「ジキルとハイド」長坂作品エピソード あらすじ・解説

【ストーリー紹介】

 神経科の権威で慈善家としても名高い慈木留君彦博士。日本で十指に数えられる慈木留総合病院の副院長である彼は、実態の無い不安を解消する為、薬物中毒患者が調剤した薬を服用すると、別人格の男・ハイドに変身してしまう。中毒性を持つその薬を飲み続ける慈木留。ハイドとなった慈木留は殺人・強姦など悪の限りを尽くすが、元の姿に戻った時、彼にはハイドの時の記憶は残っていなかった。犯罪を繰り返すハイドを執拗に追う警視庁捜査一課の毛利。そして、慈木留の妻・美奈は、ハイドとの出会いで徐々に何かが変貌していく……。


第3話「殺意の群れ」

放送日:1973/01/23
脚本:長坂秀佳
監督:村木良彦
ゲスト:永山一夫、見明凡太朗/柴田昌宏、岸久美子/三崎千恵子/丘 寵児、池田忠夫、吉野憲司、永島 岳/波多野克典、伊藤弘一、相原 昇、泉田洋志、林田 博、杉山握典/輝山恵子、水戸義弘、伊達 強、津川伸一、宮本栄二、東田昭夫

 学会出席の為、妻・美奈と共に黒雨村を訪れた慈木留。その黒雨村では、大工場を誘致しようとする県会議員派と反対派である青年団との間で抗争が起こっていた。薬によってハイドに変身した慈木留は、その抗争に乱入し、県会議員派のチンピラを殺害。変身時の記憶が無い慈木留は、その事件と自分との関係性に不安を覚えた。そして慈木留は、県会議員・クモサカレイタロウに呼ばれ、慈木留の肩書きを用いて青年団を説得するよう依頼を受けるが、拒否。再びハイドに変身した慈木留は、仲間の復讐に燃える県会議員派を蹴散らし、青年団の一員・シンジョウアキコを強姦。アキコと恋人関係にあった県会議員派のテツジは、その場にいながらもアキコを助けなかった青年団を非難、乱闘になった挙げ句青年団に殺害される。青年団はテツジの殺害をハイドの仕業のように偽装するが、それを毛利は見破り、模範青年の寄り合いと呼ばれた青年団の仮面が剥がされた。一方、ハイドに犯されたことで価値観が変わったアキコは、自分の中で殺意のようなものがカタチになり、「恋人を自分の手で殺したかった」と言い残して、村を捨て東京へと旅立ったのだった……。

 書籍『長坂秀佳術』や雑誌『特撮ニュータイプ』2007年1月号によると、本番組は丹波氏が持ち込んだ企画を長坂氏が具体的な企画書としてまとめ、全体的な構成を構築したとのこと。本話では、善の仮面に隠された人間のエゴ、そして、人間の心の底に渦巻いている何か(=殺意)が具体的にカタチを作っていく様を描いており、第4話の冒頭や最終話の予告編で語られている本番組のテーマ「人間の二面性」が鋭くえぐり出された作品となっている。
 本番組全13話で慈木留の名前の漢字表記が確認できるのは計3回。第2話=パーティーの看板、第4話=病室のプレート、第8話=名刺。すべて「慈木留君彦」になっている。しかし、世に流れている資料では慈木留の名前が「公彦」になっているものも多々ある。理由は不明である。
(※テツジ、シンジョウアキコ、クモサカレイタロウの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第6話「ある少年の・・・・・」

放送日:1973/02/13
脚本:出雲五郎(長坂秀佳)
監督:今野 勉
ゲスト:亀谷雅彦、河村祐三子/中村たつ、今福正雄/岡部正純、伊佐山博子、吉原正皓/柳沢紀男、太田侍士、小沢正二、中村万里、中島エマ

 慈木留病院の窓から見える公園で毎日決まった時間に語り合う若い男女。たまたま少年が時間に遅れた僅かな隙に、その少女はハイドに犯され殺された。少女の居ない公園に毎日通い続ける少年の前にハイドが出現、少年は命からがら逃走した。翌日、いつもの公園で再度少年の前に姿を現すハイドだが、鏡に映った自分の姿を見て苦しみ出す。慈木留の姿に戻った瞬間を目撃した少年は警察に証言するが相手にされず、そのため慈木留邸に押しかけて女中を人質に慈木留を脅迫。観念した慈木留は、姿を変える薬でハイドになれることを白状した。物的証拠となる薬を慈木留から奪った少年は、法の裁きで死刑になることを望み駆け出す。しかし、以前夜の街で知り合った女性の乗るオートバイに偶然撥ねられ、少年はそのまま息を引き取った。少年が大事に手にしていたその液体――それは水で薄めたただのインクであったのだった……。

 本作では、放送当時のヒット曲である2曲が時折バックに流れ、少年の心情を効果的に表現している。少年が少女の死に直面するシーン及び、少年が慈木留から薬を奪い少女の仇を討てると信じて走り続けるシーンにて流れる曲はちあきなおみ氏が歌う「四つのお願い」。少女との思い出を胸に、少年が夜の街を徘徊するシーンに流れる曲は藤圭子氏が歌う「圭子の夢は夜ひらく」。共に1970年の4月に発売された曲である。また、少年が夜の街を徘徊、「圭子の夢は夜ひらく」がバックに流れるシーンにて少年が通りがかる映画館にかかっている上映中の看板は1970年6月に日本公開されたアメリカの映画 「パットン大戦車軍団」。そして、通行人が半袖であることから見ても撮影が夏場であることがうかがえる為、これらの状況から本話の撮影、製作が1970年の初夏以降だと推測される。(第6話以外だと、第11話では1970年7月に発売された藤圭子氏の「命預けます」が使われている。また、2007年に発売された本番組のオリジナル・サウンドトラックの解説書によると、本番組BGMの第2回録音は1970年5月20日。第8話の挿入歌「愛の世界」は1970年6月8日録音となっている。)ただし、世に流れている本番組の資料では「1969年に作品自体が完成」とあるものが多く、食い違いが生じている。初期の作品は1969年に完成していたかもしれないが、少なくてもこの第6話は1969年に完成していたことはあり得ないといえよう。
 本話で印象的に登場する人形は水森亜土氏の人形。時代を感じさせるものである。
 少年が勤めるガラス工場の同僚(先輩?)を演じているのは今福正雄氏。今福氏は、長坂作品では『特捜最前線』(1977年〜1987年)の第54話「ナーンチャッテおじさんがいた!」のベロ出しオジサン役が非常に印象深い。


第7話「雨の慟哭」

放送日:1973/02/27
脚本:長坂秀佳
監督:石田勝心
ゲスト:久里千春/中山克巳/沢 りつを、勝部義夫/松田真里、斉藤清憲

 慈木留の妻・美奈は、学生時代のある雨の日に母の不倫現場を目撃したことが未だにトラウマになっていた。毛利は、ハイドが慈木留邸に入ったという目撃情報から、慈木留家とハイドに何らかの関係があると睨み慈木留と美奈を詰問するが、二人は知らないと言い放つ。美奈の友人から美奈と毛利が若いころ恋人同士だったと聞かされた慈木留は嫉妬。そして普段は貞淑である妻が、薬の作用でどのように変貌するのか興味を抱いた慈木留は、美奈に風邪に効くと言って薬を与えた。共に悪魔になろうと、慈木留も薬を服用するが、40度の高熱の為か効き目が現れず変身出来ず眠りについた。その後、普段和服姿ばかりの美奈が派手な洋服で出かけたことを知った慈木留は、貞淑な妻にはこの程度の効き目しかないのかと笑う。しかし、突然、慈木留は高熱の影響で薬の効き目が遅れて作用。ハイドに変身した慈木留は美奈を襲い、犯す。慈木留は、美奈が薬の効果で乱れたことに「薬の勝利だ」と笑うが、実は薬は飲んでいなかったという妻の言葉に慈木留は驚く。そして、ハイドに襲われたことで何かが変わった美奈は、吹っ切れた顔で雨の日のトラウマが平気になったと微笑むのだった。

 本話にて毛利が語る、慈木留邸に侵入したハイドを見たという二人の目撃者。「今日は浮浪者」は本話のこと、「この前はフ―テン娘」は第5話のことを指している。また、美奈の雨の日のトラウマのくだりも同じく第5話に説明がされている。第5話は長坂氏のホンではないが、本話執筆時に大分影響を与えているとうかがえる。
 高熱で薬の効果が遅れるという新たな(本話のみの)設定が登場。いつ変身するか分からないというサスペンス、いや、ある意味ドタバタ劇が展開。シリアスの中に垣間見えるドタバタ劇は、いかにも長坂氏らしい作風である。なお、最終話でも高熱時に薬服用直後以外で変身の兆候が現れるが、これは高熱の影響なのか、それとも薬による末期症状の為なのか、不明である。ただし、この時は結局ハイドへの変身はせず、慈木留の姿のままで発狂になった為、本話とは状況が異なる。
 長坂氏がメインライターを務めた『人造人間キカイダー』(1972年〜1973年)の主人公・ジローを演じた伴大介氏が出演。クレジットは本名である斎藤清憲である。なお、放送は『人造人間キカイダー』の方が先だが、撮影は『ジキルとハイド』の方が先である。


第10話「二つの母の顔」

放送日:1973/04/03
脚本:長坂秀佳
監督:西村 潔
ゲスト:池田昌子、本山可久子/吉田博行、前田充穂/佐伯 徹、湊 俊一/白石幸子

 大学受験を控えた少年・ユヤマヤスシは、過保護すぎる母親に反抗。そしてその友人であるアイダショウイチは、10年前に家出した母を探して上京、母に美しい幻影を抱いていた。ヤスシは、受験勉強さえすればいいと思っている母親に対する当てつけに、動物園の入園料の強奪を企み、アイダをそそのかして計画。そんな時、ハイドがユヤマ邸に侵入、ヤスシの母を強姦する。ハイドが脱出する様を目撃したヤスシとアイダは警察に証言。しかし、ハイドの姿を見たアイダと、慈木留に戻った姿を見たヤスシとでは証言内容が正反対で警察は混乱。ヤスシは自分が目撃した男が慈木留だと知り、母が慈木留と浮気をしていると勘違いしショック。病院に向かったヤスシは、慈木留を問い詰める。ヤスシは、母の愛情を欲しているのに母の関心がヤスシ自身ではなく受験合格にだけあると慈木留に指摘され、逆上して慈木留を監禁し立てこもった。薬を飲みハイドに変身した慈木留は、ヤスシが持つ動物園の地図を入手、部屋から抜け出し、動物園の入園料を強奪した。その金をアイダが取り返すが、ハイドに追われ、ついに発見した母の家に逃げ込む。だが、そこでハイドによって母の愛人が殺され、母がアイダの目前で犯される。母に対しての幻影が崩れ去ったアイダは衝動的に母を刺殺。一方、病院ではヤスシが警察に取り押さえられ、息子の犯行が理解できない母は嘆き続けるのだった。

 ユヤマヤスシの母を演じた池田昌子氏は、『ローマの休日』(1953年・日本では1954年)を始めとするオードリー・ヘプバーンの吹き替えや、『エースをねらえ!』『新・エースをねらえ!』(1973年〜1974年・1978年〜1979年)のお蝶夫人(竜崎麗香)の声や『銀河鉄道999』(1978年〜1981年)のメーテルの声など声優として有名。後年は声優業に専念しているが、本作の頃はドラマにも出演していた。
(※ユヤマヤスシ、アイダショウイチの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第12話「偽りの園」

放送日:1973/04/17
脚本:出雲五郎(長坂秀佳)
監督:田畑慶吉
ゲスト:津田亜矢子、南 左斗子/山谷初男、吉水 慶/小川幾太郎、松島真一、斉藤 真、佐野哲也、小林テル、三井渓子/新井一夫、小坂生男、岡本 隆、久本 昇、佐藤高樹/宇佐美淳也、北原文枝

 3歳のあどけない幼児・イノウケンイチが惨殺された。暴行魔=ハイドの仕業だと世間が騒ぐ中、慈木留にはハイドとして少年を殺した記憶が無かった。慈木留はケンイチの母・シゲを診察、ケンイチがシゲと血の繋がりが無いことを知る。さらに、学生時代の友人であり、シゲの恩人である病院院長の濱口からシゲが子供の産めない体であると聞く。そして濱口邸で薬を飲んだ慈木留はハイドに変身、濱口の娘・リエと激しいセックスを繰り広げた。ケンイチの父・センキチは、シゲの同僚・アオキが子供の父親だと誤解。アオキに襲いかかったセンキチは「ケンイチみたいに殺してやる」と思わず口走る。夫が犯人だと知り衝撃を受けるシゲ。一方、父からハイドとの関係を咎められたリエは、過去に家柄や対面の都合で恋人を自殺に追いやった父を非難する。夫の苦悩を知ったシゲは、自分に子供を世話した濱口に対し、ケンイチの親の正体を問うが、濱口は逆上。そのやり取りを目撃したリエは、過去に闇に葬られた自分の子供の消息を理解、両親に歯向かう。そこに出現したハイドは、濱口の妻を殺害。その最中、シゲは濱口を殺害した。その後、ハイドを発見し追跡する毛利。自宅に逃げ込むハイド=慈木留だが、元の姿に戻れない。そこに、毛利達の追跡が迫る。

 本話のラストシーン。一つのエピソード終了後、無理矢理最終回へ繋ぐ為に挿入した感が感じられる。
(※シゲ、センキチ、イノウケンイチ、リエ、アオキの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)


第13話「永遠の標」

放送日:1973/04/24
脚本:出雲五郎、長坂秀佳
監督:山際永三
ゲスト:小林重四郎/川島育恵、石田茂樹、高島敏郎/泉田洋志、永島 岳、松本染升/臼間香世/甲野純平/宮本栄二、椎橋健男、福井哲也、中島一夫、川上健太郎

 変身の解けない慈木留に毛利らが迫る中、咄嗟に時間を稼いだ美奈の機転の隙に慈木留は変身を解いた。直後、高熱を出し倒れる慈木留。慈木留とハイドが同一人物であると信じる毛利は慈木留邸を監視。病で苦しむ中、慈木留は慈善団体・灯の会の理事会に出席。会議の最中に変身の前兆を感じた慈木留は、慈木留の姿のままで発狂。灯の会の会長・ミヤジシゲノブを殴り倒した慈木留は取り押さえられ、直後、ミヤジは変死。慈木留は城南大病院の精神科に入院させられる。そして病院から急いで帰宅した美奈は、慈木留の薬と資料を処分する。一方、毛利は慈木留が薬によって別人格に変身すると確信、慈木留をさらに追求する。薬への欲求に耐えられなくなった慈木留は、毛利らの監視の中、美奈の協力によって隠していた薬を入手。美奈、そして灯の会の事務員の少女の目前でハイドに変身した慈木留は、二人と快楽の世界に。ハイドは、警察の追跡の中、研究室を爆破し二人を連れて逃走。そこで両親の仇であるミヤジを殺害したと告白する少女だが、ハイドを執念で追う毛利の誤射により死亡。さらに追う毛利。そして毛利らの目前に広がる海。そこにはハイドが乗り捨てたジープと、海上に浮かぶハイドのコートがあるだけだった。ハイドは死んだのか? しかし美奈は呟く――「どこかに生きてます」と。

 慈善団体「灯の会」は第2話にも登場。第2話の予告編にて慈木留が会長であると語られているが、本話の毛利の台詞ではミヤジシゲノブが灯の会の会長だと語られている。第2話から第13話の間に会長が変わったということだろうか……。
 本話では、ハイドが警察無線で「凶悪犯13号」と呼ばれている。他の回でも「連続婦女暴行殺人犯」「暴行魔」「連続暴行殺人魔」「連続暴行魔」等様々な呼び名で呼ばれているが、本編でハイドと呼ばれたことは一度も無い。ハイドで呼ばれているのは予告編のみである。
 書籍『長坂秀佳術』や雑誌『特撮ニュータイプ』2007年1月号に掲載されている長坂氏のインタビューによると、第6・12・最終話に脚本としてクレジットされている出雲五郎は長坂氏のペンネーム。最終話が長坂氏と出雲五郎の共作になっている理由は、出雲五郎名義で手掛けられた脚本に丹波氏が納得いかず、急遽長坂氏が書き直すことになったからだとか。
(※ミヤジシゲノブの漢字表記は不明の為、ここではカタカナ表記で表している。)