D班報告 アメリカと日本との教育比較

愛知教育大学附属岡崎小学校 加藤 秀昭

東浦町立東浦中学校     榊原 将道

愛知教育大学附属高等学校  前田 健次

愛知県立刈谷高等学校    神谷 康夫

1 はじめに

 私たちは日頃からテレビ、映画、新聞や雑誌、音楽などを通して、「アメリカ」について色々な情報を得ている。また逆に、日本についての情報も各種のメディアを通してアメリカを初めとする諸外国へ送られている。確かに情報量は膨大である。しかし、私たちそしてアメリカの人々はお互いに関して果たしてどれほど正確な理解を持っているのだろうか。教室で生徒にアメリカ人の若者についてのイメージを問えば、「家でも学校でもすごく自由だ。」「日本は勉強ばかりさせられていて、好きなことができない。」「アメリカの学校は校則も厳しくない。」そんな言葉がいくらでも飛び出してくる。「そんなのはテレビ・ドラマの見すぎだ。」とか「自分に都合のいい想像ばかりするなよ。」と彼らに言いつつ、私たちは、ふと「アメリカの若者は日本の若者に対してどんな情報を持ち何を思っているのだろうか。」と考える。日米双方の若者がお互いに対して何を知っていて、どんなイメージを持っているのか?生徒の価値観に、日米それぞれの国の「教育観」や「社会意識」はどのように反映されているのか?そのような疑問に答えるべく、私たちD班は今回の米国研修で若者の意識調査を実施し、それを日本のものと比較対照することを決めた。

2 事前準備

 研修旅行へ出かける前、私たちはまずそれぞれの勤務校において児童・生徒の意識調査アンケートを実施した。アンケートの内容は大別して@日常生活に関するもの、A学校生活に関するものB社会に対する意識、そしてCアメリカについての理解の4領域を設定した。同時に同様の英語版アンケートを作成し、研修先やホームステイ先で実施依頼をすることを企画した。米国版は質問用紙とマーク・カードをこちらから持参し、実施後マークカードを返送してもらいこちらで処理しようということになった。

3 アメリカの中高生の日常生活

 宿題は無く、頭の中はボーイ(ガール)フレンドのこと、親も干渉せず頻繁にパーティーを開き、大いに青春を楽しんで大人になっていく。こんなアメリカのハイスクールの生徒たちのイメージは、20〜30年前に日本に紹介されたアメリカの青春映画が生み出してきたものであると思うし、現在でも日本で放映されているアメリカのテレビ・ドラマからもそのような雰囲気が伝わってくる。では、アメリカと日本の中高生を比較すると、勉強に励んでいるのが日本で、遊んでいるのはアメリカなのだろうか、この際、客観的データをもとに考えてみたい。

(1) アメリカの学校は宿題がない?

 宿題を含めた学校の課す学習について日本の中高生へのアンケート結果を見てみる。

  アメリカの方が厳しい アメリカと日本は同じ 日本の方が厳しい
高校生 6 % 46 % 48 %
中学生 15 % 38 % 47 %


 日本の中高生の半分ほどが、自分たちの方がアメリカ人より厳しい学習をしていると思っているが実態はどうであろうか。ホームステイをした New Jersey の Metuchen ハイスクールの教師の話では、担当している英語だけでも、毎回、数時間は必要な宿題を課し、提出も厳しくチェックしているとのことであった。アメリカで生活した日本人の体験でも、小学校で毎日2時間に及ぶ宿題が出る。そして、それは保護者が一緒にすることを前提としていて、保護者の責任で完成させなくてはいけないとのことである。


(2) 勉強しない日本の高校生

 高校生の学校以外での勉強時間(日本青少年研究所の1999年調査より)
(グラフ省略)

 日本の教育水準は世界でも最高レベルと言われてきたが、最近のデータを見ると、学力水準のみならず、家庭での学習時間も急減しているのが分かる。アメリカの高校生との比較でも日本の高校生の家庭学習時間は少ない。

 最新のデータをもとにアメリカと日本を比較すると、日本の中高生は世間(アメリカ)知らずの思い上がりに陥っているともいえるが、これは、厳しい受験競争への対応という名の下で、学習量を減少させてきた教育システムと社会にも原因があると思われる。

 学校教育における日本と米国の考え方について

 学校教育における日米の考え方の違いを浮き彫りにするために、両国の各中学校、高校で次のようなアンケートを行い、比較することを考えた。しかし、アンケート結果を回収できなくなるというハプニングが起こったので、現地の教員の方々に聞き取り調査をした回答を中心に学生の意識傾向・日米の違いを4つの観点に絞りまとめることにした。

(1) 「あなたはボランティア活動に参加していますか」

  Have you taken part in voluntary work?

 日本では、ほんの5〜10%の生徒がYes と答えているのに対して、アメリカでは半数近くの生徒が夏休みなどにボランティア活動に参加するということであった。
 街角で、学生にインタビューをしたところ、夏休みには病院や福祉施設でのお手伝い、図書館で本の仕分け、お年寄りの家事の手助けなどのボランティアをするという回答が返っ てきた。また、社会全体でボランティアや福祉に対する意識が高く、どこに行っても障害者の方の設備が整っているのが印象的であった。

(2) 「授業中に飴をなめたり、飲み物を飲むことはよいと思いますか」

 Do you think it's O.K. to eat sweets or drink soft drinks during classes?

 日本では、60〜75%の生徒が No と答えているが、アメリカでは飴などお菓子はよくないが、飲み物ならよいと考える生徒が多いようである。一方、教師サイドではそれは認めないという教員も多く、大学で右のような張り紙を発見した。日本で生徒がイメージするように自由に許可されているのではなく、公の場所でのモラルに対しては日本以上に厳しいようである。

(3) 「校則をどう思いますか」

 What do you think about your school rules in your school?

 日本では、半数以上の学生が「厳しい」や「厳しすぎる」というように回答しているのに対して、アメリカでは遅刻や授業の取得ということに対しては厳しいが、服装等については日本以上に自由な面が多いようである。例えば、あるアメリカの高校に勤める教師の話によれば、髪を染めるのはO.K.であり、ピアスに到っては、「日本の学校ではどうしていけないんですか」と反対に問い返される有様であった。喫煙、飲酒等の違法行為に対しては、停学や退学の処罰があり、日本以上に厳格に処罰されるということである。

(4) 「学校以外で何かを学んで(習って)いますか」

 Do you take any lessons outside your school?

 アメリカでも日本と同じく、ピアノ、バイオリン、ダンスを習っているとか、スポーツを行っているという学生が多くいた。意外であったのは、アメリカにも日本の塾に相当するものがあり、上級学校の受験のために勉強をしているとのことであった。右の写真はニュージャージー州のメタッチャン地区にあるスコアという塾である。平日は午後1時から夜8時まで、土曜日は朝9時から夕方5時まで開いているとのことであった。

5 アメリカについての意識について

 アメリカへ現地研修に行く前に、日本の小学生はアメリカについてどんな意識をもっているかをアンケート調査した。その結果から、考えることにした。

(1) 「今のアメリカの大統領を知っていますか。」

 質問に対して、クリントン、レーガン、ブッシュ、知らない、の4つから選ばせた。予想以上に90%が正解で、残りの10%は、知らないということであった。新聞やテレビなどの情報により、大統領についての認知度はかなり高いものだと分かった。果たして、アメリカの小学生が、日本の総理大臣をこれほどまで知っているかは疑問に残るところである。

(2) 「アメリカで人気の高いスポーツは、何だと思いますか。」

 今年は、イチローの活躍もあり、メジャーリーグの話題が毎日のように日本でも取り上げられている。それを反映して、野球が76%と群を抜いていた。続いてバスケットボールが18%、水泳4%、サッカー2%という結果であった。実際、アメリカでメジャーリーグの試合を観戦したが、日本以上に大人も子どもも野球を楽しんでいる感じが、球場から伝わってきた。満員の観客が、ホームチームの声援を一体となって行っており、何度もウェーブがスタンドを回っていた。

(3) 「アメリカの小学生が好きな食べ物はなんだと思いますか。」

 子どもたちの中には、アメリカといえばハンバーガーやステーキというイメージが強くもっているようである。ハンバーガーが39%、肉が30%という結果であった。第3位はホットドックの20%、フライドポテトの8%となった。日本のファーストフード店の影響が強いのではないかと思った。

(4) 「アメリカの小学生はどんな遊びをしていると思いますか。」

 この質問は、スポーツを中心とした日本の小学生が、自分の遊びを通してアメリカの小学生の遊びを考えているようであった。野球が40%で第1位、続いてサッカーが31%であった。第3位がバスケットボールの22%、そして、ポケモンカードなどのカード遊びが7%であった。ホームステイ先で、小学校低学年の男の子にあったが、日本人の私に、ポケモンカードのことを真っ先に質問してきた。日本から持っていったカードを渡すと、目を輝かせてカードを見て、喜んでいた。また、ショッピングモールには、自動販売機で、野球などのカードといっしょにポケモンカードが売られていた。自動販売機をほとんどアメリカでは見なかったが、カードの自動販売機があったのには驚かされた。また、スポーツでは、サッカーが割と人気があり、女の子も楽しんでやっているということであった。

6 おわりに

 9月11日に発生した米国同時多発テロとそれに続く社会的混乱のため、私たちが米国で依頼してきたアンケートの実施は大変な困難に見舞われた。“...With recent events, I’m

not sure if they were a top priority....”私たちのもとにはこのような言葉がe-mailで送られてきた。そのような事情から、アメリカの児童・生徒の意識調査の分析は暗礁に乗り上げた状況に陥った。よってこの紙面の作成においては、入手可能な各種情報源から得た情報を代替として用いているのをお詫びしたい。しかし、私たちが日本で実施した調査データは確実にアメリカには渡っているのであり、米国での今の社会状態が落ち着けば、それらは教室でアメリカの児童・生徒に伝えられるはずである。日本の若者の意識調査のデータがアメリカの教育現場で生かさせることと、米国版の調査データが一日も早く送られてくることを願いつつ、私たちの発表を閉じることとする。