読むことに慣れていないのか、リーディングの楽しみがわからないのか、どうしても入試問題などに登場する読解問題は敬遠されがちにもなり、まとまった量の英文を読んで内容を理解することへの意欲も高まっていない。

そこで、英語の選択授業を利用して、生徒に通常の授業では不足しがちな読む活動を多く与え、リーディングへの意欲を高め、読解力を育てたいと考え、本実践を試みた。

 

2 英語の選択授業

 本校では、次のような選択授業を受けることができる。2年生は音美体技の実技4教科から1教科を選択して通年で1時間の選択授業を受け、3年生では国社数理英の5教科から4教科を選択して半期ずつで計2時間、実技4教科から1教科を選択して通年で1時間の授業を受けることができる。つまり3年では、多くの生徒が英語という教科を半期受けることになる。英語については、2つの講座が選択できる。本研究で扱う授業はそのうちの1つの講座で、主に発展的な内容を扱う講座として設定されている。

 

3 簡単な英字新聞を読む活動を通してリーディングへの意欲と読解力を高めたい・・研究の目標

 リーディング活動には、次の3つのステップが必要だとされている。

@読解前活動( pre-reading activities )

A読解活動( while-reading activities )

B読解後活動( post-reading activities )

@の読解前活動では、主に読むことへの動機づけや下準備の段階の活動を行わせる。Aの読解活動では、ワークシートなどの補助を用いて英文を読む活動に集中させ、Bの読解後活動では、読み取った内容を使っての発展学習やまとめの学習を行う。

本研究では、リーディング教材として簡単な英語で書かれている英字新聞「Catch a Wave」を用い、上の@からBのステップを踏めるようなワークシートを用いて授業を進めていくことにした。そうすることで、生徒の英文を読むことへの意欲を高め、あわせて読解力を高めることができるのではないかと考えた。

 

4 研究の構想

(1)研究の仮説

 簡単な英語で書かれた英字新聞で興味のある内容の記事をワークシートに従って読み進めることで、読むことへの意欲を高め、読解力を高めることができるのではないか。

(2)研究の手立て

 @市販の英字新聞「Catch a Wave」を用いる

英語の問題集などを生徒に与えると、いわゆる長文問題になるととたんに答えを写したりして「やっていない・読んでいない・読むことをあきらめている」という実態を目にすることになる。まずは教材の選定において、ただ長文問題を解かせるのではなく、読むことに意欲が持てるような読み物教材を使う必要性を感じた。そこで、最近のできごとで話題になっているようなことを英語で読ませることを考えた。市販の英字新聞「Catch a Wave」は、レベル的に英検3級程度で読めるように作られており、カラー写真を中心に英文が書かれているので、視覚的な補助も与えられる。(右の図参照)また最近のニュースであるので、テレビや日本語の新聞などで知っている情報を英語で読むことになる。そのため、あらかじめ生徒に情報についてのスキーマが形成されていることも考えられ、英語の読解への補助となると考えた。

市販の英字新聞「Catch a Wave」は、2週間に1回発行されているが、週1時間の選択授業であるので、毎月の最初の号のみを購入して教材として使うことにした。市販されている個人学習用の「Catch a Wave」はインターネットで読むように作られているので、難しい単語もその単語上でクリックすれば意味がでてきたり、音声を聞いたりすることができるが、学校教材用の印刷された「Catch a Wave」では、単語は巻末の一覧表、音声はCDで配布される。英文を読んだ音声CDも、授業の導入で使うことにした。

 

 

 

 

 

 Aステップを踏んだワークシートを用いる

ワークシートは次のようなステップを踏んだ設問で構成されている。

Step1 英文を見ないで英語を聞かせて、簡単な情報を聞き取らせる。どんな話題なのか概要を理解させる。

Step2 専門用語に触れる。スポーツや社会問題など、英文に登場する専門用語を与え、日本語を調べさせる。英字新聞の最後にワードリストがあるので、それを利用させることで効率よく調べることが可能となっている。(写真参照)

Step3 本文の内容についての日本語の質問に英語で答えさせる。単語の状態で答えを見つければよいとする。

Step4 本文の内容についての英語の質問に英語で答えさせる。正しい文の形を意識させて答えさせるようにする。

Step5 本文の内容について、英語で自分の意見や考えを英作文させる。

Step1・2は先に述べた@読解前活動、Step3・4はA読解活動、Step5はB読解後活動に相当する活動になっている。

 B和訳先渡し方式で個のレベルに対応する

同じ英文、同じ学習時間で、いろいろなレベルの生徒が学習を進めることになる。リーディングの学習では、その学習者の読解レベルをiとすると、i+1のレベルの英文を与えることが読解力アップにつながるとされている。本来個別学習でリーディングを行う場合には、それぞれ別の教材を選べばよいのだが、一斉授業ではなかなかそれはできない。したがって、英文の全文和訳を初めから渡しておいて、生徒が必要に応じて参照することができるようにした。レベルの高い生徒は和訳に頼らず質問に答えればよいし、意味がまったくわからない生徒は和訳を参考にしながら読み進める。しかしその場合でも必ず英文に戻って質問の答えを探すことができるように、ワークシートのStep3・4では、本文からその答えを含む文を見つけさせ、下線を引いてから英語で答えを書かせることにした。そうすることで、和訳だけを見て答えを書くことを防ぐとともに、自然と和訳と英文を対比させながら英文を抵抗なく読んでいけるようにした。

(3)検証方法

 検証には次の3つの方法を用いる。

@生徒の感想やアンケートから、学習の実態や意欲の実情をとらえる。

A毎時間、授業を終えての感想を書かせ、生徒の気持ちの変容を見る。

B単元の開始前と終了後に英語検定3級と4級のレベルの読解問題を解かせ、その変容を調べる。

 

5 3年英語選択授業・・・研究の実践

(1)指導計画とトピック

 前期・後期それぞれの授業で扱った英字新聞のトピックは以下の様であった。

 

前期授業

後期授業

第1回

ヤンキース松井

マラソン

第2回

スパイ衛星

ヤンキース松井

第3回 

相撲取り黒海

新幹線

第4回

松井とイチロー

新内閣

第5回

携帯電話

曙とボブサップ

第6回

映画あずみ

新庄日本ハムへ

第7回

たまちゃん

リニアカー

第8回

日比谷公園

ニホンザル

 英字新聞の一面を中心としてトピックを選んでいるので、どうしてもスポーツなどの話題が多くなっている。生徒の感想にも、「いろんなニュースが英語で書かれていておもしろかった。」とあった。ただし、「あまりスポーツに興味がない。」と言っている生徒もいるので、生徒にあった話題を選択する必要を感じた。

(2)実際の英文とワークシート

 後期の第6回授業「新庄日本ハムへ」を例に、実際の英文・ワークシートを通して実践の様子を紹介してみたい。

 右の図が実際の英字新聞。多くの部分がカラー写真で興味を引くように構成されている。生徒の感想にも「写真とか載っていてどういう内容か気になる。」と、写真が読む意欲を高める一助になっている様子がみられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次にワークシートの内容についてステップを追って見てみたい。Step1は音声CDを聞いて質問に答える形式である。本文をネイティブスピーカーが読んでいるCDで、2回繰り返し聞かせる。主に日本人の名前や地名・数字など、聞き取りやすい単語を日本語で答えさせることにしている。英文を見せる前にリスニングを通してテーマを把握させ、読む楽しみを喚起したいと考えた。短い活動だが生徒のリスニングに対する関心は強く、感想でも「まだリスニングがダメなのでがんばりたい。」「今回はリスニングが簡単だったのでよかった。」などこだわりが見られた。

 Step2では専門用語を予習するための語彙確認を行う。意味を書かせるだけなので、巻末の単語一覧表をただ写すだけにならないように、本文から該当する単語を見つけ下線を引かせている。生徒の感想にも、「いろんな知らなかった単語がたくさんわかるようになった。」と教科書では習わないような単語(たとえば外野手をoutfielderというなど)がわかり単語への興味を喚起できていた。

 

 

 

 

 次に実際の読解作業に入るStep3と4がくる。このとき、別刷りの和訳プリントをあわせて配布することになる。生徒は質問の答えを本文から探し、その文に下線を引いてから英語で答えを書くことになる。その際、生徒のレベルに応じて和訳プリントを使用することになる。Step3は英単語のみの答えでよいとする。Step4では、英問英答(会話)を意識してしっかりとした主語・動詞のある文で答えるように指導している。(次のページの図参照)この間、机間巡視をするとともに、全て記入し終わった生徒を指名して黒板に答えを書かせ、その後答えあわせをする。生徒にとってStep4が一番難しいようだが、答を文の形で書くことにだんだん慣れて正しく答えられるようになっていったようだ。ある生徒は次の様に授業日記に書いている。「ステップ4の英文で答えるのが難しかったです。」→「今日はステップ4の英文で答えるところがまあまあ答えられたのでよかったです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後に早く課題が終わってしまった生徒のために、Step5の英作文が用意してある。授業中は扱わないが、授業終了時にプリントを回収し書かれている英文を添削して返すようにしている。扱ったテーマについて簡単な質問をし、自分の考え・思いを英文にさせるようにしている。生徒の感想にも「未来形の英作文はけっこう好きなのでよかったです。また英作文をがんばって作りたい。」などとあるように英作文が書けるようになってきた実感があるようだ。

 生徒の感想などを見てみると、ワークシートのそれぞれのStepで、教師が意図したような思いを生徒が感じてくれているようだ。その意味でワークシートが有効に機能しているのではないかと考えられる。

(3)読むことへの意欲の変容を見る

 後期6回の授業では、毎時間授業日記を書いているので、3人の生徒の授業日記から生徒のリーディングに対する意欲の変化を見てみたい。

 まずは生徒Aの授業日記を示す。

生徒Aは日本語訳に頼らずに英文を読もうと努力しているようすが見られる。ワークシートはほぼ満点を取れているので、次の目標として自分に読解への負荷を高めたいと意欲を燃やしている。

 次に生徒Bの授業日記を調べてみる。

生徒Bは、Step3や4で苦労していたが、解答のこつがわかってきて、英文が書けるようになってきたと実感している。また最近のニュースを英語で読めることで意欲も高まっているようだ。

 最後に生徒Cの授業日記を見てみたい。

生徒Cは英字新聞の教材を見て興味をもち、英語を読み取ろうと努力している。見慣れぬ単語がでてくることにとまどいながらも、意欲を持ち続け、徐々に英文が読めるようになってきている実感をもつことで喜びを感じているようだ。

 これらの感想から、本研究の手立てで述べた@英字新聞「Catch a Wave」で興味を喚起、Aステップを踏んだワークシートで読解力を高める、B和訳先渡しで個に対応、が効果をあげていると考えられる。

上記の授業日記は生徒の一部であるが、他の生徒の様子をアンケートからまとめてみたい。下の表は、@和訳を何%くらい使っているか、A和訳が必要かどうか(「4=是非必要、3=あったほうがいい、2=なくていい、1=やめてほしい」の平均点)、BCatch a Waveの英文は読む意欲をますか(「4=とても意欲がでる、3=少し意欲がでる、2=あまり意欲がでない、1=全く意欲がでない」の平均点)で、さらに英語テスト(100点満点)の80点以上を上位、60点以上を中位、それ以下を下位としてそれぞれの生徒の平均点を調べてみた。

和訳は半分以上使われていないが、その必要度はかなりある。わからない場合に参照するのに和訳が使われているようだ。和訳は下位生徒に多く使われているが、上位生徒ほど和訳を必要と感じでいる。上位生徒ほど自分で英語を読もうとしていることから、どうしてもわからない場合に確認するために和訳を使っていると考えられる。またBの教材としての英字新聞が意欲につながったかどうかの質問では、下位生徒ほどその思いは強く、全体でも「少し意欲がでる」を選んでいる。またBの理由を文章で書かせたところ、おおむね右の資料のようになった。項目を整理すると一番多い意欲がでた理由が「ニュースで話題の内容で興味がある」で、次が「カラー写真」についてだった。この教材が十分生徒の意欲を喚起していたことがわかる。

 

 

 

 

 

(4)読解力は伸びたのか

 授業を続けていくことで、読解力は育っていくのだろうか。前期8回の授業の前と後で読解テストを行ったので、その得点の変容を調べてみた。

 読解テストの問題は、問題ABを用意する。それぞれ英語検定3級と4級の読解問題を1問ずつ(小問が合計で10問ある)入れた問題である。それぞれ10点満点となる。問題Aはリーディング授業開始前に実施する。またリーディング授業終了後には、問題Aと問題Bを両方解かせた。(実際の問題は巻末に示す。)

 開始前テストと、終了後テストの両方を受けていてデータが取れた生徒の平均点の推移を比べると、次のようになった。

開始前

終了後

問題A

問題A

問題B

5.52

6.96

7.91

 開始前テストと終了後テストにおいて、問題Aは同じ問題を2回行っているが、先は4月実施、後は10月実施であり、4月の段階で解答を示したり解説を加えたり問題を返却していないので、大きな影響はないと考えられる。また問題BAと問題が違うものであるが、同じ英語検定の3級と4級から選んでいるので、厳密ではないがほぼ同じレベルの問題だと言えよう。このことから、上記の平均点の上昇は、リーディング授業の成果の表れと考えられるのではないだろうか。

 「読解力がついてきたと感じますか。」という生徒のアンケート結果を見ても、多くの生徒が読解力の高まりを感じていると答えている。その理由は様々で、下記のように述べている。

ワークシートに取り組んでいる実感で、だんだん読解力がついてきていると感じているようである。

 

6 実践から見えてきたもの・・・研究の成果と課題

(1)多くのリーディング教材に出会わせる

 どんな学習でもそうだが、生徒にその教材に意欲的に取り組ませる工夫が必要である。リーディングの実践は今までになかなかできなかったので、本研究で扱った教材は効果があがったのではないかと思う。生徒にとって一番意欲を感じるのは、身近な出来事(自分がよく知っている出来事)であろう。その意味でいろいろな分野が扱えるニュースはトピックとしてもよかったのではないだろうか。市販の英字新聞を用いることで、教科書にでてくる英語でなく、本物の英語を読んでいるという実感を与えられ、それが読めるようになってきたという実感がさらに読むことへの意欲につながっているのではないかと思う。

(2)4技能の連携が必要

 リーディング教材の学習であったが、今回の研究では導入(読解前活動)にリスニングを扱い、発展(読解後活動)としてライティングを扱ってみた。リーディングの授業なのでしかたないかもしれないが、スピーキングあるいは音読など音声のアウトプットとしても活動が発展できるとよいと感じた。最終的な目標は実践的コミュニケーション能力の育成であるので、バランスをとった学習を積み重ねて生きたい。その意味でも、現在の通常授業では、リーディング活動が圧倒的に不足している。

(3)今後の発展

 今回の授業では、一斉授業としてリーディングに取り組ませたので、共通した教材を用いて、いかに個人差をふまえて学習するかを考え、和訳先渡しを導入してみた。しかし、一方で個別学習となる多読の授業実践の例もあるので、どうすれば生徒により多くの英文を読む機会を作ることができるのかを考え、実践を進めていきたいと思っている。学年全体の活動(授業外の活動)としての多読の実践にも今後取り組んでいきたいと思う。