ごみ問題から米国理解を考える

愛知教育大学附属岡崎中学校

夏目 貴司


1 はじめに

 現在、我が国のみでなく、それぞれの国が環境問題の解決に大きな関心を抱いている。地球環境問題については、まさにグローバルな視点での対応が迫られていくものである。いわゆる「京都議定書」についての米国の態度が、政治的な思惑の絡んだものであるにせよ、より身近な環境問題のレベルにまでおろしたときの、米国民の意識はどうなのか――これが、今回米国訪問の機会を与えていただくにあたって、私が抱いた素朴な疑問である。

 そこで、この機会に、生徒にとっても関心の高い環境問題、とりわけ身近なごみ問題が、米国でどのように意識され、問題解決のための諸活動がどのように展開されているのかを調査し、教材開発に役立てたいと考えた。

2 「米国」と「ごみ」の授業を構想するにあたって

(1) 予想される子どもの意識と授業の切り口

@ アメリカは、日本にとって「大量生産・大量消費」のお手本の国だ
A アメリカの大都会では、ごみ問題はたいへんだろう
B アメリカでは、ごみの分別やリサイクルなどはどのように進めているのだろう


 上記@〜Bは、本授業テーマにおいて予想される段階的な子どもの意識のとらえである。これらを授業の構想につなげていく見通しについて以下に述べる。

 @については、子どもたちに、近年の我が国のライフスタイルが、米国のそれを取り入れながら発展してきたことを意識させる場が想定される。20世紀後半の、我が国の繁栄と米国文化とのかかわりについて想起させながら、子どもたちに、両国の密接な関係について語らせていきたい。【関心・意欲を高める段階】

 Aについては、子どもたちのもつ「世界一の大都市ニューヨーク」という意識に切り込む場が想定される。子どもたちの暮らす地域や、近隣の中堅都市の規模からは想像できない「大都市のごみ」のありようについて思いを巡らせたい。【知的好奇心を喚起する段階】

今回の訪米が、米国東部を巡り、大都市を訪問できることから、映像などの資料収集と、その活用が考えられる。

 Bについては、子どもたちが、より身近な足もとの部分において日米の比較をしていく場が想定される。実践の対象とする2年生は、「ネットワークプロジェクト(本校における総合学習)」のうち、「tプロジェクト(学年でチームを組み行う活動)」において、環境問題を追究しており、身近なごみ減量の意識が高い。そこから、意欲的に観察し、意見交流ができると考える。【新たな発見により自他を見つめなおす段階】


(2) 現地収集資料の位置づけと授業構想

 現地で収集した資料の位置づけとしては、前述のA・Bの段階において、知的好奇心を喚起し、新たな発見を促すことに用いたい。授業構想については、教師の収集した資料を中心に展開することから、問題解決的学習過程を構想した長期の追究単元ではなく、1時間完結の形態とする。対象とする2年生が、昨年度までに地理分野におけるアメリカの学習を終えていることからも、本時は、今後3年生にわたって展開される日米関係を考える授業の伏線としたい。

3 現地での調査活動

(1) 各都市における情報収集

 現地入りしてからは、ごみについての表示、それにかかわるものや活動について、情報収集をしながら写真撮影を行った。

 まず、デトロイトの空港に降りて目についたのは、「Don’t Litter」の表示である。これ以後、各所のごみ箱やごみ収集場所において、この「散らかすな」の表示が最も多く見て取れた。また、日本では見ることのできない「標識」も、バスや徒歩で巡った都市の各所で発見した。それは、指定された曜日・時間にやって来るごみ収集車の停車場所であり、他の車の駐車禁止とともに、その場所の「Don’t Litter」を促すためにデザインを工夫した「標識」だったのである。

 早朝こそ、ごみ収集の現場に立ち会えると考え、ニューヨークでは朝の散策を行った。揃いの制服を着て歩道の清掃をしている男性2人を「ごみ収集作業員」と思って声をかけたところ、返ってきた返事は意外にも「新聞販売業者」だという。早朝、新聞自販機に新聞を入れながら、その周辺の清掃を行うことも彼らの仕事だったのである。

 分別やリサイクルについては、公的機関からも呼びかけが行われ、公園にはそのためのごみ箱が置かれていた。

また、訪問先の大学や事業所のオフィスにおいても、紙のリサイクルが励行されていた。


 ごみ回収に使われる袋は、街頭に出されるものは白を基調とした「指定袋」が中心で、不燃ごみの容器等については、緑系や白系の半透明の袋に入れて出されていた。

一般的な黒の袋は、ホテルなどの事業所からまとめて出されるごみが中心で、深夜にはホテルの裏口に集積されていた。

 都市では、公的機関のほか、「Golden Triangle」「DOWN TOWN DC」という名前のごみ回収業者の動きも目についた。彼らはそれぞれ制服を着て日中回収作業をしていたり、トランシーバーを片手にごみ箱周辺の見回りも行ったりしていた。


(2) 家庭における情報収集

 ホストファミリーのお宅では、夫人に当地での家庭のごみ回収の方法を聞いても「ピーター(自分の夫)の仕事だから私は知らない」といういかにも米国らしい返事が返ってきた。調理からごみ箱までは夫人が行うが、外に出し、回収のための準備をするのは夫だというのだ。ピーター氏に聞いて、ようやく週2回の収集日に戸外の決められた位置に置くことで市が燃えるごみを回収することがわかった。さらに、新聞紙等の紙の資源ごみと、ビンや缶類は、それぞれ隔週1回回収されるため、ガレージ周辺にためてあるのだそうだ。我が国の一般的な回収方法と近いものである。

 ただ、これは、郊外の一戸建てのお宅に言えることで、都市部のアパートなどがどういう状況で回収されるかはわからなかった。なお、我が国で見られる何種類もの分別(ごみ置き場での分類)のようなものは「聞いたことがない(ピーター)」ということであった。

4 現地収集資料をもとにした授業づくり

(1) 授業構想

 授業は1時間完結で、米国の現状に関心をもち、大都会におけるごみ収集などが大変な事業であることを共感的に理解するとともに、我が国の分別やリサイクルの現状との比較を行えるような展開を組み立てた。そして、最後に、資料から読み取れる米国「再発見」の意識を、今年度末から次年度にかけての、国家間のつながり、人権や政治分野の学習につなげていきたいと考えたのである。

(2) 活用する資料

 前掲の写真資料を要所要所で示し、子どもたちに考えさせながら展開していく。

 まずは、左の写真「清潔華埠協会」のごみ袋を示して考えさせる。そこからは、中華街をはじめあらゆる人種とも街の美化を図り自分たちの生活を快適なものにしていこうとする意識について話し合わせる。事前調査から、かつて米国を旅行し、「何でも同じごみ箱に捨てていたと思う」というT男と、「アメリカのイメージってそういう大胆なところがある」というY男らの思いがやがて変容していくことをねらう。環境をよりよくしたいと願う思いや、自分たちで活動していく姿勢は、世界中どこでも同じであることを、資料からつかませていくのである。

(3) 授業の実際から

 「世界一の大都市ニューヨークにはごみがあふれているのではないか」という疑問も、市のはたらきのほか、その他の業種(例えば新聞販売業)にあっても意識して取り組まれ、ごみ回収企業の働きもあって解決されているように見える。しかし、子どもたちは、資料の情報にさらなる問題意識をもちはじめた。

○ ごみ回収企業の作業員が、有色人種ばかりである。「雇用確保」のためかもしれないが、このことがさらに人種間の隔たりに発展しないのであろうか。

○ 私たちが「tプロジェクト」で見た、碧南市の「32分別」というようなことは、「人種のサラダボール」のアメリカにあっては、理解し合って進められないだろうか。

○ ごみの「行く先」は、どうなっているのだろうか。日本のような処理場や、埋め立て場が存在するのだろうか。その規模や、その位置が起こす問題はないのだろうか。

○ ごみをはじめ、アメリカの「負の部分」にも着目して世界を見ていきたい。

5 おわりに

 今回の訪問で得た資料は、断片的な部分が多く、子どもたちの追究学習そのものを組織しうるものにはならなかった。しかし、今後につながる問題意識に火をつけることはできた。凄惨な事件の直後でもあり、子どもたちの意識の中にも平時の「豊かなアメリカ」という思いだけなく、「負の部分」に話が展開することにもなった。また、センタービル崩壊の現状から「瓦礫のゆくえ」を問う発言もあった。いずれにせよ、当初の意図とは違う部分も含め、米国を見つめることになった。今後も、私たちにとって、理解し合い、追究を深めていける米国、そしてグローバルな世界であり続けてくれることを望みたい。