アーミッシュの人々から学ぶこと

−現代アメリカにおいて電気も車も拒絶して生活する人々−

知立市立竜北中学校

小田  哲


1 アーミッシュとの出会い

 「あと数分で、300 年前から続いている生活がみなさんの目前に現れます。」と紹介したのは、アーミッシュ・バスツアーのガイドである。そしてしばらくすると実際にシンプルな服装をした女性の運転する馬車が子どもを乗せて私たちのバスの横を通り過ぎた。

 私がこのアーミッシュの存在を知ったのは数年前に公開された映画「目撃者」(ハリソン・フォード主演)を見たときである。徹底した非暴力の平和主義と地域の人たちが集まり一日で納屋を仕上げる映画のシーンを見て私はアーミッシュの生活に大変興味をもった。

 1998年に家族でアメリカを旅行した時にインディアナ州のアーミッシュ地域を訪れ、家並みを見たり、アーミッシュの経営する店に寄ったり、またそこで出会ったアメリカ人の老夫婦とアーミッシュについて話しをしたりすることでますますアーミッシュへの私の興味は深まった。

2 アーミッシュのプロフィール

 アーミッシュの信仰は17世紀にスイスに始まる。 Jakob Ammon が創設者であり、彼は当時のキリスト教の現状(世俗性)に満足できず、より厳しく、勤勉に、そしてシンプルな生活をすべきだと考えた。彼らは戦争(暴力)、物質主義、軽率(不まじめ)を拒否し、理想を求めてアメリカに移住した。彼は神とのよりよい関係を保つためには物欲にとらわれない質素で正直な生活が必要だと考えた。故にアーミッシュの人たちは plain people (質素な人々)を呼ばれる。

 アーミッシュの人々は自動車を用いない。したがって日常生活や農業ではバギーと呼ばれる馬車を使用している。電話、電気など現代的な便利さは彼らの信仰、生活を堕落させるものとして考え、使用しない。彼らは Pensylvania Dutch と呼ばれる独特のドイツ語を話す。子どもたちは8年生までで学校教育を終了し高等教育は受けない。その後は農業、大工、畜産、ガーデニングなどに関する技術を学び、その仕事で生活をすることとなる。服装はシンプルで男性は無地のシャツに黒っぽいベスト、そしてズボンをはき、黒いつばのついた帽子をかぶる。そしてあごひげを生やしている。ただし、結婚するまではひげは剃ることになっているので未婚、既婚は一目瞭然である。女性は足首までの長い無地のワンピース、黒い靴下、そして平たい靴をはく。髪の毛は束ねて、白いキャップを被る。アクセサリ類は一切つけない。男女ともベルトの代わりにサスペンダー、ボタンの代わりにホックを使用する。

 一家庭に平均して6〜7人の子供がいる。結婚すると彼らは土地を分けられ、自立する。彼らの職業は主に農業で平均して80エーカー(サッカー場80個)の広大な土地でコーン、小麦、タバコなどの農作物と乳牛を飼い、出荷している。彼らは plain people(質素な人々)と呼ばれているが経済的に poor(貧しい)ということではなく、むしろ経済的には豊かである。質素な生活が彼らの信条であり、生き方である。アーミッシュは全米で約10万人ほどいるが、その大部分はオハイオ州、インディアナ州、そしてペンシルバニア州に住んでいる。

 以上が一般的なアーミッシュに関するガイドであるが、私たちが今回訪問したペンシルバニア州のランカスター市のアーミッシュが一番大きい地域である。そこでリサーチしたことを中心に中学校における教材化を工夫してみた。

3 アーミッシュの教材化(異文化理解)

 <授業計画:3時間>

(テーマ)アーミッシュから何を学ぶか

1限 アーミッシュって何?

  @ 映画「目撃者」の視聴

   (アーミッシュの生活の描写シーン)

  A アーミッシュの人々・生活 Q&A

2限 アーミッシュの学校について

  @ アーミッシュ・スクールの特徴

  A アーミッシュの学校 Q&A

3限 私たちとアーミッシュの生活を比較しよう

  @ 質素な生活 VS 便利・贅沢な生活

  A まとめ アーミッシュから学ぶべきことは?


<これは何?>

 

<緊急用の公衆電話です>

1限

異文化理解:アーミッシュの生活について調べよう

   インターネットの活用:アーミッシュ関連サイト

    ex. Pennsylvania Dutch coutry Welcome Center

       http://www.800padutch. com/

*FAQページには、たくさんのアーミッシュに関する質問と解答が載せてあるが、その中からいくつかの例を挙げておく。

☆なぜアーミッシュの男性はあごひげを剃らないの?

 彼等(男性)は結婚するとあごひげは剃らず、のばし続ける。長いあごひげは成熟した男性を意味するからである(男性の既婚・未婚は一目瞭然)。反対に口ひげをはやすことは禁じられている。口ひげは軍隊をイメージするからである。

☆なぜアーミッシュの人たちは電気を使わないの?

 彼等は電気そのものが悪いと考えているのではなく、電気を使用することで彼らの信教生活や家族生活が堕落することを恐れた。故に彼等は快適な生活、便利な生活、余暇のある生活よりも質素な生活、禁欲の生活に価値を求めた。それが神に近づく方法であると信じているからである。

☆アーミッシュの人たちはどんな言語を話すの?

 彼等は地域や家庭内ではペンシルバニア・ダッチと呼ばれるドイツ語を話す。子ども達は学校で英語を勉強し始め、もちろん地域外では英語を用いる。例えば、大統領選挙に関してはテレビ、ラジオ等を使用しないため、新聞が情報源であるが、子ども達が学校で学ぶ英語の学力で十分に新聞を読むことができるそうである。

☆農場ではどんな作物を作っているの?

 私たちが訪れたランカスターのアーミッシュ地域では、広大な農作地を有効に使用するために1年間のローテーションを考え、アルファルファ→コーン→小麦→たばこ→アルファルファのように季節に応じて栽培している。他にポテト、大豆、干し草(家畜用)も作り、また酪農として乳業も飼い、出荷するミルクは彼等の重要な収入源である。農作業ではトラクターなどは使用せず、馬を動力とした農機具を使っている。
 
<農作業の様子:4頭の馬を利用> <たばこの栽培>


☆一日で大きな納屋をどうやって造るの?

 納屋作りはアーミッシュの人たちにとって大切な協同作業である。日の出と共に各地からバギーに乗ってたくさんの人々(家族)が納屋を建てる場所に集合する。大工などの専門家の指示にしたがい作業に取りかかり、昼食前に骨組みを作り、午後は屋根づくりに取りかかる。食事は女性が準備し、子ども達は一緒に遊んだり、物運びを手伝ったりする。一日で大きな納屋を仕上げるこの協同作業は大人にとっても子どもにとつても協同作業のすばらしさを体験する貴重な一日となる。

☆家族の団らんはどんな時間を過ごしているの?

 夜は家族でゲームをしたり、一緒に本を読んだりしている。両親も一緒に遊ぶが、短い時間である。彼等は電気を使用しないので家事を行うにも時間がかかり、子ども達も家事をたくさん与えられている。故に短い時間だがこのゲームや読書など家族で過ごす時間を大切にしている。

<素朴な疑問1>アーミッシュの子供たちはファミコンを知ってるの?

 アーミッシュの家の隣が普通のアメリカ人の家庭であることもある。私はツアーガイドに「アーミッシュの子ども達が普通のアメリカ人の家に遊びに行くこともあるのか」と尋ねた。彼は「もちろん」と答えた。そこで「アーミッシュの子どもがファミコンゲームをすることもあるのか」と聞くと、「Possible.(その可能性もあるね)」と答えた。

2限

異文化理解:アーミッシュの学校生活について調べよう

   インターネットの活用:アーミッシュ関連サイト

    書籍:The Amish School written by Sara E. Fisher and Rachel K. Stahl

  


★アーミッシュ・スクールの特徴について話し合おう

   アーミッシュの学校制度についてはたくさんの特徴があるが、その中から12の特徴を選んでみた。英文が比較的易しいため、英語の学習も兼ねて英文の意味を考えよう。

  Cooperation, not competition is the main spirit of plain school.

  School has only one room.

  Students are called scholars.

  Scholars begin school at age 6 and attend through the 8th grade at around age 14.

  Grades 1 through 8 are in the same room.

  Scholars usually don’t receive homework because of the chores they have to do at home.

  Older scholars help younger scholars learn.

  Scholars and the teachers keep the school clean.

  Amish men take care of the heavy upkeep of the school.

10 Teachers are usually unmarried and only a couple years older than her/his 8th grade pupils.  They usually have no education beyond the 8th grade.

11 Parents visit the school unannounced.

12 Supplies, such as blackboard, needed for the school are purchased from public schools that are being torn down.


 
 <
授業の様子>            <登校の様子>


<素朴な疑問2>

Q 一つの教室の中に1年生から8年生までの生徒たちがいる。どのように授業をしているのだろうか。

<アーミッシュの学校教育について調べよう>

☆どうしてアーミッシュの人たちは彼ら自身の学校をもっているの?

 彼らは子供たちに神を信じ、正直な生き方をしてほしいと願うためである。学校は家庭と同様に子供たちが神から与えられたそれぞれの才能を伸ばし、共同社会の一員である大人としての責任感と正直な生き方の学ぶ準備段階の場と考えている。

 教科学習では reading を最も重要な勉強と考える。あらゆる学習の基本であるからである。日常生活では掲示によるメッセージを伝達手段としているため、正しく読み書ける能力は電話を使用しない彼らにとって不可欠である。算数も学校を卒業すれば仕事の場でその知識が必要になる。基本的には彼らは農業生活を営むが学校で学習したことがすぐに役立つ生活値の勉強である。高等教育は必要と考えていない。

☆新学期のはじまり

 新学期が始まる1週間くらい前になると保護者たちが学校の掃除にやってくる。その時は先生も学校に来てその保護者たちといろいろな話をする。その会話から互いの思いを理解する。その後、先生は担当する20〜30人の生徒の名前、年齢などを覚える。学校と言っても教室は一つであり、その教室に1年生から8年生の生徒たちが一緒に学習する。

☆保護者は学校にどのように関わっているか。

 アーミッシュの学校は市や町の運営でなく、アーミッシュの人々によって運営されているので保護者たちは学校の運営、教育に大きく関与している。例えば、新学期が始まる1週間ほど前になると保護者が学校を訪れ、営繕や清掃などを行う。学校が始まると先生や生徒に連絡なしで学校を訪れ、授業を見たり、学校の環境づくり(冬は暖炉の槙の用意、夏は除草作業など)を行う。ときには若い先生たちに指導に関して助言したりする。また家庭に先生と生徒たちを呼び、昼食会や歌声の会を開いたりする。先生と保護者の個人的なつながりはとても強い。

☆特殊学校の現状(障害者の教育)

 アーミッシュの地域は閉鎖的であるため、近親結婚が多い。例えば、ランカスター市の地域では第1従兄弟の結婚は禁じられているが、第2従兄弟の結婚はよくあることである。その結果、障害(視聴覚障害、精神的障害、奇形など)のある子どもやずば抜けた才能をもつ子どもの生まれる可能性が高い。以前は公立の学校に障害者の教育を依存していたが、アーミッシュの学校で障害者教育(特殊学校)に取り組もうとするプログラムが生まれ、1975年9月に Clearview 特殊学校に2名の生徒が入学し、数週間後に3人目の生徒が参加し、地域全体に特殊学校に対する理解が深まり、現在保護者の協力援助により運営されている。こうした子供たちは学校では先生によるきめ細かな教育を受け、家庭ではその子どもに応じた仕事が与えられ、家族の大切な一員として温かく迎えられている。

<素朴な疑問3>

Q:アーミッシュの若者たちは現代文化に惹かれ、地域を出ていくことはないだろうか。

A:ツアーガイドによれば、地域の9%の若者がアーミッシュの生活を離れるそうである。その理由は彼らは高等教育(大学教育)を受けたいためである。私たちが訪れたミラーズ大学にもアーミッシュの出身者がいるそうであるが、ほとんどの生徒は質素な生活を続けているそうである。

3限 話し合い

私たちの生活とアーミッシュの生活を比較しよう

   ☆質素な生活 VS 便利な(贅沢な)生活

         長所と短所

  (物を大切にする心、環境問題にも関連させたい。)


☆結論 アーミッシュの生活から学ぶこと

 約3時間におけるランカスターのアーミッシュ地域のバス・ツアーの最後にこのツアーを務めたガイドがアーミッシュの生活についてこのように結論づけた。

           私たちにとって最も大切なものは?


 ◆アーミッシュの生活         ◆現代アメリカの生活

   300 年間変わらない生活       高度に発達した文化生活

   質素な生活               便利で豊かな生活

   物を大切に使う生活           物を浪費する生活

   協力する生活(共同社会)        個人的な自由な生活
       ↓                    ↓
   維持し続けているもの         失いつつあるもの

            ↓        ↓

             家族・地域社会の絆
            family & community bond)