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No.24

□斯界の権威に頼るという発想
□欧米先進国では…。
□検証されていない技術
□ 高層マンションは必要か?
社団法人 静岡県建築士会会員

古山惠一郎
〒430 浜松市元城町109-12
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ケンイはイケン

アネハ事件も忘れられ、法改正で大混乱という此頃です。耐震強度について言えば、専門家がチェックして、疑義があれば「大学教授」にチェックしてもらいなさい、という制度も出来た様です。斯界の権威に頼る、という技術的には何の論理性も無い発想は、国土交通省建築研究所といった理系の人間の発想ではなく、言葉の遊びで勝った方がエライ、という文系の発想、あるいは最近流行りの「官邸主導型」でしょう。

大学教授は何をして暮らしを立てているかと言えば、学生に教えを授けるのが本分です。シロートをだます専門家、と言っても良いでしょう。そうした悪意のある大学教授は少ないでしょうが、もっと困っちゃうのは、自分の無知無能に気付かない大学教授の方が断然多い、という点です。

先年、二人の日本人がノーベル賞を同時に貰う、ということがありました。片や東大教授、片や電子部品メーカーの平社員でした。まさか東大教授がノーベル賞をもらうことなどあり得ない、と思っていた私は大変驚いたのですが、聞けば「ノーベル賞欲しい病」の教授を可哀想に思った浜松市内P社のH氏が、世界中を根回しし、おんぶにだっこで取らせてあげたのだと聞いて納得がいきました。電子部品メーカーの幹部の方は自社の平社員がノーベル賞をもらうなど寝耳に水だったらしく、急遽、取締役研究所長に任命する慌てぶりが微笑ましく見えました。片や巨額の税金を投入し、片や勤め先の売り上げに貢献し、です。

悲惨な例もあります。明治この方、我が国の権威は「欧米先進国では…。」というのに弱かった。というか、他人に内緒で「欧米先進国」の文献を読んだヤツが権威に成り上がる、というシステムが出来上がってしまっています。このためマンガのような事態が往々にして起こります。高松塚古墳壁画ドロドロ事件などその典型でしょう。斯界の権威が内緒でドイツ・フランスの「洞窟壁画保存」の学術文献を読み、「これで絶対大丈夫。」と古墳をこじ開けたら、湿気で壁画がドロドロになってしったというものです。古墳壁画修復の権威はドイツ・フランスが夏乾冬湿であるのに対して、日本では夏湿冬乾と、クリモグラフが逆だった、というのを打ち忘れていたのですね。

もっと悲惨な例もあります。東海村のウラニウム臨界事故では、「ウランをバケツに入れてかき混ぜたら臨界状態になってしまった。」という話に全国民が唖然としてしまったのですが、これなども外国文献の ”You should’t...” の"'t"か、”You should never...” の “never” の文字が、コピーのかすれで読めなかったのが原因でしょう。そのために放射能を浴びた作業員は、死ぬ直前には全身が解けてしまって心臓だけが動いていた、という話も建築構造の未来を象徴するかのようです。経済産業省原子力安全保安院など、「斯界の権威」の寄り合い、という雰囲気なのですが、すでに原子力発電の開発を進めているのは日本・韓国・中国・ロシアと言った「後進国」だけであり、入ってくる技術情報もGeneral Electoricsあたりの二流情報しかなく、肝心の先端技術は「軍事技術」ということで蚊帳の外に置かれているのでしょう。


第二次大戦後に大量に供給された巨大超高層市営住宅。-Brooklyn, NYC付近

バンクーバー郊外の「中高層住居専用地域』 BC, Canada

最近流行の低層マンション。 BC, Canada

2008年オリンピックを控えて建設の進む北京。 map.googlem.com

参考になる技術情報が「欧米先進国」に無い、という点では耐震構造設計も似ています。もっともこちらは世界の巨大地震のエネルギーの数分の一を独占している、という我が国の立地が原因です。過日の講演会でも地震防災の権威、という名大教授は「超高層建物はまだ現実の巨大地震で検証されているわけではない。」とおっしゃっていました。誰も見たことのない、未知の世界なのです。

未知の世界で起こってしまったことに対して、誰が責任を取るか、となると難しいものがあります。新潟の原子力発電所では発電機が発火、という想定外の事故が起こりました。某海大地震の想定震源域に立地する某原子力発電所などでも、制御棒が落っこちたり、ステンパイプが錆びたりすると、「想定の範囲外だったので仕方ない。」ということになります。現実の巨大地震ではどうなのでしょう。

アネハ事件で最も素早かったのは東京都でした。「確認審査は適正に行われており、東京都は損害賠償の責めに応じない。」とキッパリしたものです。これまで確認審査ということで、タダで若者に教えを授ける様なことをさせられていた構造設計者達には、釈然としない人も多いことと思います。

途上国型震災被害

高層/超高層マンションの需要の背景には土地利用が上げられるでしょう。土地利用計画が都市開発を後から追いかける、という構図の元では、地震災害もメキシコ、インドネシア等と同じ開発途上国型の様相を呈します。

阪神淡路大震災の死者が6,436人に対してロマプリータ地震の死者が6人だった背景のひとつに、米国西部の住宅地では敷地面積の下限が300坪、というのが一般的になっていることがありますが、これだけでなく、サンフランシスコ南部のような活断層が露出したところでは、概知の活断層の直上には建築をしない、ということで、住宅地に巾数百メートルの帯状の公園が造られている映像がテレビで紹介されていました。米国に比べて「中高層住宅」「低層住宅」の地域指定の厳密なカナダではコルビジェが描いたような緑の中のユニテが見られます。

都心の地価上昇という、バブルまでの土地利用の筋書きが再燃しそうな話も聞きますが、「欧米先進国」では各種の社会サービスを含んだ都市経営コストから、超高層マンションは「開発途上国向」とされたのが1960年代であり、第二次大戦後に多く造られた超高層マンションはその後造られることが無くなりました。 第一次大戦後、コルビジェがユニテ・ハビタシオンを提唱したフランスでは、巨大集合住宅群はジタンのようなアルジェリア移民の貧民窟になるだけでなく、「主婦売春の巣窟」という評価がいかにも「文系の発想」という感じがします。

これに代わって”New Urbanism” などと呼ばれる、鉄道駅など公共交通機関を中心とした開発が最近の傾向であるようで、我が国へも「コンパクトシティー」として紹介され始めています。

これと対照的なのはオリンッピックを控えた北京で、巨大集合住宅群が次々と建てられている様子をGooglemapで見ると壮観です。柳京ホテルで有名な「将軍様のお膝元」平壌にも、小規模ながら同じ様な巨大集合住宅群が見られます。

いずれにせよ人口減少に向う我が国で、大きなうねりとしては「高層マンションは必要か?」という問いがこれから繰り返されるのではないでしょうか。

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