「工房だより」9906

韓国の1973-1994











金鐘必首相訪日協賛企画なのでしょう、NHKの衛星放送で韓国映画の2本建てをやっおり、 「韓国版お葬式」だけででやめておけばよかったのですが、 「太白山脈」まで見終わると午前5時でした。考えて見ると金鐘必首相もこの時代の人なのですね。

「韓国版お葬式」は伊丹十三の「お葬式」を見た韓国の映画屋さんが、 「お葬式のやり方も知らない日本人が、それで映画を作ろうなんざ、1000年早いっ。 本場もののお葬式をたっぷり見せてやる。」という訳で作ったリメイクでしょう。 日本と同様韓国もこれから高齢化社会を迎える訳で、事は深刻。

「太白山脈」は光復から「人民共和国」を経て「6.25」までを描いた歴史超大作。 「委員長」が金成日のそっくりさんであるなど、南下してきた朝鮮民主主義人民共和国勢の描き方が、 すこしステレオタイプであることをのぞけば、細かなところまできちんと作り込んだ良い映画で、 少年Cに背景説明をしながら鑑賞しました。「現実はあんなものじゃなかった」というところでしょうが、 「8月15日に降伏しないで、もう2-3年がんばっていれば、 朝鮮戦争の代りに日本で同じことをやっていたのですよ。」 と言われなければ気が付かない日本人にとって、内戦の描写はやはり恐ろしかった。

良い映画だなと思ったのは、一昔前の「洛東江の戦い」みたいな「共匪もの」の映画に較べ、 とりわけ軍・警察・西北青年団などがきちんと歴史を踏まえ描かれていたこと。 歴史的には少しずれてはいても、「問答無用」を旨とする大日本帝国陸軍士官学校出から、 「武班も文班と共に両班の一半」である、という韓国陸軍士官学校出へと移り変わる様が、 日本人にも解るように描かれていました。

金嬉老さんが仮釈放で韓国へ旅立ちました。静岡生まれ、静岡県育ちのこの人にとっては韓国は他郷です。 清水のやくざと渡り合った頃の面影を残しながら、随分歳をとって表情が丸くなっていました。 しかし「無期懲役の所、高齢でもあり、改悛の情が見られるので、」という訳での仮釈放であります。 日本では彼の様な「一時の激情に駆られての行動」「怨恨による犯行」は犯罪なのです。 確かに事件における金嬉老の行動は、小林旭の真似をしたヒロイズム、みたいなところもあるにはありますが、 「恨」に従って行動したとも言えるのです。「しかたがない」と諦めるのが和を以て貴しとなす我が国の美風ですが、 「恨は晴らされなくてはならない」のが彼の地の社会正義なのです。

我が国では大平洋戦末期に没義道を行った軍人のことなど、国民の大方は忘れてしまっていますが、 彼の國では軍出身者から金大中さんに政権が移ったこともあり、「太白山脈」の様に、 50年前の内戦の一部始終を、微に入り細に渡って非理を究める映画が作られています。 三十八度線で「北の両班と南の両班」が半世紀に渡って互いの非を事擧げしているのも、 これと同じ土俵での出来事で、俳句の様に「なんちゃって」と嘯くのが好きな日本人には良く理解出来ないことです。

事件における金嬉老の行動を日本人から見ると、 小林旭から高倉健に続く「えーい、もう我慢出来ねえ」と同じにしか見えないのですが、 理不尽には没義道で、みたいな我々の「えーい、もう我慢出来ねえ」と、 何百年掛かろうとも非理を究めなければならない、 という正義の上に据えられた「恨を晴らす」と言うのとは少し違う気がします。 仮釈放も金鐘必首相訪日協賛企画でしょうが、高倉健の「えーい、もう我慢出来ねえ」 と金嬉老の「えーい、もう我慢出来ねえ」との違いをお互いに理解しあうのが、 彼の地における日本文化解禁の目指すところでしょう。 果たして「金嬉老裁判」はこうした日韓文化交流に耐えうるものであったかどうか、心もとないものがあります。

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