住宅建築の変遷

建物の寿命について

2014.9.18

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建設/滅失から単純に計算すると、現在の日本における住宅の平均寿命が35年であるのに対し、ヨーロッパでは115年であるのだが、再利用・用途変更などを加算すると、それぞれ80年と600年になるそうだ。

しかしこれについては単に年数を比較するだけではなく、寿命の意味合いについても考える必要があるだろう。

人はその昔夏は巣に棲み、

冬は穴に住んだ。

ということが紀元前に出来た「礼記」という書物にあるそうだ。

「穴」は北方系の草原地帯などで発達し、「巣」は温帯ないし熱帯の多雨地帯で良く発達した。 (教科書1−7ページ)

穴に屋根を掛けた住居の大型のものは青森県の三内丸山遺跡などにも見られる。冬見るとまるで雪の塊だ。

「巣」は繁殖用の仮設物なので、雛が巣離れをすると旅に出て、次の年にはまた草を集めて巣を作る。同じ木の枝であることもあろうし、近くの枝ぶりの良いものを探すこともあろう。

「巣」が発達した住居の構成は、インドネシアのトラジャの伝統家屋に良く現れている。

最上部は「カミサマ」の領域となっている。稲の貯蔵に使われる部分であって、カミサマ=稲魂様が、人間の食べる米を下さる。

中間階が人間の居住領域で、床の上に作られた「囲炉裏」で調理が行なわれる。

地上部分はブタの放牧に使われ、人間の落としたものが、そのままブタのエサになる。

そして更にブタの落としたものが大地に還元されて田んぼを肥やす肥料になる、というリサイクルシステムを作り上げている。







巣と穴を組み合わせたものが日本における住居の原型ではなかろうか。

紀元前4世紀から紀元2世紀頃までといわれる佐賀県吉野ヶ里では、竪穴住居とは別の構造を持つ祭祀建築・倉庫・物見台などがあったと考えられる。この頃既に「特殊建築物」という考え方があったのだろう。



中国大陸では北方系の草原地帯の黄河流域で「穴」が良く発達した。平原で横穴の作りにくいところには、大きな縦穴を作って、そこから横穴を掘り込んだ窰洞(ヤオトン)という住居形式が現在でも使われている。

ヨーロッパもまた北方系の草原地帯に属するので「巣」より「穴」が良く発達している。

ヨーロッパの石造建築物には横穴住居の発展したもの、という居住形式が伝えられているだろう。バチカン宮殿では構造体の厚いところでは5mにも達するので、夏は中に入るとひんやりと涼しく、冬は人々の体温を逃がさず暖かい。(教科書p134)

一度作られた建物は「この世の終わり」まで使う、という考え方だ。

建物は大地を人間が住みやすく加工したもの、という考え方からは、建物の寿命も日本とは違って来る。ローマのフォロ・ロマーノ(教科書p90)にはローマ時代の神殿が並んでいるが、隣接するカピトリウム=ローマ市役所の裏側、遺跡に面した下層階には市役所古文書館があり、2,000以上前の建物が今も使われているそうだ。

一度作られた建物は「この世の終わりまで使う」には「再利用」も含まれている。ローマの街の中で見掛ける建物の基礎部分には、石材が再利用されたものを示す文字があちこちに見られる。

コロシアム(教科書p67)が崩壊したのは大部分が天災によるものではなく、後の人々が「石切り場」に使っていたためだそうだ。

「穴」が発達したヨーロッパの石造建築では、建物の寿命は「一度建てたらこの世の終わりまで使う。」ということが建築の理想型となる。

これに対し「巣」が発達した木造建築では、建物の寿命は植物の生長と同じ様に「時とともに繰り返す」というのが建物のあり方となる。言うまでもなく建築資材の中で「再利用」ではなく「再生」が可能なものは生物由来資源=バイオマスが唯一のものだ。

伊勢神宮の式年造営は、そうしたバイオマス建築のあり方を2,000年以上に渡って実現して来た。

式年造営では20年に一度の本殿造営のもとに、本殿造営で出た材木を、再利用して神社を造る、あるいは40年に一度・60年に一度、伊勢から御用材を頂いて作り直す神社があり、さらにそこから出た細かな端材で家庭用の神棚を作る、というシステムが1,000年以上の時間を掛けて緻密に組み立てられている。

このような建物の利用の仕方は、再生が不可能な石造建築に較べ、サステイナブルな建物のあり方としても、これから更に重要性を増すことだろう。

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