A班報告アメリカの教育から学ぶこと

知立市立竜北中学校   小田 哲

豊田市立大林小学校   伴 健太郎

尾西市立第一中学校   坂井 辰美

名古屋市立丸の内中学校 西尾 雅志

はじめに

 グループテーマを考えるにあたり、私たちは子供たちの日常の学校生活や家庭生活での気になる点を話し合った。自分の考えが主張できないこと、読書をしなくなったこと、課題と部活に追われる夏休みの生活(中学校)など次々と問題点が出されたが、ボランティア活動に興味を持つ生徒も増えてきたというプラス面もいくつが出された。こうした日本の子供たちの問題点に関してアメリカの子供たちの現状を個々の視点でリサーチし、今後の教育に役立てられたらという結論に達し、アメリカ研修に臨んだ。

1 アメリカの読書指導とレポート指導

 「アメリカと日本の教育の違いを指摘して欲しいと頼まれたら、即座に日本は詰め込み式暗記教育であり、アメリカは文献研究式教育である」と答えているのはアメリカに長く住む斎藤陽子さんである。今回の研修でリサーチしたアメリカの読書指導、レポート指導をまとめながら日本のこれからの教育の在り方を考えたい。
 アメリカの学校の読書指導では、幼稚園の期間は読み聞かせの時間を充分に取り、さらに小学校では楽しい読書(Reading for fun)をカリキュラム・テーマにし、年齢に応じた基本図書(Core books)のリストもあり、児童全員で何ぺージ読んだかをコンテストさせるなど読書指導を徹底している。どの図書館にも必ず図書館司書が配置され、児童生徒に充分なアドバイスができるようにするとともに、図書館を学校の重要なものとして位置づけている。また学校は家庭にも積極的に読書の重要性を伝えている。図書館司書の配置を除けば日本の学校でも同じ様な読書の指導はしていると思うが、日本との大きな違いはアメリカの学校では授業の課題としてレポート提出を頻繁に取り入れていることである。


(1)
 テリーへのインタビュー

 私がホームステイした家にテリーという6年生を終え、9月から中学生になる少年がいた。彼の母親を交え、どのように読書指導をしてきたか尋ねた。アメリカでは子どもが寝るときに親が本を読んで聞かせる習慣がある。テリーもこの読み聞かせが大好きで「今でもできれば読んで欲しい」と母親のリサに冗談を言った。「もちろん父親もよく本を読んでくれた」と言う言葉から父親の協力、存在を感じた。低学年の頃は車座になって順番に読書していくことを多く行い、夏休みには各自の選択により読書し、また感想文を書いた。読書の時間と地理の時間は図書館で授業をすることが多く、自由に本を探したり読んだりした。そのときは先生や図書館司書がいつも協力してくれた。6年生ではいくつかのレポートを書いた。僕ががんばったのは「アマゾンはなぜ保護されるべきか?」(Why should Amazon be saved?)というテーマのレポートである。テリーはレポートを書くために数冊の本、雑誌を読んでから、アマゾンに関するビデオを見て、さらにアマゾンについて教えている人たちにインタビューしたりした。初めはレポートのプロットを手書きして提出、2回目からはパソコンでレポートを書き、先生のアドバイスを受けながらさらに書き直し、通常は3回または4回の提出で完了となる。よい評価を受けるためには正確な情報であるか、また先生の予期した以上の情報が書かれたレポートには高い評価が与えられる。よいレポートを書くために学校や町の図書館に頻繁に通い、より多くの情報を集める。こうした学習に保護者も協力し、町の図書館では親子で本を読む姿もよく見かけるそうである。


(2)
 レポートは大変!でも・・・。

 アメリカの教育は小学校3年から大学生までこうしたレポートに追われる教育であり、各レポートは成績に関係するため、多くの家庭学習はレポート作成に費やすことになる。

生徒がレポート作成に多くの時間を費やすことは、裏返せば先生達もレポートの評価に時間の多くを費やすことになる。私が話した高校の女性教師は「私は学校内で一番厳しい教師である。生徒指導も厳しく、またレポートの指導も厳しい。生徒達は年度当初の担当教師の発表を見ていつも落胆しているが年度終了時はいつも感謝される。私はいつも朝6時に登校し、始業前にレポートを点検し、授業が終わる3時からまたレポートの点検をする。ときには土・日曜日の両日ともレポート点検に時間を費やすこともしばしばである。でもこうした私の努力は生徒達の学力、考えの成長に結びつくのでやりがいもある。」と話してくれた。
 「アメリカの教育法は、自分で調べることの方法、多角的な知識の収集力、知識の深さの魅力と発見、考える力と応用力の開発など学問の魅力を知らせてくれる」と述べているのは前述した斎藤陽子さんであるが、日本の教育にも今後、読書指導とレポート指導を大いに取り入れていくべきだと思うのだが・・・・・。            (小田 哲)

2 アメリカ社会における子どもの発達と教育の一場面

(1) 子どもの発達と遊び

 「NINTENDO」「PLAYSTATION2」は、アメリカで十分通用する単語であると聞いていた。アメリカの子どもたちや親はTVゲームの影響をどう考え、どんなふうに子どもに指導しているのかに興味を抱いた。

 ラトガースのホームスティ先の歓迎パーティで出会ったエレンさんは、小学生の子どもを持つ母親である。子どもさんはやはりポケモン大好き、TVゲーム大好きとのことであった。「お子さんが、TVゲームをすることについてどう思いますか?」と尋ねたところ、顔をしかめて、「ほんとうはやらせたくない。しかし、全面禁止にするわけにもいかず節度を守ってさせるようにしている。」と答えてくれた。そして、それは大半の親の考えであるとのことであった。
 また、ホームスティ先のグロースマンさん(70歳代)に、子どもの頃どんな遊びをしたのかを伺うと、即座に「フットボール」と答えてくれた。その娘さんであるリサさんは、日本でいうおじゃみのような遊びをよくしたそうだ。また、手遊び歌もよく歌ったと聞いた。そして、やはりTVゲームはあまり好ましくないと考えていた。
 かつてはアメリカの子どもたちは、日本と同様に外でどろんこになって遊び、体力や手先の器用さ、友達とのコミュニケーションの方法を学んだ。しかし、現代の子どもたちは日本と同様な側面があることがわかった。
 興味深かったことは、剣玉を日本から持っていきテリー君という12歳の少年にプレゼントしたところ、夢中になってチャレンジしていたことだ。そして、テリー君の母親であるリサさんは、「こういう遊びはとてもいい。」とにこりとしていた。遊びの中で子どもたちにたくさんのことを身につけさせたいという親の思いは、日本もアメリカも同じであると実感した。


(2)
 自己主張できる子どもに(ボストン日本人学校での懇談から)

 アメリカでは子どもを育てる上で、自分の考えをはっきりと言うことを学ばせると聞く。例えば、アメリカのレストランはメインディシュにたくさんの種類のサイドメニューがある。初めてのアメリカ訪問である私にとっては、かえって悩ましくわずらわしくさえ思えるほどである。家族でレストランで食事をする時、親は子どもが3歳になればたくさんあるサイドメニューから、人任せにせず何が食べたいかをきちんと言わせる。あらゆる場面で自分の思いをきちんと主張することを学ばせるのである。したがって、アメリカ社会で育った日本人の子どもたちは、日本で育った子どもたちよりもはるかに自己主張できる。アメリカ社会は多様性の社会であり、その中で生きていくためには、きちんと自分の意見を述べる必要があるからである。だまっていてもわかってもらえる、回りの大人がなんとかしてくれる日本の子どもの育つ環境とは、ずいぶん異なる印象を受ける。

 帰国児童の多い豊田市で勤務する私にとって、アメリカで学ぶ子どもたちの育ちの一端に触れることができたことは、貴重な経験であった。

(3)
 子どもの発達と家族・学校

 アメリカの人は家族を大切にするとよく聞く。ホームスティ先でまず驚いたことは、各部屋のいたるところに家族の写真が置いてあることだ。グロースマンさんに「いいお孫さんですね。」と声をかけると「わたしもそう思う。」と答えてくれた。晩ご飯が終わると、リビングルームに集まり、団らんのひとときとなる。目に見える家族の愛情の中で子どもたちは成長しているという思いを持った。また、ラトガース大学での地元の高校の先生のカレンさんのお話は興味深かった。ドラッグなどの生徒指導の問題を抱える高校で教鞭を取るカレンさんは、情熱を持って生徒に接しておられ、指導の成果をあげている。カレンさんに「そのようなハードな学校に勤務している立場から、小学校教師に望むことは何なのでしょう?」と尋ねた。カレンさんは、“To respect each other.(互いに尊重し合うこと)”と真剣な目をして答えてくれた。 家族でそして学校で、愛され、尊重されて育つことが、子どもの健全な発達につながるという思いを多くのアメリカの人が持っていると実感できる出会いであった。          (伴 健太郎)

3 サマーキャンプについて

(1) 70日間にも及ぶ夏休み 

 アメリカでは、通常6月の第3週で学年が終了する。そして8月末までの長い夏休みが続く。この間子供たちがどのような生活をしているのかを今回の研修で調べてみた。この長い夏休みの間日本のような登校日はない。この間宿題がないという訳ではないが、家庭にとってこの長い休みをどのように過ごすのかは大きな問題である。

 事前に調べてみると、アメリカでの、この長い休みの一般的な過ごし方は、サマー・キャンプに参加することである。そこでサマーキャンプを中心に報告をする。

(2) サマーキャンプの種類

 キャンプにはデイキャンプと呼ばれる日帰りキャンプとレジデンスキャンプと呼ばれる宿泊を伴うキャンプに分けられる。詳しく分けると次のようなものがある。
 @ 大学や私立の高校が実施するキャンプ

夏休み中の空いた教室や寮を利用して行われるキャンプ。今回訪れたハーバード大学では「Harvard University Summer School」を実施している。対象は15歳以上で、経済学、心理学、ジャーナリズム、フランス語などの講座が設けられている。
 A 自然の中で行われるキャンプ

川下りや海洋学のキャンプ、ボディーボードのプログラムのあるキャンプなどがある。
 B スポーツを中心としたキャンプ

リゾートのゴルフ場で行われるゴルフレッスン中心のキャンプ。牧場で馬の世話をしながら実施される乗馬レッスンを中心としたキャンプなどがある。また、自然の中で行われるものだけでなく、居住地に近い都市内で行われるサッカーなどのキャンプもある。今回の研修中も、各所で同じTシャツを着てスポーツに取り組む子供たちを見ることができた。
 C 劇場やスタジオなどで行われるキャンプ

各自のレベルにあわせてプロのインストラクターが、音楽、美術、演劇などを教えてくれる。なかにはサーカスのレッスンをしてくれるキャンプもあるそうである。現在の勤務校に在学している生徒もこの種のキャンプに参加した経験を話してくれた。

(3) 現地で見聞きしたキャンプ

 @ ラトガーズ大学付属美術館でのキャンプ

今回訪問したラトガーズ大学ではサマーキャンプなどの児童生徒向けのサマーキャンプのような教育活動は実施していない。しかし付属のアレキサンダーライブラリーでは、6月下旬から7月上旬にかけて、小学生向けに図画工作的内容のキャンプを実施している。
 A ゲティスパークで見たキャンプ

スクールバスに乗って小学生がゲティスパークの見学に訪れていた。おそろいのスカーフを巻き、カウンセラーを中心に説明を聞いていた。
 B フィラデルフィアで見たキャンプ   

  フィラデルフィア市内を観光中「ATWATER KENT MUSEUM」を訪問したとき写真(10ページ)のような光景が見られた。これは「フィラデルフィア歴史キャンプ」の一環で行われている講座の一つであった。

(4)
 ホームスティ先での聞き取り

 公立学校の先生は6月末までしか給与が出ないのでサマーキャンプのカウンセラーをする人が多い。 
 また、「サマースクール」というと補習のイメージがあるので、「サマーキャンプ」と呼ぶのが一般的ではないかなどの話を聞くことができた。 

 今回の研修では、各地でキャンプを楽しむ子供の姿を見ることができた。日本の現状と比較すると地域の公共団体や民間の諸団体が、夏休み中の子供たちの健全な成長を担っていることが分かった。これは、共稼ぎの家庭が多い現状のなか、子供の成長を担う組織がいろいろと存在していることが分かり感心させられた。          (坂井 辰美)

4 アメリカの中の日本の子ども

 私は、過去に香港日本人学校からの帰国子女の担任をしたことがある。一般に日本人学校では、日本で行われている教育内容とほとんど変わらないと聞いていた。補習授業校は、日本人学校と設置目的が異なるようであるが正確な違いが分からなかった。今回の研修でこの疑問を解決することができた。


(1)
 ボストン日本語学校を訪れて

 ボストン日本語学校長の森上祐治先生から現状と課題について話を聞く機会を得た。
 この学校に通う子どもたちの最大の特徴は、平日はアメリカの学校に通いアメリカの教育を受け、さらに日本語学校での教育を通して、国際性豊かな人間を育成できるところにある。

 義務制段階の児童・生徒数は400名を越えている。授業は土曜日3時間で、小学部では国語2時間、算数1時間、中学部で国語2時間、数学1時間を行っている。さらに、日本語部を設置し、日本文化・日本語の授業を行っている。日本語学校に通ってくる子どもたちの成育歴が多様で、その日本語力にも大きな差があることや校舎を借用していることから借用料等の問題など多くの課題を抱えている。

(2) ボストン日本語学校に通う子どもたち

 夏休み期間中の訪問だったため、実際に子どもたちに会うことができなかったが、創立25周年記念誌に次のような小学部5年の児童の作文が掲載されていた。
 「私は一週間のうち五日間、アメリカ学校にかよっています。日本語学校は、土曜日だけです。アメリカ学校にも日本語学校にも友達がいます。でも、両方の友達の行動がだいぶちがいます。…(中略)…これからも、ずっと日本語学校を続けたいです。古い日本のことをもっと知りたいです。」(傍線は筆者)
 この作文から、日本語学校に通っている子どもたちは、アメリカの子どもたちの行動に戸惑いながら、アメリカの生活や習慣を身をもって体験していることが分かる。こうした体験を通して、米国理解を深めていると言える。

(3) 学校を支えるPTAボランティア

 PTAが中心となって、より良い補習校の継続を目指している。具体的には、「安全パトロール委員会」「日本語クラスヘルパー」「コーヒー委員会」などがある。特に、ユニークなのがコーヒー委員会である。この委員会は、児童生徒を送迎する保護者がくつろいで待つことができるカフェテリアでコーヒーサービスを行ったり手作りパンやお菓子を販売している。さらに、メドフォード高校の校舎を借用しているため、メドフォード市民との友好・親善を図ることを目的に茶道・生け花、着物の着付けなどを市民対象に行っている。

 学校設置目的が日本の小中学校と多少異なるが、開かれた学校としてPTAが積極的に学校教育に関わっている点では学ぶことが多い。

(4) 感想

 アメリカの学校では一般的に能力別の扱いが徹底しているため、日本以上に競争が厳しい。日本語学校に通う子どもたちはこうした競争社会で生活しつつ、日本にも目を向けている。さらに毎日、アメリカの生活習慣や文化等に接している。このような教育を受けた日本の子どもが日本に戻り、教育に携わる仕事に就いた時、真の米国理解教育を実践していくことができるのではないかと思う。                 (西尾 雅志)

終わりに

 事前研修の話し合いでは、現地での学校の先生との話し合いや準備したアンケートの回答などからもっと多くの情報を得られることを期待していたが、時間的な制約もあり充分な情報が入手できなかったことが残念である。今回の報告は収集した情報からレポートしたものであるが、他にもアメリカの教育に関して学びたいことは多くある。今後もアメリカの教育をリサーチし、私たちの教育に活かす勉強を続けていきたい。