アメリカと日本の生活スタイルの比較から、
「総合的な学習」で環境問題を考える
豊田市立大林小学校
伴 健太郎
1 はじめに
アメリカに行ってまず驚かされたことは、その緑の多さである。国連本部のすぐ横には、大きな木々が植えられた芝生の広い公園がある。ボストンコモンの木陰に入ると、夏とは言え、とても涼しく、たくさんの人たちがそこで休日を楽しんでいる。そして、そこには野性のリスやきれいな野鳥がやってくる。ホームスティ先のラドガーズは、すばらしい住宅環境であった。森の木々を住に取り入れ、緑いっぱいの中に住居を構えているという印象を受けた。
それとは逆にゴミに関するマナーは、あまり良くないという印象を受けた。ニューヨークで道に迷いながらホテルに向かって歩いていると、ストリートフェスティバルの終わった後の光景に出くわした。道じゅうがゴミだらけで、暴動でも起こったのかと勘違いするほどの景色であった。また、喫煙者が、吸殻をぴっと指で弾きとばす場面を、何度となく見かけた。
環境をテーマにした総合的な学習を展開する上で、私がアメリカで見たこのような場面や、現地で収集した資料を子どもたちに提示することで、より幅広い子どもの追究をさせたいと考えた。アメリカ理解と関わる内容を中心にして、授業がどう展開されていったかを記述したい。
2 アメリカンフェスティバルでアメリカに興味を引きつけ学習開始
学習のスタートに先立って、ワールド委員会の子どもたちとともに、アメリカンフェスティバルを開催することにした。全校児童対象の企画ではあるが、学習の前段階で、5年生の児童にアメリカに興味を持ってもらいたいと考えたからだ。
まず、第1段として、「アメリカのポケモンを見よう!」と題して、日本でも上映された、シーサイドピカチューをワールドルームで放映した。英語版であるにも関わらず、放課になるとたくさんの子どもたちが、ワールドルームにやってきた。5年生のS男は、次のように日記に記した。
この映画は、お父さんと一緒に劇場で見たものでした。内容が分かっていたので、英 語でも十分にわかりました。ポケモンを「ポォケモォン」と発音しているのが、すごくおもしろく感じました。アメリカの子どももポケモンを見て楽しんでいるなんて、おもしろいなあと思いました。とても楽しかったです。 |
映像は、どんな言葉よりも子どもたちを引きつける。ワールドルームに入り切れないほど子どもたちが集まり、英語のポケモンを楽しんだ。ワールドルームにはアメリカ滞在中に集めたパンフレット・ポストカード・写真をところせましと貼っておいた。私が写っている写真を見て、「先生ここはどこなの?」「これは何?」など子どもたちはたくさんの質問をした。写真やビデオから子どもたちは、少しずつアメリカという国に興味を持ち始めた。次に、第2段として、アメリカクイズを行なった。クイズの内容は子どもたちと相談して決めた。
クイズは、アメリカで購入した絵、絵葉書、カード、切手などの視覚に訴えるものを利用した。目で見てアメリカを感じさせたいと考えたからだ。
子どもたちの解答意欲を引き出すために、全問正解者には、アメリカで購入したキャンディーとペニーやダイム などのコインをプレゼントすることにした。
たくさんの子どもたちが、ワールドルームにやってきて、クイズに挑戦した。子どもたちに好評であったので、2回目のアメリカクイズを行うことにした。
子どもたちにアメリカに対する興味を引き出し、学習を開始することができた。
子どもたちと考えたワールドクイズ |
ワールド委員会アメリカフェアークイズ
@ このアメリカの雑誌(ざっし)の表紙の選手はだれでしょう 1 しんじょう 2 ボンズ 3 イチロー
A アメリカの新聞の一面にのっているゴルフプレヤーはだれでしょう 1 ジャンボおざき 2 タイガーウッズ 3 ライオンウッズ
B ブッシュ大統領のおくさんは次の写真のうち誰でしょう 1 2 3 4 5 (写真省略)
C リンカーン大統領は次のうち誰でしょう 1 2 3 4 5
D この絵はすべてニューヨークの絵です。先日テロのあった世界貿易センタービルが描かれているのはどれでしょう 1 2 3
E この切手シートはアメリカで売っているものです。ジュラシックパーティーののっているものはどれでしょう 1 2 3
F 今のアメリカの国旗はどれでしょう 1 2 3 4
G この写真の中にうつっている日本のマンガは何でしょう 1 コナン 2 ドラゴンボールZ 3 ワンピース
H ここはどこでしょう 1 ニューヨークの町の中 2 山の中 3 深い森の中 |
3 学習計画について
下の図は、単元構想図である。まずはじめに、親子環境オリエンテーリングを行う。オリエンテーリングのクイズから、学区の昔と今の自然の様子の違いを考えさせる。古地図の色ぬりや、学区のお年よりの話を聞くことで、大林学区がここ15年のあいだに大きく開発され、自然がなくなっていったことを学習する。また、学区にわずかに残る鹿島神社の雑木林で、じっくり自然に浸らせる活動も行う。これらの活動を通して、子どもたちは自然がなくなっていくことへのさまざまな問題点に気づいていく。
そして、森林の減少や自然破壊の問題について、国語の説明文・社会・道徳で学習をする。これらの学習を通じ、「環境を守るために自分たちにできることは何だろう?」という思いを子どもたちに持たせる。そして、このテーマで個々の追究をさせていく。
この学習計画の中に、アメリカと日本の生活スタイルを比較し、環境問題へと焦点を当てるような視点が持てるような活動や個への支援を行いたいと考えた。
4 アメリカの緑やゴミの問題を教えてもらおう
発見2の段階で、アメリカの環境問題を聞く会(講師・伴)を持った。子どもたちは、アメリカンフェアーでアメリカに興味を持っていたので、意欲的に話を聞き質問をした。 まず、ホームスティをしたラドガーズの住宅地の様子を写真で見せた。氷河が溶けてできた池や大木がそびえる林を、宅地に取り込んだ住宅の様子を見て、子どもたちは口々に、「こんなところに住んでみたいな。」とつぶやいた。写真から見る緑豊かな住宅環境に、子どもたちは、心からうらやましいと感じたようだ。
また、ワールド委員会で行ったアメリカクイズ(上記参照)のHに下の写真を使った。ニューヨークという大都市の中に、緑豊かの公園があり、野生動物も棲んでいることに、子どもたちは大いに驚いた。
アメリカのゴミ問題についても、たくさんの写真を見せながら話をした。家庭のゴミは、業者委託の分別回収をしていること、ニューヨークやワシントンDCの通りにはたくさんのごみ箱があるが、これはポイ捨てが多く苦肉の策であることなど、私が見たアメリカの実情をありのままに話した。以下は、B子の授業感想である。
私はワールド委員なので、アメリカンフェアーを盛り上げようと、いろいろ考えてきました。今日の授業で先生から、アメリカの環境についてのいろいろ話を聞きました。私が1番興味を持ったのは、住宅です。静かでいっぱいの自然に囲まれていて、家の敷地の中まで大きな木が生えていて、すごいなあと思いました。 |
この後B子は、住宅環境をアメリカの生活スタイルと日本の生活スタイルとを比較しながら調べを進め始めた。
5 アメリカとの比較を試みる課題を持った子どもたちへの支援の実際
親子オリエンテーリング、地域のお年よりの方の話、教科の森林・環境問題の授業などをもとに、子どもたちは、「自然環境を守るために自分たちに何ができるのか」というテーマを持ち、調べを進め始めた。個人やグループでそれぞれにテーマを持ち、現在調べを進めている。
アメリカンフェアーやアメリカの話から、アメリカと日本を比較しながら環境問題を考えていく子どもも現れた。小学校5年生の段階であるので、大きく教師の側で支援をしながら、この子どもたちのやる気を継続していきたいと考えている。
この学習は3学期まで続く実践である。そこで、これらの子どもたちの今までの学習の歩みについて記していきたい。
(1) A男への支援
課題作りの事前の段階において、開発と自然保護をテーマにディベートの授業を行った。
この学習が進むにつれ、多くの子どもたちは、森林保護の大切さを考え始めた。しかし、A男は、「みんなはやたらと自然保護のことばかり言うけど、まずは便利な生活があって、その上で環境のことを考えなければいけないんじゃないか。」と考え始めた。
そこで、A男にアメリカで行ったアンケート結果(次ぺージ)を見せた。そして、2番の項目に着目させた。アメリカの人たちも、利便性を自分の町の良い点と考えていることを知って、たいへん学習にやる気を示した。ディベートの授業では、A男ははりきって討論に参加し、勢いのある発表を行った。
さらに、街にゴミのないことを重要と考えているアンケート結果にも着目した。開発は当然必要であり、仕方のない面はあるが、ゴミ問題は自分たちの努力でなんとかなると考え始めた。そして、「大林の街からゴミをなくすために」という課題作りをし、追究を始めている。3学期、A男の追究をまとめたものを英訳し、アメリカで知り合った方に送付して、意見を聞いてみたいと考えている。
(2) B子への支援
森林破壊の問題、地球温暖化の問題を学習する中で、子どもたちは、開発の必要性と自然保護の必要性の矛盾を感じ始めた。B子は、豊かな自然の中で将来自分の家を建てて、暮らしたいと考えている。そして、緑と調和した住宅環境に興味を持って調べを進め始めた。アメリカの都市や住宅地の写真を貸してほしいと言い出したので、気に入った何枚かを焼き増しをしてプレゼントした。
彼女は、「自分が住むマンションの敷地の中を、緑と花で一杯にする計画」という課題作りをし、学習を進めている。担任の先生が行ってきたアメリカ。そこで写した何枚かの写真が、彼女の課題作りに大きな力を持った。
6 おわりに
この単元を進めているあいだに、世界貿易センタービルへのテロ攻撃とイチローの大活躍を、メディアは連日のように伝えていた。小学校5年生の子どもたちといえども、これらのニュースを通じて、アメリカの持つ空気を感じ取っていた。そんな中での学習の展開であったので、多くの子がアメリカンフェアーに意欲的に参加した。総合学習における個人の課題作りもアメリカと比較して考える子どももたくさん現れた。
「一歩間違えば私たちもあの事件の渦中に。」そんな思いがなかなか離れい。テロ事件で亡くなられた方のためにも、今後も続くこの学習で、子どもたちに力を出し切らせたいと強く思う。