汐川だより17号
目次

汐川干潟と町長・町会議員

                 新田原町長は、自然保護にも深い関心を持つ良識豊かな町長である。
「汐川干潟は子孫のために大切に残すべき貴重な環境である」と、はっきり私にも言ってくれた。
第4次田原町総合計画の中でも、リーディング・プロジェクトとして、『人と自然が共生する環境の創造』の中で、  ……三河湾の浄化や汐川の水質改善に積極的に取り組みます。これにあわせて、汐川干潟に野鳥公園の整備を検討します。……と大胆に提言している。まことに心強いことで、長年汐川干潟の保護運動に関わった者としては感慨無量である。
 しかし私たちが究極の目標としている、『ラムサール登録』は、そう簡単に実現しそうもない。町長といえども、独裁者ではないのだから、独断で政策を進めるわけにはいかない。情勢が整わなくては実行できないことは十分理解できる。良識ある町長が、その政策を推進できる状況を作るように私たちも努力しなければならない。
 現状はどうか。一九九六年三月八日の町議会で、河辺正男議員の質問に、町当局は、ラムサール条約登録をしない理由として三点あげた。
1、海面下訴訟問題が係争中である。
2、水底の形状変更、ミオ浚渫、船の停泊、植物の採集、動物の捕獲など
    は環境庁長官の許可が必要になる。
3、干潟周辺の住民、利害関係者との調整問題がある。
 町長も全く同じ意見を持っている(当然であるが)。1、3については一応納得でき、私たちも考慮検討をしなければならない。
 しかし、二については事実を誤認している。
 六月五日、WWFJ(世界野生生物基金日本委員会)会長の羽倉信也氏が田原町役場へ来て、『ラムサール登録』を要請した時も、町長はもっぱら二の理由を強調して、
「これを町長の許可にしてくれればすぐにでも承知する」と言っていた。私が
「ラムサール登録になっても船の停泊が出来なくなるということはない」
と言うと町長は
「ここに書いてある」
と綴りを開いて見せてくれた。制限行為リストとして二十項目ほど出ていた。
「これはどういう本ですか」
「あなた達の書いた本だ」
「コピーしてください」
とコピーして貰ったがどういう本か分からなかった。(あとで山下弘文氏の著書と分かった)その後、環境庁で確かめて町長と話し合った。船の停泊については理解したが、『土地水底の形状変化』に引っかかった。
「ミオの浚渫がこれに引っかかる」
「ミオの浚渫は差し支えないと環境庁は言っている」
「環境庁でそう言っても、役人は必ずけちを付ける。 儂も役人だったから知っている」 と水掛け論であった。しかし腹を割って話し合う姿勢は評価すべきことで、いずれ理解してくれると思う。

 二年ほどかかって町会議員と個別に話してみた。田原の町会議員は二十三人であるが、途中選挙があり、結局三十三人と話し合った。いろいろな意見があったが大ざっぱに整理してみると次のようである。

○ 資料を見て勉強する。
○ 鳥獣保護区になるとどういうことになるのか?
○ 野鳥の会の人はすごく堅いことを言って、絶対に自然に手を着けるなと言い、
    話し合いは出来ないと言う人が多いがどうか? 
    自然には絶対手を着けてはいけないのか?
○ 干潟は絶対手を加えずほっておくのがよいのか?手を加えてもよいのか?
○ 一口に野鳥保護と言うと、農民はヒヨドリやカラスも保護するのは困るという。
○ 機関誌に、ヒヨドリとシギと違うことなどを書いて、農民に知らせるとよい。
○ 干潟が海をきれいにしていることは分かる。そういう所は大事にすべきである。
○ ああいう貴重な自然は是非大事に残さなければならぬ。
    一遍にみんなに分からないかも知れないが、根気よく話して貰いたい。
○ 工場が出来るより、今の干潟でおく方がよい。
○ 谷熊の角から向こうの干潟にモクが生えるが、5センチぐらいで駄目になる。
○ 汐川のヨシを取ったので水も汚れるようになった。
○ いずれ保護区になるだろうが、時間がかかると思う。
○ 干潟の保護には賛成だが、ラムサール登録をすぐというのは難しいだろう。
○ 一旦法律の網をかぶせると、あと困ることが出てくるかしれんので慎重になる
  だろう。
○ 保護するのはよいと思う。指定するとなるといろいろきびしいことがあるだろう。
○ 開発計画の点線を取ることはなかなか出来ないだろう。
  一度決まったことはなかなか変えられない。
  点線を取らなくてもそのまま保護すればよい。
○ 議会はあまり力はない。話をするならもっと若い人に理解させるのがよい。
  婦人会やくぬぎの会のような所で話をするとよい。
○ 要望を町長宛だけでなく、議長宛にも出すとよい。
  そうすれば町議全員にコピーで渡る。
○ (請願を)議長宛に出せば、議会で審議される。
  もし否決されたらまた何度でも出せばよい。
○ いきなり請願を出さない方がよい。
  話を聞けば理解できるので、そういう空気にしていくのがよい。
○ 汐川干潟のことは一応知っている。あのままおいてもいずれ駄目になる。
  保護の人とは話をしたくない。

 二十年前のように、埋め立てを主張する人は一人もいなくて、大部分の人は保護すべきだと言った。しかし、法の網をかぶせるのに躊躇する人や、鳥害を気にする人がいる。啓蒙活動をもっとしなければならない。
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第六回ラムサール条約締結国会議より

 一九九六年三月一九〜二六日、オーストラリア・ブリズベン市で開かれたラムサール条約締約国会議(以下、ラムサール会議)では、最終日に二三の決議と一八の勧告が採択されました。
 その中で、汐川干潟と最も重要な関係をあると思われる「東アジア〜オーストラリア地域における湿地ネットワーク」(ブリズベン・イニシアチブ)について、お知らせします。
            
「東アジア〜オーストラリア地域における湿地ネットワーク」
1、目的
 シギ・チドリ類の渡りのルート沿いの重要湿地の適切な管理を促進し、
 渡り鳥の保護を図る。

2、ネットワークの性格
・シギチドリ類とその生息地保護のための国際協力活動として位置づける。
・地域において保護区を管理する機関の養成をしてその活動を支援する。
・保護区のある地域住民に対し、国際的な保全活動に対する認識を高めて
 もらう。

3、活動内容 
・保護区の保全活動のネットワークを作る。
・具体的には、
(保護区管理者)候補地の推薦、管理計画の策定、普及啓発等を行い、管
        理の充実を図る。
(事務局)担当者を置き、各国の重要な保護区選定や、保護区における普
     及啓発活動、研修活動、管理活動等の支援をする。
     また、各保護区に関する情報データベースを作り、その維持管
     理をするとともに、支援等の事業計画を策定する。

4、保護区を選定する手順
  1、 保護区の管理者が推薦文書を作る
   2、 生物学的基準(クライテリア)に基づいて検討する
   3、ネットワーク委員会による採択
   4、ネットワーク参加の表明

5、生物学的基準
 ネットワークへ参加する保護区は、次の少なくとも一つを満たすものと
 する。
 1、二万羽を超える渡りをするシギ・チドリ類の生息が確認されている。
 2、渡りをするシギ・チドリ類のある種の全個体数(世界の確認数)の
   1パーセントを超える個体数の生息が確認されている。
 3、絶滅の危機にあるなど貴重性の高い、渡りをするシギ・チドリの特
      定の種の生息が確認されており、かつその個体数が相当数にのぼる。
 ※なお、二万羽及び一パーセントは、年間の生息総数とみなすため、繁殖
   地や越冬地以外における 特定のシーズンの確認数は、その4分の1の
   数で条件を満たすものとする

六、運営機構
 ・豪州自然保護庁内に当該ネットワークの事務局を置き、担当官が上記
  三(活動内容)に示した活動の運営を行う。
 ・また、専門的な助言を行うため、ウェットランズ・インターナショナ
    ル(旧国際水禽湿地調査局・IWRB)のアジア太平洋評議会におかれ
    るアジア太平洋水鳥保全戦略委員会」の下に、シギ・チドリ類ネット
  ワーク委員会」を設立する。
 ・ネットワーク委員会は、推薦された保護区のネットワーク参加の採択
  や事業計画の承認等をする。
以上が、勧告の内容です。
また、参加国は、
中国、香港、ロシア、カンボジア、フィリピン、インドネシア、オーストラリア、パプアニューギニア、ニュージーランド、日本

日本の参加湿地 千葉県習志野市・谷津干潟  徳島県徳島市・吉野川河口干潟

 この「東アジア〜オーストラリア地域における湿地ネットワーク」に参加するには、ラムサール条約にあるような条件、たとえば、特別鳥獣保護区に指定されている必要があると言うような環境庁の作った規制は、ついていません。ラムサール条約には、様々な問題(地元に理解がない、開発計画があるなど)があって、すぐには登録できないが、その湿地の重要性を考慮し、保護していかなくてはならないと言う考え方です。
 この構想は、第7回日豪渡り鳥等保護会議(平成五年十一月)を受けて、一九九四年十一月〜十二月に釧路市で開かれた「東アジア〜オーストラリア湿地・水鳥ワークショップ」(釧路ワークショップ)の具体的な活動の一つとして、日豪共同でラムサール会議に提出されました。また、日本は、オーストラリアの他に、ロシアや中国とも渡り鳥を保護する条約を結んでいます。渡り鳥は、越冬地(オーストラリアや東南アジアなど)と中継地(日本国内の干潟)と繁殖地(シベリアなど)の3つがそろって健全でなければ、生きていくことができません。その為には、国際協力が不可欠なのです。
 日本政府が、自ら国際会議で提案したにもかかわらず、参加湿地は、たった二つ。しかも谷津干潟はすでにラムサール登録湿地ですから、いまさら「東アジア〜オーストラリア地域における湿地ネットワーク」に登録するまでもないことです。
 吉野川河口干潟は、まだ河口堰を作る計画が消滅したわけではありませんが、監督官庁である建設省の推薦でネットワークに加わりました。
 今後は、汐川干潟を初めとする国内の重要湿地をどのようにネットワークに加えていくのか、環境庁の手腕を期待すると共に、地元の理解を得るために守る会でも、運動を続けていきたいと思っています。

地元田原町でも近頃は、干潟の生き物に興味を 持っていただけるようになってきていますが(「汐川干潟と地域の関わり」)、私たちの広報不足から、今だに汐川干潟に訪れる鳥が少なくなったとか、干潟はダメになって生き物も死に絶えたとか誤りにもとづいて議論をなさる方も見受けられます。干潟を訪れるシギチドリは、減少してはいませんし、干潟に多くの生き物が、生息していることは、潮干狩りに来られる方々が一番ご存じのはずです。春の最盛期には、三百人以上の方が潮干狩りを楽しんでおられました。このような事実を踏まえて、多くの方と汐川干潟の将来を考えていきたいと思っています。
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