はしがき
一寸ちょと御免をかふむりまして日本の御百姓様日本の御商賣人様日本の御細工人
職人様其外士族様御醫者様船頭様馬かた様猟師様飴賣様お乳母うば様新平民
様共御一統ごいつとうに申上まする。さてあなた方ハ皆々御同様に一つの大きなる
たからを。お持ちでござる。この大きなる賓とは何んでござる打出の小槌
か。錢のなる樹か金か銀か珊瑚か。だいやもんどか。但しハ別品の女房
を云ふか才智すぐれたる兒子こどもの事か。いや〳〵こんなものではない。ま
だ是等よりも一層尊ひ一つの賓がござるそれが即ち自由の權と申すもの
じゃ。元来あなた方の自由權利は仲々命よりも重きものにて自由が無け
れば生きても詮ないと申す程の者でござる。いかさま金銀や珠玉の話し
ではありますまいが。さらば折角生きてあるあなた方。少しも卑屈する
ことなく此民權を張り自由を伸ぶるが。なによりの肝心でござろふ。何
ぜとならば幸福さいわいも安楽も民權を張り自由を伸べずて得らるゝ事ではあり
ません。さらばこそ今此の書中には右の民権を張り自由を伸ぶべしと云
ふの一條小子やつがれ一心を込めて書き述べたれば。あなた方も亦一心を注いで
御覧下され
  明治十二年三月十日
   三千五百万の末弟
                        植本枝盛記