産業革命

2014.12.25

石の穴と木の巣
鉄骨造

鉄骨造

人類が鉄を手に入れて先ず何をしたかというと、刀を作ったらしい。安来鋼など日本の玉鋼は「たたら製鉄」の技術で作られた世界でもトップクラスの鋼だが、広島市北部では戦国時代、たたら製鉄が盛んになりすぎ、森林が荒廃して集中豪雨が頻発したそうだ。2014年の広島市北部の集中豪雨被害は、そうしたデリケートな自然環境を、住宅開発が破壊した結果だろう。

刀には鍛造という困難な工程があり、ヨーロッパ各地に産する自然の鉄鉱石の、古くからの主な利用法は鋳物だった。鉄鉱石と石炭が豊富な英国では、1776年に鋳物の橋が架けられた(教科書p154)。「cole=石炭、brook=小川、dale=谷」なので「コールブルックデール」は日本語にすれば「炭谷川」となる。人が住みついた遠い昔に石炭が出ることに気づいていたのだろう。


現地の博物館では鋳物の文鎮など売っているので、興味のある人は取り寄せてみるのも良いだろう。 http://www.ironbridge.org.uk

1851年ロンドン万博の展示館は「クリスタルパレス」と称する鉄とガラスの563mx124mの巨大仮設建築物だった(教科書p154)。設計は温室業者のパクストンであり、それまで数十年、数百年かけて作られた「建築家」による手作り建築よりはるかに巨大な建物が、近代的な施工図に基づいて8ヶ月の工期で完成した。


http://www.crystalpalacemuseum.org.uk

鋳物に使われる鉄は炭素含有量が多く、もろくてすぐに割れてしまう。これを鋼にするには、古来刀鍛冶が人力で炭素を叩き出していた。19世紀に入ると石炭エネルギーを動力に変えることが始められ、鋼の量産が始まった。とはいえ初期の製鋼法は刀鍛冶をスチームハンマーに替えた様な物なので、高価であった。



それまでの伝統的な都市住宅は石造の外壁と木造の柱梁から作られていた。



鋳物の建材への利用は19世紀に広がった。特に米国ではシカゴ周辺に鉄鉱石と石炭を産するところから、急速に製鉄業が発達した。

シカゴ周辺で作られた鋳物は川沿いに海へ積み出され、各地へ送られた。

しかし鋳物には「脆い」「割れる」という欠点があり、一部の柱には使われたものの、本格的鉄骨造は連続製鋼法が開発されてからとなった。教科書p155

ブリストルではブラネルによって1829年に大規模な吊橋の計画が起こされたが、着工後、工事費の2/3に上る鋼製チェインの資金が調達できず工事は中断、完成したのはブラネル死後の1864年だった。





http://www.cliftonbridge.org.uk

鋼製チェインに変えて鋼鉄のワイヤーを使った世界初の吊橋は、1883年ニューヨークに完成したブルックリン橋だ。

芸術家と技術者

欧米における建築設計史上重要なことは、それまで

「建物の作り方はこれまでも、これからも変わらない。」

と考えられ、「アーキテクト=建築家」は建物の見え方を考える芸術家、と考えられてていたものが、鉄などの近代的な材料の登場により、構造力学などに支えられた技術者が求められるようになったことだ。19世紀を通してこの「芸術家」と「技術者」は対立と協力を繰り返してきたが、現在でもこれは変わらない。



やがてサリバン(教科書p162)などシカゴ派の活躍し、石造の外壁に代えて、鉄骨による柱梁のラーメン構造が採用されるようになった。

20世紀に入ると、エレベータの利用が実現し「摩天楼」の時代が始まった。米国の経済の中心は製造業のシカゴから、商業のニューヨークへと移った。

超高層ビルでは、組石造の外壁と鉄骨の柱梁という構造から、外壁を含む鋼製の柱梁構造を、外壁に代えて構造強度を負担しないカーテンウォールで包む、という構造が一般化した。

「より高く」という競争は「より軽く」でもあり、1973年に完成したニューヨークのWTCでは外周壁の柱梁に代えて、窓枠に構造強度を負担させる、というヴィーレンデール・トラス構造を採用した。ところが航空機の衝突という異常事態は構造耐力の想定外で、110階のビルが30秒余で崩壊してしまったのはご承知の通りだ。

ウィーンではハプスブルグ家の御用建築家オットー・ワグナーが1895年に「近代建築」を表した。若手建築家でなく、それまで古典建築を受け継いできたハプスブルグ家が、路面電車を採用するにあたり、ワグナーに総指揮を委ねたことも驚きをもって迎えられた。(教科書160ページ)

鉄骨造のもう一つの課題は熱的特性だ。外周壁に充分な断熱性を持たせないと、熱伝導の高い鉄によって、構造体全体に外気温が容易に伝わってしまい、建物全体の温度が外気温に近くなってしまう。建設コストが安くても、運用コストが高いという建物になりがちだ。

現在の世界的な建築・都市的な大きな課題は地球温暖化に代表される環境問題だろう。環境建築を実現する上で、大きな力を持つのが木造建築であることは、様々な点から明らかだ。

20世紀型の技術によって近代化を果たした日本の木造建築であるが、21世紀に求められる技術は、近代以前の伝統的な知恵の中に、限りない手がかりが潜んでいると思われる。

石の穴と木の巣
鉄骨造

町並みの歴史