祭文

緑滴る初夏懐かしく思い出の多いここ浜松飛行場の一隅にある陸軍爆撃隊発祥之地碑前において硫黄島攻撃忠魂顕彰五十年祭を挙行するにあたり謹んで在天の諸英霊に申し上げます。

思えば戦局急迫祖国存亡の危機をむかえた昭和二十年四月から六月にかけてわが攻撃隊は浜松教導飛行師団長の命令にもとづき南太平洋上千二百粁の彼方に浮かぶ孤島硫黄島のB二九発進基地を壊滅させるため深夜強襲の超低空爆撃を敢行したのであります。

この攻撃は最新鋭の四式重爆撃機「飛竜」の最大かつ局限の性能を発揮させて行い往路は突撃侵入点まで編成で以後は単機毎に行動し夜間長時間の洋上精密航法経路上に停滞する梅雨前線の突破夜間における目標確認突進点における夜間防空戦闘機との空中戦超低空移行時の非常に激しい対空弾幕の突破等掩体に遮蔽された敵機に地雷弾焼夷弾を命中させるまでには多くの障害を乗り越えねばならず投弾退避後傷ついた機体を鞭打って再び五時間の航進を行い残燃料僅か二十分という経過は航空行動の常識から外れた過酷なもので高度の戦技力を基に精魂を使い果たすものであって生還率の極めて少ない特攻的任務であったのであります。

諸英霊は明眸皓歯の青春にあられ才能と健康に恵まれ平和の中に生きられたならば洋々たる前途が約束されていたはずであったのに肉身に対する切々の愛着を断ち戦運の赴くところに身を委ねるしかなく祖国守護のため決然として必死の攻撃を敢行し偉大な戦果を挙げ護国の神となられたのであります。

あれから早や五十年の歳月が流れようとし英霊が念願されて止まなかった繁栄と平和の日本の実現を見るに至りましたのは偏に御加護の賜物であると信ずるものであります。

本日ここに遺族戦友竝びに関係者相集い雲海の彼方から御降臨の御霊の御前に額くとき敬仰の慕情澎湃として胸に迫り哀惜の涙を新たにするとともに忠魂の御遺志と殉国の心を偲び御偉業顕彰の誠を捧げ御冥福をお祈りして祭文といたします。  

平成三年六月二十三日

硫黄島攻撃忠魂顕彰五十年祭

   実行委員長 江島 進