個人研究 中学校編 usajh

個人研究・中学校編

(1)アメリカの絶対評価 刈谷市立刈谷東中学校 犬塚章夫

1 はじめに
 日本でも話題になっている絶対評価であるが、いかにきちんとした評価基準を作成するのかが話題の中心になっているのではいだろうか。アメリカを訪問して、ホストファミリーが小学校と高校の教師であったことから、この点についてのアメリカでの様子を聞くことができた。また合わせてミネソタ大学で聞いたコーガン教授のレクチャー資料から、アメリカの絶対評価についてまとめてみたい。

2 アメリカ教育事情(ミネソタ大学コーガン教授のレクチャーより)
 本来アメリカでは州の数だけ教育システムがあると言われるほど、それぞれの州で独自の教育を進めてきた。アメリカの連邦憲法に教育のことが含まれないことからも、それはわかる。しかし、20年前当時のレーガン大統領が、中曽根首相当時の日本を訪問した際、お互いの教育システムについて刺激をしあい日米の共同プロジェクトが始まって以来、変化が見られてきた。アメリカは、日本の教育指導要領をまねてナショナル・カリキュラムを作成する動きがでてきた。以来、ローカルコミュニティに学校の運営権限があったものが、州へ移行し、その州を連邦政府がコントロールする方向が見られてきた。しかし、連邦憲法に規定のない教育であるので、国に強制力があるわけではない。そのため、州はコミュニティに対して、連邦は州に対して、採用しなければ予算を配分しないという方法で、従わせる方向にすすめてきている。たとえば、学校経営では、コミュニティは州から予算をもらうため、@カリキュラム、A教員免許、B卒業要件などについて州からのコントロール下にある。@については、州がだしてくるカリキュラムのガイドライン(一般的な内容であるので自由度はかなりある)に従う。Aについては、リーディングやコンピュータなどのスキルを持っていないといけない。Bについては、英語3単位、数学2単位などといった条件がでてきて、統一テストなども行われるようになってきた。また、そのような統一テストを行うために、州がテストプログラムを採用しないとさらに上の連邦からの予算がカットされるようになっている。さらに、今までかなり内容がばらばらであった教科書の内容統一が必要になってくる。教科書会社もナショナル・カリキュラムに合わせた内容で教科書を作成するようになってきている。教科書はローカル単位で選ぶことができるが、州で教科書をいくつか選び、その教科書を採用しないと予算がつかないようにもなっている。

3 ナショナル・カリキュラムのパフォーマンス・スタンダードを見て
 ホストファミリーにナショナル・カリキュラムのパフォーマンス・スタンダードを見せてもらった。カラーの冊子で、特徴としては、具体的に各学年終了時にどのような姿であるべきかが記入されており、具体的にその実例がいくつか写真で載せてあった。以下にその実例をあげてみる。
 資料2の英文の一部を紹介したい。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
小学校1年
ライティング基準2:目的や結果を書く
■作文を書く:
できごとを書く、お話を作る
 小学校1年では主として自分自身の経験や知識を基にして作文を書こうとします。彼らは自分でお話を作ったりするほかに、それまでに読んで聞かされたお話から表現を借りたりそれを作り直したりしてお話を作ったりもします。彼らの作るお話は徐々に長く、詳しく、わかりやすく、連続性をもって書かれていくようになります。
 この学年の終わりまでには、小学1年生が、次のようなことに留意して、自分でお話を作ったり自分の行ったできごとをお話しにしたりすることができるようになることを期待している。
◇ 連続したできごとのどこから書き始めるかを自分で決めていることがわかる。
◇ 読者が2つ以上の連続したできごとを書いたお話(創作文であれ、書き直した文であれ)を容易に理解できる。
◇ 作文にあった絵や図を用いることができる。
◇ 次のような書く技術を用いることができる。・・・会話文を使う。場所や時間を表す言葉を使う。「おわり」「この日のことを忘れない」などお話の終わりを示す言葉を使う。
(以下、省略)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
このような記述の後、「土曜日に」という生徒の作文が写真で載せてある。以下、その写真と原文を示す。( )内は正しい単語として活字で示してあった。またその横にはこの作文の評価が書かれている。

On Saturday
―――――――――――――――――
On Saturday I went to look at the lights. And frum(from) my mom and dad told me thet(that) we wur(were) going. Thee I got on my cot. Then we wet(went) to look at the lights. On the the strets(streets) we sol(saw) ol(all) uv(of) the pepul(people) thet(that) wur(were) on thut stret(street), hud bels(bells), andujuls(angels), and cande(candy) cungs(canes). And I sol(saw) lights most uv(of) the time. And I …

(この作文の評価 英文和訳)
この作文は、小学校1年の作文としては良い例である。主となるできごとを様々なできごとで詳しく記述している。作文は彼女の個人的な話として組み立てられている。これはいわゆる「起きてから寝るまで作文」で、できごとの起こった順番に書かれている。しかし、一つの話題をずっと書くことができている。そういう意味でこの作文は、小学校1年の基準を満たしていると考えられる。(以下、略)

4 通知表を見て
 アメリカの学年は、9月から始まり5月に終わる。ミネソタ州セントポール市では、通知表は秋と春にSummary Report(資料3・4・5)が、そして学年末にEnd of Year Report(資料6)が保護者に渡される。通知表はコンピュータ入力され、2部プリントアウトし、1部は保護者に渡し、1部は指導要録のように学校で保管する。小学校では三者懇談会を行い、その場面で通知表を渡しながら懇談が行われる。通知表の最初には、Academic Improvement Plan(学力向上計画案)という欄があり、小学校2年生の場合、math, reading, writing(算数、読み、書き)のそれぞれについて、授業内・授業外・家庭・その他で、どのような学力向上が必要であるかが示され、実際に進歩の度合いが見られるかどうか署名欄がある。秋・春2回、評価が行われ評価基準で合格点が取れない場合にどう補習をしたり家庭で学習機会を持ってもらったりするのか具体的に話し合いがなされる。学年中にその項目について成果が見られた場合はよいが、そうでない場合は、夏休みにサマーセッション(夏補習)に参加しなくてはならなくなる。さらにそのサマーセッションにおいても成果が見られない場合は、たとえ小学生であっても落第がある。実際、昨年度もホストファミリーの担当したクラス(小2)で1人落第者がいたそうである。評価基準はそれほど厳格であり、合格ラインに満たない者に対して、教師・保護者が責任を持って指導していくシステムになっているのに驚いた。
 以下に、小学校2年生の通知表の実物資料と、その一部の内容紹介を示したい。
(通知表の内容 和訳)

(資料3)
サマリー・レポート 番号 氏名
学校名 学年 教師名 三者懇談終了印

学力向上計画案
生徒の 状況 授業外 課外 家庭 その他
学習  数学
所見  リーディング
    ライティング
進歩の証明 再評価 予定日 実施日
保護者サイン 生徒サイン 教師サイン
校長サイン  他の教師サイン

個人内・社会性向上度 秋・春    所見
個人内
 学習への意欲   まれ 時々 よく 常に
 授業ルール遵守  まれ 時々 よく 常に
(資料3 秋・春の通知表1ページ目)   行動への責任   まれ 時々 よく 常に
社会性
    礼儀正しさ    まれ 時々 よく 常に
 他の生徒との関係 まれ 時々 よく 常に
 教師との関係   まれ 時々 よく 常に
 グループ学習   まれ 時々 よく 常に
 他への配慮    まれ 時々 よく 常に
 権利への敬意   まれ 時々 よく 常に
 平和的解決    まれ 時々 よく 常に
習慣と努力
 課題の計画性   まれ 時々 よく 常に
 創造的時間利用  まれ 時々 よく 常に
 提出期限遵守   まれ 時々 よく 常に
 (一部、略)

(資料4)
基準に対する評価

読み方、聞き方、見方
 個人的進歩度合い 進歩必要・・・・期待以上
リーディング・レベル 読んだ冊数

(次のページに続く)
(資料4 秋・春の通知表2ページ目)
(評価尺度 Beginning初歩 Developing向上 Proficient上達 Exceptional格別)
文字解釈
 新出単語のつづりと発音 初歩 向上 上達 格別    所見
 新出単語の習得     初歩 向上 上達 格別
 音読          初歩 向上 上達 格別
 文の再構成       初歩 向上 上達 格別
解釈と評価
 読解          初歩 向上 上達 格別
 予測          初歩 向上 上達 格別
 情報の比較       初歩 向上 上達 格別
 事実と意見の分離    初歩 向上 上達 格別
 情報のまとめ      初歩 向上 上達 格別

書く力、話す力
 個人的進歩度合い 進歩必要・・・・期待以上
書く力
 物語を書く       初歩 向上 上達 格別
 レポートを書く     初歩 向上 上達 格別
 手順を書く       初歩 向上 上達 格別
 作文のプロセス理解   初歩 向上 上達 格別
 つづり、文法      初歩 向上 上達 格別
話す力
 理由や例をあげる    初歩 向上 上達 格別
 物の手順説明      初歩 向上 上達 格別 

数学
 個人的進歩度合い 進歩必要・・・・期待以上
数への理解
 名前、比較       初歩 向上 上達 格別   所見
 足し算の理解      初歩 向上 上達 格別
 引き算の理解      初歩 向上 上達 格別 
 掛け算の理解      初歩 向上 上達 格別 
 割り算の理解      初歩 向上 上達 格別

(資料5)
図形、空間、度量数
 時間を読む       初歩 向上 上達 格別
 数を数える       初歩 向上 上達 格別
 図形の創造、分類    初歩 向上 上達 格別
問題解決
 複数の問題解決方法   初歩 向上 上達 格別
 図の利用、情報の整理  初歩 向上 上達 格別
 解決方法の説明     初歩 向上 上達 格別
社会
 人々と仕事    初歩 向上 上達 格別
 地理と文化    初歩 向上 上達 格別
 物の考え方    初歩 向上 上達 格別
 地図情報理解   初歩 向上 上達 格別
 地図作り     初歩 向上 上達 格別

美術
 基礎技術     初歩 向上 上達 格別

調査・研究
 情報収集と発表  初歩 向上 上達 格別

理科           (略)
体育と生涯フィットネス  (略)
技術           (略)

(資料5 秋・春の通知表3ページ目)
 (資料6)
学年末レポート 生徒名など

個人内、社会性、習慣と努力 向上度
 まれ 時々 よく 常に

学年の評価基準に対する評価
読み方、聞き方、見方 初歩 向上 上達 格別
書く力、話す力    初歩 向上 上達 格別
数学         初歩 向上 上達 格別
美術         初歩 向上 上達 格別
調査、研究      初歩 向上 上達 格別
理科         初歩 向上 上達 格別
社会         初歩 向上 上達 格別
体育と生涯フィットネス初歩 向上 上達 格別
技術         初歩 向上 上達 格別

教師の所見

(資料6 学年末の通知表)     次学年進級への評価
                   夏補習の必要度 薦める・必要・必要なし

5 おわりに
 アメリカの通知表は全てコンピュータ処理されている。手間をかけず、生徒の学力向上を願い厳密に評価し、保護者と協力してどう学力を向上させていくか考えていく姿勢に驚かされた。

(2)「GOLD RUSH」から見えるアメリカ合衆国の様相 −米国理解を図る歴史単元開発をめざして−
                                     岡崎市立甲山中学校 尾崎智佳

1 はじめに
 「ゴールデンゲートブリッジは赤いのに、なぜゴールデンなのか?」
このような疑問をもったことはないだろうか。アメリカの歴史を知っていれば、その答えは容易に考えることができる。しかし、新学習指導要領の精選によってアメリカの歴史についてもその内容はたいへん少なくなった。教科書においても「民主国家」「資本主義大国」「多民族国家」など、アメリカを象徴する理念的な言葉は記述されているが、その歴史的経緯の記述も少なく、そのためにアメリカという国の現在の実像もかえって見えにくくなったように思える。
 今回の研修では、「GOLD RUSH」に関連した様々な場所を訪れることができた。そこで、それらの場所での調査・資料収集したことを生かし、生徒に「GOLD RUSH」を核として現在のアメリカの様相が見える(につながる)歴史単元を開発し、米国理解を深める学習の創造を図りたいと考えた。

2 「GOLD RUSH」の授業作りにあたって
(1)「GOLD RUSH」の歴史的位置づけ
 アメリカ史の中でGOLD RUSHとは、1848年、現在のカリフォルニア州サクラメント近郊で金が発見され、それにともない翌年から多くの人々が金を探しに、この地へ流れ込んできた一連の人々の動きを表現したものである。そういう意味からも、特定の年に起こった歴史事件とは異なり、もう少し長いスパンでその動きをとらえ、当時の様子を象徴的に言い表している歴史用語といえる。
 なぜ、当時辺境の地カリフォルニアでのでき事が、アメリカ史上でも名高いでき事として、年表にその名称が刻まれているか。1848年、カリフォルニアで金鉱が発見されたという情報が東部に伝わると翌年1年間だけで、一獲千金をねらい、夢みた者たちが、8万人以上この地へ押し寄せた。それは、アメリカ史の中でも非常に急激な人口の流動であり、それ以後、フロンティア西部の開拓が急速に展開される要因となったのである。また、同じ年にアメリカはメキシコとの戦いに勝利し、カリフォルニアを獲得した。これによって領土を大西洋から太平洋に面した大国となり、GOLD RUSHによる人口移動、そしてその拠点となるタウンの形成は、後の大陸横断鉄道の必要性にもつながるように、アメリカの領土拡大と支配において重要な意味をなしたといえる。
 さらに、アメリカのGOLD RUSHの噂はアメリカ本土だけでなく、ヨーロッパ及びアジアにまで広まった。その情報により、多くの移民がアメリカへ流入してくることになった。その移民の中にはアジア系移民(当初は中国系移民)もいる。以上のことから、GOLD RUSHは、アメリカ国家の領土の拡大、移民国家・多民族国家の形成、そしてアメリカンドリームというアメリカ的価値観の形成にかかわる重要な歴史的でき事であったととらえることができる。

(2)現地研修の成果として(「GOLD RUSH」について知り得た情報)
 A 州都サクラメントと大陸横断鉄道
  サクラメントがカリフォルニアの州都であることを現地へ行って初めて知った。GOLD RUSHの拠点であったという歴史的事実を理解すれば、州都としても納得できる。また、オールドサクラメントでは、当時の大陸横断鉄道の駅を模した場所があった。なぜ大陸横断鉄道がサクラメントを経由したか、その理由もGOLD RUSHがあったからこそである。
B サッター砦とジョン・サッター
 サッター砦は、現在、金鉱発掘の歴史や当時の様子を物語る歴史資料館であった。GOLD RUSH は、1848年に、ジェームス・マーシャルとジョン・サッターの2人が、コロマの製材所で金を発見したことから始まる。しかし、この2人とも第一発見者として名が残っているが、金持ちにはなっていない。マーシャルはサッターの従業員であったからともかく、サッターは砦まで構えていながら、まだフロンティアであった当時のその地域情勢に
より、歴史に埋もれてしまったのである。
 C 49's(フォーティーナイナーズ)
  49'sとは、金鉱が発見されたことが東部に伝わり、1848年の翌年(1849年)に白人たちが西へ西へと移動し、このカリフォルニアの地へ押し寄せてきた人々のことを表した言葉である。現在のカリフォルニア州のアメリカンフットボールのチーム名は、この49'sの意味を込めて名づけられたということである。その後、海外からの移民も含めて多くの人々が押し寄せてくることになるが、49'sのみGOLD RUSHを興した人々の意味も
込めて、そう呼ぶそうである。
 D 中国系移民
  サッター砦の資料館には、当時の金鉱発掘の様子の写真が多く掲示してあった。その写真の労働者に、辮髪をした中国系移民の姿を発見した。アメリカの領土が、まだ太平洋にまで面していなかった時代、アメリカとアジアとのかかわりはあまりなかった。GOLD RUSHにおいてカリフォルニアの地へ領土を伸ばしたことは、アメリカとアジアとの関係にも大きくかかわっている。それがこの写真の中国系移民の人々である。当時アヘン戦争で
国際的にも遅れをとっていたことから、GOLD RUSH
の噂によって、多くは自ら志願して労働者として移民してきたようである。
 E ハーストキャッスル
  今回の研修では、アメリカの富豪のすごさを物語るハーストキャッスルにも訪れた。その城を築いたハーストは、GOLD RUSHの後の新聞王ということだが、実はそのハーストの父は、GOLD RUSHで金鉱を掘り当てて巨額の富を得たアメリカンドリーマーであった。
(3)教材化の視点
 本研究の目的は、「GOLD RUSH」という歴史事象を焦点化してアメリカの歴史認識を通して、現在のアメリカの様相が見える歴史単元の開発にある。その意図を踏まえて、次のように教材化を図りたい。
 @ 現在のアメリカに残る目に見えるGOLD RUSHに関係のある事象を切り口にして、アメリカの歴史上に起こったGOLD RUSHへの生徒の関心を高め、現在とのつながりを感じ取れるようにする。
 A GOLD RUSHの歴史的理解では、ジョン・サッターという人物を取り上げ、その生涯を追うことで当時のアメリカの情勢とGOLD RUSHの起因について考察する。
 B 中国系の移民労働者及び当時のアメリカの移民者数の変移から、アメリカの移民国家としての様相を理解させ、GOLD RUSHの歴史的影響及び現代につながるアメリカの背景を考察する。

3 授業の構想
(1)単元の目標
 第一発見者ジョン・サッターの生涯から当時のアメリカの状況を見渡し、GOLD RUSHが起こった原因及びそれによる西部の開発、アメリカ国家の拡大と発展につながったことを理解する。そして、GOLD RUSHはアメリカ国内の歴史にとどまらず、世界の人々にも影響を与え、アメリカの多民族国家しての要因の一つとなっていることを理解する。
  
(2)指導計画

時数 学 習 課 題 学 習 内 容 備考(教材資料)
第1時 なぜ、サンフランシスコのNFLのチーム名に、49'sの名をつけたのだろうか。 ・GOLD RUSHに関係ある現在の事象
・カリフォルニア州の歴史的特色
・現在の事象の写真
・カリフォルニア州の地図と鉱山の跡地
・金発見者の写真
第2時 第一発見者ジョン・サッターが金を発見して、わずか一年でなぜGOLD RUSHが起こったのだろう。 ・GOLD RUSHの起因
・人々への影響と東部の人々の西進
・GOLD RUSHの意味
・ジョン・サッターの写真
・カリフォルニア州の人口の推移
第3時 第一発見者ジョン・サッターは、なぜ金持ちになれなかったのだろう。 ・ジョン・サッターの生涯
・当時のアメリカの様子
・アメリカの領土の拡大
(カリフォルニアの割譲)
・サッター砦の写真
・サッターの生涯
・絵本の読み取り@
・領土の拡大資料図
第4時 GOLD RUSHは、アメリカにどのような影響をもたらしたのだろう。 ・大陸横断鉄道とアメリカの発展
・中国系移民の流入と世界の動き
・絵本の読み取りA
・大陸横断鉄道図
・移民の統計表
・中国系移民の写真
第5時 現代版「GOLD RUSH」新聞を発行しよう。 ・GOLD RUSHの歴史的影響のまとめ
・現代版「GOLD RUSH」新聞作り
 

(3)授業展開案
 @ 第4時の目標
 ・GOLD RUSHによる人口の増加は西部の開発をもたらし、アメリカの発展につながっていったことを理解する。
 ・GOLD RUSHは世界の人々にも影響を与え、アメリカへの多くの移民の流入の要因となったことを考察する。
 
 A 展開

段階 生 徒 の 活 動 指 導 上 の 留 意 点
導入 1 当時の状況の絵から、当時の様子を読み取る。 教材資料T
・アメリカの絵本から、当時の様子として感じたことを3つ書かせる。
教材資料U
・補足資料としてサクラメント近郊の地図を示し、ニュータウンの形成について説明する。
展開 2 GOLD RUSHによるアメリカ国内の変化について考える。




3 なぜ中国人(アジア人らしき者)が金発掘現場で働いているのか考える。

4 移民者数の変化のグラフを読み取りGOLD RUSHがもたらした他の国への影響について考える。

5 他国から来た移民の人々は、その後どうなったか推測する。
教材資料V
・大陸横断鉄道の絵図を利用して、なぜサクラメントを結んだかを考えさせながら、アメリカ合衆国の発展にGOLD RUSHが寄与したことを考察させる。
教材資料W
・中国系移民の写真から、その存在を確認させ、なぜアメリカにその人たちがいたのか考えさせる。
教材資料X
・GOLD RUSHの時期の国別移民の統計表から、移民数の変遷とその影響について考えさせる。
教材資料Y
・中国系移民を再度例にして、その後どうなっていったか推測する。
・その後のアジア系移民の増大とその勤勉さについて補説を加え、中国系移民や日系移民のアメリカ社会の中での生き方について感じ取らせたい。
整理 6 GOLD RUSHによる影響を整理し、ノートにまとめる。

7 本時の授業感想を書く。
・GOLD RUSHによって社会的に何が変わったか、また国際的な視点でどういう意味があったかということを踏まえてまとめるように指示する。

 B 教材資料
資料T        資料U












当時の町(ニュータウン)の様子         サクラメント近郊地図
(『America in the Time of Lewis and Clark』P38より)      (『California Gold』P59より)

資料V        資料W












大陸横断鉄道絵図         中国系移民を使った金発掘現場
(『早わかりアメリカ』P51より)  (『America in the Time of Lewis and Clark』P38より)

資料X       資料Y











アメリカへの移民数の変化         中国系移民のその後
(『早わかりアメリカ』P55より)           (『早わかりアメリカ』P130より)
5 おわりに 
 アメリカ合衆国の歴史は、日本と比較してたいへん浅い。だから、歴史資料館に行ってもそのほとんどが日本の近代以降の歴史資料ばかりである。しかし、その歴史資料が物語っていることは国家の歴史として、民主国家をいかにして形成してきたかということ、そのコンセプトはたいへん明確に伝わってくる。さらに、アメリカでは地域のコミュニティ形成の歴史を重視しており、まさに現在の生き方に直結するような歴史観の形成を大切にしているということを強く感じた。
 特に、シカゴ歴史協会で展示してあった星条旗に関し
ては、いくつもの星条旗の変遷がアメリカの発展の姿を物語っていた。民主国家として現在も発展し続けているアメリカ、星条旗にはその形成の過程がまさにシンボライズされているように私には思えたのである。アメリカの町並みを歩いていると、建物や公共物に星条旗が翻っている。日本のように一時の国体思想を象徴する日の丸というような概念ではなく、まさに「合衆国」形成の誇りであり、だからこそ星条旗にはアメリカ人の魂が込められているといえるのであろう。
 決してアメリカが歴史教育に力を入れているとは思わ
ないが、日本のこれからの歴史教育を考えるとき、改めてその歴史教育の中で何を教え、何が大切かもう一度問い直しを図らなければいけないように思えた。シカゴ歴史協会で、南北戦争時の南部の黒人奴隷を縛っていた鉄の鎖が当時の写真といっしょに展示されていた。その鉄の鎖の前で、黒人と白人の女の子たちが、その使い方を笑いながら演じて確認しあっていた。その一場面に遭遇した時、合衆国であるアメリカの姿を見ただけでなく、アメリカの歴史教育の価値を強く感じることができた。

参考文献
1) 紀平英作編 『アメリカ史』 山川出版社 1999年
2) 朝日百科世界の歴史 『生活21―フロンティアと移民(19世紀第10巻)』
朝日新聞社 1991年
3) 池田智・松本利秋 『早わかりアメリカ』 日本実業出版社 2000年
4) ブレ−ズ・サンドラール 『黄金(ヨハン・アウグスト・サッター将軍の不可思議な物語)』 白水社 1986年
5) 岡本孝司 『ゴールドラッシュ物語』 文芸社 2000年
6) Sally Senzell Isaacs,  America in the Time of Lewis and Clark 1801to1850,
Heinemann Library ,1998
7) Phyllis Zauner and Lou Zauner,  California Gold , ZANEL PUBLICATIONS,1999

(3)アメリカ合衆国の『大きさ』を実感する教材の開発 西加茂郡三好町立北中学校 山北 淳

1 はじめに
 現行指導要領では、世界地理が2年次の学習内容になった。1年次に日本地理を学んだ後に世界の国々のうちいくつかを選択して学習することとなったわけだが、多くの学校でアメリカ合衆国を題材として学習を行っていることと思われる。
 日本との比較を行う上で、アメリカという教材のもつ1つの意義は、その「大きさ」ではないかと思われる。生徒は1年次に日本地理を学ぶ中で、我々の先人たちは、国土の多くが森林に覆われ、限られた平地をいかに効率よく利用してきたか、ということに気づくだろう。そして、その上でアメリカの広大さを知ったとき、様々な発展的思考が生まれてくるものと思われる。これまでにも、企業的農業、ハンバーガーや飲み物のサイズ、校庭の広さなど様々なものを扱い、アメリカの広大さを学ばせている実践例が見られる。
 そこで、日本で暮らしていては気づきにくい、そんな新たな切り口から、アメリカ合衆国の「大きさ」を実感できる教材をつくることはできないかと考え、今回のプロジェクトに参加させて頂いた。

2 生徒の意識
 本校の生徒がアメリカに対してどのような印象を持っているか調べたところ、ほとんどの生徒が「大きな国」と答えている。国土の広大さ、経済力・軍事力の大きさを意識している者が多く、中には移民を受け入れる懐の大きさを念頭において解答した者も見られた。しかし、知識としてその大きさを知ってはいるものの、実感として捉えることのできる者はあまり多くないという印象も受けた。
 このようなことから、彼らの様々な既存の知識と比較することができ、驚きを与えられる教材の開発の必要性を強く感じた。そのような意味合いから、食べ物のサイズというのは有効な教材だと思われる。しかし、前述したように、これまであまり取り上げられなかったものを扱いたいとの思いから、「川」「水運」を取り上げることにした。
 本校の学区には、境川という河川が流れている。三河と尾張の境となる川であるため、その名がつけられた川で、理科、総合学習でも境川の水質調査などが行われており、生徒の日常生活とも深くかかわっている。また、三好の地は愛知用水により、農・工業が発展した地でもある。社会科の地域教材を使い、「水」と自分の生活を考える経験も多く積んできている。そのようなことから、題材を設定した。

3 ミシシッピ川のもつ教材性
 生徒がイメージしている「川」は日本的な、山から一気に海まで流れる、川幅も細い急流である。しかしアメリカの多くの川は、流量も豊富で、水源から河口まで長い距離を流れる。アメリカ人がイメージする「川」は、川幅も太く、ゆったりと流れる大河である。 その代表となるのが、北アメリカ大陸を縦断する北米最長のミシシッピ川であろう。ミシシッピ川はアメリカ合衆国中央部を南流してメキシコ湾に注ぐ川で、ミネソタ州北部のイタスカ湖に源を発する。ミズーリ川、イリノイ川、オハイオ川、テネシー川などの支流を集め、河口には大三角州をつくっている。日本の領土の長さが概ね3000kmであるのに対して、ミシシッピ川の全長は3780kmである。この長さが生徒を惹きつけるのではないかと思われる。
日本との関わりの深さも重要である。
 日本は、小麦、大豆、とうもろこしなど、食生活を支える重要な基礎物資のほとんどを海外に依存しており、その最大の輸入先がアメリカ合衆国である。
 これらの穀物が生産されるのはミッシッピ上流からロッキー山脈東麗に至る中央平原である。この有数の穀倉地帯で収穫された穀物は、まず陸路でミシシッピ川やその支流のイリノイ川沿いのグリーンエレベーターに約1ヶ月かかって集荷される。河口部に当たるニューオリンズまではバージと呼ばれる「はしけ」で運ばれるのだが、これに要する日数がさらに約1ヶ月かかる。大型船に積み直され、パナマ運河を経由し、太平洋を越えて日本に着くまでにはさらに約1ヶ月を要する。このようなルートを通り、約3ヶ月をかけて日本の食卓に上るのである。その中でミシシッピ川が果たす役割は大きいといえよう。

4 ミシシッピ上流部の景観
 今回のプロジェクトではミネソタ州ミネアポリスに滞在する機会を得た。ミネアポリス、セントポールはミシシッピ川を挟んで相対する「Twin Cities(双子の町)」であり、またミネアポリスの名は、アメリカ先住民コタ族の言葉で「水」を意味する「ミネ」と、ギリシャ語の「都」を意味する「ポリス」から付けられたものである。「川」と関わりの深い町と言えよう。
 ミネソタ州内にあるミシシッピ川の最上流部では、歩いてわずか6歩ほどの川幅であるのに、同じ州内のミネアポリスでは貨物船が航行できる川幅にまで広がっていることもアメリカの大きさを印象づけるであろう。滞在中何度も川の流れを目にし、ミシシッピ川に浮かぶバージの様子も眺めることができた。上流部とはいえ、大型の貨物船も航行しており、我々がもつ川のイメージとは大きく異なっていた。川の至る所にダムがあるということを聞き、見学に出かけたのだが、日本にある高低差の大 きなダムではなく、落差数メートルほどのもの ばかりだった。何キロかおきにこのようなダム が点在しているのだそうだ。このダムで作られ た電力がミネアポリス市内で利用されていると のことだった。日本のように山岳部で水力発電 を行うと、電気抵抗が生じ、電線を伝って電力が都市部に供給されるまでのロスが大きいが、ミネアポリスでは都市の近くで発電を行っているため、非常に効率的な方法だと感じられた。実際に川面近くまで降り立ってみると、中規模の船、レジャーボート、マリンジェットなどの往来が激しい。アウトドアスポーツが浸透しており、カヌーで川下りをする人々の姿も目にすることができた。そこで気になるのが、ダムによって遮られた川でどのように船が航行するかということである。ダムの横には「ロック」と呼ばれる、上流部下流部の2箇所に水門のある区間が設けられている。船がロックの中に入ると、水位を調節し、川の水が必要以上に流れることなく船を航行させることができるのである。この方式はパナマ運河などで採用されているものと同じ仕組みである。例えば、上流側から船が来た場合、ロックの中に注水し、上流側の水位と同じ高さまで上げるのである。そして、下流側のゲートは閉めたまま、上流側のゲートを開ける。これにより、船は自然にロック内に入ることができる。次に上流側のゲートを閉め、下流側の水位までロック内の水を排水していく。水位が同じになったところで下流側のゲートを開け、船が出て行くので ある。この間に要する時間は5分以上である。どんなに小さな船が来ても、この作業 は行われる。例えば、一艘のカヌーのためであってもロックは作動される。しかも、この作業に対して、通行者は一切費用を支 払う必要がない。無料でこの大変な作業を 行ってもらえるわけである。船の往来が激 しい時間帯には、ロックは常に動き続ける ことになるそうである。昨年9月の同時多発テロ以後、ロックは 軍の管轄になっている。案内をしてくれた 方によると、以前よりも警備が厳重になっ たそうである。このことから、水運がアメ リカ合衆国にとっていかに重要なものかが 感じられるであろう。

5 教材化のために
このロックを導入部で活用する授業案を作ってみた。
ミネアポリス近辺のミシシッピ川の様子を想像させる。
アメリカ大陸を縦断する川であることを地図上で押さえた上、最上流部からミネアポリスまでの距離を計測し、予想をさせる。
ロックの様子を説明し、なぜこのような施設が必要か、考えさせる。
このような施設の必要性は、活発な水上輸送によって生じている。ここから、広い国土をもつアメリカ合衆国の水運が見えてくるのではないかと思われる。
右の写真はバージを説明するもので、ロックの壁面に展示されていた。穀物などを大量に輸送できることが書かれている。
左の写真は水運の有効性を示したものである。1艘のバージは、貨物列車ならば15台分、トラックならば58台分に相当し、一度の大量の物資を運ぶことができることを説明している。
このような水運が発達したのは、穀物など大量の物資を作り出し、それらを大量に消費するからである。日本でも川幅が太ければ、上流部まで船が上ることができるのだが、日本の河川の状況から考えれば不可能である。水運を通して、日本との違いが見えてくるだけではなく、アメリカの姿、広大さも見えてくるのではないかと思われる。
この導入の後にアメリカの農業などを学習すれば、より実感を伴って理解できるのではないかと考える。