交通と近代都市

2014.9.1

交通と近代都市
ピーターラビットと
機関車トーマス

職人の腕
田園都市
郊外分譲地
Archigram

19世紀前半に化石燃料が動力として使われる様になると、それまで人力・馬力・水力・風力を動力源として来た工業は、化石燃料によって爆発的な成長を見せた。いわゆる「産業革命」だ。

生物エネルギー・環境エネルギーを制御するには「祈り」しかなかったものが、化石エネルギーでは人間の意思で制御可能になったのだ。

農業から工業へと産業の中心が移ると、都市の姿も劇的な変化を遂げた。それまでの都市が「王宮」「教会」を中心としていたのに対し、「工場」を中心とする「近代都市」「産業都市」が現れた。

鉄道の発達とともに「足で歩く」が「汽車に乗る」に変わると、ロンドンのテムズ川南岸では、それまで自家用馬車を持つものに限られていた「お屋敷町」周辺の教会所有地が、鉄道開通とともに通勤用住宅として開発された。


OLD ORDINANCE SURVEY MAPS
Lomdon Sheet 125
Clapham Park & Balham 1872
Published by Alan Godfley Maps
The Off Quay Building, Foundry Lane
Newcastle upon Tyne, NE6 1LH

図は1872年のクラパムパーク付近。自家用車のドライバーは馬の調教係を兼ねており、裏庭のトラックで隣のオヤジの馬車に追い抜かれない様、馬を訓練する。ウォルポールのストロベリーヒル(教科書P146)の様な「ゴシックハウス」が作られたのもテムズ川南岸だ。
strawberryhill  GoogleMap


OLD ORDINANCE SURVEY MAPS
Lomdon Sheet 125
Clapham Park & Balham 1913
Published by Alan Godfley Maps
The Off Quay Building, Foundry Lane
Newcastle upon Tyne, NE6 1LH

ところが1890年代に、近くに鉄道駅が出来ると、程なく教会の牧草地がロンドン市内への通勤住宅として開発されてしまう。こちらは同じ場所の1913年の様子。


GoogleMap


現在の様子を見てみると、かってのお屋敷は集合住宅、女子高、市役所出張所、貸物置などとなっている。





La Villa Moderne1870-1996
東京都現代美術館 1996

鉄道に続き電気の供給が始まると、このふたつが結びついて路面電車が登場した。

バルセロナではソリア・イ・マタが「これからの都市は道路沿線に発達する。」「500mの幅員で、必要なだけの長さ-マドリッドからペテルスブルグあるいは北京-を持つ1本の街路が未来の都市となろう。」として線形都市=Ciudad Linealを発表した。



GoogleMap
StreetView

ソリア・イ・マタによる線形都市の実施されたものがマドリッドにあり「アルトゥーロ・ソリア通り」と名付けられているが、現在では路面電車が取り払われて、通勤の自家用車で混雑している。









英国では1765年に「有料道路法」が出来、道路建設技術が急速に発達した。鋪装は19世紀までに全国の殆どの道路に行き渡った。

荷馬車は物資輸送用のものであったが、舗装道路が行き渡ると、荷台に枠を組んでその上人間が乗る様にした、乗合馬車が使われる様になった。ロンドンのダブルデッカーはその名残だろう。

20世紀にはそれまでの馬車が急速に自動車に取って代わられ、田舎では荷車がトラックに、乗合バスが人間の移動手段となった。 ブリストル近くの田舎で見た乗合バスの時刻表には

「チッペナムへは毎日」
「バス(地名)へは水曜日」
「コルシャムへは火曜と木曜」

とあった。もしかすると「市日」には乗合馬車が通う、という馬車の時代の名残かもしれない。




上掲書

1914-1918年の第一次世界大戦後、戦渦に破壊されたヨーロッパ各国の都市では「近代都市」が戦災復興のテーマとなった。

産業近代化が急速に進んだ時期であると同時に、ドイツでは「大衆車」という言葉が生まれ、自家用車が現実のものとなった時代でもあった。

スイス生まれのシャルル・エドゥアルド・ジャンヌレは「ル・コルビジェ」と名乗り、フランスで近代的な都市の計画案を次々と発表した。 コルビジェの計画では自家用車が主要な交通手段として強調されている。




Metropolis

一方ドイツでは第一次大戦の戦費補償が重くのしかかる。ワイマール共和国はこれをより一層の工業化によって切り抜けようとする。それには先ず都市建設が必要だとして、バウハウスが設立された(教科書P172)。

それと平行して「国際主義」は勝者に都合のよいだけのユダヤの陰謀だ、というナチスの主張が広く受け入れられ、次第に「国粋主義」へと傾いて行く。

同時に工業都市が人間的生活のスケールをはみ出してしまう、という未来への不安も生じた。

1927年にワイマール共和国で制作された映画「メトロポリス」はそうした「ディストピア=恐怖の未来都市」を描いている。 地上から切り離された地下工場で人々が救いを求めるマリアも、実はスターウォーズのC3POのモデルになった人造人間なのだ。






DeerLake Vancouver, BC.Canada
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StreetView




Seattle WA.USA StreetView



このような「近代的」なまちづくりは、制約の多いヨーロッパの都市に較べ、第一次大戦の間に強大になった、近代産業を背景にした北米で良く実現されている。

北米の超高層アパートは高密度化のため、というより生活の利便性と豊かな自然を楽しむため、という側面が大きい。

ところがこれを支えるための高速道路網が、将来住民にとって大きな負担になる、という論争が続いている。

いくら道路建設を進めても、渋滞は解消しないのだ。

鉄道駅を見直そう、という「コンパクトシティ」、通勤自動車の乗合を進めるカープール・ヴァンプールなどが提唱されるものの、決定的な解決策はない。

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