モダン都市文化18 アパート





奇書があります。

コレクション
モダン都市文化
紅野謙介編
18アパート
ゆまに書房 2006年

戦前、特に1930代に入って世相が軍国化するまでの

銀座のモダニズム
ファッション
築地小劇場
ダンスホール

といった都市と風俗を絡めたテーマを扱っていますが、 第18巻をアパートに充てています。当時の資料をスキャンしただけなので、キタナイ ですが、貴重なものです。

そもそもアパートとは何か、棟割長屋とどこが違うのか、欧米の事例紹介などがあって、震災復興で同潤会が建設した各地の集合住宅の事例を紹介しています。まずは渋谷アパート。私の目を引いた入り口上部の装飾を持つEタイプの写真が出ます。



Dタイプ三面図

Cタイプ三面図

コーナー出窓を持つ住棟

こちらは平沼アパート



青山アパート



本書で一番面白かったのは室内に畳敷の部屋が多いことです。





同潤会には明治以来「田園都市」など、都市政策に詳しい人もいたでしょうから、「洋式住宅」の機能別部屋作りの無駄の多さを充分に研究していたでしょう。住む人は一度に2つ以上のことをするわけではないので、

家の中心は食事室
ちゃぶ台を片付ければ寝室
布団を片付ければ応接室

という畳の部屋の多機能性を活かせば、洋式住宅の1/3の面積で同じ機能が実現できます。畳の部屋の合理性に驚嘆しているのは初代駐日英国公使ラザフォード・オールコックです。オールコックが日本びいきになったのも畳の力あってでしょう。

籐椅子ぐらいは置けますよ、というわけで、主人が客と対面している場面です。

台湾の歴史映画で、主人公が友人の下宿屋と行き来したり父親の仕事先を訪れるシーンでは、畳の部屋の多機能性が意識されていました。

中国式の居室の床は表通りと同じくゴミの捨て場でした。学生下宿の床など特にそうだったかも。

最近の日本人は横着になって「片付け」というのができないのですね。外から泥を持ち込む靴をベッドの下に置く、という洋式が好ましいものか、疑問です。玄関で靴を脱ぐ、というのが辛うじて和風の名残りをとどめています。

そこにハウスメーカーが付け込んで畳の部屋をなくし、床面積が広がるばかりです。これは進歩なのか退歩なのか?

まあロックフェラー邸に和風別館があるのは別格としても、和式を知る人は、玄関で靴を脱ぐ、という習慣を取り入れていることがある様です。しかし多くの米国人は靴をベッドの下に置くということを続けているのでしょう。

代官山