アメリカ合衆国についてもっと知ろう。

米国理解を深める授業実践

名古屋市立沢上中学校

植田 則康


1 はじめに

 イチローなど、海外で活躍する日本人のニュースも最近は多くなり、米国から多くのものが日本に導入されている。国際社会の発展にともない、さらに今後も米国をはじめ、海外の国々との関わりは深くなってくる。生徒には、こうした国際社会で主体的に行動できるようになって欲しいと考える。

2 生徒の実態

 本校生徒は、海外の国や人々と直接かかわりを持つ生徒は少ない。海外での旅行をした経験のある生徒の割合は、学級に3、4人と1割ほどであり、1年間で1ヶ月ほど来校するALT以外で、外国の人々と接する機会を持つ生徒はほとんどいない。しかし、多くの生徒が外国の歌や映画、テレビでのニュースなど強い関心を持っている。

 米国に対し、生徒がどんなイメージを持っているかアンケートを実施した。そこから、多くの生徒が「科学技術が進んでいる」「人柄がおおらかそう」など、米国は自由で明るく、豊かな国であると考えていることが分かった。その一方で、「犯罪が多い」「みんな銃を持っている」など、危険な国であるという考えを持っている生徒も多い。

 また、中には「政府が自己中心的な考え」「軍事力がすごそう」など、同時多発テロ事件に影響を受けた意見や、「みんな I like sushi.って言ってそう」などALTの自己紹介などに影響を受けた意見が見られた。

3 実践の方法

 生徒が考える米国のイメージには、「みんな金髪」「みんな足が長い」「みんな銃を持っている」など、偏ったとらえ方をしているものも多い。そこで、本年度担当する2・3年生を対象に、生徒が米国に対する理解を深め、米国と日本の違いに気づいて、それぞれのよさについて考えを深められるようになって欲しい。また、海外の国や人々に興味を持ち、積極的に交流をしようとする態度を育てたいと考える。そこで、以下のような3つの観点で、米国から持ち帰った資料をもとに実践に臨んでいる。

【持ち帰った資料を利用の観点】
   @ 英語の学習内容を深める資料の提示

   A 生徒の興味・関心を高める話題の提供
   B 米国への理解を深め、交流をする意欲を高める支援

4 実践の内容

@ 英語の学習内容を深める資料の提示

 教科書など、英語学習で習う内容や、扱っている話題について、関連した資料を提示することで、生徒の興味・関心を高め、学習内容の定着を促すことをねらいとして実践を重ねている。

I have a dream. One day my four little children will not be judged by the color of their skin...”
【教科書に掲載されたキング牧師の演説の一部】

 教科書で扱う、公民権運動の指導者として活躍したキング牧師の功績と人権について、さらに考えを深めることをねらいとして実践に臨んだ。

 有名な“I have a Dream.”のスピーチのビデオを視聴したり、25万人の人が集まったワシントンDCの現在の風景を写真で見たりすることを通して、「ワシントンDCのUSキャピトルに行きたい。」「キング牧師の像と記念写真を撮りたい。」、「リンカーンの奴隷解放宣言後の歴史を調べる。」などと言った声が数多く聞かれ、生徒の意欲を高めることにつながったと考える。

 また、「バスで黒人が乗れない席があるなんて信じられない。」、「やられても、やり返さないキング牧師はすごい。」といった意見も出され、運動の意義に迫ることができたと考える。

 キング牧師の演説の一部を音読する際にも、意欲的に練習をし、リズムやイントネーションをまねて、感情を込めて音読する生徒の姿が数多く見られた。教科書の内容に対する英語の技能の面でも、生徒の成長が見られる実践であった。

A 生徒の興味・関心を高める話題の提供

 生徒の興味・関心の高い話題について、資料を提示することによって、さらに米国に対する興味・関心を高め、考えを深めるねらいで実践を行っている。

 生徒にとってはなじみの深いファースト・フードのポテトやジュースの大きさを比較した。トレイの大きさで日本のものと単純に比較しても、米国のサイズの方が大きく、これを見て生徒は、一様に驚いていた。

 多くの生徒が「ぜひ見たい」と話した写真が下の写真である。貿易センタービルが写っている写真は、生徒にとって非常に興味の高かったものである。写真を見て、言葉を失っている生徒の姿が印象的であった。

 リサイクル活動が盛り上がりを見せている本校生徒にとって、ゴミの分別や、ゴミの処理に対する話題には、関心が高い。そこで、米国の各地で写真に収めてきたゴミ箱や、ホストファミリーの地域でのゴミの処理について紹介をした。すると、ゴミのリサイクルについては、日本の方が進んでいる点も多く、驚く生徒が多かった。

B 米国への理解を深め、交流をする意欲を高める支援

 普段はあまり目にすることのない、米国の一面を紹介することで、生徒の理解を促し、海外や外国人と交流をしようとする態度を育てるねらいで実践を進めている。

 生徒にとって銃や犯罪といった危険なイメージでとらえられているニューヨークについて、最近の景気伸びや警官の増員などの政策から、最近はずいぶんと治安がよくなってきたことを、写真とともに紹介することは、生徒にとって驚きであった。ただし、地下鉄などよくなったとは言っても、日本のそれとはずいぶんと雰囲気も違うので、その違いに戸惑う反応を示した生徒が多かった。

 「米国に住む人はみんな足が長くて金髪」といった生徒の抱くイメージも、民族衣装を着て歩く人の姿などを紹介することによって、崩れてきたことが生徒の驚いた表情から分かった。また、出店などでは、英語を母国語としない人たちを多く見かけることを説明し、近年ヒスパニック系の労働者をが増えていることなどを紹介すると、米国が多くの人種や民族のるつぼと言われるゆえんを、生徒はあらためて感じたようであった。

 さらに多くの生徒が驚いたのが、文明生活とは距離を隔てたアーミッシュの人々の存在であった。IT産業や宇宙開発など、先進のテクノロジーを誇る米国の中にあって、物質的な豊かさを求めない人々の存在は、生徒にとっては衝撃的であったことが、その後の感想などから分かった。また、こうしたアーミッシュの人々と、そうでない人が隣り合わせて住んでいるという共存の姿を知ることは、今後の生徒たちの成長にとって大変意義深いものであると考える。

5 実践の成果と課題

 実践後に行ったアンケートから、これまでの実践を通して、生徒の米国に対する理解が深まったことが分かる。教科書の内容に対して、教師自身が体験した話をしたり、収集したりしてきた資料を提示することは、生徒の興味・関心を高め、学習に対する積極的な態度につながったと考える。また、感情を込めた音読など、英語の技能面にもよい成果を上げることができた。

 その一方で、生徒が英語学習する際、表現の定着を促す教材を工夫する必要性を感じた。外国人の移民を受け入れてきた米国のノウハウを活かせるように、実践を重ねていきたい。

 また、今回の実践を通して、交流という面で課題が多く見つかった。当初Eメールなどで、海外の学校との交流を計画していたが、生徒自身がアルファベットの配列に慣れておらず入力作業に時間がかかることや、コンピュータの台数や動作スピードが限られていることなどで、思うようにはかどらないという問題が生じている。今後生徒が使える表現を増やし、本校のコンピュータ環境を考慮した授業を進めていきたい。

6 おわりに

 国際社会の発展にともない、今後ますますさらに多種多様な価値観を受け入れていくことが必要となってくる。多くの価値観を受け入れてきた実績のある米国の姿を通して、今後あるべき国際社会の方向性を生徒とともに今後も模索していきたい。