怪しい浮世絵の圧巻がこれだ。川向こうには洋館が並び、新式の明かりがキラキラと光っている。そして道を歩く人の姿は完全に妖怪変化の類いにしか見えない。
ちょうちんは明かり、というより切支丹伴天連の妖術から身を守るお守りの様に見えるが、ちょうちんを下げた男自身が奇怪な服を着ているのでどうしようもない。
パースペクティブがへんちくりんなので、右側の建物に較べれば、人間の大きさは3尺くらいに見えてしまうのでよけいに怪しい。暗がりには「ジンリキシャ」なるものを停めて客待ちをしている男もいる。
第一次大戦とともに訪れたバブル景気によって、東京は急速拡大し、郊外へは私鉄が伸び、都心には地下鉄銀座線が開通した。
深川のお不動さんやら、王子の花見といった江戸時代の観光名所は、二子玉川園など郊外へ移り「いっそ小田急で逃げましょか。」というわけでナイショのカップルは伊豆箱根を目指したのだ。
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