標識や掲示物から見えるアメリカ

愛知県立惟信高等学校

遠藤  茂


1 はじめに

 今回の旅行で、私が目標としたものはもちろんアメリカ理解である。長年英語教師として、英語に関わりまた英語を母国語とする一方の大国であるアメリカについて教室で機会があるごとに話してきた。しかし、そのアメリカ理解も個人的な今までのアメリカ人との交際や本、そして今から24年前の西海岸の旅から得たものであった。いろんな意味でアメリカの中心である東海岸を直接見ることと、24年間に風化しつつある恐れのある私の直接的な経験を補正することは私のアメリカ理解をより深いものにしてくれるものと期待した。また、同時に私が経験したことをどのように生徒に還元するかということももう一つの目標でもあった。その方法の一つとして、アメリカを何か目に見える形として写真に撮ること、特に標識や掲示物に書かれた英語を記録してはどうかと思った。とはいうものの旅行中になかなか思うような被写体が見つからなかった(あってもバスが通過してしまったり)り、私の写真技術が未熟だったりして十分なものが揃ったとは言えないかもしれないが、これからいくつか紹介したいと思う。

2 標識や掲示物

(1) 道路標識

@NO TURN ON RED(ニュージャージー州ニューブランズウィクで)

 現在教えている高校3年生の英語の副教材に、アメリカにはNO TURN ON REDという標識があって日本人がとまどったという一節があったので、アメリカでぜひ見つけたいと思っていた。「赤信号で曲がるべからず(もちろん車が)」という意味で、逆に言えばそれがなければ曲がってよいことになる(もちろん個人の注意と責任において)。

ANOTICE NO PARKING VIOLATOR’S CARS WILL BE TOWED AT OWNERS’ EXPENSE

 これもよく見る標識であるが、「警告 駐車禁止 違反者の車は車所有者の費用で索引させるものとする」という意味で、日本では『違反者の…』以降は書いてない場合が多いのではないだろうか。日本でも実際にレッカー車に牽引された場合の費用は違反者に回ってくるのであろうか。アメリカではそのことが明文化されている。

(2) 身体障害者への配慮

@PLEASE KEEP WALK WAY OPEN FOR WHEELCHAIR USERS



ARING FOR ASSISTANCE



 @はランカスターのファミリーレストランの横の駐車場を横切る横断歩道での標識であるが、「車椅子使用者のために歩道をあけてあげてください」という意味である。Aは同じくランカスターのホテルの入り口で「ベルをお鳴らしください。ドアをお開けします」という意味。このような身体障害者に関する標識はいろんな所で見られた。

(3) 公園での自然保護に関する標識

@CEDAR HILL Red flags mean Keep off the grass!
 Flags will be posted when grass is most at risk and easily damaged by your feet. 
 Respecting the red helps keep Central Park green.
(ニューヨーク、セントラルパーク)

 「ヒマラヤスギの丘 赤い旗は芝生に入るべからずの意味!芝生が最も無防備で簡単にあなたの足で傷つけられそうな時、旗が立てられます。赤い旗を尊重することがセントラルパークを緑豊かに保つ助けになるのです。」

 よく知られているように、セントラルパークはニューヨーク市の中心にあり市民の憩いの場となっている非常に大きな公園である。朝早くからたくさんのジョッガー、ランナー、サイクリスト、ローラースケーターが集まって緑豊かな森の中の道で練習に励んでいる。もちろんいたる所に適当な芝生もあるが、上記のような標識が立てられ、自然環境保護を促していた。

AFEEDING OF BIRDS & OTHER WILDLIFE IS PROHIBITED(同上)

 「鳥やその他の野生動物に餌をやることは禁じられています。」

 セントラルパークの自然には様々な野鳥や動物がたくさん生息している。栗鼠などもいたる所に見られた。毎日何万人も公園にやってきて餌を与えれば生態系の破壊のみならず環境破壊にもつながるであろう。

BVISITORS PLEASE TAKE NOTICE

 Sitting on grass permitted Skateboarding and rollerskating prohibited

 Use trash barrels Dogs on leashes only / clean up after your dog

 Plantings should not be touched Alcoholic beverages prohibited.

 Walk your bicycle Ball playing and other games prohibited.

 Vendors prohibited Motor vehicles not allowed Park closes at 11:30

(ボストン、コプリー広場、1883年創立)

 「使用者は次の事項に注意してください。芝生に座ってもよい。スケボーやローラースケートは禁止。ごみ箱を使うこと。犬はつながれたもののみ許可/糞の後始末を。植木に触るべからず。アルコール飲料禁止。物売り(露店)禁止。モーター付き乗り物(自動車、オートバイ等)乗り入れ禁止。11時30分閉園。」

  ボストン市内にある小さな(といっても日本的に言えばかなり大きいが)公園。

(4) 空港にて

 Don’t let your luggage get carried away.(ニューヨーク、ニューアーク空港)

 「荷物置き引きにご用心」以前は治安が悪かったというニューヨークに着いたとたん目に入った展示物。

(5) 工事中の掲示物で目を引いた逸品

@FUTURE SITE OF BOTANICAL GARDENS. THE BIG DIG WORTH ITS WAIT. (ボストン)

  「植物園建設予定地。待つ価値ある大工事(地面を掘る工事)」

  アメリカ到着後最初に訪問した大都市のボストンとニューヨーク、いずれもいたるところが工事中。アメリカはやはり好景気なのか(まだ9月11日の前であったが)。この標語日本語にしてしまえば面白みは半減するが、英語はとてもリズムがよくて印象に残った。なんとか走るバスから撮影に成功。

ASlow Down My Daddy Works Here (ペンシルベニア州ランカスター郊外で)

  「スピード落とせ。私の父さんここで働く。」

 本来なら、無味乾燥的な高速道路工事現場。子供にひっかけ安全運転を喚起。大リーグの野球中継で必ず1度は幼い子供のアップが画面一杯に映し出される国。まあアメリカ人でなくてもうったえるものがある。やはり走るバスの中から撮影に成功。

(6) 働く車

@FedEx Federal Express (ニュージャージー州ニューブランズウィクで)

 日本でも宅急便各社激しく競争中。当たり前ではあるが、アメリカにも宅急便あり。

 Federal Express を縮めてFedEx (フェデックスと発音か)。

AAMERICAN FURNITURE RENTAL FOR HOME AND OFFICE

 “FIRST CLASS SERVICE THE AMERICAN WAY”(場所同上)

 「アメリカン家具レンタル 家庭およびオフィス用 “一流サービス アメリカ流”」 日本人は引っ越しの時家具を全部持って移動するが、アメリカ人は家具は元の家置いたまま、つまり家具付きで元の家を売って次に引っ越すとか。だから日本とは違った意味で家具を非常に大切に扱う。逆に売ったり買ったりするのが面倒なので家具のレンタル会社のビジネスが成り立つのかも。最後の『アメリカ流』が象徴的。

BFREE BLOOD PRESSURE CHECK  (ボストン市内で)

 「無料血圧チェック」これは献血車ではないかと思う。この手の車を人のよく集まる場所でよく見かけた。ただし、日本とは違って様々な団体がそれぞれの趣旨で行なっているようである。この車はキリスト教系宗教団体のもの。

(7) 求人広告

 NOW HIRING - REDNER’S WAREHOUSEMARKETS - JOIN THE REDNER’S TEAM TODAY!               (ペンシルベニア州ランカスター郊外で)

 「今雇います ― レドナーズウェアハウスマーケッツ ― 今日レドナーズのチームに加わって下さい!」

 かなり巨大なスーパーマーケットであった。しかし夕方にもかかわらずほとんど客が入っていなかった。ウィークデイのせいもあるかもしれない。だが日本でこんな状態なら確実に倒産すると思われるのだが。しかし、スタッフ募集の標語は明るくていい感じ。

(8) 地下鉄の乗車カード販売機

 Farecards / bills accepted $1,$5,$10,$20 / See map or kiosk for fare

 Each passenger 5 and older needs a farecard to enter and exit all stations

 Farecards can be returned for replacement value only.

 Not redeemable for cash.

@ INSERT MONEY A SELECT FARECARD VALUE / Press + to Add Value / Press - to Deduct Value B TAKE FARECARD / Take Farecard at Trade-in Below → USED FARECARD TRADE-IN / To increase farecard value first insert used farecard of $7 or less / Then repeat steps 1,2 & 3                  (ワシントンD.C.)

 地下鉄はボストン、ニューヨーク、ワシントンDCの3箇所で乗ったが、全部チケットの販売システムが違い初めて行った人間には苦労の種かも。

 「乗車カード/お札は$1,$5,$10,$20のいずれかしか使えません/料金については地図を見るか、キオスクできくかしてください/5才以上の乗客は全ての駅の出入りに乗車カードが必要です/乗車カードの返却は交換価格のものとしかできません 現金には変えられません

 @お金を挿入してください。A乗車カード価格を選んでください。価格を上げるためには+を押してください 下げるためには−を押してください。B乗車カードを取ってください / 下のトレードインで乗車カードを取ってください。→使用中使用済みの乗車カードのトレードイン(本来の意味は下取りまたは交換)/乗車カードの価値(格)を増やすためには、先ず、7ドル以下の使用された乗車カードを挿入し/@ABの手順を繰り返してください」

 このようなことを初めて瞬時に理解することは不可能に近いと思えるくらいだ。

 先ず、日本での名古屋の地下鉄のシステムの先入観が理解を妨げる。名古屋には子供料金と大人料金の区別がある。というところから混乱が始まる。しかも、自分で行く先までの料金を設定しなければならない。ただ、最後の使用中または使用済みのカードがお金を足すことによって再利用できるシステムはすぐれ物ではある。これも後で帰国後写真を解析して気が付いたことであるが。最後に失敗談をひとつ。上記の文の下線部に関係することだ。同行していた仲間の一人が間違って高額のカードを買ってしまった。さっそく私が駅員さんに交渉することになった。ところが、掛け合ったら現金には変えれないとのこと。それはその時は気が付かなかったが確かに書いてあるとおり。私が執拗に現金に変えることはできないかと掛合っているときに、係の人が同額分の小額のカードで換えること示唆したような気がしたのだが、何分初めて体験するシステムであり、自分の現金へのこだわりとその交渉を英語で行なうハンディとで同額の小額のカードに変えるチャンスを逃してしまった。後で気が付いたのだが、一度でも使ってしまったカードは交換できないとのこと(未使用のみ交換可)。そこまでは書かれていない気がするのだが。小額カードに換えれれば皆で分けることもできたのに、その仲間の方には申し訳なく思っている。

(9) 静寂と敬虔な気持で

@SILENCE AND RESPECT (ゲディスバーグ、国立墓地で)

 「静寂と敬虔な気持で」

 ゲティスバーグの古戦場跡にあるアメリカ最初の国立墓地とのこと。この掲示は墓地の入口に入ってから数十メートルぐらいの所に立っていた。もちろん国立公園である。制服を着たレインジャーが巡回していた。ここに眠る南北戦争を始め様々な形で亡くなった軍関係者の眠る場所。静かに尊敬の気持を持って行動しましょう。

AWELCOME TO ARLINGTON NATIONAL CEMETERY OUR NATION'S MOST SACRED SHRINE PLEASE CONDUCT YOURSELVES WITE DIGNITY AND RESPECT AT ALL TIMES PLEASE REMEMBER THESE ARE HALLOWED CROUNDS

(ワシントンD.C.、アーリントン国立墓地で)

 アーリントン国立墓地へようこそ。私達の最も神聖な場所です。常に尊厳と敬虔な気持を持って行動してください。ここが聖地であることをお忘れなく」

 ケネデイ大統領をはじめ無数の英霊達の墓地。ゲティスバーグとはまた違った意味でスケールの大きな墓地であった。

BQUIET / RESPECT PLEASE     (ワシントンD.C.、リンカンーン記念堂で)

 「静寂と敬虔な気持で」ゲティスバーグとは違ってSILENCE がQUIET に代わり、RESPECT にPLEASEが付いていて、リンカンーンの座像に近づける親しみやすさが感じられた。

CCAUTION / AREA SLIPPERY WHEN WET (ワシントンD.C.、アーリントン国立墓地で)

 「注意 濡れると滑りやすい区域です」広い緩やかに傾斜した芝生である。確かに雨が降って濡れると滑りやすいと思われる。身障者用の通路が示されており心配りが感じられた。

DPLEASE DO NOT PUT COINS IN POOL (ワシントンD.C.、ケネディ大統領の墓で)

 「泉の中にコインを入れないでください」まさかアメリカでこのような掲示を見るとは思っても見なかった。ローマのトレビの泉の習慣が、日本ばかりかアメリカまで波及し、ケネディ大統領のお墓の前の泉にまでコインを投げ入れる輩がいようとは。

(10) その他に印象に残った掲示2点

@The IMAGINE Mosaic Is Cleaned Regularly Throughut the Day
(ニューヨーク、セントラルパーク)

 「このイマジンのモザイクは一日中定期的に清掃されています」

 1980年に暗殺されたジョンレノンはセントラルパークのすぐ西の72ストリートに面する通称ダコタハウスと呼ばれる高級マンションに住んでいた。彼がこよなく愛し散歩したという彼のアパートからすぐ見えるようなセントラルパーク内の散歩道は今はストロベリーフィールズと呼ばれている。ビートルズの歌の“Strawberry Feilds Forever ”にちなんで名づけられたものだ。その道路上にあるのがイマジンのモザイクだ。直径2、3メートルほどのもので、奥さんのヨーコさんが中心となつてレノンの代表作であるイマジンの歌にちなんだ記念物を作ろうと世界中のファンに呼び掛けてお金を募って、1985年に完成したのがこのモザイクである。円の中心に IMAGINE の文字がタイルではめこめられている。早朝の写真には落葉以外は何も上にのっていないが、夕方に行ったときはたくさんの人が訪れていて花や飲み物のようなものがたむけられていた。だから常に掃除の必要があるのであろう。

AOpen all nite Fri Sat live music (ワシントンD.C.の本屋さんで)

 「オールナイトでやっています 金土は生演奏付き」(NIGHT が NITE になっているのがいかにも現代アメリカ的)

 ワシントンD.C.のデュポン広場近辺には洒落た本屋さんがいくつもあって、様々なジャンルの本が揃っていた。写真の店は、結構学術的な本も売っている店で、手前の本棚の側面にSの抜けた SCIENCE の文字が読み取れる。上記の掲示は実は電気による掲示で、その下はなんと喫茶室(もっとも禁煙であるが)になっていて難しそうな哲学書のようなものを若者がコーヒーか何か飲みながら読み耽っていたのが印象的であった。手前左側のガラスのケースにはパイのようなお菓子が入っていた。

3 終わりに

 標識や掲示物から見えるアメリカと大げさなテーマを掲げたが、何かモザイクではないが断片的提示になってしまったのではないかと危惧している。しかし、道路標識に見える自己責任的考え方や身障者や子供のような弱者への配慮、自然環境保護へのきめ細かいうったえ方、工事現場の看板の掲示文のセンス、地下鉄乗車カード販売方法の合理制、国のために死んだ人々への特別な気持などから部分的かもしれないがアメリカの何かを感じていただければ幸いである。