産業革命

2014.12.25

産業革命
鉄骨造

石の穴と木の巣

長い間人が利用できるエネルギーは

生物エネルギー
人力・馬力・牛力・犬力・猫力・奴隷力など
環境エネルギー
風力・水力・潮力・波力など
であり、暖をとるための熱源も、太陽熱を主とし、薪などバイオマスでこれを補った。ところが18世紀後半、それまで熱源として利用されていた石炭を、動力源として利用することが始まり、19世紀にはこれが爆発的に広まった。いわゆる産業革命だ。これによって鉄の建築への利用が始まった。18世紀には鋳物で作られた橋が登場し(教科書p154)鉄の精錬技術の発達とともに、鉄骨建築が広がっていった。

「冬は穴に住み、夏は巣に住む」というのは、動物でもやることなので、人類始まって以来してきたことだろう。「穴」は地形であり、「穴」を原型とした建物は人工的な地形とも言うことができる。そのため、理想的な寿命は「永遠」となる。

これに対し「巣」は動物に見れば、繁殖行為と子育てのための仮設物であるので、理想的な寿命は家族形態が変わるまで、となるだろう。資源という面からみれば「穴」が有限であるのに対し「巣」は繰り返し作られる。

近年「バイオマス」という言葉で表現されるように、生物由来資源だけが持続可能な資源であり、非生物資源は有限であり、節約して長持ちさせるしかない。

化石燃料

18世紀後半に始まった化石燃料によって、建築物にも鉄・コンクリートといった新しい材料の利用が急速に広まった。また重量物である構造材の輸送が広がり、土地ごとに近隣で産する建材を利用するだけだった構造が、地域を超えて使われるようになった。

木造・石造・鉄骨造は主要構造体をなす建材の、物理的な性質が全く違う。

      比重     熱容量     熱伝導率    
1000kg/m3 kj/kg/K W/m.K   
木材 0.6 0.08 0.15
石材 2.5 0.7-0.8 1.5-2.8
7.8 0.45 72

それらを組み合わせて各種構造を作るのだが、それぞれの構造ごとに床面積あたりの構造重量なども違う。

      床面積あたり 
      構造重量     熱容量     構造部断熱性   
木造
RC造
鉄骨造

こうしたことから設計にはそれぞれの注意事項がある。建築史の視点からこうした構造の違いによる、使われ方の歴史の違い振り返ってみよう。

石造・RC造

紀元前のメソポタミア地方における「普通の家」は、日干しレンガの壁に草の屋根といったものだろう。日干しレンガは集中豪雨が来れば崩れてしまう。「永遠なるもの」を求める宗教建築・国家建築のようなものでは、日干しレンガから石造へと求めるところが変わっていったのだろう(教科書p70ー)。

ヘブライ教・キリスト教.イスラム教では「宇宙のすべては7日間で神が作った」という教えがあり、近代科学が発達するまで、世界の姿は神が作った時のままに、世界の終わりまで変わらない、という考え方があったようだ。そうした宗教の元では宗教建築の寿命は、永遠であることが求められよう。

現在でもサン・ピエトロ寺院のようなヨーロッパの教会建築では、石造の厚さ5mを越す壁のせいで、中に入ると夏は涼しく、冬は暖かい、というのを実感できる。石造建築の熱容量の大きなところから来るものだ。

RC造は石造・レンガ造などの構造的弱点を、鋼材の引っ張り強度で補ったもので、構造強度からは優れた性質を持つ。ところが熱特性から見ると、壁・屋根の熱容量が木造・鉄骨造などに比べて数十倍に達する点が長所ともなり短所ともなる。

構造体が室温に近い適温でなく、外気温に近い場合、冬季に躯体が冷えたら温めるのに多大な熱量を要する。夏季には高熱を帯びた躯体を冷やすのにさらに多大な電力を要する。構造体を室温に近く保つためには構造体の外側を断熱してやるのが効果的だ。

マンションでは熱特性から考えると中間階の真ん中の住戸が経済的だ。自分で空調をしなくても隣家と上下階の居住者が壁と床・天井を適温にしてくれるので、廊下廻り・窓周りの外壁面からの熱負荷だけを空調してやれば良い。

RC造の歴史の長い国では、コストをまず断熱にかけることが行われている。外壁をコンクリートブロックなどによる二重壁にしてやる、中間の空気層に断熱材を充填してやるなどが行われてきたが、最近米国などの超高層ビルでは外壁外部にウレタン系吹付断熱材を用いることも行われる。


San Fransisco Invites The World/Chronicle Books/1915-1991

古典建築の原型となったギリシャ神殿の形は、木造建築を模したものだ、という説もある。であれば、ギリシャ神殿の形を木造でも復元できる、という試みもあっただろう。図は1906年の地震で壊滅したサンフランシスコで、1915年に開かれた復興記念の万博の際に建てられたオレゴン館。木材のプロモーションということで実物大のギリシャ神殿を木造で復元している。

木造

東ヨーロッパで長く木造建築が使われたのは、近くに石材が手に入らない、という事情もあっただろう。ゴシック建築を見ても、その原型イメージは木造建築に求められよう。遠くから建材を運ぶのは、鉄道が発達した19世紀以降だ。それとともに丸太小屋ならば断熱に優れた建物を作れる、という着眼点もあるだろう。

物理性能からみた木造建築の特性と同時に、寿命についても西洋と日本とでは考え方の地があることに着目しておかなければならない。

「世界の姿は神が作った時のままに、世界の終わりまで変わらない。」という西洋の宗教からすれば、長持ちしない物は劣ったもの、と考えられがちだ。世界の終わりまで長持ちする石造建築が本建築であり、100年ぐらいで消えてしまう木造建築は仮建築だ、と見られるのだろう。

ローマ法皇が「神は生物を進化するものとして作った。」として、進化論を公式に認めたのは今年に入ってからだ。ところが日本では「世界の姿は神が作った時のままに、世界の終わりまで変わらない。」という西洋式の迷信にとらわれず、「巡り巡って元のように新しくなる。」という考え方が身についている。ヨーロッパにおける産業革命が「永遠なるもの」との戦いだったのに対して、「新しいものはいいものだ。」という感性が、日本における産業近代化を成功させた理由の一つだろう。

建物であっても長年の時間の経過とともに、劣化してやがて消えてゆく、というのが日本における木造建築のあり方だ。伊勢神宮の式年造営が欧米で注目されるのも、そうした考え方の違いからだろう。

日本で木造建築が広く受け入れられたのには、欧米先進国と比べて、圧倒的に豊かな森林面積を抜きには考えられない。近代的な林業でも、欧米資本による大規模開発には、農業と同じように植民地の時代に発達した「環境を奪う林業」が挙げられる。米国北西部の森林開発は、広い面積に渡って森林を全て伐採するという方法がとられた。今でもそうした全滅林業による環境の変化で、残された森林が立ち枯れを起こしている姿を目にすることがある。

これに対して日本の伝統的な林業は「環境を育てる林業」だったと言って良いだろう。木材生産だけでなく、水源涵養・災害防止など様々な機能をきめ細かく張り巡らし、地域ごとにそれぞれの環境に基づいた特色のある林業が営まれていた。米をとった後で藁が畳床にもなり、屋根材にもなるという利用のされ方が木材でも行われていた。銘木としては「秋田杉」が有名だが、現地を見れば銘木になるのはわずかで、普通の家には地元で取れた普通のスギ材が使われている。普通の杉は地元で消費し、銘木として値が出るものだけを江戸に送って「秋田杉」として売ったのだろう。

そうした伝統的な林業が、木材生産を目的とする、という単機能的な産業近代化によって損なわれた損失は大きい。輸入材が安い、ということで建築用材は輸入材に傾いていったのだが、治水・景観など、伝統的な林業の担っていた多機能の全てを換算すると、決して輸入材が安いことはないのだろうが、そうした「環境を奪う林業」で安く生産される建築用材の輸入は止まらない。

設計基準からも「構造材でもあり、下地材でもあり、断熱材でもあり、仕上げ材でもある」という伝統的な工法が機能分解されて、バラバラに解決を与えられて、木造本来の優れた点は顧みられない。「環境を守るため、山の木を切らないで。」というのは「環境を奪う林業」については言えることであっても、長い伝統を守って「環境を守る林業」のために、木を伐る技術をを高度に発達させてきた我が国では、山を育てる手段を奪うようなものだ。

混構造

最近ではこうした各種の材料の長所を組み合わせてた構造も使われている。図は幼稚園の園舎。大スパンの建物を作るには鉄骨造が適しているが、熱設計ほとんど不可能で適していない。そこでこのケースでは外壁などを木造として断熱性能を確保し、木鉄混合の張弦トラスで屋根を構成している。

上弦材:カラマツ集成材 120mm x 600mm
下弦材:ステンレスバー径30mm

熱性能から見た木造住宅の特性は熱容量が小さなことだ。構造体に熱を蓄えることできないので、すぐに温まるがすぐに冷える、すぐに冷えるがすぐに温まる、というのが木造住宅だ。こうした構造ではRC造など熱容量の大きな構造と違い、空調は室内空気の温度調整にほぼ限られる。

一般的な木造住宅で熱容量の大きな蓄熱部分を探すと、基礎部分に限られるといっても良いだろう。面積あたりの蓄熱容量木造部分の数十倍に達する。木部の外断熱がほとんど無意味なのに比べて基礎部分、特に近年行われているベタ基礎は木造住宅で得難い蓄熱槽だ。

図ではベタ基礎の上を置き床とし、冬季にはここに温風を吹き込んで床暖房としている。高温な暖房ではなく、室内天井近くの空気で基礎に蓄熱する。

このシステムでの現在の課題は夏季の湿気の処理だ。外部から取り入れた高温多湿の空気は、低温の基礎に接すると結露を起こすので、これの処理を工夫する必要がある。

http://www.tcp-ip.or.jp/~ask/house/tenryu/yamm/fandw.html

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