「刑事くん(第1シリーズ)」長坂作品エピソード あらすじ・解説

【ストーリー紹介】

 刑事だった父を殺された三神鉄夫は、犯人を自分の手でつかまえるために刑事になった。警察学校を一緒に卒業した大丸四郎と共に城南署に配属された鉄男は、そこで数々の事件と出会いながら一人前の刑事になっていく。


第17話「吹けよ木枯し」

放送日:1971/12/27
脚本:長坂秀佳
監督:加島 昭
ゲスト:草野大悟/久里みのる/石川 敏、植田灯孝

 喫茶店で張り込む鉄男の前に父の事を知る謎の男(草野大悟)が現れ、彼は父の命を奪った拳銃の情報を掴んだと鉄男(桜木健一)に告げる。本来の任務を忘れ、私情に走り、肝心の人物を取り逃がした鉄男は再び時村(名古屋章)の「バカモン!」の雷を受け、名誉挽回とばかり本来捜すべき容疑者・秋山の居所を執念で掴み、時村達の協力もあり、拳銃密売の現場を押さえ、一味を一網打尽にする。汚名も挽回し、鉄男は父親殺しの犯人逮捕への闘志を新たにするのだった。

 このシリーズ一作目のコンセプトは鉄男の父親殺しの犯人を自らの手で捕らえる目的が骨子となっており(余談だがこの「復讐劇」のコンセプトを受け継いだ長坂作品が『快傑ズバット』である)、特にシリース゛初期は暇さえあれば犯人捜しに東奔西走する主人公の描写が見られる。長坂氏はこの作品でシリーズ初登板を飾るが、そのお約束を描写、血気に走る主人公の性格も守り、作品カラーを自分の中に吸収しようとする努力が伺える。ラストの犯人逮捕への意欲を表した台詞は一月後放映の第21話「おれのオヤジは」にリンクしてくるのだが、その結果は作品のターニングポイントになるショッキングな試練となるのが普通でなく、今考えるとマンネリ打破を考慮していて流石だと感じさせる。当初このシリーズは2クールでの終了を予定していたが、視聴率が20%を突破、2クール分の延長となり、以後他作品を挟んでシリーズ化、やがてはブラザー劇場枠(TBS・月曜七時半)の名物シリーズに成長していく。その延長が決まったのが恐らくこの話の放映時期だろうと推測する。

執筆:森川さん


第18話「冬空への誓い」

放送日:1972/01/03
脚本:長坂秀佳
監督:奥中惇夫
ゲスト:中野良子/島田景二郎、真木沙織/里見たかし、末永紫乃、岩城和男/永井秀和

 新年早々鉄男に与えられた月賦詐欺事件。頭金支払いのみで商品を騙し取ったとされる18歳の少女・アサダカオリを監視する鉄男は、その美しい容姿と仕事ぶりから彼女が犯人だと思えずにいた。その後、カオリが売り飛ばしたはずの商品を姉が売っていたと知った鉄男は、姉がカオリに詐欺の罪を着せようとしていたと推測。カオリを問い詰めるが、カオリは口を割らない。姉が逮捕されれば姉の子供・ユキが可哀想だからと、自分が犠牲になろうとするカオリに、駄目な人間になる手伝いをしていると諭す。姉の夫に殴られても抵抗しない鉄男の姿を見たカオリは、自分の今までの姿とオーバーラップさせる。自分も殴られっぱなしではいけないと悟ったカオリは、「姉たち自身が変わらなければ何にもならない」と涙ながらに姉に訴えた。そして、新春初事件を解決させた鉄男は今年こそは父を殺害した犯人を逮捕すると誓うのだった。

 ラストのカオリの台詞「信じる……何度裏切られても」――。この台詞に、この放送の約1年後に放送された『ウルトラマンA』最終話「明日のエースは君だ!」(1973年3月30日放送)の「たとえ何百回裏切られようと」を思い起こす方もいるのではなかろうか。この台詞に関しては、脚本を手掛けた市川森一氏のシナリオ集『夢回路』にて「聖書にて、キリストの弟子が裏切りを何回許したらいいかと問うくだりで、十回が百回、百回が千回まで許し続けろという、このキリストの言葉をAの言葉を借りて言ったのでは」とある。長坂氏の作風にはあまり聖書の影響を受けていたようには感じられないが、市川氏同様に聖書の影響を受けていたのか、気になるところではある。
(※アサダカオリ、セツコ、ユキの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第21話「おれのオヤジは」

放送日:1972/01/24
脚本:長坂秀佳
監督:富田義治
ゲスト:小野千春/伊東芳子、岩上 暎/竹村清女、高橋 香、練木二郎

 鉄男は目前に現れた清瀬かおるという女性より「私、あんたのお父さんに父親を殺された娘よ」と告げられ、自分の父親が無実の罪を着せて逮捕した男が後に自殺したという事を知り、衝撃を受け、父親を罵倒してしまうが、みっちゃん(津山登志子)や大丸(仲雅美)に説得され思い直した鉄男は父の汚名を晴らす為に真犯人を逮捕、そして父親殺しの真犯人を捕える事を新たに誓うのだった。

 本シリーズをトータルしても筆頭に上がる名作で、長坂氏も「メイキングオブ東映ヒーロー1」(講談社刊)内のインタビューにてコメントしているのがこの作品。父親の仇打ちというコンセプトを軸にしたこの第一作目の中で、主人公の挫折とそれを乗り越えての成長が作品のカンフル剤としての役割を果たす。それは人間誰もが一度はぶつかる、尊敬すべき父親の汚点に出くわし、例え父親を軽蔑してもそれを如何にしてして乗り越えるかという試練を主人公に課した長坂氏の「父と子」の関係を描く上でのポイントとして単なる情愛のみならず、憎悪や憎しみの部分を袖出、それを克服しての成長、そしてそれは他人のためでなく、自分自身の成長として人生の中で必要なプロセスであるという主張が伺える。ラストで時村が自分の父親の話を鉄男にするが、そこにも父親を例え軽蔑した事があっても、父親を尊敬している面が描かれ、テーマの纏めとしての機能を果たしている。ちなみに助監督の小林義明は80年代から90年代の東映特撮の旗手として活躍したあの名匠で、当時は本作と近藤照男プロデューサーの『キイハンター』で佐藤肇らの助監督を務め、佐藤お得意のオカルト編でそのSFマインド溢れる演出を吸収、以後の特撮作品での演出の作風の基盤を固めていた。

執筆:森川さん


第22話「おれの道はおれが決める」

放送日:1972/01/31
脚本:長坂秀佳
監督:加島 昭
ゲスト:原田あけみ/葵 哲也、倉島 襄/大木史朗、小田まり/武田加代子、永谷悟一

 少年院を脱走したオオガキジュンペイの行方を追う鉄男は、ジュンペイの恋人・オオカワマリコを張り込んでいた。何度も失恋を繰り返し、占い以外に何も信じられなくなったマリコは、今はセールスマン・仁科頼照を愛していたが、ジュンペイが現れた為に思い悩む。ジュンペイを選ぶよう占い師に言われたものの、仁科へ会いに行ったマリコは、そこで逆上したジュンペイに刺され傷つき、さらに仁科の妻子を目撃、自分が仁科に騙されていたことを知る。占いに逆らった為に酷い目にあったと嘆くマリコは、今度は占いに従い、一緒に逃げようと言うジュンペイの元へ傷ついた身体を引きずって向かう。そんなマリコを止める鉄男だが、ジュンペイに拳銃で脅され負傷。しかし、鉄男は何度も倒れながらも懸命にジュンペイに立ち向かい逮捕。マリコは、強ければ運命でさえ自分で変えられるのだと悟るのだった。

 タイトルの通り、「自分の道は自分で決める」というテーマを、何にでも占いに頼ってしまうヒロインに絡めた着眼点が見事な一作。「父を殺した犯人が見つるかるかも」という占いに対して、鉄男が「占いなんかに頼らずに自分の手で捕まえる」と誓って締めるラストもイキである。
(※仁科頼照の漢字表記は表札のシーンを参照。オオカワマリコ、オオガキジュンペイの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第24話「真心は涙に濡れて」

放送日:1972/02/14
脚本:長坂秀佳
監督:奥中惇夫
ゲスト:小川悦子/大森不二香、深沢真利子/生田くみ子、入江正徳/小山柳子、菊地茂一

 鉄男は、車に轢かれそうになった老婆を救う女子中学生の姿を目撃。だが、その少女・ハヤミリカは、中年紳士ばかりを狙うカツアゲ事件の主犯として島崎にマークされていた。島崎、大丸からクロだと断言される中、彼女の無実を信じた鉄男は真犯人の姿を求め走り回る。「刑事としてではなく友達として答えてほしい」と問う鉄男に、無実だと答えるリカ。しかし、懸命に捜査する鉄男を尻目に、リカはカツアゲを繰り返す。再度、島崎、大丸に追われていたリカを救う鉄男は、「現行犯で押さえた」という大丸の呼びかけを聞き、再びリカに無実かを問う。身の潔白を訴えるリカを連れ、さらに逃げる鉄男。「刑事が犯人を逃がすと罪になる」と叫び包囲を狭める大丸。それでも逃げ続ける鉄男にリカは、「刑事さんも罪になる」と泣きながら訴え犯行を自白し、「私達を捕まえて」と泣き叫ぶ。リカは父が好きだったが、憎かった為似た背格好の男性を襲ったと告白、自首を訴える。鉄男は、追ってきた大丸らに彼女達が自首をしたと伝えるのだった。

 先輩・同僚刑事が全員クロだと断定する中、主人公だけが容疑者がシロであると信じ無実を突き止めるというある意味刑事ドラマの定番プロット。例えば長坂氏が手掛けた作品では『特捜最前線』(1977年〜1987年)の第172話「乙種蹄状指紋の謎!」や第319話「一億円と消えた父!」なども同類のパターンといえよう。しかし本作では主人公の見立てが誤りであり実際にクロだったという衝撃的な展開に発展。そして、ただ犯人を捕まえるのではなく、心の底から改心させるという実に巧みな筋書きにまとめあげている。ちなみに、本作と同様に主人公の見立てが誤っていた作品といえば、桜木健一氏が主役刑事を務めた『特捜最前線』第169話「地下鉄・連続殺人事件!」があるが、やはり桜木氏はこのような話がよく似合うといったところであろうか。
 ラストシーンの時村の台詞「警察官の仕事は犯人を挙げるのが仕事で、挙げさえすればそれでいい。だが、本当に大切なのはその後だ」は、『特捜最前線』第50話「兇弾・神代夏子死す!」の神代夏子の台詞「警察の仕事は犯人を逮捕してしまえばそれでお終い……でも本当は、それからが大変なのよね」を彷彿とさせる。犯人を逮捕しておしまいという大多数の刑事ドラマに対して、長坂氏が変化球で対抗している様がうかがえるようである。
(※ハヤミリカの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第25話「春遠からじ」

放送日:1972/02/21
脚本:長坂秀佳
監督:富田義治
ゲスト:太宰久雄/中村俊雄/大川真一郎、板谷裕次郎、川井みどり、三浦弘子/福井友信、山尾範彦、伊藤 健、杉浦敦子

 強盗事件の聞き込みの為、定年前の平巡査・陣野と共に目撃者が勤めるスナックを訪れる鉄男。しかし、その最中に陣野は警察手帳を紛失。気の弱い陣野はひどく落ち込み、鉄男は自分の手帳を陣野に貸し、自分が手帳を紛失したと時村に届け出る。鉄男は、スナックに陣野の息子・キヨシが偶然いたことを知り、キヨシの行方を追った。父の手帳で警察官を騙り恐喝していたキヨシを発見する鉄男。キヨシは、気が小さくておどおどしてる父がみっともなく、そんな親に育てられた自分も弱虫になったと語り、強くなる為に警察手帳を使ったと告白。鉄男は、みっともない親父の手帳のおかげで強くなった、そんな強さで満足なのかと叱咤する。息子に対してまでおどおどしている陣野に、自分の力で手帳を取り返すようけしかける鉄男。そして、陣野は手帳を取り返し自信を取り戻した。鉄男は、安っぽい浪花節で陣野を庇ったことが陣野を甘やかしていたと気付き自ら反省するのだった。

 陣野巡査を演じているのは『男はつらいよ』シリーズのタコ社長役でお馴染みの太宰久雄氏。長坂作品では『人造人間キカイダー』(1972年〜1973年)第16話「女ベニクラゲが三途の川へ招く」にも出演している。
(※陣野の漢字表記は警察手帳のシーンを参照。キヨシの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第26話「ひびけおれたちの歌」

放送日:1972/02/28
脚本:長坂秀佳
監督:富田義治
ゲスト:河村弘二/毛利充宏、三浦真弓/大塚 祟、河崎いち子、吉田 守、川井みどり/飯沼 慧、柄沢英二

 自分の娘・みはるが誘拐されたという区会議員の堂森は、一週間手掛かりが無いという現状に腹を立て時村をどなりつける。その横暴な態度にカッとなった鉄男は堂森に二日で事件を解決すると約束。だが、姫野の調べでは単なる家出と判明、その立ち回り先へ向かった鉄男は、みはるの仲間であるフーテンのヒロシらに接触する。そして刑事であることを隠した鉄男はみはるの居所を突き止めた。養護施設「たんぽぽの家」で働くみはるは、父の人形ではなく、ようやく見つけたこの自分の生き甲斐を守りたいと訴える。そんな彼女を想い見逃そうとする鉄男と大丸だったが、姫野の連絡を受けた堂森が現れみはるを連れ去ろうとする。未成年の娘を親が連れ帰るのを刑事が止めるのかと迫られ、手も足も出せない鉄男。そこへ、静かに歌い出す鉄男――それにすかさず大丸、ヒロシら、子供たち、そしてみはるもが唱和する。鳴り響くその歌声にうろたえた堂森はみはるの生き甲斐を認めるのだった。

 本作は台本とほぼ同じ展開。
 台本によるとゲストの漢字表記は以下。堂森繁樹、みはる、松本ヒロシ、キヨ子、良、テル代、養護施設長・有明、秘書・伊藤である。


第30話「行くぞ若き力」

放送日:1972/03/27
脚本:長坂秀佳
監督:加島 昭
ゲスト:村井美恵、木下陽夫/山本相時、佐々木一哲、小塙謙士、飛世賛治、木村 修

 城南署に新米刑事・板垣一彦が配属された。そんな時、拳銃強盗で手配中のユウスケとタミが少年院出のアサダセンキチと接触するという情報を入手。大丸がセンキチを確保している間、ユウスケとタミはひょんなことから鉄男がセンキチだと勘違いして接触。鉄男はセンキチになりすますが、刑事であることがばれ、拳銃を奪われてしまう。青森へ車を走らせろと命じられ言いなりになる鉄男。そして、鉄男の残した手掛かりを元に後を追う板垣。花が好きなタミは青森へ逃亡し花を摘むことを夢見るが、鉄男は強盗をしなければ花が掴めないのかと叱咤。目前の花畑で花を見つけた鉄男は摘んだ花をタミに見せ、自分の手で掴んでみるんだと訴える。心動かされたタミに逆上したユウスケはタミを射殺。さらにユウスケは子供を人質に逃走する。駆け付けた大丸がユウスケの背後へ近付くのに気付いた鉄男は、ユウスケに最後の弾を撃たせる為に自ら撃たれようとするが、その動きに気が付いた大丸が自ら前に出て、代わりに撃たれる。ユウスケを逮捕、無事に命を取り留めた大丸は、かねてから望んでいたアメリカ留学の辞令を受け取るのだった。

 本話にて大丸がアメリカ留学という設定で退場。そして代わりに、新米刑事・板垣一彦が配属された。
 人質になる少年を演じている小塙謙士氏は『日本沈没』(1974年〜1975年)の小野寺健一役、『アクマイザー3』(1975年〜1976年)の島光彦役で長坂作品にレギュラー出演。単発では『小さなスーパーマン ガンバロン』(1977年)第4話「負けるな!ナマズ大地震」にゲスト出演している。
(※ユウスケ、タミ、アサダセンキチの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第31話「きらめく星は我が胸に」

放送日:1972/04/03
脚本:長坂秀佳
監督:加島 昭
ゲスト:斉藤英雄、西山恵子/佐代雅美、野口友紀子/藤沢陽二郎、新林イサオ/千葉真一

 暴力団花木組の幹部・赤根菊造が殺された。暴力団関係のオーソリティである本庁刑事の矢吹シュンタロウが城南署の加勢に入ったために上機嫌な時村の態度に、鉄男は面白くなく反発。赤根の娘・サヨリを取り調べる時村らに対し、彼女の無実を信じる鉄男は抗議するが、サヨリは犯行を自供。彼女の供述通り凶器も発見された。花木組の組長・花木に二人の娘がいることを知った鉄男は、二人に赤根が花木に会いに来たかを聞く。サヨリと同じ境遇の二人ならサヨリの気持ちが分かるはずだと語る鉄男の言葉に、二人は赤根が「この世界から足を洗う」と告げに来たと証言。そのことを知ったサヨリは、父が自分の願いを聞いてくれたと知り、「ヤクザに殺されたくらいなら実の娘に殺されたことにしてやろう」と思い嘘の供述をしたと語った。赤根殺害の原因は、赤根が花木に「足を洗えないのなら麻薬ルートのリストを警察に渡す」と脅迫していたことだと判明。そして花木らの麻薬取引場所を突き止め、矢吹の協力を得て花木を逮捕。鉄男は矢吹へのわだかまりを説き、矢吹は、「世界中の暴力団の子供達が本気で親にヤクザを辞めてくれと頼んだなら……」と呟くのだった。

 千葉真一氏が本庁刑事役でゲスト出演。本話の予告編でも「御存じ千葉真一」と紹介された。ちなみに、第2シリーズ第1話「ぼくたちの春」(脚本:佐々木守氏)、第38話「輝やかしき道へ」でも同役で再登場を果たしている。
(※赤根菊造の漢字表記は張り紙のシーンを参照、花木の漢字表記は表札のシーンを参照。矢吹の漢字表記は第2シリーズ第1話の放送当時の新聞記事を参照。シュンタロウ、サヨリの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第33話「はばたけ小鳥のように」

放送日:1972/04/17
脚本:長坂秀佳
監督:富田義治
ゲスト:清水一郎/成合 晃/平井岐代子、鈴木志郎/小柳ルミ子

 ある晩一人の男が殺された。現場検証の最中、現場で怪しげな男を発見した鉄男と板垣。板垣はその男を追い、鉄男はその男が執拗に見つめていた屋敷に向かった。その屋敷に住むカヤマユキが部屋の窓から現場を目撃したと推測する鉄男だが、警察に対する頑なな態度のために証言が得られない。そんなユキは半年前、父・リョウイチの工場で起きた火事の為に怪我をし、下半身不随で車椅子から立ち上がれない状態だった。鉄男はその半年前の火事に不審を抱き調査、経営不振だったリュウイチが保険金目的で放火したと推測。ユキに、父の放火を目撃してショックを受けた為に歩けなくなっただけだと語る。そして、鉄男は犯人・ナカザワを発見、追跡するが、崖から突き落とされた挙げ句に足に丸太を落とされ負傷。その隙に目撃者・ユキの命を狙うナカザワだったが、足を引きずって立ち塞がる鉄男。だが、鉄男は負傷している為に窮地に。その鉄男をユキが思わず立ち上がって救った。ユキが困難を乗り越えたことに喜ぶ鉄男はついにナカザワを逮捕。そしてリョウイチは、娘が歩けるようになったことを鉄男に感謝し、放火を認め自首するのだった。

 改編期シーズンの為か 前週である第32話より一か月間、当時のヒットアイドルであった沢田研二、小柳ルミ子、南沙織、天地真理の各氏が立て続けにゲスト出演。予告でもタレントの名前を出して紹介している。なお、本話の予告では「小柳ルミ子の出演で花をそえる」と語られていた。
(※カヤマユキ、リョウイチ、ナカザワの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第34話「街角の白い花」

放送日:1972/04/24
脚本:長坂秀佳
監督:富田義治
ゲスト:前田通子/細川俊夫/兵頭 淳、山田甲一/南 沙織

 株屋が殺され、目撃情報から7人の容疑者が挙がった。その中の一人、パン屋の妻・佐々木タカをマークする鉄男。タカに100万を超える借金があることが判明、そして鉄男は現場に侵入するタカを目撃する。タカは、犯行時刻付近に現場を訪れたが昔の手紙を取り返そうとしただけで殺しはしていないこと、そして借金は夫の店を救う為だと告白。そんなタカは、娘のサヤカから過去に水商売の仕事をしていたためにふしだらで嘘つきだと嫌われているという。タカの無実を信じた鉄男はタカのアリバイを見つけようと調査。ちょうどその時間、サヤカに気があるカメラマン・キタミが店で写真を撮っていることが判明。その写真にタカと時計が写っていると信じる鉄男はキタミの行方を追う。だが、写真はサヤカの手に渡った後で、サヤカの行方が分からない。状況証拠からタカが捕らえられようとしたその時、写真を手にしたサヤカが駆け付け、タカの無実は無事に証明。そして、真犯人も逮捕されるのだった。

 本話のゲストは、前年である1971年にデビューし、デビュー曲「17才」(1971年)が大ヒットとなった南沙織氏。予告では「殺人事件の容疑者に間違えられた南沙織が扮するチャーミングな少女…」と紹介された。なお、劇中で流れた歌は「ともだち」(1972年)である。
(※佐々木タカの漢字表記は黒板のシーンを参照。サヤカ、キタミの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第36話「湖より愛をこめて」

放送日:1972/05/08
脚本:長坂秀佳
監督:竹本弘一
ゲスト:団 次郎/増田順司、谺 のぶ子/田中筆子、石光 豊/大浦萬丈、宗田千恵子、内田 嵐

 麻薬に有害な不純物を入れて水増しする悪質な手口を用いた事件が発生、死者が続出していた。その麻薬密売グループの一人、キシダを追う鉄男と板垣だったが、キシダは仲間に車で撥ねられて重体。主犯のヤベを追う鉄男は、キシダから証言を得ようとするが、担当医師のイオリは患者の命に関わるからと尋問を拒否。キシダの手術が開始されたが、手術は難航した。今のキシダは精神的な支えが必要不可欠な状況の為、イオリはキシダがうわ言のように呟いていた恋人のサエコを探す。患者第一のイオリと麻薬グループ壊滅を優先する鉄男は対立するも協力し、サエコの居所を突き止めた。事件の真相がサエコがキシダを利用していたのだと判明、サエコは面会を懇願する鉄男とイオリの言葉に「関係ない」と言い放つ。そんな鉄男らを密売組織が襲う。「君だけがキシダの命を救える」と説得されたサエコは、身を挺して庇う鉄男に守られ病院へと急いだ。そして組織は逮捕され、手術も無事に成功するのだった。

 予告ナレーションでは「湖より愛を求めて」と語られている。
 本話のメインゲストは、同年3月31日に放送が終了したばかりの『帰ってきたウルトラマン』で主役・郷秀樹を演じた団次郎氏である。
(※イオリ、キシダ、サエコ、ヤベの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第37話「いつかあの人のように」

放送日:1972/05/15
脚本:長坂秀佳
監督:奥中惇夫
ゲスト:嵐 五郎、徳久比呂志/内山千鶴、城 洋美/酒井郷博、岡田喜代美

 少女・青木ミドリが誘拐され犯人は1000万円を要求。「女中に1000万円持たせ公園の屑かごに入れろ」という指示に従い、女中に扮した姫野が公園に向かうが、屑かごの前で姫野は突然金を手に公園の外へ。慌てて追跡した板垣に驚いた姫野は、その拍子に偶然通りかかった車に撥ねられ負傷してしまう。犯人・カワベの監視に気が付いた時村はカワベを包囲。しかし、カワベは近くにいた女性・ヤエコを人質に建物に立てこもった。先の1000万円を受け取ったカワベはさらに新たな人質の分として1000万円を要求。窓から乗り込もうとする鉄男だったが、外から様子を監視していたカワベの仲間が無線でカワベに連絡した為に失敗、鉄男は囚われの身となる。一方、時村は冷静な判断により、屑かごに置かれたトランシーバーからの犯人の指示に姫野が従ったことを見抜き、さらにカワベの仲間の無線を傍受。仲間を捕らえミドリを救出、時村の声を加工して仲間になりすまし、カワベを誘き出す。誘き出されたカワベは鉄男の活躍により見事逮捕。鉄男と板垣は時村の沈着冷静な腕前に感心、「いつかはあの人のようになってみせる」と誓う鉄男だった。

 驚くほどに密度の濃い一作。長坂氏は通常の作品に何本分ものアイデアを入れると語ることがあるが、本作の密度は尋常ではない程。誘拐事件に立てこもり事件、その軸を、鉄男を主役にしているものの時村にもスポットをあて、さらに鉄男の家族の描写も描き、そして、最後に鉄男がチャンスを作るきっかけになるキーがかなり早い段階で伏線を張られていたりなど、本当に文字通り何本分ものアイデアを盛り込んでいる。
(※青木ミドリの漢字表記は黒板のシーンを参照。カワベ、ヤエコの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第40話「青春の詩」

放送日:1972/06/05
脚本:長坂秀佳
監督:奥中惇夫
ゲスト:三条美紀/麻乃茉莉子、高尾明美、山中美樹/大倉千恵子、舞 まち子、峰 夕子、杉浦敦子、宮内三重子

 城南署のベテラン婦警・コンノユウコからの依頼で防犯課へ応援に駆り出された鉄男。鉄男はコンノと共に連続万引き事件を担当する。コンノの目利きによって大勢の万引き少女を補導するが、目の前で万引きするのを待って逮捕するコンノのやり方に鉄男は反発する。コンノは、二人の少女・アケミとチーコをマークするが、二人はこそこそと自分らを見張るコンノに反発。コンノの目前で挑発的に万引きするも、すんでのところで鉄男が止めた。そして、子供みたいに遊んでみたいと訴えるチーコの声に、遊園地へ二人を連れていく鉄男。すべての大人に対して反抗的な態度をとる二人は、優しく接する鉄男に対しても心を開かず反発を繰り返すが、繰り返し敵意をむき出しにしても態度を変えない鉄男の姿に心を開き、泣きじゃくる。その様子を見ていたコンノも鉄男を認めるのだった。

 この6月の放送分である第40話から第43話までの4本はすべて長坂氏による脚本。まさに長坂月間と呼べる一か月であった。
 本作の中盤で流れていた曲は井上順氏(当時は井上順之)の「涙」(1972年)。
 ちなみに、本作ではゲストクレジットされている役者がすべて女性。9人もいてすべてが女性というのはなかなか珍しいことではなかろうか?
(※コンノユウコ、アケミ、チーコの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第41話「幼な心は愛を求めて」

放送日:1972/06/12
脚本:長坂秀佳
監督:奥中惇夫
ゲスト:青柳三枝子/池田義彦

 昨年、警察から逃走中に車に撥ねられ死亡した手形詐欺常習犯・キウチ。その妻が警察に復讐する為、自分の息子・タカシに爆弾入りの鞄を城南署の刑事部屋に置いてくるよう指示。しかし、鞄の中身を知らないタカシは鞄を置かずにそのまま警察を後にし、姫野と共にバスに乗り込んだ。それを知った母親は半狂乱になり鉄男にすべてを自供。爆弾は、鞄を開けたら即爆発するという。タカシは父親と出かけた想い出の場所を求め、姫野が目を離した隙に一人でまた別のバスに乗り込んだ。偶然バスに乗った鉄男の母・はるとはるの元で働くルミは一人で行動するタカシを心配し、行動を共に。タカシの母親から想い出の場所を聞き出した鉄男は多摩動物公園へ急行。ゴーカートを疾走するルミとタカシを追跡する鉄男は、無事にタカシを保護するのだった。

 後に「バクダンの長坂」と呼ばれることになる長坂氏が手掛けた爆弾もの。この30分という短い時間の中に長坂氏はアイデアを詰め込み、鞄を開けたら即爆発するという、いつ爆発するか分からないサスペンスに加え、3時になると子供がおやつを食べる為に鞄を開ける習慣があるという、疑似時限爆弾としてのタイムサスペンスも追加。密度の濃すぎる設定である。
 本話のクライマックスは多摩テックゆうえんちのゴーカート。多摩テックのゴーカートといえば、『ウルトラQ』(1966年)第19話「2020年の挑戦」(ケムール人登場の回)で有名である。
 偶然か2話続けて物語のクライマックスは遊園地が舞台。第40話は西武園ゆうえんち、第41話は多摩テックゆうえんち(2009年閉園)である。
(※キウチ、タカシの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第42話「十五年目の一日」

放送日:1972/06/19
脚本:長坂秀佳
監督:加島 昭
ゲスト:磯乃ちどり/富田浩太郎、児玉ひろみ/清水美佐子、早瀬恒志、美原 亮

 15年前に質屋の老婆・田中タケを殺した犯人・イワタトオルが、時効成立であるこの日に都内で発見された。時効成立の日に姿を現したイワタの行動に疑問を抱いた鉄男は、イワタの足取りを推測、被害者の墓でイワタの娘・北見リョウコと、タケの孫娘・ヤヨイを発見する。今日がリョウコの結婚式だと知った鉄男はイワタの目的が娘の花嫁姿を見ることだと確信、式場へと向かった。張り込む鉄男にヤヨイは、今まで父の償いをする為に自分達に尽くして来たというリョウコを庇い、見逃すよう懇願。同情し、数時間で時効の成立する状況に思い悩む鉄男に時村の叱咤が飛んだ。式場に現れ娘の花嫁姿を一目目にしたイワタは警察に追われ逃走。警察の必死の包囲網を潜り抜け時効寸前を迎えるが、成立5分前、ついに鉄男はその手に手錠をかけるのだった。

 時効成立数分前という、刑事ドラマ定番のシチュエーションである本作。しかし、ズルいまでに同情しざるを得ないその設定が、鉄男や板垣、それに視聴者の心まで揺さぶり、「あと数時間で時効」だから「見逃してやりたい」と思わせる。逮捕を覚悟してでも娘の結婚式を一目見たいと思う男、自分の結婚式の為に父が逮捕されるかもと嘆く娘。祖母を殺されながらも、犯人の娘に尽くされ心を開いた娘が、自分が結婚をその父に知らせた為に今回の悲劇を呼んでしまったと嘆く……。そんな状況でもドラマとしては鉄男に「逮捕」という結末を用意。そしてただ逮捕だけではなく、その後、時村が若い頃の同様の苦い経験を鉄男に語り締めるという隙のない構成が見事である
(※北見の漢字表記は表札のシーンを参照、田中の漢字表記は墓石のシーンを参照。リョウコ、ヤヨイ、イワタトオル、タケの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第43話「狼を裁け」

放送日:1972/06/26
脚本:長坂秀佳
監督:加島 昭
ゲスト:吉田次昭/徳大寺 伸/西本雄司、町田政則、本多さち子、清水智子、高杉哲平

 高校教師・金井(徳大寺伸)は自転車で走行中、何者かが仕掛けた罠にかかり、転倒した所をかつての教え子・三神鉄男に救われる。それ以後金井の勤める学校での教師、生徒が謎の事故に遭遇する事件が続発。犯人は金井の勤める高校の生徒・倉本(吉田次昭)で、再び金井が狙われた所を現行犯逮捕する。

 長坂氏描く学歴偏重社会への反論ドラマの代表作がこれだ。金井が鉄男に語る教育論が長坂氏の心情を代弁していて、実に興味深い。対する田辺の弱肉強食の学園社会を象徴するエリートの生き様は、長坂氏が批判すべき対象であり、彼の鉄男への挑発的な態度はそれを強調、彼が吐いた「狼は生きろ・豚は死ね」は大藪春彦氏の『甦る金狼』からの引用で、長坂氏が映画界を志した大藪作品への畏敬の念と、それを現代社会の問題点として批判対象に転換した彼の社会観念が伺える。この作品を骨子に、以後「アンチ・エリートスピリッツ」とでも言うべきものを自作で展開、長坂作品の一つの作風として定着する。

執筆:森川さん


第46話「闇からの呼び声」

放送日:1972/07/17
脚本:長坂秀佳
監督:奥中惇夫
ゲスト:小山源喜/渡辺美知子/五月晴子、大山 豊、山崎純資

 公園で若い女性が殺害され、その手口から先月より発生している2件の連続殺人事件と同一犯であると断定。鉄男は偶然犯人を撮影した男・ヒラタシンイチロウを発見する。その写真を元に捜査が開始されるが聞き込みは難航。写真を撮影したという偶然性に疑問をもった鉄男はヒラタに疑いを抱いた。ヒラタのカメラに事件の目撃者・ヨシミキョウコが写っていることを知った鉄男は、その写真を撮ったのがキョウコの恋人・ヤスハラだと知るが、時を同じくしてヤスハラが何者かに殺害された。鉄男は、ヒラタが犯行に及ぶ様の撮影をヤスハラに依頼したと推理。さらに板垣の調査から、ヒラタが2年前に交通事故を装い資産目当てで妻を殺害。殺しに異常な快感を覚え1年後の同日に再度犯行。さらに1年後の同日犯行に及び、今度はさらなる衝動が抑えきれなくなり、繰り返し犯行に及んだと推理。繰り返し犯人に狙われるキョウコに、鉄男はヒラタが犯人だと訴えるが、施設に莫大な寄附を続ける人格者として名高いヒラタを信用しきっているキョウコは聞く耳を持たない。キョウコを呼び出し殺害を企てるヒラタだったが、鉄男はキョウコに扮してヒラタを罠にかけ、逮捕するのだった。

 長坂氏は第46話から第50話までの5本を連続して担当。このあたりまで来ると長坂氏は本番組の大半を手掛けており、完全に番組のメインライターの座を乗っ取っている。
 人格者による異常犯罪をテーマにした本作。同テーマといえば、同時期に放送された『ジキルとハイド』(1973年)にも通じるところがある。
(※ヒラタシンイチロウ、ヨシミキョウコ、ヤスハラの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第47話「恐怖の夜明け」

放送日:1972/07/24
脚本:長坂秀佳
監督:加島 昭
ゲスト:三谷 昇/佐藤京一/木村 修

 鉄男はルポライター・コダマショウジが麻薬の運び屋であると睨み、不眠不休でマーク。しかし5日目になっても動きは無かった。鉄男は、父が残した手帳に記された男・シンシュウがコダマの特徴に一致していることに着目、父を信じ、父が7年間追い続け逮捕できなかった男の逮捕に執念を燃やしていた。そんな時、ハル美容室に「鉄男の母を殺す」と記された脅迫状が舞い込んだ。はるは鉄男の意を汲み取り、鉄男を仕事へと行かせる。そして、母を心配しつつも張り込みを続ける鉄男。しかし、異常を感じた鉄男は張り込みを板垣に託し自宅に急行。自宅に侵入した男を間髪で逮捕した鉄男は、それが、鉄男をコダマから引き離す為のものだと知り、再びコダマの元へと急ぐ。暴力団を板垣に仕向けその隙に麻薬を手に動き出すコダマを、鉄男は現行犯逮捕するのだった。

 番組の前半では頻繁に描かれていた鉄男の父の描写が久々に登場。父が犯人だと確信しそして逮捕できなかった男を、父の捜査を信じ追いかける鉄男の姿、そして、夫の手帳とその手帳を手にする息子の姿を何も言わずに把握、理解していた鉄男の母の描写が実に絶妙に描かれ、本番組の基本設定を最大限に活かした展開となっている。
(※コダマショウジ、シンシュウの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第48話「緑映える夢」

放送日:1972/07/31
脚本:長坂秀佳
監督:加島 昭
ゲスト:相原ふさ子、太古八郎、中村俊男/片山 滉、武田一彦、菅沢恵美子、前川真弓/轟 謙二、折原啓子

 荒川の土手にテルコという名の少女の水死体が上がった。緑のある家に住む夢を持っていたテルコが、貧しいながらもコツコツと貯めてきた貯金を、半月前に自ら降ろしていた事実を突き止めた板垣。そしてテルコが、相談相手だったサワモトから、5年後に確実に10倍になるという新潟の土地を買ったことが判明。サワモトに疑いの目を向ける鉄男だが、サワモトは犯行時刻に新潟にいたという証拠の切符で潔白を証明。昔警官だったというサワモトは、犯人に心当たりがあると語り、繁華街の聞き込みを始めた。犯人である古本屋のヒロシにナイフで襲われたと主張するサワモトだが、鉄男はすべての嘘を見抜いた。昔警官だったという話も嘘で、証拠の切符もヒロシに買いに行かせたものだと判明。土地売買が嘘だとテルコが気付いた為に殺したのが真相だった。すべてが発覚し逃走するサワモトを、鉄男は逮捕するのだった。

 ゲストの太古八郎氏はプロボクサー、そしてタレントとして有名であったたこ八郎氏の当時の芸名である。
 本話は特に放送当時である1970年代の背景を思い起こさせるテーマが浮きだって見える。一つは、値上がり必至の土地を投資目的で購入するという、土地ブームで沸き立っていたこの時代ならではのテーマ。ちなみに、長坂氏は『日本沈没』(1974年〜1975年)第6話「悲しみに哭く大地」でも同様の描写を描いている。もう一つは、高度経済成長により都心から急激に失われていった「緑」。これに関しては、この2週間後に放送された、『人造人間キカイダー』(1972年〜1973年)第5話「イエロージャガーの魔の手が迫る」でも同様のテーマが描かれている。
(※テルコ、サワモト、ヒロシの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第49話「南の海の白い花」

放送日:1972/08/07
脚本:長坂秀佳
監督:加島 昭
ゲスト:村上不二夫、安藤三男/佐藤耀子、姿 美々/加藤正之、西念順司、渡辺安章、倉石和旺

 10年の刑期を終え出所したばかりの強盗殺人犯・綱島圭次は、10年前に友人・横井田茂に預けた500万もの金を回収する為横井田宅を訪問、横井田の母・シズを殺害し行方をくらました。そして綱島の妹・ミヨをマークする鉄男は、彼女を尾行して八丈島へと向かった。横井田の居場所を探す鉄男は、病床の横井田が綱島の娘・ヨウコを自分の娘として育てていると知る。しかし、そのことを知らない綱島はヨウコを誘拐、鉄男と板垣に500万円を要求する。自分の父が横井田だと信じているヨウコに真実を話せず手が出せない鉄男。そこへ応援に駆け付ける時村たちだったが、ヨウコの命を重んじる鉄男は時村達の追跡を反対するのだった。

 長坂氏が手掛ける本番組初の前後編。なお、番組自体の前後編は第28・29話が初で、本作は2作目である。
(※綱島圭次、横井田茂、横井田シズの漢字表記は黒板のシーンを参照、ヨウコ、ミヨの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第50話「鬼島・なさけ島」

放送日:1972/08/14
脚本:長坂秀佳
監督:加島 昭
ゲスト:村上不二夫、安藤三男/佐藤耀子、姿 美々/加藤正之、名川貞郎、沢田浩二、大坪日出代、倉石和旺

 綱島に逃げられた鉄男は、綱島にヨウコが自分の娘だと告げていれば助けられたかもと悔やみ思い悩む。横井田の家で待機する時村らは、「200万円を持って牛相撲の闘技場に来い」という脅迫電話に従い、金を持って指定場所へ向かう。しかし、電話の声に不審を抱いた横井田の言葉を受け引き返すが、自宅に残した300万円は奪い取られた後だった。300万円を奪ったのが綱島の妹・ミオとその連れの男だと知った横井田は、逃走するミオの前に立ち塞がる。そこに現れた綱島は妹の裏切りに激怒、金を奪った綱島はヨウコを連れたまま逃走を図るが、鉄男が綱島に襲いかかる。その隙にヨウコを奪ったミオはヨウコを盾に綱島を脅迫。ヨウコが自分の娘だと告げられ綱島は動揺する。そして、ヨウコを守る為に同時に飛び出した横井田と綱島は共に拳銃の前に倒れた。駆け付けた時村たちによりミオらは逮捕。真実を知った後も気丈に笑顔を見せるヨウコに見送られ、八丈島を後にする鉄男だった。

 八丈島を舞台にした前後編の後編。
 横井田茂役の安藤三男氏は同時期に放送されていた『人造人間キカイダー』(1972年〜1973年)のギル役を好演。ちなみに、この前後編の間である8月12日に放送された第5話「イエロージャガーの魔の手が迫る」は、長坂氏が初めて『キカイダー』に参入した作品である。 
(※各ゲストの漢字表記は第49話と同様)


第52話「花束は強き者に」

放送日:1972/08/28
脚本:長坂秀佳
監督:奥中惇夫
ゲスト:川端真二、笠井久男、木村 隆/宮木 茂、小早川 純、佐々木一哲、猪野剛太郎/山川弘乃、松浪志保、吉原正皓、芹川 洋

 ある傷害事件の容疑者として挙がった関東ツルマキ組のチンピラ・シオダダイキチ。しかし、シオダは目撃者を脅し、目撃者は証言を否定。さらに、シオダは不良高校生の3人・フジシロカズヒサ、ヤマグチトシオ、イケダショウイチと犯行時刻に麻雀をしていたと証言、3人の高校生もその証言に倣った。鉄男はカズヒサに再三証言の偽証を問うが、ヤクザの世界に憧れシオダに恩義があるカズヒサは否定する。そんな時カズヒサは、シオダと対立組織との抗争に参加する為に仲間との待ち合わせ場所に向かうが、カズヒサの改心を願うガールフレンドのカヨコが嘘の待ち合わせ場所を伝え、その間にカヨコはシオダの元へ向かいカズヒサと付き合わないよう懇願する。しかし、そこへ対抗組織が現れ、人数的に部が悪いシオダはカヨコを置いて逃げ出した。カヨコを襲わんとするヤクザに対し、ドスを握り立ち向かおうとするカズヒサを鉄男が止め、殴られながらも「これがヤクザの正体だ」と訴える。窮地の鉄男だったが、島崎らが駆け付けヤクザは一網打尽に。カズヒサは嘘の証言をしたと自白、そしてシオダは逮捕されるのだった。

 放送当時は『男一匹ガキ大将』(本宮ひろ志著)を代表とするいわゆるガキ大将・番長を主人公とした漫画がヒット。本作中でも鉄男の弟・次郎が番長を「格好いい」と評しているように不良=格好いいという風潮があった中、本作ではそれに対して主人公の口から「格好いいものじゃない」と語らせている。
(※フジシロカズヒサ、ヤマグチトシオ、イケダショウイチ、カヨコ、シオダダイキチ、関東ツルマキ組の漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第53話「母と子の伝説」

放送日:1972/09/04
脚本:長坂秀佳
監督:加島 昭
ゲスト:月丘千秋/松木紘一、三枝まり子、鶴賀二郎

 青年・小山タカシは杉田家を訪れ、そこの婦人(月岡千秋)に自分がかつて捨てられた実の息子だと告白するが否定され、追い返される。鉄男はタカシと出会い、母子の再会の力になろうとするが、婦人は取り合わない。翌日杉田家から暴漢が主人を刺したと通報があり、土居刑事(山口暁)が邸付近で挙動不審の男を捕らえるがそれはタカシで、彼女は無実の罪をタカシになすりつける。一人娘の千鶴子の告白で、真犯人は別人と判り、杉田夫人のかつての恋人で、よりを戻したがっていた故の犯行で、タカシを捨てた事をネタに強請っていたのだ。犯人逮捕後鉄男に「貴方に母親の資格はない!」と言われ、母としての名乗りをあげ、真実を夫に告げ、一緒に暮らしてもよいという杉田夫人だが、罪の晴れたタカシは涙を堪え、親子の生活を拒み、自分の将来の為に大事な試験を控えている身もあってあえて去って行くのだった。それだけに鉄男は城南署の仲間達とタカシを明るく送り出すのだった。

 この作品では捨て子だった青年・タカシの母親との悲しい再会を軸に施設で育った者とブルジョワジー階級の者との対比が図式として存在、双方の批判が描かれる。施設で育った者が親子の愛情に恵まれず育った点を自然とコンプレックスに思うタカシは、母子の名乗りに応じてくれない悲しみのダブルショックに叩かれ、やけになって無実の罪を被ろうと迄してしまう。杉田夫人にはブルジョワジー階級批判の対象のみならず、かつて産んだ子供の認知、そしてそれを隠す事への批判もあり、そこには、「人間は一人の人を一生愛さねばならない訳でもない。だがそれについて回る人間関係の責任は一生ついて周り、それから逃げてはならない」という考えが伺える。この頃の日本ではまだ離婚や未婚の母がタブー視されていた時代だけに、結婚する時は皆初婚でなくてはならない、離婚歴や過去に出産歴があればそれを隠さねばならぬ風潮が今より色濃かった事を物語っている。この捨て子の再会ネタは後に長坂氏の手で『快傑ズバット』第21話「さらば瞼の母」でも描かれ、母親の現在の家族構成や裕福な家庭、それとやはり一度切った縁は繋がらなかったという結末に本作の影響が色濃く出ている。人生時には血の絆を断ち切らざるを得ない結果に終わる事もあるのだと言う点をこの作品は物語っている。脚本家は違うが、橋本洋二プロデュースのブラザードラマで市川森一の『胡椒息子』も結局瞼の母と子の縁は戻らない結末を迎えている。橋本ドラマは時には人生の厳しさを様々な家庭の描写で視聴者に見せるのだった。

執筆:森川さん


第55話「いつか見た青い空」

放送日:1972/09/18
脚本:長坂秀佳
監督:奥中惇夫
ゲスト:二瓶康一、遠藤久美子/野上千鶴子、鴨田喜由、中山克巳/寄山 弘、中島 元、山口 譲、戸田春子

 鉄男の旧友・関裕一(二瓶康一)に殺人容疑が掛り、鉄男は彼の過去を調べると、前の職場の社長令嬢・二条みさき(遠藤久美子)に恋心を抱き、婚約者・吉谷(中山克巳)の友人・掛川と彼女を巡って喧嘩、乱闘の末殺してしまったのだ。鉄男は裕一を見付け、事実の究明に努めるが、その末掛川を殺した真犯人は吉谷と判明、鉄男は裕一の協力を得、吉谷を捕え、裕一の容疑は晴れたのだ。

 「友情」をテーマに鉄男は勿論、裕一、掛川、吉谷それぞれの立場で対照的に描いているのが特徴で、犯人の吉谷は、みさきに恋心を抱く裕一を敵視、無実の罪を着せて解雇に追い込み、彼女に近づき恋仲になり、時期社長の椅子を密かに狙う。その為自分を立派に見せようとし、地方の地主の戸籍を利用し、別人になりすましていたのだ。対する掛川は吉谷を10年来の親友と慕うが、吉谷は利用価値もなくなり、邪魔になった彼を刺殺する。裕一はみさきの事は諦めたものの、鉄男に吉谷の本性を伝えてくれと懇願する。キャストの話になるが、゛二瓶康一゛と言ってもピンとこない人の方が多いだろうが、今の火野正平氏である。氏はこの時期『飛び出せ!青春』(72.NTV)にもゲスト出演しているが、こちらは火野正平名義である。それと遠藤久美子氏は勿論、現在アイドルとして活躍中の彼女とは別人である。中山克巳氏は同時期のTBS番組『ウルトラマンA』梶隊員役の俳優である。助監督の蓑輪雅雄氏は蓑輪雅夫氏と同一人物であるが、ここではクレジットに準じて゛雅雄゛と表記した。

執筆:森川さん


第56話「空にでっかい涙雲」

放送日:1972/09/25
脚本:三芳加也、長坂秀佳
監督:加島 昭
ゲスト:高品 格/外山高士/三好美智子/平島正一、内田 嵐、溝口順子

 アサガワナオコと名乗る女性からの電話で夫の保護を依頼された鉄男は、千葉県佐原市(現在は香取市)へと飛んだ。しかし、ナオコに出会う前に鉄男は定年退職を明日に控えた老刑事・クサノゲンシチに止められる。クサノの話では、ナオコの夫は10年前の強盗殺人事件の犯人・アサダシュウイチで、クサノは10年間アサダを追い続けていたという。10年前の秋祭りの日、急性盲腸の息子を病院へ運ぶ途中だったクサノは、アサダを発見した為にそのまま追跡、その為に息子は手遅れになり、それが原因で離婚。クサノの人生は一変し、それから彼は執念でアサダを追っていたのだ。ナオコを尾行し、アサダを発見したクサノと鉄男だったが、二人の目前でアサダは何者かの車に轢き逃げされてしまう。重傷のアサダに手錠をかけるクサノであったが、鉄男は10年前の事件の犯人と轢き逃げ犯がナガサカ組のヤクザ・ホシヤマショウジであることを知る。辛い真実をクサノに伝える鉄男は、クサノと共にホシヤマを逮捕するのだった。

 本番組の長坂氏最終作は三芳加也氏との共同クレジット。どのような割合で脚本を手掛けたかは不明である。本作ではナガサカ組というヤクザが登場するが、そのネーミングがどちらによるものかも気になるところである。
 本作のゲスト・クサノゲンシチ刑事を演じたのは高品格氏。高品格氏の刑事役といえば、特撮作品ファンには翌年放送された『ロボット刑事』(1973年)の芝大造を思い出さずにはいられないだろう。
(※クサノゲンシチ、アサダシュウイチ、アサガワナオコ、ホシヤマショウジ、ナガサカ組の漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)