序文

 本書は、2002年から2005年までの期間、中部地区英語教育学会の課題別研究プロジェクトとして、10名の中学・高校・大学英語教師が英語コミュニケーション活動のあり方について行ってきた共同研究の成果をまとめたものである。

 研究プロジェクトの正式名称は、「英語コミュニケーション活動研究(人間形成に関わる英語教育のコンテクストの中で)」であり、プロジェクトの目的は今日の学校教育における人間形成が直面する課題との関連の中で、今後ますます重視されてゆくと思われる「英語授業におけるコミュニケーション活動」のあるべき姿を理論的・実践的に研究・開発することである。

 このプロジェクトは、次の4つの研究課題を中心に研究を行った:
@英語コミュニケーション能力を育てるにはどのようなコミュニケーション活動が有効か。
A今日の学校教育がかかえるコミュニケーション上の課題とは何か、そして英語コミュニケーション活動はその課題にどう取り組みうるか。
B生徒・保護者・企業および教師は、英語コミュニケーション能力養成をどう観ているかの現状把握。
C上記Bの現状把握に立ち、人間形成に関わる英語コミュニケーション活動の原則とタイプ分類、典型例の集成と開発

 活動は、4月・8月・12月の年間3回のミーティングに加え、専用のメーリングリストを利用して日常的に活発に行われた。本書はこうした3年間の研究を集大成した報告書である。

 本報告書は、大きく4つの部分から構成されている。「T.理論編」では、人間形成的視点に立つ英語コミュニケーション活動の理論的枠組みを考察・提案している。残念ながら英語コミュニケーション活動は、「英語は道具」といった表層的言語観に導かれ、ただ単に活発で面白ければよいといった理解をされがちである。しかしコミュニケーション活動とは本来、対人的言語交渉能力の育成を目的とするものであり、対人的交渉能力は人間形成の根幹を成すものである。このことを考慮する時、英語コミュニケーション活動を人間形成と関連づけてデザインした本書の視点は、貴重なものだと自負している。
 「U.現状分析編」は、今日の英語コミュニケーション授業が置かれた状況を、生徒・保護者の立場、教科書の現状、大学生の振り返りに関するアンケート調査や分析に基づき客観的に状況分析したものである。このような実態調査はあまり行われてきておらず、資料的にも価値があるものと考える。
 「V.指導法編」では、人間形成に貢献し・かつ英語運用力を高める具体的な英語コミュニケーション活動を、中学校・高校・大学用に紹介している。よく外国から輸入した活動を、それが日本の教室の生徒に受け入れられるかどうか十分にテストしないで、まるで素晴らしい指導法であるかのように紹介する指導書を見受けるが、本書はその逆をゆくものである。本書で紹介する活動は最新の外国語教授理論に則りながら、しかも各執筆者が授業現場で実施し練り上げ、教室で成立することを確認したものばかりである。教育現場で練り上げた活動ばかりを収録したという点で、本書は現場の先生方のニーズにしっかりと応えられるものとなっている。
 「W.資料編」は、日本でこれまでに出版されてきた主要な英語コミュニケーション活動指導書のブックレビューである。英語コミュニケーション活動を更に研究しようとする先生方にとって、有用な読書ガイドとなれば幸いである。読書ガイドではありながら、本章を最後まで読み通すと、日本の学校教育で運用に耐えうる英語コミュニケーション活動の条件は何か、ということが見えてくるようになっている。

 異なる授業環境・経歴・発想を持つ10名の会員が、3年間にわたって互いに研究を交流し、その成果を報告書にまとめることは、理論と実践の幅を拡げる上で非常に有意義であった。本書が、中学・高校・大学で英語コミュニケーション授業の開発に携わっておられる先生方に参考になれば幸いである。

2006年7月
東 正一 金沢大教育学部附属高校
足立智子 静岡・浜名中学校
犬塚章夫 愛知・依佐美中学校
各務行雅 愛知産業大学
佐藤雄大 愛知県立佐織工業高校
杉浦俊一 愛知県立渥美農業高校
永倉由里 常葉学園短期大学
長谷川和則 静岡産業大学
三浦 孝 静岡大学
森 暢子 日本福祉大学

(以下、クリックすると、PDFファイルが開きます。パスワードを入力してください。)
T章 理論編
1.Relating Soul to Soul―人間関係の育てあいとしての英語教育を今こそ
2.人間形成につながる英語コミュニケーション活動の一考察―コミュニケーションをどう捉えるかの視点より
3.ヴィゴツキー発達心理学から英語教育を捉え直す―人間形成をめざしたコミュニケーション教育の可能性
4.英語コミュニケーションと音声指導

U章 現状分析編
1.英語教育の目的は何か―中学・高校・大学の生徒・学生と教師へのアンケート調査から
2.中学校英語教科書の分析(その1)―諸活動は意味あるコミュニケーションのどの段階にあるか
3.中学校英語教科書の分析(その2)―音声面はどうコミュニケーションとどう関連しているか」 ・その続き
4.自分が受けてきた英語授業はどのように人間性を高めたか―大学生の振り返りから

V章 指導法編
A.中学校の授業
1.英語の授業にプロジェクトを
   (1)はじめに
   (2)修学旅行レポート
   (3)卒業メッセージ
   (4)万博プロジェクト
2.英語で教師と生徒がインタラクションをとる方法
3.英語で気持ちを込めて話す指導
4.スピーチに取り組む
5.歌(If You’re Happy)による英語コミュニケーション活動の展開
B.高等学校の授業
1.職業高校生の「今」に題材をとったオリジナル教材
2.ダイアローグ・ジャーナル・ライティング実践
3.「ライティング」でのコミュニケーション活動―ChatとRole Play
4.「リーディング」でのコミュニケーション活動―more focus on content

C.大学の授業
1.大学英作文でのinteractive writingの原理と方法―意思決定と交流のある英作文授業
2.改良型Strategic Interactionを用いた大学スピーキング授業―Conflict Resolution能力を育てる確かなプロセスとは
3.主体的な学びと意味あるコミュニケーション活動による学生たちの変容―短大生の「話せるようになりたい」にどう応える

W章 資料編:日本の英語コミュニケーション活動指導書を概観して
1.日本のコミュニケーション理論書の概観
2.出版されている中学校のコミュニケーション活動の実践報告の概観
3.出版されている高校のコミュニケーション活動の実践報告の概観


編集後記

 「人間形成」を意識して授業をやっていると、生徒の英文の正しさよりも内容が気になってくる。点数よりも、生徒の成長に目が向いてくる。1文1文の英文の中に、その生徒の気持ちを読みとろうと思う。間違った英文でも、日本語混じりの英文でも、その中から生徒が一生懸命表現しようとしていることをつかもうとするようになる。そして、生徒の意欲的な顔を見るために、日々の授業の中にどれだけレベル4のコミュニケーション活動を仕組めるだろうかと思案するようになってくる。ちょっとした意識の違いで、こんなにも授業が変わってくるのか、そんなことを実感したコミュニケーション活動研究であった。
本書には、そんな生徒の姿、教師の姿が見られる中学校・高等学校・大学の授業記録が数多く紹介してある。また、それを裏付ける理論、多くの人たちの協力で行えたアンケート調査、中学校の教科書の分析、それらの内容から多くのことを学ぶことができる。本プロジェクトはこれで終了するが、これでこの研究が完成したわけではない。本書がその研究の貴重な第一歩になることは間違いない。本書を読む多くの読者が、それに続き研究をさらに深めていってくれることを願う。
 最後に、本研究に協力していただいた多くの方々に感謝の言葉を述べたい。