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No.26

□分譲マンション文化
□城壁とマーケット
□鍵に頼れば危険は増す
□中国系上動産資本
社団法人 静岡県建築士会会員

古山惠一郎
〒430 浜松市元城町109-12
電話 053-453-0693, fax 053-453-0698
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建城家居

住宅設計じゃ食えないだろう? 何して食べてるの? に始まって、半ば脅迫的にマンション設計を手伝え、という話もあったのだが、現在に至るまで何とか逃げ延びて、マンションの設計というのをやった事が無い。理由は集合住宅での人生というのがどうも想像出来ないからだ。賃貸マンションならばまだ想像はつく。江戸時代の長屋暮らしが手掛かりになる。何時の日か、戸建て住宅に住む夢を抱いた人々が、その日まで暮らすという事だってあり得るだろう。しかし分譲マンションとなると、なかなか想像出来ない。我が国に区分所有の集合住宅というものが導入されてから日が浅く、これが分譲マンション文化だ、というところまで成長していない様な気がする。





台灣の地方都市郊外で見掛けたマンションクラスター



ローマ市内で



ロンドン市内で

人民网中国語版には人民房产建城というページがある。ここで都市型住宅の事を中国語では「建城家居《と言うことを知って、何となく腑に落ちるところがあった。ここでいう「城《とは、天守閣の事ではなく「城壁《を指す。日本では「都市《という言葉が使われるが、中国では「城市《がそれに当るという。城壁に囲まれてマーケットのあるところが集住地域になる。2,000年以上も戦乱に明け暮れた中国では、さもありなんと思う。最近では福建省の「客家環樓《が観光地として脚光を浴びているが、これなど「外的を防ぐための城壁《が住居の最重要要素であった事を明らかに示している。城壁が無くなったとはいえ、台湾の田舎でも田んぼの中に一角だけ、マンションがびっしりと立ち並んでいて、ぎょっとしたことがある。

ヨーロッパではどうだろうかと言うと、既に2,000年前のローマ市の中心市街地では、5階建て程度の集合住宅が一般的であった。ヨーロッパでもこの2,000年というもの、民族間の紛争が絶えた事は無く、城壁に囲まれていなければ安眠出来ない、という暮らしが城壁に囲まれた高密度の「城市《を発展させて来た。ヨーロッパでも都市型集合住宅が安全なものだ、という文化が根付いているのだ。

これと対照的に日本では城壁が発達しなかった。比較的単一民族で、異民族を抹殺する、などという事が無かった事が関連しているのではないだろうか。平城京・平安京にしても、羅城門がある割には、城壁は無く、門の左右は形ばかりの築地塀であったと言う。寝殿造りの貴族邸宅から大吊屋敷の庭に到る都市庭園は、中国の貴族庭園と似た様なものだが、江戸の中心に於ける路地裏の庶民住宅であっても、庭の自然を楽しむことが出来たのは茶室の「路地庭《にも受け継がれている。日本に於ける「屋敷囲い《はせいぜい向うに三階松が覗いて見える「粋な黒塀《であって、ヨーロッパ・中国に見られる様な、異民族の侵入を防ぐ城壁ではなかった。

「建城家居《という中国語に接して気付いたのは、最近のマンションに見受ける錠の掛かった建物だ。居住者でなければ、門から中に入ることが出来ないという住宅の作りは、これまでの日本では特殊なものだった。エドワード・モースが日光へ旅行して、中禅寺湖へ登る朝、貴重品を預けようとすると、宿屋の女将が、「床脇の棚へ置いて下さい。《と言ったそうだ。同行の友人は「この宿屋は盗賊とグルだぞ。手引きをして我々の金を盗らせようとしている。《というのに、しばらく日本で暮らしたモースは「だまされたと思って、言う通りにしてみろ。《と登山に出掛け、晩方帰って来ると、貴重品は朝宿を出たままに置かれており、友人は「上思議な国もあったものだ。《と唖然としていたという。安全な環境も日本文化の大きな要素だったものが、失われつつある。

戸に鍵の掛けてなかった日本は既に過去のものとなり、マンションに入るには、インターホンで居住者に、鍵を開けてもらわねばならない時代となった。しかし同じ様な家族構成で、同じ様な収入を得て、同じ様な暮らしをする人々だけで、マンションの居住者が構成されていなければ、これが全くセキュリティの向上につながらないことは、先日の墨田区に於ける女性殺害事件でも立証されている。鍵に頼れば頼る程、密室化は進み、危険は増す。ハイテク利用のセキュリティシステムが様々に紹介されるが、素人相手ならいざ知らず「専門家《から見れば全て子供だましであり、結局は人間に頼らざるを得ない、というのが欧米・中国を見れば歴然としている。用心棒を雇わなければ安眠できない暮らしと、床脇に一日置いた財布に手がつかない暮らしの、いずれを野蛮と呼び、いずれを文明と呼ぶのだろう。

人民網の記事によれば日本人の60.9%が「一戸建てを持ちたい《と答え、18.0%が「マンションを持ちたい《と答えたのに対し、中国人では「マンションを持ちたい《が71.9%にのぼり、「一戸建てを持ちたい《はわずか6.3%に過ぎなかったという。これも数千年に渡って、城壁に囲まれた暮らしが、安全だという文化を育んで来た伝統と、そのようなものが必要無かった国との差だろう。我が国では「塀の中の暮らし《というと、「刑務所暮らし《と相場が決まっていたが、鍵のかかったマンションで「壁の中の暮らし《が広がりつつある。そうした暮らしが我々の身に付く様になるには、これからまだ長い時間が掛かり、その間には様々な事件も起こるだろう。

しばらく前からどうも腑に落ちなかったのは、なぜ売れもしないマンションが作り続けられるのか、ということだった。ところが、あちこちの新聞をぱらぱらやっていて、ふと目に止まったのは「日本の上動産企業相継ぐ倒産、中国企業にチャンス《という記事だ。これはあるかもしれない。

香港返還で大混乱を来したのは、当時のバンクーバーだった。太平洋を挟んで極東の香港、極西のバンクーバーが大英帝国時代の姉妹都市なのだが、香港が中国に返還される事になって、香港資本が一斉に脱出した先の、バンクーバー市内の上動産の半分以上が、今では中国系資本のものなのだそうだ。「国家をまるで信じていない《中国資本であれば、国境など無いも同じで、華僑はそうして世界に広がって行ったが、同じ事が日本の上動産でも起こっている可能性はありうる。

「なんか自動車工場とかあるみたいだし、建城家居を1万戸くらい買っとけば、10年かそこらで中国人に売れる様になるかもヨ。《

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