社会科を核とした総合的な学習の教材開発

〜生活や文化の相互理解を図る米国理解学習を中心に〜

海部郡蟹江町立蟹江小学校

木下 眞吾

1 はじめに

 平成11年度より、社会科を核とした総合的な学習の実践に取り組み、社会科と総合的な学習との関連を図る研究にかかわっている。今回参加した「米国理解教育プロジェクト」で得た貴重な体験や様々な資料を基に、第6学年社会科「日本とつながりの深い国々」の学習を核とした国際理解をテーマとする総合的な学習の教材開発に取り組んだ。

2 教材化の視点

 小学校学習指導要領社会第6学年の目標の(2)には「我が国と関係の深い国の生活や国際社会における我が国の役割を理解できるようにし、平和を願う日本人として世界の国々の人々と共に生きていくことが大切であることを自覚できるようにする」とある。そして、その目標にかかわる内容として「世界の中の日本の役割について、我が国と経済や文化などの面でつながりが深い国の人々の生活の様子を調査したり地図や資料などを活用したりして調べ、外国の人々と共に生きていくためには異なる文化や習慣を理解し合うことが大切であることを考えるようにする」と示されている。
  一方、国際理解教育の目標には、諸外国の文化を理解し、尊重するとともに、世界と日本のかかわりを正しくとらえ、国際社会で信頼される望ましい資質を身に付けた人間を育成することがあり、国際社会の中で「自己の確立」と「共に生きる」ことを両輪とした「生きる力」を育成していくために、国際理解を課題とした「総合的な学習の時間」を設定し、より主体的な学習に取り組ませることも望まれている。

 このように、国際理解というテーマについて社会科と総合的な学習のねらいが一致し、内容にかかわりをもたせることができるので、関連させて教材化することにした。その際に、次の3点に考慮した。

・ 社会科で学習した内容や方法を取り入れ、社会科で学習した課題をより発展させて総合的な学習の課題として取り組ませる。

・ 第6学年社会科の単元「日本とつながりの深い国々」では、我が国と最もつながりの深い国の一つとしてアメリカ合衆国を取り上げ、我が国とのつながり、人々の生活の様子などを具体的に調べる学習に取り組ませる。

・ 第6学年総合的な学習の単元「日本とつながりの深い国々を調べよう」では、子ども一人一人に自らの興味・関心や問題意識などに基づいて調べる国を選択させ、 我が国とのつながり、人々の生活の様子などを具体的に調べ、まとめ、伝える学習に取り組ませる。

 これらの学習を通して、外国の人々と共に生きていくためには、異なる文化や習慣を理解し合うことが大切であることを考えることができるようにしたい。

3 単元の構想
(1) 単元の目標

【社会科、総合的な学習共通】

○ 世界の国々の人々の生活や文化に関心をもち、様々な方法で調べようとする。

○ 世界の人々と共に生きていくためには、異なる文化や習慣を理解し合うことが大切であることを考えることができる。

 図書館やコンピュータなどを活用して資料を収集したり、地域や外国の人々と交流したりすることにより、世界の国々の人々の生活や文化を具体的に調べることができる。

○ 異なる生活や文化をもつ世界の国々に対して、一層の理解を深めることができる。

【社会科】

 アメリカ合衆国の人々の生活の様子、日本とのつながりについて調べ、アメリカ合衆国の抱える問題点について考えることができる。

○ アメリカ合衆国の人々の生活や文化の様子、日本との違い、日本とのつながりを理解することができる。

【総合的な学習】

○ 課題を追究することを通して自分の生活と世界の国々とのかかわりに気づき、世界の国々の人々の生活や文化に対する見方や考え方を広げようとする。

○ 世界の国々の人々の生活や文化について調べたことや考えたことを自分なりにまとめて、友達や地域の人々に伝えようとする。

(2) 主な学習の流れ(16時間完了:社会科8時間・総合的な学習8時間)

  省略

4 第6学年社会科の単元「日本とつながりの深い国々」について

(1) 身近にある「アメリカ合衆国」を発表しよう(第2時)

 この時間は、子どもたちが身の回りにある「アメリカ合衆国」を持ち寄り、それがなぜアメリカ合衆国なのかを発表し合う。子どもたちは、食べ物、衣服、スポーツ、音楽など身の回りから様々な「アメリカ合衆国で生まれたもの」を探してくる。それぞれが持ち寄るものが違うことから、アメリカ合衆国のとらえや見方がそれぞれ違うことに気づくであろう。そこから、アメリカ合衆国の多様性につなげていきたい。それとともにその過程を通して、日本人の生活の中に様々なアメリカ合衆国の文化が入り込んで、影響を及ぼしていることに気づかせたい。

 子どもたちの中には、マクドナルドのハンバーガーについて発表する子どももいるであろう。その際に、アメリカ合衆国のマクドナルドの外観の写真を紹介する。日本のマクドナルドとの違いを考えさせ、国旗が掲げられていることに気づかせ、「多様性」という特徴をもつアメリカ合衆国における国旗のもつ意味に触れていく。

(2) アメリカ合衆国の人々の生活や文化について調べよう(第3〜6時)

 ここでは、「米国理解教育プロジェクト」で得た貴重な経験や様々な資料、かかわらせていただいた方々からお聞きした情報を活用して、学習を進めていきたい。特に、New Brunswick でホームステイをさせていただいた、Ryoko Toyama & Eckhart Mildentein夫妻の生活の様子や Ryoko Toyama さんからお聞きした情報からも、アメリカ合衆国の人々の生活や文化の様子、日本との違いなどをとらえさせていく。

ア アメリカ合衆国に生きる日本(第3時)

 この時間は、アメリカ合衆国の人々の身の回りにある日本文化について調べる。用意する資料は、アメリカ合衆国で写真に納めたり、持ち帰ってきた日本の文化である。

日本車、灯籠、寿司屋、日本料理店、日本語の案内、日本企業の看板、日本製品の広告、けん玉で遊ぶ子ども、日本の建築様式を取り入れたビル、浮世絵、書道に影響を受けた絵画、野球場に映し出されるイチロー、日本語の新聞、ポケモンカード など

 メジャーリーグで活躍しているイチローをはじめとする、アメリカ合衆国に生きる日本人に目が向いたところで、たくさんの日本人が活躍していることにふれ、その一人 Ryoko Toyamaさんについて次のようなことを紹介する。

・ 新潟県三条市で生まれ。大学卒業後、東京で就職されたが、39年前に図書館の仕事につくためにアメリカ合衆国に渡られた。

・ ワシントンの議会図書館やニューヨークのコロンビア大学などの図書館の仕事を経て、キャリアアップし、現在、ラトガーズ大学の図書館長をされてみえる。

・ 現在、250名のスタッフを管理する図書館長として、週5日、週平均52時間働いてみえる。定年はないが、あと4年程働いて、後進に道を譲ろうと考えてみえる。

・ オレゴン大学の図書館にいるときに、ドイツ人の Eckhart Mildentein さんと結婚された。Eckhart Mildentein さんは、ウォール街で証券アナリストをしてみえる。

 Ryoko Toyamaさんの生き方について質問を受けたり、感想を聞いたりする中で、アメリカ合衆国で活躍する様々な日本人がいることや、アメリカ合衆国の社会がチャンスを求めてやってきた外国の人々にも機会を平等に与えていることなどをとらえさせたい。それとともに、アメリカ合衆国の人々の生活にも様々な日本の文化が影響を及ぼしていることに気づかせたい。そうすることで、自国の文化をこれまでと違う角度から見直すことにつながるのではないかと考える。

イ 日本とのつながり(第4時)

 この時間は、前時までの学習で日本とアメリカ合衆国とのつながりが深いことを具体的にとらえてきた子どもたちが、そのつながりが深まってきた歴史について調べる。その中で、ラトガーズ大学と日本との交流の歴史や、それに端を発する New Brunswick 市と福井市との姉妹都市提携などに触れ、長い年月のかかわり合いの重みを感じさせたい。

ウ 生活の様子(第5時)

 この時間は、アメリカ合衆国の人々の生活について調べる。Ryoko Toyama & Eckhart Mildentein 夫妻の生活ぶりやお聞きした情報などが、資料の一つになる。

・ Ryoko Toyama さんはこれまでに五つの州でしか生活したことがない。アメリカ合衆国は、地域や州によってかなり様子が違い、仕事や旅行で中西部や南部に行くと、他の国に来たような感じがするので、「アメリカを知らない」と言ってみえる。

・ Ryoko Toyama & Eckhart Mildentein 夫妻はお二人とも仕事に就いているので、家事は役割分担してお二人でやってみえる。

・ 広い芝生の庭をもってみえ、隣や裏の家の庭との境界には塀や囲いなどはなく、目印の木が植えてあるだけで、芝生の庭は続いている。

 これらの資料も活用して、生活の様子を具体的にとらえさせたい。


(3) アメリカ合衆国が抱える問題点について考えよう(第7時)

 この時間は、前時までに調べたことを基に、「多様性」から生じる問題をはじめ様々な問題について調べ、考える。ここでも、Ryoko Toyama & Eckhart Mildentein 夫妻からお聞きした情報などが、アメリカ合衆国の人々の意識をとらえる貴重な資料の一つになる。

・ Ryoko Toyama さんがワシントンやニューヨークなどの大学図書館を選んだのは、それらの都市には様々な人種の人々が住んでいるので、日本人も入りやすい環境であると考えられたからである。

・ ワシントンの議会図書館で、初めて黒人の女性と隣り合わせで仕事をした。最初は彼女の体臭に閉口したが、仕事のパートナーとして頼もしい存在であることが分かると、気にならなくなったそうである。

・ Eckhart Mildentein さんはジャズが大好きで、ジャズを生み出した黒人の人々を尊敬してみえる。しかし、黒人の教育程度が低く、実力をつけることができないという差別があるので、黒人教育のために寄与したいと考えてみえる。

・ 多民族の国民がうまくやっていくために、「法社会」が形成されている。


5 おわりに

 Ryoko Toyama さんから様々なことをお聞きする中でとても印象的だったのが、「一緒に生活しないと理解できない」という言葉である。約40年間アメリカ合衆国の社会で生活してみえた方が言われた言葉には重みがあり、確かにそういう部分があるだろうと感じる。アメリカ合衆国の人々と共に生きている Ryoko Toyama さんから学んだことで、自分だけではなく子どもたちも、外国の人々と共に生きていくためにはお互いに異なる文化や習慣を理解し合うことが大切であることや、理解し合うためにはどうしていけばよいかを考えることができるようになってほしい。

 最後に、ホームステイでお世話をおかけした上に、様々なことを教えていただき、この実践への教材化にもご協力いただいた Ryoko Toyama & Eckhart Mildentein 夫妻に心より感謝したい。