長坂No.1「愛の刑事魂」
本放送No.7 (脚本・長坂秀佳 監督・村山三男 助監督・三村道治)1977.5.15放映 ある貧しい家庭の少女が行方不明になった。捜査に乗り出す特命課。家族の境遇に人一倍心を痛める高杉刑事――。
記念すべき長坂特捜脚本第一作。長坂氏もこの作品に愛着があるのか、1986年に出版されたシナリオ集にもこの話が採られた。 長坂No.2 「爆破60分前の女」
本放送No.17 (脚本・長坂秀佳 監督・佐藤肇 助監督・青木弘司)1977.7.27放映 群馬でラジコン爆弾が使用された殺傷事件が発生した。日本財界首脳会議の妨害を企む一味の仕業によるものだった。彼らは首脳会議妨害を謀るべく、計画の手始めに特命課にラジコン爆弾を送り付けた――。
輝ける長坂特捜爆弾シリーズの第一弾。この作品の成功をキッカケに、以後の長坂特捜作品に「バクダン(もしくはダイナマイト)」は欠かせぬアイテムとして作中に君臨することになる。また作中の「身動きが取れない神代」というモチーフは後の1980年の傑作「バリコン爆弾」前後編に直接受け継がれた。作品の出来、質などはリメイク版のバリコンシリーズのほうが纏まっているかもしれないが、元祖には元祖の輝きや面白さはやはりある。 長坂No.3「北陸路七年後の女」
本放送No.25 (脚本・長坂秀佳 監督・松島稔 助監督・三村道治)1977.9.21放映 二人の男の死体が連続して発見された。そして、それぞれの死体の傍には何故か、山代太鼓の録音されたテープが置かれてあった――。
さてこの作品は長坂氏執筆の吉野メイン作である。が、よくよく考えてみると長坂特捜において吉野メインタイトルは本作を含め僅か五作品と他の刑事たちに比べても極端に少ない(八年半もレギュラーだったのに……レギュラー一年半の滝にして長坂メイン話は四本あったのだが。まあその時期長坂氏が特捜量産体制の真っ最中であったという事実はあるにせよ)。 長坂No.4・5 「プルトニウム爆弾が消えた街」「核爆発80秒前のロザリオ」
本放送No.29・30 (脚本・長坂秀佳 監督・佐藤肇 助監督・中津川勲)1977.10.19・26放映
核再処理工場に四人組のテロが押し入った。警官との銃撃戦の末、犯人グループの大半は死傷、事件は解決したかに思われた。
特捜にとっても長坂氏にとっても初の前後編だが、そのスケールは四話連続にしてくれてもいいほど(爆)壮大かつ波瀾万丈なものとなった。初期特捜のなかでは間違いなく傑作と称されてもおかしくない前後編といえる。 長坂No.6 「傷痕・夜明けに叫ぶ男」
本放送No.36 (脚本・長坂秀佳 監督・松尾昭典 助監督・青木弘司)1977.12.7放映
高杉刑事は朝のジョギング中、一人の浮浪者風の老人と知り合った。その老人は昨夜自分は殺人事件の現場を目撃したと言うが――。
長坂特捜作品のなかでベストを選ぶとなった時、正直この作品が上位に来るというケースは少ないかもしれない。しかしこの作品では長坂作品(「特捜」に限らず)に欠かせぬテーマである「父と子」が初めて生々しく取り扱われた。従って、長坂特捜で以後書かれた「父と子」モノの数々の傑作の源流ともいえる作品ではなかろうか。あと、この作品のゲスト・小林昭二氏は長坂特捜で本作をキツカケにして数々のタイトルに出演している(その他は「東京殺人ゲーム地図!」「トランプ殺人事件の謎!?」「殺人警察犬MAX」)。余談だが、小林氏以外に長坂特捜には欠かせぬゲスト俳優としては筆者は織本順吉・西田健・田口計各氏らが印象深い。 長坂No.7 「非情の罠・金、女、賭博!?」
本放送No.44 (脚本・長坂秀佳 監督・村山新治 助監督・稲垣信明)1978.2.1放映
特命課の桜井刑事は金を受け取った、賭け麻雀をした、負けが込んだら拳銃で脅した、暴力を振るった、女性の服を引き裂いた……ある男女四人組がそう証言し、桜井は告発された。それは何者かが桜井の名を騙って企んだ策略だった。 桜井刑事が世間から非難の的になり、神代たち警察内部から調査を受けるという構図は翌年の傑作「サラ金ジャック・射殺犯桜井刑事!」に何となく似ているので、本作のアイデアは「サラ金ジャック」の発想の原点になったといえないこともない。 長坂No.8・9 「兇弾・神代夏子死す!」「兇弾U・面影に手錠が光る!」
本放送No.50・51 (脚本・長坂秀佳 監督・佐藤肇 助監督・辻理)1978.3.15・22放映
――神代警視正の娘・神代夏子が殺される(T)。そして後編の(U)では神代の鬼気迫る捜査が描かれる。←あらすじになってませんが(爆)
特捜の最初期一年間の締め括りに相応しい分岐点となる前後編。実際は次回の52話「羽田発・犯罪専用便329!」にて桜井離脱&紅林登場にて一区切りとなるが、この凶弾編もそれに付随したターニングポイントとなる話である。 長坂No.10 「ナーンチャッテおじさんがいた!」
本放送No.54 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・服部和史)1978.4.12放映
電車内で悪辣な乗車態度の限りを尽くすヤクザ三人組に注意を与えたサラリーマンの男性が、夜道に三人組にリンチを食らい、死んだ。
長坂特捜の高杉メイン作の三本のなかでは最も私の好きな作品。が、見るのに人情的には少々キツイ作品でもある。何せこの作品には救いが無さすぎだし、死んだ父親の息子・かつらとその姉の痛ましい演技や、「ベロ出しおじさん」の無常も真に迫っていて、見ていて非常に心が痛む……つまり、それだけ長坂氏の筆力が鋭く、素晴らしいという証明であると思うのだが。珍妙なタイトルとは裏腹に社会派の重い作品に仕上がっている。 長坂No.11 「ラジコン爆弾を背負った刑事!」
本放送No.62 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・服部和史)1978.6.7放映 郊外で無人車ラジコン爆弾を使い、「黒の義勇軍」が要人暗殺のためのリハーサルを行った。その動きをいち早くマークした神代は、課員に義勇軍のアジトを見張らせるが――。
この作品は「爆破60分前の女」のある程度裏返し的設定となっている。世界観もつながっておりSPの柳沢課長が引き続き登場するし、黒の義勇軍も「爆破〜」と同じ悪の組織だ(まあ「爆破〜」にはバリコン爆弾シリーズという直系が存在するが)。「爆破〜」では動きの封じられた神代だが、今作では神代以外の刑事全ての動きが封じられる仕組みになっており、常に新しいことにチャレンジする長坂氏らしい大胆でユニークなストーリーに仕上がった。ラジコン爆弾も斬新なイメージである。 長坂No.12 「スパイ衛星が落ちた海!」
本放送No.70 (脚本・長坂秀佳 監督・村山新治 助監督・辻理)1978.8.2放映 西伊豆の海上で某国のスパイ衛星が空中爆発。衛星の残骸は四散し、警察は部品の回収に努めたが、軍事機密が収められたマイクロフィルムは発見されなかった。捜査に乗り出す特命課――。
長坂氏は「特捜」という番組においてさまざまな実験的試みを行っているが、その例の一つとして「刑事ドラマのなかでは敬遠されがちだった荒唐無稽寸前の大胆な設定を、堂々と作中に取り込む」というのが挙げられる。プルトニウム爆弾にしろ、細菌爆弾にしろ、不発弾にしろ、ともすればリアリティーの欠如につながる道具でも平気で作品に登場させ、視聴者の度肝を抜いた。で、今回のお話に登場するのはスパイ衛星――オドロキである。チャレンジャー長坂氏は常に一歩先を行く発想で「特捜」の屋台骨を支えつづけていた。 長坂No.13 「死体番号044の男!」
本放送No.74 (脚本・長坂秀佳 監督・佐藤肇 助監督・辻理)1978.8.30放映 修学旅行で東京に訪れた息子を訪ねる橘。だが息子からは冷たく拒絶された……。一方、吉野の津上は街で橘とうりふたつの男と遭遇した。が、男は直後に車に撥ねられ死亡する。男は何故か橘の写真を携帯していた――。
長坂氏は変装&潜入モノは大得意なのか好きなのかは分からないが、とにかく「特捜」のシチュエーションには多用した。変装ものの代表作は「ラジコン爆弾を背負った刑事!」「誘拐」前後編あたりで、潜入モノの代表作となると津上殉職編、「非情の街・ピエロと呼ばれた男!」「天才犯罪者・未決囚1004号!」「リンチ経営塾・消えた父親たち!」「裸足の女警部補!」、そしてこの「死体番号044の男!」となる。従って、この作品が以降に続く長坂特捜潜入モノの基本となる作品だろう。長坂潜入ものは大半が橘メインの作品という事実は、少し興味深い(「橘警部逃亡!」も潜入ものの変奏曲といえるし)。 長坂No.14 「新宿ナイト・イン・フィーバー」
本放送No.80 (脚本・長坂秀佳 監督・佐藤肇 助監督・小笠原猛)1978.10.11放映 暴力団同士の抗争で使用された拳銃が偶然の積み重ねから、ある一人の平凡なサラリーマンの鞄に知らず、紛れ込んだ。やがて拳銃の存在に気づいたその男は――。
長坂特捜全109本の中でも、この作品は最も衝撃度の高い作品といえる。昨年「掌紋300202!」を見るまでは、この作品が私の中での特捜最高傑作だった。 長坂No.15「死刑執行0秒前!」
本放送No.85 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・小笠原猛)1978.11.15放映
山中で発見された指が三本しかない死体が発見された。その死体は船村刑事が長年探し求めていた男のものだった。その死体の存在が、14年前の高利貸一家殺人で尊属殺人の罪に問われた男・阿久根の無実を証明できる可能性があるのだ。「ホンボシに自白させて阿久根の無実を証明してみせる」と意気込む船村。
長坂特捜初のおやっさんメイン作品。以後「恐怖のテレフォンセックス魔!」「完全犯罪・ナイフの少女!」「子供の消えた十字路」「乙種蹄状指紋の謎!」「バラの花殺人事件!」「ストリップスキャンダル!」「一億円と消えた父!」とおやっさん作品は続く(筆者は「退職刑事船村」シリーズは船村がゲスト扱いの作品だと思うので、厳密にメイン作とは考えていない。人によって考え方は違うとは思うが……)。これらの作品群だと「十字路」「乙種蹄状」「ストスキャ」あたりが人気を獲得しているようだ。因みにワタシ的に長坂×船村ベスト3を挙げるとするならば「十字路」「一億円」、そして本作である。というか、長坂特捜のみならず「特捜」全体でも船村メインのベスト1はこれになってしまう。 長坂No.16「死んだ男の赤トンボ!」
本放送No.86(脚本・長坂秀佳 監督・佐藤肇 助監督・辻理)1978.11.22放映 犯人逮捕の巻き添えで一人の男が死んだ。その男は日本を代表する大財閥の社長だったが、何故か浮浪者の格好をしていた。そして男が死ぬ直前に口ずさんでいた赤とんぼの歌――。
「殺しがおこる――捜査する――逮捕する」……「通常の刑事ドラマ」だと、このパターンはある種定番となっている感がある。長坂氏はそういったパターンには反撥し、「特捜」においては犯罪にしろ、語り口にしろ、犯人像にしろ、素材や題材のどこかに「通常の刑事ドラマ」とは違う「新しさ」を求めていたという。
本作では、「なぜ大会社の社長が浮浪者の姿で一人佇み、赤とんぼの歌を口ずさんでいたのか」という冒頭の謎を刑事が解くという「通常の刑事ドラマ」ではなかなかお目にかかれない異色の設定に挑戦した、味わい深い佳作である。長坂特捜人情編なら「ナーンチャッテおじさんがいた!」と並び初期の代表作だろう。ゲストの西村晃も名演で応えた。 長坂No.17 「ジングルベルと銃声の街!」
本放送No.90 (脚本・長坂秀佳 監督・佐藤肇 助監督・服部和史)1978.12.20放映
クリスマスシーズンの到来で、街は活気付いていた。そんなさなか、一人の男の死体が橋の下で見つかった。特命課が出動、現場のすぐそばでトランペットを吹いていた男に容疑が向けられた――。
「特捜」において年末&クリスマス編というと塙五郎氏の専売特許のイメージが強く、特にクリスマス編は氏の手で数多く執筆された。実際傑作も多く、「サンタクロース殺人事件!」などは筆者も大変好きな作品である。 長坂No.18「恐怖のテレフォンセックス魔!」
本放送No.94 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・小笠原猛)1979.1.17放映
毎晩のようにかかってくる悪戯電話に悩まされる主婦。男の執拗なイタズラ電話の手口は日に日にエスカレート、女はノイローゼ寸前となる。
本作で取り扱われる事件は冒頭の船村のナレーションにもあるように、これまでの長坂特捜作品内の事件に比べると規模は小さな、悪戯電話というものだ。が、そういった種類の犯罪も、他の巨悪犯罪と同じく平凡な市民にとっては悪質かつ強大な恐怖なのである――と長坂氏はシナリオのなかで問題提起を試みているように読める。氏独特の斬新で、一味違う角度からの鋭い切り口が本作のそのままテーマとなった。 長坂No.19・20 「追跡T・白銀に消えた五億円!」「追跡U・愛と死の大雪原!」
本放送No.97・98 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・辻理)1979.2.7・14放映
北海道・ルスツのスキー場で女性スキーヤーが死体を発見した。その死体は背中が十字に切られ、十字架に架けられた惨殺体だった。
この前後編はこれまでに発表された長坂特捜の前後編に比べるとアクション的要素の高い作品となった。スキー場を舞台とした爆破あり、スキーあり、追跡あり、ヘリも飛び……というふうに派手なシチュエーションの作品になってはいる。 長坂No.21 「悲劇のシンデレラ・復讐0秒前!」
本放送No.99 (脚本・長坂秀佳 監督・松尾昭典 助監督・服部和史)1979.2.21放映 五年前、アメリカの大富豪と結婚、後に夫は謎の急死を遂げその後、米国籍を取得した悲劇のシンデレラ……そう称されたキャシイ夫人が来日(帰国)した。夫人の来日の目的はある男への「復讐」にあった――。 本作は津上がメイン。前作の長坂特捜津上メインタイトルの「ジングルベルと銃声の街!」がミステリーマインド溢れる作品だったが、今作も謎の洋館に男三人を呼びつけて、「復讐」目的の人物を炙り出すという既存の刑事ドラマでは滅多にお目にかかれない変化球の筋立てとなっている。長坂特捜109本の中では特に目立って高い評価を受けているという話を聞かないタイトルだが、ワタシ的には結構好みの作品である。 長坂No.22 「さようなら高杉刑事!」
本放送No.105 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・藤井邦夫)1979.4.4放映 高杉陽三刑事のファイナルストーリー。自分は母親を殺したと供述する少女・ユカ。その少女の無実を信じる高杉は、栄転話がフイになるかもしれないのに、無実を証明するために奔走する――。
この話より「特捜」は三年目に突入する。赤いを夕陽をバックにタイトルバックが現れるオープニングもこの回より初めて導入されりするなど、ターニングポイント的要素の高い区切りの作品である。西田敏行氏は初期はともかく中期は「西遊記」の撮影のためか登場機会は極端に少なかったが、本作を持ってリタイヤとなった。前回の「スキャンダル刑事」シリーズでの特捜復帰の藤岡弘氏と合わせ、この頃は「特捜」の変革期であったといえる。 長坂No.23 「完全犯罪・ナイフの少女!」
本放送No.106 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・藤井邦夫)1979.4.11放映
殺人の過去を持つ少女。刑期を終えて出所した彼女を暖かく見守る船村刑事は、就職の世話などをし少女の第二の人生を陰ながら支えようとした。
おやっさんのオープニングカットの印象的な絵というと、やはり傘を差しながら走ってきて、カメラ目線でにっこり笑いながら傘を畳む……であろう(京極夏彦氏の小説「どすこい(仮)」にもそういった記述が見られる)。しかし、この時期のオープニングはおやっさんが、バスケットボールのシュートを決めてにっこり……というバージョンで、本作ではそのバスケットが物語においてわりと大きな役割を示している。それにしても、船村がバスケットをするというイメージは中期・後期の特捜ではあまり考えられない。 長坂No.24 「午前0時に降った死体!」
本放送No.108 (脚本・長坂秀佳 監督・村山新治 助監督・藤井邦夫)1979.4.25放映 滝二郎巡査登場編。午前0時頃、ビルの窓を破って会社重役が転落死した。自殺か、他殺か……。捜査を開始する特命課。現場の目撃者のなかには、刑事になることに憧れを抱く滝巡査がいた――。
滝登場&玉井巡査ファイナルといったインサイドストーリー。高杉刑事離脱編と合わせて特捜が番組のスタイルを変化させていく上で絶対重要な話。――そしてこういった話はメインライターの長坂氏が書かねばならないのである。 長坂No.25 「列車大爆破0秒前!」
本放送No.110 (原案・渡辺栄次 脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・辻理)1979.5.9放映 警視庁110番センターに車の爆破予告の電話がかかってきた。そして予告通り30分後、滝の先輩刑事・和田が車ごと爆破された。直後、現場付近から逃走する不審な車を目撃した滝は、その車を追跡するのだが――。
放送110回記念(110番ということで? ……ということらしい。私はよく分からない・爆)で一般視聴者よりプロットを募って、その入選作を長坂氏がシナリオ化したとのこと。冒頭いきなり110番センターの描写があるが、これも110回記念に合わせた長坂氏一流のしゃれなのであろうか。 長坂No.26 「サラ金ジャック・射殺犯桜井刑事!」
本放送No.114 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・藤井邦夫)1979.6.6放映
サラ金ローン・クローバー金融に散弾銃を持った男が強盗で押し入った。直後、警察が現場に急行。男と警察、双方は膠着状態にはいった。
――傑作である。しかし、非常に辛くて、暗くて、後味の悪い話である。従って、作品を見るのに根気をとても要する。私見だが、「救いのない長坂特捜ベスト10」を選ぶとするなら、第一位はこの作品になってしまう。因みにベスト10には他に「少年はなぜ母を殺したか!」「新宿・ナイト・イン・フィーバー」などがランクイン(?)している。 長坂No.27 「子供の消えた十字路」
本放送No.118 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・青木弘司)1979.7.4放映
物がみな白く見えるある暑い夏の日……一人の子供が船村刑事の目の前で車に撥ねられた。運転手はすぐさま子供を車に乗せ、その場を走り去った。事故を目撃した十数人以上が子供は病院に運ばれたものと信じた。船村もそう信じた。 一般的に長坂×船村編で代表作とみなされている作品。長坂氏自身もこの作品に愛着があるらしく、特捜のシナリオ集にも採られている作品だが、シナリオ集発刊前の85年9月号「ドラマ」収録の三本の特捜シナリオにもこの作品の脚本がある(他の二本は「爆破60分前の女」「少年はなぜ母を殺したか!」)。「殺人の起きない」スタイルの刑事ドラマを長坂氏は目指したかったという。おやっさんのテンションの高い名演も冴えわたる、文句なし長坂特捜珠玉の傑作である。 長坂No.28 「豪華フェリージャック・恐怖の20時間!」
本放送No.123 (脚本・長坂秀佳 監督・野田幸男 助監督・加島忠義)1979.8.8放映
一ヶ月前、ダムの工事現場から大量のダイナマイトが盗まれた。その犯人の車を追って、紅林は単身フェリーに乗り込んだ。
爆弾と復讐――長坂氏お得意のアイテムにシージャックを織り交ぜたサスペンスな一本である。紅林がメインの話だが、この時期長坂特捜では紅林が三本連続で主役を務めている。この3本の中では、「非情の街・ピエロと呼ばれた男!」が最も注目を集めているようだ。 長坂No.29 「亡霊・帰って来た幽子!」
本放送No.125 (脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄 助監督・加島忠義)1979.8.22放映
紅林の元に一通の手紙が届いた。差出人は紅林の知り合いの女子高生・幽子でそれには「助けてください。ゆくところにゆけません」と記されていた。
記念すべき(?)長坂特捜ホラー第一作。この作品を皮切りに長坂ホラーは毎年夏の風物詩(??)となり、以降「高層ビルに出る幽霊!」「殺人鬼を見た車椅子の婦警!」「水色の幽霊を見た婦警!」、そして形は少し異なるが「暗闇へのテレフォンコール!」と作品が書き継がれていく。また本作では紅林がメインだが、次作以降は高杉婦警の独壇場ホラーシリーズ(???)となった。したがって本作はホラーシリーズと婦警シリーズの共に基本・礎となったキッカケの作品である。 長坂No.30 「非情の街・ピエロと呼ばれた男!」
本放送No.129 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・藤井邦夫)1979.9.19放映
大津田組と水明会……暴力団同士の血で血を洗う抗争には数々の因縁が渦巻いていた。そんな中、水明会が大津田組に爆弾を使い復讐するという情報が特命課にもたらされた。 この話の前回にて船村刑事が特捜を一旦降板(「裸の街」……塙五郎脚本、天野利彦監督)、今回から特命課刑事が六人編成となり、その第一弾の話がこれである。「死体番号044の男!」とアイデア的に通じている話だが、長坂氏お得意の爆弾も炸裂し、横光克彦氏のある意味これまでの役者イメージを思い切り捨て去ったキレのある迫真の演技が見物の快作(怪作?)である。長坂×紅林編の代表作として一般的に認知されているのはおそらくこの作品ではないか(長坂氏自身も思い入れがあるのか、シナリオ集に採った作品だ)。 また、「死体番号」が本作の原型になった作品だが、逆に本作のイメージアイデアを継承した「警視庁を煙にまく男!」という長坂作品も存在する。 長坂No.31 「6000万の美談を狩れ!」
本放送No.131 (脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄 助監督・坂本太郎)1979.10.3放映
大学のキャンパスで深夜、一人の男が建物の屋上から転落死した。男は死の直前「泥棒だっー」と叫んだり、屋上には人と争った形跡があったりと、誰かに突き落とされた痕跡があった。これは殺人――橘はそう考えていた。
長坂氏の異常に「熱い」ストーリー。桜井と橘の対立を主軸に据えつつ(この二人の対決が見れるだけでも貴重なお話)、被害者の死の真相をさまざまな根拠や論理で覆したり、実証を重ねながら真実を追い求めていく骨太な名作。長坂氏永遠のテーマである「父と子の関係」も絡ませて、お話は二転三転と展開され、結末まで全く予断が許されないのである――しかし、この時期の長坂特捜の常、はっきりいって後味は悪い(爆)。しかし、傑作である。 長坂No.32 「六法全書を抱えた狼!」
本放送No.133 (脚本・長坂秀佳 監督・野田幸男 助監督・坂本太郎)1979.10.17放映
吉野は街で偶然車の中から「助けて」と救いを求める女と遭遇した。が、直後車が走り去り、吉野が彼女に再び会った時は、既に男に性的暴行を受けた後だった……。 数少ない長坂特捜の貴重な吉野メインのお話。犯人キャラを努めるのは叶こと夏夕介氏で(どうやらこの作品が特捜レギュラーに向けてのテスト出演だったとのこと。したがって本作の演技でそのテストに見事パスしたということか)、誠直也氏と夏氏の熱い戦いが、さまざまな法律知識の対決と共に繰り広げられる異色作(前回は「橘VS桜井」の構図だったが、この時期長坂特捜では対決形式が連続している)。ラストのハードな殴り合いのシーンは、野田幸男監督のバイオレンスのセンスが光っている。 長坂No.33・34 「誘拐T・貯水漕の恐怖!」「誘拐U・果てしなき追跡!」
本放送No.136・137 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・坂本太郎)1979.11.7・14
医師・朝倉の長男が誘拐され、身代金5000万が要求された。その誘拐事件に携わった所轄は身代金は朝倉一人に持たせろという要求を無視し、金の受け渡し現場で派手な張り込みを敢行。その時点で事件を知った特命課の神代は直ちに張り込みの撤回命令を出すが、犯人は現場には現れなかった。
この頃の長坂特捜が質量共に最も充実していた時期だと言える(この「誘拐」編を皮切りに一年の間に「殉職」編、「バリコン爆弾」編、「ダイナマイトパニック」編と傑作前後編が集中している)。そのはじめを飾る本作を長坂特捜のベストに挙げる方も多く、長坂氏自身もシナリオ集にセレクトしたほどの作品だ。長坂特捜の一連の誘拐シリーズのなかでは文句なしに史上最強のカードに挙げられるべきタイトルであろう。しかしまあこの作品は観るのにとことんパワーを要する作品だ。Tのサブタイトルに入る前までの一也の死のシーンは、やはり見ていて辛すぎるものがあって、見る者に相当の覚悟が要求される。それ以降も手に汗握るスリルやサスペンスが目白押しで全く油断がならない。 長坂No.35 「消えた子連れ刑事!」
本放送No.139 (脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄 助監督・小笠原猛)1979.11.28放映
警察に「闇のN資金」事件の証言をしにいく最中に殺された男。その現場には父親の息子がいたが、少年は飼ってるうさぎと共に姿をくらました。
私はこの作品、すっかりサブタイトルに騙されてしまった。「子連れ」という言葉だからか、「死んだ男と赤トンボ!」や「ナーンチャッテおじさんがいた!」系の人情話を勝手に連想してしまったのだ(そういえば長坂氏は「子連れ狼」という作品を書いているが、きっとそのテイストで攻めてくるのだろうなと妄想した次第)。しかし昨年初めてこの作品を見たのだが、予想に反して爆破あり、カーアクションあり、桜井演じる藤岡弘氏のアクション大満載、桜井の濃い(?)魅力が大炸裂するバトルストーリーであった。 長坂No.36 「脱走爆弾犯を見た女!」
本放送No.141 (脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄 助監督・小笠原猛)1979.12.12放映
連続爆破事件の主犯、通称「爆殺の帝王(オーソリティー)」矢尾崎が裁判所への護送の最中、脱走した。矢尾崎はきっと復讐のために爆弾を使ってくる……そう神代は確信していた。
この話はタイトルにもあるように長坂氏お得意のバクダンものである。そして、本作に登場するコンピュータ爆弾は長坂特捜爆弾シリーズのなかでも一、二を争う大胆で意表を突いた「バスの走行速度が時速30KM以下になったら爆発」というもので、長坂氏の豊富な発想力を窺い知ることの出来る設定になっている。そして併行して紅林と「ウソツキ」と評判の女との交流も味わい深く書かれた。……といったわけで本作は紅林がメイン。1979年度の長坂作品は全部で19本(年間脚本家別では最多量)だが、これらの作品群では紅林メインがうち4本と主役話は最も多く廻ってきた。 長坂No.37・38 「殉職T・津上刑事よ永遠に!」「殉職U・帰らざる笑顔!」
本放送No.146・147 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・北本弘)1980.1.23・30放映
荒木しげる氏演じる津上刑事の最後の物語――。
津上殉職編。本作は「細菌爆弾」というともすればリアリティーから外れた道具立てを大胆に物語に取り込んだ長坂氏の豪腕を堪能できる作品であり、母と子・父と子・妹と弟とそれぞれの肉親の情、愛の関係を丁寧に綴った作品であり、涙なくしては見ることのできない感動と興奮の作品であり――ともかく超絶傑作である。「殉職」という制約されたシチュエーションのなかで試みられたチャレンジャー・長坂氏の特捜魂が織り成す一大スぺクタル。スゴスギル。 長坂No.39 「警視庁番外刑事!」
本放送No.148 (脚本・長坂秀佳 監督・青木弘司 助監督・藤井邦夫)1980.2.6放映
東京では奇妙なライフル狙撃事件が連続して発生していた。事件を捜査する特命課は、事件直後の110番通報の声、写真、目撃者の証言……これらの証拠から奇妙なことに全ての現場には同じ男が居合わせていることを突き止めた。
夏夕介氏演じる叶刑事の登場編である。特捜10年の歴史のなかでもターニングポイントとなる重要な話であるだけに見逃せない。アンチエリートを剥き出しにするアウトロー刑事という初期設定を存分に生かした、長坂氏らしい野心的なストーリー展開に仕上がっている。 長坂No.40 「上野発“幻”駅行!」
本放送No.153 (脚本・長坂秀佳 監督・青木弘司 助監督・藤井邦夫)1980.3.12放映
男にさんざん貢がされ、挙句捨てられ、絶望し、悲嘆し飛び降り自殺をした女……取り調べにもその男・白川はのらりくらりと交わし、証拠は見つからなかった。結婚詐欺を立証するためには相手側の女の証言が必要になってくるのだ。
滝メインの長坂特捜人情編。これは長坂氏の作品らしくない――という言葉は語弊があるかもしれないけれど、そういった肌触りの作品で「長坂特捜っぽくない」という点で逆に新鮮に感じた。多くの長坂特捜に共通してこの作品のラストもハッピーエンドという訳にもいかなかったが、余韻を残す最後でこの締め括りは評価したい。この長坂×滝の人情路線にトリックが加わった作品が滝ラストの「地下鉄・連続殺人事件!」という感じがする。従って本作は「地下鉄〜」の前段階とも言える。ストーリーは全く違うが。 長坂No.41 「完全犯罪・350ヤードの凶弾!」
本放送No.155 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・加島忠義)1980.3.26放映
ある代議士がライフルで狙撃され、殺された。全ては大物代議士・渡来十全の行った完全犯罪であった。渡来に不審を抱いた橘は彼をマークするが、それに渡来が激怒。
長坂特捜には「完全犯罪」とタイトルのつく作品が全部で3本ある。「完全犯罪・ナイフの少女!」、「午後10時13分の完全犯罪!」、そして本作……これらの中ではやはり本作の出来が一歩抜きんでているような気がする(ワタシ的に)。 長坂No.42・43 「復讐T・悪魔がくれたバリコン爆弾!」「復讐U・五億円が舞い散るとき!」
本放送No.160・161 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・辻理)1980.4.30・5.7放映
東亜銀行の二支店で同日、連続して爆破事件が発生する。爆破に使用された爆弾は時限式ではなく、しかし複雑な機密の爆弾であるという――。 二話連続で書かれる長坂氏お得意の爆弾シリーズ。緻密に考えられたストーリー、バリコン爆弾という魅力的(というか圧倒的なアイデア!)な設定、卓越したサスペンス描写――どれをとっても一級で文句無しの超傑作である。本作は「爆破60分前の女」の「身動きできない刑事」というシチュエーションを利用したリメイク版でもあるが、神代だけでなく高杉婦警と共にダブルで身柄拘束されたり、「60分前」とは違い拘束されながらも自力で爆弾処理をする姿を丁寧に綴ったりと変化をつけている。本家とはまた違った面白さを、そして元祖を超える面白さをと長坂氏のエンターティナーぶりが窺えた。「父と子」の関係や、警察や企業のコトナカレ主義を鋭く書いたりと社会派ドラマとしても鑑賞できる秀作である。……ところで滝はどうして欠席なのだろう? キャストについて。犯人役は三ツ木清隆――言わずと知れた犬養巡査部長。またTには高杉婦警の友人役で原日出子女史の姿も(的場の奥さん・爆)。そして長坂特捜常連の田口計も胡散臭さは健在で(←誉め言葉)、しっかりと脇を固めている。 長坂No.44 「マニキュアをした銀行ギャング!」
本放送No.167 (脚本・長坂秀佳 監督・田中秀夫 助監督・小笠原猛)1980.6.18放映
何の接点もない逃亡中の凶悪犯三人が突如集結して企てた銀行強盗は失敗に終った。彼らを背後で操る者とは一体誰か?
長坂秀佳×田中秀夫×叶モノ……「東京殺人ゲーム地図!」「掌紋300202!」とこれらの超傑作が有名だが、本作の出来だってなかなかのもの。長坂氏は「銀行ギャング」といったタイトルからは想像からは掛け離れた変わり種の強奪手口を鮮やかに展開させてみせ、田中監督もテンポのある演出でそれに応え、叶の颯爽とした活躍も同時に描かれた佳作といえる。尚、本作の成功を踏まえてか「包帯をした銀行ギャング!」というタイトル類似長坂特捜もあるが、世界観につながりはない(ただしあるテーマで共通してはいる)。詳しくはその時に。 長坂No.45 「地下鉄・連続殺人事件!」
本放送No.169 (脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄 助監督・藤井邦夫)1980.7.2放映
東京の地下鉄駅構内で連続殺人事件が発生していた。被害者は各々自分達の切符とは別に、犯人によって裏が赤く塗りつぶされた切符を持たされていた――。
長坂×滝編の前回「上野発“幻”駅行!」は人情色の強い内容だったが、本作はその人情色+トリックを融合させた試みがなされた。長坂氏らしい「地下鉄連続殺人」というケレンのある設定のなかにも、「父と子」「母と子」の愛を綴ったストーリーで、この作品を長坂特捜ベストに推す方も多い。そして滝は「午前0時に降った死体!」と同じく刑事として致命的なミスを犯してしまう……彼にとっては最後の事件となった。この作品の長坂氏の筆はいつもにも増して非情――のような気がした。尚、本作ラストはシナリオと映像ではあまりにも違いがあるらしい。 長坂No.46 「乙種蹄状指紋の謎!」
本放送No.172 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・辻理)1980.8.6放映
連続ビル荒らし――既に三人もの犠牲者を出していた。事件を追う特命課だが、犯人のものかもしれない一個の指紋が現金強奪された後の手提げ金庫の底から発見された。その指紋は極めて特徴のある乙種蹄状紋だった。
前々回より特捜復帰の船村役こと大滝秀治氏に捧げる長坂氏の渾身の力作。長坂×船村の黄金パターンともいえる「おやっさん執念の捜査」を緻密に書いた作品で、この時期の長坂氏の充実ぶりが窺える内容だ。この作品は後に「一億円と消えた父!」というリメイク版も生み出している。 長坂No.47 「高層ビルに出る幽霊!」
本放送No.174 (脚本・長坂秀佳 監督・村山新治 助監督・三ツ村鐡治)1980.8.20放映
特命課メンバーは事件で出張、世間は夏休み――特命課の入っているビルはほとんど無人であった。高杉婦警は気のせいか、不吉な予感に苛まれ続けていた。 長坂特捜夏の風物詩(?)、高杉婦警ホラーシリーズ第一作である。作品は全体的にミステリー調。「亡霊・顔のない女!」でホラーに開眼(?)した長坂氏が高杉婦警を主役に据えて企んだホラーミステリー。テンポも良く、快調な出来に仕上がっている。 長坂No.48 「天才犯罪者・未決囚1004号!」
本放送No.177 (脚本・長坂秀佳 監督・青木弘司 助監督・木戸田康秀)1980.9.10放映
新潟生まれ、49歳の男・小田島――これまで三度結婚し、いずれも妻が不審な死を遂げ、その度警察にマークされるも証拠不充分でなかなか尻尾を掴ませない男。
長坂氏のフェイバリット刑事は叶である――そう以前に書いた。だが、叶に次いでこの橘をメインに据えたストーリーも長坂特捜には多く、またかなりの確率で傑作も多い。「虫になった刑事!」にしろ、「少女・ある愛を探す旅!」にしろ、「6000万の美談を狩れ!」にしろ、そしてこの作品にしろ――本作品では長坂氏お得意の「橘の変装」もしっかりと堪能できる。 長坂No.49・50 「ダイナマイトパニック・殺人海域!」「ダイナマイトパニック・望郷群島!」
本放送No.180・181 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・藤井邦夫)1980.10.1・8放映
三重県鳥羽。カーフェリー最終便の船上からある一人の男が消えた。捜索の結果、やがて男は海上で死体となって発見された。男はどうやら何者かに殺害された様子だった。 長坂特捜旅情編(ロケ編ということデス)。すべて挙げてみると、北陸編の「北陸路七年後の女」、北海道編の「追跡」前後編、三重鳥羽編の本シリーズ、ローマ・パリ編の200回記念シリーズ、会津編の「雪国から来た逃亡者!」、瀬戸内編の「退職刑事失踪の謎! 瀬戸内に架ける愛!!」となる。本前後編ではロケーション以外にもヘリは飛ぶは、船も出てくるわ、爆発はやたらとあるわととにかく予算のかかった作品であることが伺え、作品のスケールも長坂氏らしく奇想に富んでいる。10月しょっぱなの作品&そして長坂特捜50本目といろいろと区切りの話であることから、長坂氏も相当気合が入ったのであろう。 長坂No.51 「東京・殺人ゲーム地図!」
本放送No.186 (脚本・長坂秀佳 監督・田中秀夫 助監督・辻理、木戸田康秀)1980.11.19放映
東京の町中で発生した不可解な通り魔事件が発生していた。……オートバイに乗った全身黒革服姿の男が、男性と女性を襲って服のボタンを切り取るという謎の事件。
長坂×叶モノ――私の場合、やはり最高作となると「掌紋300202!」となってしまうのだが、本作の出来だってやはり素晴らしいのである。「掌紋――」は大々傑作だが物語後半で橘が美味しい(?)部分を少し持って行く部分があったが、本作では最初から最後まで叶の魅力が満載で、夏夕介氏のファンにはやはり応えられない作品であろう。 長坂No.52 「プラットホーム転落死事件!」
本放送No.188 (脚本・長坂秀佳 監督・村山新治 助監督・三ツ村鐵治)1980.12.3放映
去年の12月20日に一家七人殺しの容疑をかけられた男は、自らの潔白とアリバイを主張した。自分は駅前北口に駐車していた車の中で仮眠をしていて、近くの運送屋の青年がそれを目撃したはずだというのだ。
電車内での出来事が引き金になって事件が起きる、というパターンは「ナーンチャッテおじさんがいた!」と通じる部分もあり、「ナーンチャッテ」同様人情系スタイルの内容ではあるが、紅林の刑事としてだけでなく人間の思いなどもしっかりと描かれていて、これは秀作。「東京・殺人ゲーム地図!」と時期が接近していて、「東京――」の派手さが目立ってあまり目立たない(と私は勝手に思っているが)作品だが、大変勿体無い話であると思う。 長坂No.53 「判事・ラブホテル密会事件!」
本放送No.194 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・坂本太郎)1981,1.21放映
特命課へのある密告電話が事件の始まりであった……桜井刑事の長兄であり、東京地裁の桜井修一郎判事が、ある公判中の女性被告人とある特殊な関係にあるというのだ。 昭和56年度の初回の長坂特捜は桜井三兄弟の物語。長男に福田豊土氏、次男に岸田森氏、そして三男・藤岡弘氏……この他脇役に左時枝氏、田中浩氏と役者が固まっていてキャスティングは豪華である。長坂氏が桜井の家族について書いたシナリオはこの作品と、終幕三部作の「桜井警部補・哀愁の十字架」の計二本。今回の作品では兄弟を描いているが、「哀愁――」では父と子の関係図を書き上げた。「哀愁――」は傑作だが、できることなら本作以降の桜井と兄弟との関係も、後にどのように展開されていたのか見たかった気もした。 長坂No.54 「殺人メロディーを聴く犬!」
本放送No.195 (脚本・長坂秀佳 監督・野田幸男 助監督・三ツ村鐵治)1981.1.28放映
ある夜、叶が町で拾った犬――その犬は衰弱しきって、いつ命が果てるとも分からない状況であった。叶はその弱り果てた犬に自分の人生をオーバラップさせていた。彼は思う。この犬を死なせはしない……叶の必死の思いと治療が報われたのか、犬は奇跡的に回復した。叶はその犬に「テツタロウ」と名づける。団地住まいの叶は犬が飼えなかったので、叶はテツタロウを知り合いの家に預けた。
長坂特捜犬シリーズ第一弾。この他に昭和59年の疑惑前後編や「殺人警察犬MAX」などの作品が書き継がれるが、犬シリーズではやはり元祖・本家である本作が一番の人気を獲得しているようだ。噂によると叶刑事役の夏夕介氏自身もこの作品には愛着を感じているとのこと。 長坂NO.55・56 「ローマ→パリ 縦断捜査!T」「ローマ→パリ 縦断捜査!U」
本放送No.200・201<放送4周年・200回記念作品>(脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・T−藤井邦夫 U−辻理)1981.3.4・11放映
ローマのポポロ広場、一人さまようイタリア留学生の女――香川晶子。彼女は記憶喪失の状態で保護された。
一方、パリのセーヌ川を流れるトランク――中身は、首と手足を切断された腐乱状態の人間の胴体……。調査の結果、この死体はICPO捜査官の岡本警部と推定された。また、岡本は香川晶子と婚約関係にあったという――。 200回記念。長坂×天野とゴールデンコンビが堂々とコンビを組み、チーフ助監督も前編が藤井邦夫氏、後編が辻理氏(氏はこの回が最後の助監督作品)の二人体制で、当時の助監督ローテーションでは最強のお二人が携わった。まさに、制作スタッフは盤石の布陣が整えられた。ローマ・パリ二都市の雰囲気をとにかく前面に出そうと長坂氏は心掛けたのか、旅情色の濃い作品で、長坂特捜としては異色。また、香川晶子の「記憶」の問題がサスペンスを盛り上げている。 長坂No.57 「包帯をした銀行ギャング!」
本放送No.202 (脚本・長坂秀佳 監督・野田幸男 助監督・三ツ村鐵治)1981.3.18放映
三件の不可解な銀行強盗事件――いつも顔をすっぽりと隠し、手に包帯を巻き、歩き方に特徴があり、首を不自然に横に曲げる男。そしていつも盗む金額は少額。しかもそれらの金は、最近頻繁に発生している「現金投げ込み事件」で使用されているふしがある……。
「マニキュアをした銀行ギャング!」に続く(?)長坂特捜銀行ギャングシリーズ第二弾。「銀行ギャング」とタイトルに付されてはいるが、ストレートに「銀行強盗」を扱うわけでなく展開を一捻りしている部分は「マニキュア――」と共通しているが、世界観につながりはない。 長坂No.58 「雪国から来た逃亡者!」
本放送No.205 (脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄 助監督・坂本太郎)1981.4.8放映
バイクに轢かれそうになった子供を助けようとして、身代わりに男が死んだ。その男は叶の知り合いだった。叶は男の自宅を訪ねたが、男は身元を騙っていて、履歴書での申告とは別人であった。宙に浮いた男の本当の身元……。
長坂×叶編となると、やはりミステリー色の強い作品がぴたりと当て嵌まる。本作では、雪の猪苗代を舞台としたロケーション編であるが、10年前の謎の殺人事件の真相はトリッキーなことこの上なしで、非常に魅力的なものであった。人によっては怒り出すかもしれない真相ではあるけれど、私は大いに評価したい。 長坂No.59 「フォーク連続殺人の謎!」
本放送No.208 (脚本・長坂秀佳 監督・野田幸男 助監督・三ツ村鐵治)1981.4.29放映
橘の警察大学院の14期同期生が殺害された。凶器は、先端が鋭利に研ぎ澄まされたフォーク――それで胸を一突きされたのだ。
何故凶器はフォークなのか、そして何故男達は狙われるのか……こういった不可思議な謎が示され、それを解き明かしていくというまさに長坂特捜ミステリーモードのお手本のような作品。 長坂No.60 「特命ヘリ102応答せず!」
本放送No.210 (脚本・長坂秀佳 監督・村山新治 助監督・藤井邦夫)1981.5.13放映
長野で犯人逮捕の巻き添えを食って一人の少年が負傷した。手術にはさしたる危険はなかったが、少年の血液型は特殊なタイプで、東京中央血液センターにしか輸血用血液のストックは存在しなかった。一刻も早く東京から長野に血液を運ぶべく、紅林はヘリで血液を空輸しようとする。
長坂×紅林編の最高峰を選ぶとなると、私にとっては「殺人クイズ招待状!」と並んで双璧なのがこの作品。何といってもこの回の紅さんはハードボイルドで、カッコイイことこの上なしである。颯爽とヘリの操縦をする紅さん。犯人の理不尽な要求に対し時に屈辱にも耐える紅さん。最後の最後のヘリ内で犯人と死闘を繰り広げる紅さん――全てにおいて横光克彦氏の魅力満載の作品である……傑作。また、長坂特捜ヘリ活躍編としては他に「特命ヘリ緊急発進!」という姉妹編も存在する。 長坂No.61 「バラの花殺人事件!」
本放送No.214 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・藤井邦夫)1981.6.10放映
公園で一人の男の死体が発見された。後頭部を石で殴打され、トドメに腹部をナイフで一突き……そして死体の側には一輪のバラが添えられてあった。
1978年後半より続いた長坂特捜量産体制も前回の「特命ヘリ102応答せず!」までで落ち着いた感がある。この時期は、長坂氏が特捜以外の仕事にも重点を置きはじめたという事情があるにはある。が、作品の数が少なくなったせいかは分からないが、本作以降の長坂特捜は、どれもこれまでの作品より時間がかけられて執筆されている気がする。アイデアの斬新さは1979・1980年度の作品が頂点を極めていたが、セリフやストーリーの完成度はその頃の作品より飛躍的に高まったと感じた。 長坂No.62 「深夜の密告ファクシミリ!」
本放送No.217 (脚本・長坂秀佳 監督・野田幸男 助監督・木戸田康秀)1981.7.1放映
深夜の特命課に届いた一枚のファクシミリ。それは、二ヶ月前にとあるラブホテルで大学教授夫人が絞殺された新聞記事のコピーであった。事件はいまだ未解決……。
当時は最先端であったろう、ファクシミリというハイテクアイテムを駆使した作品。長坂氏のこうした「今はともかく、当時としては時代の先取り」特捜作品となると、他にはクロマキー=「誘拐・ホームビデオ挑戦状!」、留守番電話=「暗闇からのテレフォンコール!」、サーモグラフィ=「銃弾・神代課長撃たれる!」などが代表例だろう。 長坂No.63 「殺人鬼を見た車椅子の婦警!」
本放送No.221 (脚本・長坂秀佳 監督・松尾昭典 助監督・坂本太郎)1981.7.29放映
カラスの夢を見た高杉婦警は、不吉な予感が頭からこびりついて離れない……。そしてその不吉な予感は不幸にも的中する。幹子は白昼、偶然通り魔がナイフで男を突き刺す現場を目撃してしまった。そして通り魔を追いかける幹子は、運悪く暴走族のバイクに撥ねられて右足を負傷する。
高杉婦警ホラーシリーズ第二弾は、一連の長坂ホラーの中ではもっともサスペンス性を重視した作品となった感がある。ミステリー的な仕掛けは「亡霊・帰って来た幽子!」「高層ビルに出る幽霊!」には敵わないけれども、ラスト付近の幹子と犯人との攻防戦は緊張が途切れず、ハラハラドキドキの展開で見逃せない。 長坂No.64 「警視庁を煙にまく男!」
本放送No.227 (脚本・長坂秀佳 監督・田中秀夫 助監督・木戸田康秀)1981.9.23放映
「爆弾を仕掛けた」……特命課に一本の爆破予告電話。特命が電話元を割り出し駆けつけると、現場の電話ボックスでは一人の老人が病で既に事切れていた。 魁三太郎氏の登場、そして彼のいわゆる「ハジけた」演技、紅林がメインでラストは爆弾の爆発を阻止させようとする趣向――ストーリー展開はともかくとして、器的に「非情の街・ピエロと呼ばれた男!」の姉妹編として考えられる作品。シナリオも巧く纏められていて安定感が抜群の作品だが、「パンパカの平三」というニックネームが印象的(というか奇抜)で目を惹く。長坂氏のニックネーム好きはつとに知れ渡っているが、このセンスは異色。 長坂No.65 「ストリップスキャンダル!」
本放送No.230 (脚本・長坂秀佳 監督・野田幸男 助監督・藤井邦夫)1981.10.14放映
現職のエリート警部補・曽根弘がストリップ小屋で、通称”泡踊りショー”の相手方となり、舞台に上がっていたところを公然猥褻で現行犯逮捕された。
遂に「少女・ある愛を探す旅!」と並び、長坂特捜”幻”の逸品の登場である。「少女――」と本作は放送コードの問題上、現在、地上波ではオンエアー不可能の状態にある作品で、おそらく今後も余程の天変地異が起こらぬ限り放送は望む事ができないであろう。 長坂No.66 「リンチ経営塾・消えた父親たち!」
本放送No.234 (脚本・長坂秀佳 監督・辻理 助監督・長谷川計二)1981.11.11放映
二人の男が行方不明の状態にあった。その内一人は河原で撲殺死体として発見される。もう一人の男の行方は未だ不明のままであった。
昭和56年ラストの長坂特捜を飾るのは、長坂氏お得意の橘潜入シリーズ。その頃の話題になっていたスパルタをモチーフにしたシナリオで、森山周一郎と戸浦六宏といった胡散臭さには定評(?)のある役者たちを迎えて繰り広げられるストーリー。橘は最初から最後まで活躍のし通しで、ラストも派手なアクションで話を盛り上げた。 長坂No.67 「トランプ殺人事件の謎!?」
本放送No.243 (脚本・長坂秀佳 監督・辻理 チーフ助監督・坂本太郎 助監督・中島匡)1982.1.13放映
ある夜、地裁判事補、都議会議員、大学教授が何者かによって襲撃された。奇妙な事に犯人はそれぞれの現場にトランプのクラブのカードをバラ撒いていった。おそらく、同一犯人によるこの奇妙なトランプ猟奇事件。大学教授は事件のさ中、命を落とした。
1982年度初回の長坂特捜は、叶主役のミステリーテイストの内容。「東京・殺人ゲーム地図!」や「雪国から来た逃亡者!」、「深夜の密告ファクシミリ!」と同じ系譜の作品といえる。当時、実際にあったらしいジャック・ニクラスのゴルフクラブ盗難事件をモチーフに長坂氏がシナリオを書いたとか。 長坂No.68 「消えた聖女・恐怖の48時間!」
本放送No.244 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・小笠原猛)1982.1.20放映
国際的慈善家、マザー・ラーサが特命課の高杉婦警と共に何者かによって誘拐された。
長坂氏お得意の誘拐を取り扱った作品。ヘリが飛び、鳩は舞う……空中戦が特に印象深い派手な内容の作品に仕上がっている。特命課VS犯人の頭脳戦もたっぷりと描かれていて、ミスター特捜・長坂氏ならではのテンポよい傑作。また、マザー・ラーサを介した24時間以内に制限されたタイムサスペンスは、話を盛り上げるのに十分すぎる効果を発揮した。 長坂No.69 「殺人クイズ招待状!」
本放送No.248 (原案・岸牧子 脚本・長坂秀佳 監督・藤井邦夫 助監督・三ツ村鐡治)
帰りを急ぐ紅林を誰かが尾行している……紅林は背後で闇に身を潜めている何者かに問い掛けた。「誰だ、俺に何か用か!」
「私の青空」「ひらり」「あしたがあるから」などの作品のシナリオを手掛ける人気脚本家・内舘牧子氏(当時は岸牧子名義)の原案をもとに長坂氏が書き下ろした作品。長坂×紅林編では……個人的な好みだと「特命ヘリ102、応答せず!」と双璧でベストとして挙げたい。紅林は叶のミステリーモードの如く颯爽と活躍。最後の爆発寸前のダイナマイトを阻止するシーンなども気合いが篭っていた。が、最後の最後、犯人に止めを刺すシーンは(詳細は省く)神代が美味しい部分をそっくり持っていってる気がしないでもない……まあ、「スパイ衛星が落ちた海!」程の持って行き方ではないが。 長坂No.70 「午後10時13分の完全犯罪!」
本放送No.251 (脚本・長坂秀佳 監督・松尾昭典 助監督・三ツ村鐵治)1982.3.10放映
少女売春で辞職に追い込まれた元区議会議員・富岡が何者かによって銃殺された。富岡はその夜、東新宿署副署長・浦部と待ち合わせの予定があった。 「長坂氏のラストシーン・リベンジ」が印象深い本作。本作のラストは、桜井が浦部をぶん殴ったところでストップモーション――である。実はこの情景は「東京・殺人ゲーム地図!」でシナリオ指定されているシチュエーションと同一のものである。が、「東京――」では、田中秀夫監督が独自の演出でそのシーンを変更した。だが、長坂氏は「刑事が殴る。犯人が吹っ飛ぶ。ストップモーションになる」に余程拘りたかったのか、本作のラストは先述の通りになった。おそらく長坂氏のシナリオ通りであったと思われる。それにしても、「東京――」と本作で最後に殴られる犯人役が、同じ田口計氏というのは偶然なのか、それとも……。 長坂No.71 「虫になった刑事!」本放送No.256 (脚本・長坂秀佳 監督・藤井邦夫 チーフ助監督・三ツ村鐵治 助監督・北浜雅弘)1982.4.14放映
金貸しをしている、ある一人の老女が殺された。被疑者として逮捕されたのが、二浪の予備校生・大川豊。彼は暴れたり、平気で嘘をついたりと、特命課の刑事たちを散々てこずらせる。駄々っ子の如く手のつけられない男……どうしようもなく救いようのない男・大川の容疑は揺るぎ無いものに思えた。
老女殺しという地味な設定である。容疑者はどうしようもなく、救いようのない男。一見、ケレンのない事件だが、長坂氏は橘の「職業としての刑事観」を描きつつ、緻密に、そして見事な脚本を作り上げた。正直、作品を見るまではあまりタイトルに魅力を感じなくて、この作品に対する期待感はさほどなかった(失礼!)。しかし、ハードボイルド橘の面目躍如たる活躍(先述した橘が吉野に自身の「職業としての刑事観」を語るシーンは絶品。特捜全作品でも屈指の名シーンであり、コクのあるセリフ。いやはや、素直に長坂氏に脱帽)、場面場面で意表を突かれる展開を万遍なく施した見事な構成、容疑者・大川の印象深い人物造型、そして彼が吐く意外性のあるセリフの数々、橘との微妙な関係図……全てがハマリに嵌まって、これは超傑作。ラストシーンも非常に余韻を残し(さりとて不快なものでもない)、藤井監督の見事な演出とあいまって最高の出来に仕上がった。個人的には長坂×橘編ではベストとして挙げておきたい。 長坂No.72 「逮捕志願!」
本放送No.260 (脚本・長坂秀佳 監督・藤井邦夫 助監督・三ツ村鐵治)1982.5.22放映
ある日、叶が知り合った老人・笹垣は自分は十五年前に息子を殺したと語り、逮捕してくれと頼む。だがその事件は既に犯人が居て、裁判も終了し解決済のもので、所轄は笹垣の言葉を信用せず、彼の自首を何度も突っぱねていた。 まず、長坂氏のアイデアが何よりも斬新で素晴らしい。「時効寸前の殺人者」という素材を、「彼は無罪ではなく、有罪の証拠を得たいと願っている」というアイデアに昇華させたその手腕。正直、このアイデアと設定だけで既に本作は成功を収めたといいきっても過言ではない。この時期は「虫になった刑事!」、そして本作と内容が濃くて、丁寧で見事な味わいのある佳作が連続している。長坂特捜常連の織本順吉氏をゲストに迎え、長坂特捜ミステリーモード全開の叶の活躍が冴えわたる、見逃せない必見作。 長坂No.73 「白い手袋をした通り魔!」
本放送No,264 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・木戸田康秀)1982.6.9放映 叶は単身、最近連続して発生している通り魔事件の容疑者として都議会議員・西条寺をマークしていた。叶は通り魔事件の現場の一つで、たまたま西条寺に似た男を目撃していたことから、ひっかかりを覚えていた。ただし、確たる証拠は何一つない。果たして通り魔の正体は本当に西条寺なのであろうか――?
長坂氏お得意の通り魔モノ、そして潔癖症の都議会議員で、しかも通り魔というややこしい犯罪者を演じたのが、癖のある役どころを演じさせると右に出るものが居ない天下無敵の西田健氏。……面白くないはずがないのである。快作! そして何気に脇を固めるゲストは岡本麗氏、黒田福美氏と密かに豪華。 長坂No.74 「裸足の女警部補!」
本放送No.267 (脚本・長坂秀佳 監督・藤井邦夫 チーフ助監督・三ツ村鐵治 助監督・北浜雅弘)1982.6.30放映
吉野は警視庁の白水麻子警部補とコンビを組んで”カメラマンとその助手”に扮し、風俗店にかたっぱしから潜入、「外山マチコ」という女性を探していた。
この作品もこと名古屋地区に限定するなら、一時期は「ストリップスキャンダル!」「少女・ある愛を探す旅!」と共に”再放送不可の幻の逸品”と化していた状態もあったらしい(原因は度重なる「トルコ」の看板とセリフ)。しかし前回の再放送では無事にオンエアーはなされた模様。 長坂No.75 「水色の幽霊を見た婦警!」
本放送No.273 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・木戸田康秀)1982.8.11放映
高杉婦警は朝から嫌な予感に苛まれていた。以前にもこうした不吉な感覚の後、恐ろしい事件に巻き込まれた経験が去年とおととしの夏にあったのだ。
毎年夏の時期に散々怖い思いをする高杉婦警の「長坂ホラーシリーズ」も遂に三作目である。一連の特捜ホラーの中では個人的には最もこの作品が怖かった気がして、本作では長坂氏は特に徹底して「怪奇性」に拘ったように思えた。あと、本作の演出を担当した天野利彦監督と長坂氏は前年の夏頃に「菊村到の暗い穴の底で」(「特捜」スタッフが制作を担当)という作品でコンビを組んでいるが、「暗い――」の中で使用されたトリック(仕掛け)が、本作で一部リメイクされた形で使用されていたりもする。因みに本作の翌週は藤井邦夫脚本・監督による異色作「恐怖の診察台!」で、この頃の特捜ホラーの充実・隆盛ぶりを窺い知れる。 長坂No.76 「橘警部逃亡!」
本放送No.277 (原案・谷口義正 脚本・長坂秀佳 監督・野田幸男 助監督・北本弘)1982.9.8放映
覚醒剤組織・山根組の撲滅作戦を新宿中央署と協力しながら進行している橘。だが、何故かその作戦はいつも失敗に終っている……。 放送5周年を記念した一般視聴者のプロット入選作三本は全て、メインライター長坂氏の手によって脚色された。この作品が第一弾。長坂氏はこれまで「橘の変装or潜入」をストーリーに取り入れた作品を数々発表してきた。「死体番号044の男!」「天才犯罪者・未決囚1004号!」「リンチ経営塾・消えた父親たち!」……これらの先行作品を踏まえた上での本作の橘の潜入行動は、よりスリリングかつ危険に描写されていて、橘ファンならずとも特捜ファン必見の迫力十分の出来。さながら「橘潜入モノ」究極の作品に仕上がったといえる――実際、橘のこのシリーズ(?)は本作が結果的には最後である。桜井との友情(というより信頼関係)を窺わせる数々のエピソードも忘れ難い……手錠と手帳を手渡すシーンにしろ、橘が桜井を狙撃するシーンにしろ、そしてあのラストシーン! 谷口義正氏の見事なアイデアを得て、長坂氏の筆はどこまでも冴えまくっていた。 長坂No.77 「誘拐・ホームビデオ挑戦状!」
本放送No.279 (原案・小久保英治、小久保昌治 脚本・長坂秀佳 監督・辻理 助監督・木戸田康秀)1982.9.22放映
白昼、少女が誘拐された。少女の家の経済的事情はさして豊かではなく、恨まれる理由もどうやらない。やがて少女の家に一本のビデオテープが送られてくる。
一般公募プロットシリーズ第二弾は長坂氏お得意の誘拐が主題。それプラス、当時としてはおそらく最新鋭のクロマキーセットなどの合成を組み合わせたハイテク描写もなされており、如何にも「新らしモノ」好きの長坂氏の面目躍如たる作品に仕上がった。全編ハードなストーリー運びの本作だが、ラストシーンは特命課の面々の心洗われるシーンで救われた思いになる。 長坂No.78 「リミット1.5秒!」
本放送No.287 (原案・葛西裕 脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・北本弘)1982.11.17放映
ある夜――女性が謎の男に連れて行かれ、現場に残された傘には何故か謎の数字「72839」と記されてあった。
プロット入選作第三弾は桜井刑事と、その元同僚だった元警視庁エリート警部との因縁を絡めたストーリー。刑事ものではある種定番の「刑事監禁」ネタなのか――と油断していたら、後半意表を突いた思わぬ展開を見せて驚かされる。さすが多数のプロット応募作品から厳選された選りすぐりのアイデアだけあって、一筋縄では行かなかった。 長坂No.79 「掌紋300202!」
本放送No.317 (脚本・長坂秀佳 監督・田中秀夫)1983.6.15放映
特命課はある政治事件の不正の証拠が詳細に綴られた「さくらノート」なるものを探していた。そのノートの所在には政治家・城所徳永が一枚噛んでいると特命課は睨む。
長坂氏が七ヶ月の沈黙を破り(というか、映画「小説吉田学校」「ゴルゴ13」のシナリオを書いていたのだが)、「特捜」に帰ってきた。番組の冠には華々しく「長坂秀佳シリーズ」と銘打たれた記念すべき第一作でもある。 長坂No.80「不発弾の身代金!」
本放送No.318 (脚本・長坂秀佳 監督・藤井邦夫)1983.6.22放映
工事現場から何者かによって不発弾が盗まれた! 果たして犯人の目的とは――。
昭和五十八年の長坂秀佳シリーズ第二弾。この話を含め「掌紋300202!」「一億円と消えた父!」「特命ヘリ緊急発進!」全四本は全て質が高く話として大変面白く仕上がっている(無論、演出陣の天野利彦、田中秀夫、辻理、藤井邦夫各氏の力も見逃せないが)。 長坂No.81 「一億円と消えた父!」
本放送No.319 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦)1983.6.29放映 とある銀行内より一億円を持ち逃げして失踪されたとされる男……船村はその男の娘が、父親の無実を訴える場面をたまたま目撃、捜査を開始するが、状況は決して平坦なものではなかった――。
船村メイン、そして絶対的にクロである容疑者の無実を信じて捜査する、「指紋」が物語の核心の決め手になる、演出が天野利彦監督……ということで、昭和55年「乙種蹄状指紋の謎!」をある程度意識した作品といえなくもないが、ストーリーは全くの別物である。本格ミステリーを痛烈に意識した作品で、全編見応えたっぷりだ。 長坂No.82 「特命ヘリ緊急発進!」
本放送No.320 (脚本・長坂秀佳 監督・辻理)1983.7.6放映
神代課長は偶然ある外国人の男を目撃した。気になった神代は男を追跡する。やがて男の身元が判明、彼の正体は殺し屋だった――。
この作品は特命ヘリを主題にしているという点で「特命ヘリ102、応答せず!」の姉妹編といえる。番組後半にて特捜の長坂作品では珍しく「刑事VS犯人」の構図の銃撃戦を展開させたりするなど、アクションを重視した作品となった。怪しい魅力(爆)の中田博久氏もいい味を出している。尚、この作品の雰囲気を継承したのが「銃弾・神代課長撃たれる!」だと個人的には思っている。外国人の暗殺者、神代のメイン話、辻理監督作……ま、これぐらいしか根拠はないのだが。 長坂No.83・84 「新春・窓際警視の子守唄!」「新春U・窓際警視の大逆転!」
本放送No.345・346 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・北本弘)1984.1.4・11放映
新春。蒲生警視は駅である一人の幼児・乙平と出会った。乙平は蒲生に「パパを助けて」と訴える。乙平は持っていた新聞を蒲生に手渡して、ある記事の写真を指差し、これが自分の父親だと言う。蒲生はその写真を見て目の色を変え、特命課の神代の元に急ぐ。
長坂秀佳シリーズ。テレビ東京12時間ドラマの脚本執筆を終えて、長坂氏はまた半年ぶりに「特捜」の「最前線」に帰ってきた。長坂氏にとっては番組のセミレギュラー・蒲生を登場させた初の作品だが、全編練りに練られたストーリー運び、後編における蒲生の捜査の大胆な奇想、そして涙・涙の感動のラストシーン……長坂氏しか書き出せない「特捜」ワールドがそこにはあった。1984年の「特捜」スタートを華麗に飾った文句ナシの傑作前後編であろう。長坂氏はこの後、放送九周年記念の犯人当てシリーズでも蒲生を再登場させた。しかし、その話がまさか殉職編になろうとは……(蒲生はその間、「特捜」での出演はなかった)。 長坂No.85 「暗闇へのテレフォンコール!」
本放送No.347 (脚本・長坂秀佳 監督・藤井邦夫 助監督・三ツ村鐵治)1984.1.18放映
ある夜、“コアラ”と呼ばれる女が殺された。死体の傍に転がっているコアラの人形、そして特命課・高杉婦警の名刺。
長坂秀佳シリーズ。これまで高杉婦警を主役に据えてきた、夏のホラー三部作の外伝形式の作品。また、長坂氏にとっては最後の幹子メイン作品でもある。ホラー三部作と合わせ、長坂×幹子モノでは私はこの作品が最も印象深いし、実際シナリオ的にも高度な出来であったと感じる。たとえば、本作は長坂特捜唯一の“一晩限りの話”で、実にテンポよく小気味いいドラマ運びの作品である。大半を一日限りで占める話(「特命ヘリ102、応答せず!」「特命ヘリ緊急発進!」「爆破60秒前の女」などの傑作)はシナリオの密度や構成が濃密かつ緻密でないと、面白くはならない気がする。それにしても、本作を担当した藤井組のロケ班は撮影が大変であったろうなと考える次第。何せ撮影時期は冬で、しかも大半がナイトシーン……。 長坂No.86 「爆破0秒前のコンピュータゲーム!」
本放送No.348 (脚本・長坂秀佳 監督・松尾昭典 助監督・北本弘)1984.1.25放映
東都大病院に仕掛けられたコンピュータ爆弾……爆破時刻は刻一刻と近づきつつあった。
長坂秀佳シリーズ。当時としてはまだ目新しかったコンピュータを題材にしていて、それに長坂氏お得意の爆弾を組み合わせた作品。……面白くないわけがないのである。また、未成年の少年達による凶悪犯罪という、何やら昨今の日本を連想させる社会派テーマが目を惹く。時代を先取りした感がある犯人像で、長坂氏ならではの斬新な視点が印象に残った。「特捜」写真集の長坂氏のエッセイから察するに、この作品での長坂氏はどうやら「コンピュータ犯罪を犯す少年達を、家庭内暴力の変形として」描きたかったようだ。それにしても――少年達が爆弾を仕掛けた場所のアイデアは非常に狡猾で残忍極まりない(誤解のないよう。別に長坂氏が狡猾というのではなく、長坂氏の描く少年達が狡猾といいたいのである)。少年の心の奥の冷たさを怜悧に描写した長坂氏の筆力は当然評価されるべきだが……作品で描かれる少年達の空恐ろしい想像力には少々参ってしまい、本作は多くの「特捜」作品と同じくやっぱり後味の悪い作品といえるかも。ただ、ラストの救いの無さは「橘の怒りの拳」で多少は救われた感もある。 長坂No.87 「殺人トリックの女!」
本放送No.350<350回記念作品@>(脚本・長坂秀佳 監督・山口和彦 助監督・三ツ村鐵治)1984.2.8放映
警視庁が、麻薬の組織撲滅のための一代プロジェクト会議を設けてから十二日目、組織関係ではないかと見られる男の水死体が上がった。捜査を開始する特命課だが、死体の検屍は法歯学の第一人者・金沢医大の冷前綾子教授が担当することになる。何故か冷前教授は神代や特命課に対抗意識を燃やしていた――。
350回記念作品第一弾は、神代課長役の二谷英明夫人である白川由美氏をゲストに迎えた特別編。白川氏出演の経緯は「特捜」シナリオ集@の長坂氏のあとがきに詳しい。本作は長坂氏が白川氏のために書いたシナリオであるそうで、作中、シーン状況で夫妻が直接対面するシーンは残念ながらないが(それだけに大阪・東京間での電話のシーンが楽しい)、冷前シリーズ第二弾となる「女医が挑んだ殺人ミステリー!」、特番の「疑惑のXデー・爆破予告1010!」では共演シーンはしっかり用意されている。入り組まれたプロット、考え抜かれたトリックと長坂氏ならではの見事なシナリオに仕上がった快作。冷前と吉野の凸凹コンビぶりも楽しく描かれている。また、作中の「裏の裏をかく」パターン展開は、以降の冷前シリーズで踏襲された。結局、本作内では神代と冷前の因縁の理由は明かされないまま話は終るが、その理由は「女医が挑んだ殺人ミステリー!」で明らかにされる。 長坂No.88 「津上刑事の遺言!」
本放送No.351<350回記念作品A>(脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・荒井俊昭)1984.2.15放映
特命課・津上明刑事が殉職してはや四年になる――。最近、特命課に子供と思しき拙い筆跡で津上宛に”殺してやる!”といった文面のハガキが度々舞い込んできていた。その種のハガキは津上の妹・トモ子の元にまで――。
350回記念作品第二弾は荒木茂氏、桜木健一氏、そして特別出演として西田敏行氏とこれまでの特捜レギュラー陣が登場、豪華なキャストに恵まれた作品。それに触発されたのか長坂氏の脚本も気合いが篭っていて、「交通事故」という刑事ドラマでは一見地味とも言える設定ではあっても(メインスポンサーが某自動車会社なのに、よくこの設定でNGが出なかったものだ。今なら絶対アウト・爆)、物語序盤で神代の口を借りて「交通事故」も立派な犯罪であると説いてみせ、作品に社会性を盛り込ませた。「父と子」の関係や、今も絶えることない特命刑事たちの津上への熱き思いをふんだんに描写しつつも、ラストの華麗なる大逆転を鮮やかに決めてみせる……実に緻密で高度な脚本。そして天野利彦監督の演出も冴えに冴え、山口百恵の「いい日旅立ち」の唄&メロディーを効果的に使用した映像作りは本当に見応えがあって、「特捜」メイン監督の技量をまざまざと見せつけた(本作ラストは長坂シナリオでは「夕陽に向かって刑事一同が立ち尽くす」というものだが、天野映像では「いい日旅立ち」をBGMに、夕陽を背にして刑事たちの影が坂を降りてくる――場面に改変されている。この演出によって、刑事たちのカッコよさが抜群に際立った感があり、「特捜」マイフェイバリットラストシーンのなかでも個人的にはベスト。何はともあれ、文句なしの名シーン)。とにかく出演者、脚本、監督、すべてのスタッフの力がフルに結集した350回記念に相応しい傑作。余程キャスト・スタッフのテンションも盛り上がったのか「特捜」には珍しく俗に言う”楽屋オチ”も登場した。桜井が事件の鍵を握る「ミソノ薬局」の場所を報告するシーンがシナリオでは「渋谷のどことか」になっているのだが、本編のセリフでは何故か「長坂町」に(笑)。 長坂No.89・90 「疑惑・警察犬イカロスの誘拐!」「疑惑U・女捜査官の追跡!」
本放送No.361・362<七周年記念作品シリーズBC>(脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・北本弘)1984.4.25・5.2放映
麻薬捜査の訓練を受けていた警察犬・イカロスが何者かによって誘拐された。犯人の目的は不明で、イカロスの足取りは掴めないままだった。
七周年記念作品シリーズ。この前週に記念作品として制作されたのが、「特捜」10年にも及ぶなかでも、とりわけ最高傑作と誉れ高い塙五郎脚本・辻理監督の「哀・弾丸・愛 七人の刑事たち」前後編でだったが、本前後編では「特捜」の脚本・監督のそれぞれメインの長坂氏、天野利彦監督がコンビを組んだ。作品からは長坂氏が麻薬や警察犬の世界について徹底取材した跡がうかがえ、タイトルには「誘拐」「追跡」「疑惑」との文字が躍っているが、サスペンスの雰囲気より社会派ムードが強い仕上がりとなった。また、ゲストとして長坂作品の「快傑ズバット」早川健役で印象深い宮内洋氏の登場というのも嬉しい(「ズバット」ファンなら必見でしょう、やはり)。 長坂No.91 「銃弾・神代課長射たれる!」
本放送No.397<400回記念作品シリーズ@>(脚本・長坂秀佳 監督・辻理 助監督・荒井俊昭)1985.1.9放映
ある深夜、神代課長が何者かに狙撃された。重傷を負った神代は緊急手術に入るが手術室に入る直前、橘に「電話」とだけ伝えた。その言葉は特命課の秘密電話を表すメッセージだったが、会話記録は誰かが強力なマグネットで消去した後だった。神代の狙撃には大物のプロが絡んでいる――。
長坂秀佳シリーズ。長坂氏は「嵐学の時代」執筆のため「特捜」を含む脚本活動を長らく中断していたが、本作含む”的場四部作”で見事復帰を果たした。的場登場はおそらく、船村役の大滝秀治氏が舞台のため「特捜」を一ヶ月近く離れることになったための窮余の策であったろうが、本シリーズはおやっさん欠場のピンチを見事に帳消しにした長坂氏の充実ぶりが窺える傑作はがりが揃った。見応えのあるシリーズに仕上がっており、見逃すことが出来ない。 長坂No.92(93?)「摂氏1350度の殺人風景!」
本放送No.398<400回記念作品シリーズA>(脚本・長坂秀佳 監督・松尾昭典 助監督・三ツ村鐵治)1985.1.16放映
指名手配で逃亡中だった、不正投資グループの幹部・中尾の死体が河原で発見された。特命課は死体のコートの裾や靴に付着していたガラスを手がかりに、近くのガラス工芸工場を割り出した。そして、紅林は工場内で中尾を撲殺したと見られる凶器の石を発見し、殺害現場は工場内であると考えられた。
工場の社長・岩倉勇作には中尾と犯罪の濡れ衣を押し付けられた過去があり、殺害の動機がある。そして工場の鍵も持っている――的場は犯人は勇作であると考えた。一方、紅林は十年前に家族を捨て蒸発した、工場の前社長で鍵も所有する勇作の父・仁衛門に会い、仁衛門がかつて息子に罪を被せた男を殴り殺した可能性を考えていた。
長坂秀佳シリーズ。前週の予告編では「亜紀・戸籍のない女の証言!」が予告されていたが、放映当日になって急遽予定変更、翌週放送予定の本作がオンエアーされることになった。何故こんなアクシデントが発生したのか? ……詳しくは次項にて説明を試みたい。 長坂No.93(92?)「少女・ある愛を探す旅!」(「亜紀・戸籍のない女の証言!」)
本放送No.399<400回記念作品シリーズB>(脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・白井政一)1985.1.23放映
ビルの屋上から飛び降りようとする少女。だが間一髪、特命課は少女の自殺を未然に防ぐ。
遂に「ストリップスキャンダル!」と並ぶ、長坂特捜”超幻の逸品”の登場である。現在地上波で再放送のオンエアーが99%不可能に近い、この作品。その幻度は「ストスキャ」(……略称)をも遥かに凌ぎ、長坂特捜史上最強の闇に覆われた神秘的作品である(「ストスキャ」はシナリオ集に収録された作品だし、ごくごく短期ではあったにせよ再放送の機会もあった。が、本作においては再放送の機会も全くといっていいほどないらしい)。そもそも本放送時からこの作品は曰く付きであったようで、前週に放映される予定が一週延びて、サブタイトルも変更になって、やっとオンエアーになった(個人的には「少女・ある愛を探す旅!」のほうが好きなタイトルではあるのだが)。で、その理由だが、サブタイトル並びに物語における「戸籍のない人間」という設定が徹底的にマズかったらしい。――詳細な理由は一切不明だが、何しろまずいらしい。また、作品内では桜井の台詞で外国人差別を匂わせるニュアンスの言葉も発見できる。……とにかくまずいらしい。 長坂No.94 「父と子のエレジー!」
本放送No.400<400回記念作品シリーズC>(脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・白井政一)1985.1.30放映
ある事件を通じて父と子の情愛に触れた的場刑事は、昔、自分と母親を捨てて家出した元刑事の父親・軍三のもとを訪ねることを決意した。
長坂秀佳シリーズ。並びに区切りの良い400回記念作品。的場四部作の最終作である本作では、「摂氏」で断片的に提示された的場と父親との過去の因縁が全て明らかにされる。そして何故父親は殺害されたのか――父親を殺した犯人の捜査を担当しなければならない宿命を背負わされた的場の悲哀が、物語にシリアスな雰囲気を漂わせた。長坂氏の筆は二組の「父と子」の悲しい関係を深く、大胆丁寧に掘り下げて描写している。 長坂No.95 「少年はなぜ母を殺したか!」
本放送No.418(脚本・長坂秀佳 監督・辻理 助監督・三ツ村鐵治)1985.6.5放映 有明塁次(21歳)は自宅アパートにおいて同所を訪れた母・有明公枝(45歳)を絞殺……尊属殺人に問われた塁次の裁判が開始された。起訴状の事実内容を全て認め、「自分が母を殺しました」と証言する塁次。 だが弁護士の沖田亮子は「被告人は無罪」と主張する。全ては傍聴席で裁判を見守る神代達特命捜査課の筋書きであった。被告人は自分が殺したと証言し、弁護人は無罪を主張した今回の事件の、意外極まる真相とは――?
長坂秀佳「女」シリーズ@。ドラマはずっと法廷内のみで進行するという野心的な作劇方法に、まずはチャレンジャー・長坂氏の高い意欲が窺い知れる。作品舞台を極端に限定する手法は、現在のテレビドラマ界では脚本家・三谷幸喜氏が得意とするシチュエーションだが、長坂氏は今より15年前も昔に、困難が予想される”画期的な1セットドラマ”ヘの挑戦を敢えて志している。そしてその挑戦は見事に成功を収めたと感じた次第。
長坂氏ならではの緊密な台詞運び、綿密で巧みな構成もさることながら、特命課刑事達それぞれの意外極まる法廷への参加のプロセスも意表を突かれ、面白い(桜井が証人で叶が弁護人席……という構図など、見ていて何となく燃える←意味不明;)。そして長坂氏永遠のテーマである「父と子の関係」が物語全体に暗い影を落とす本作には、その関係がずっしりと重くのしかかる「破壊的なラスト」が待ち構えている。……正直言って後味はかなり悪い。”長坂特捜後味悪いランキング”でもかなりの上位にきそうな予感。しかも長坂氏のシナリオのラストはその後味の悪さがメチャメチャ尾を引いて余韻をひきずる――設計になっていた(詳細には触れないが)。しかしそこは、辻理監督が独特のアレンジでそのショックを幾分かは緩和する画面作りを施していて、そこにはまだいくらかの救いが残った。 長坂No.96 「女医が挑んだ殺人ミステリー!」
本放送No.419(脚本・長坂秀佳 監督・松尾昭典 助監督・荒井俊昭)1985.6.12放映 ――ある日、金沢医大の冷泉綾子教授がぶらりと特命課を訪れ、神代に「勝ちます」と自信たっぷりに挑戦してきた。綾子はあるホステス銃殺事件に着目し、その事件で容疑者と目される男・岩堀の無実を主張していた。その根拠は現場で偶然にも録音されていた銃声紋が、警察で警部補以上しか持つことの出来ない拳銃のものだからという。当時現場近くに居たのは、キャリア組の警視・伊予田と叩き上げの警部補で伊予田の部下である乾であった。冷泉綾子教授はこの二人のどちらかがホステスを銃殺したのだと考え、わざわざ特命課に乗り込み、事件の解決を根底からひっくり返してやると宣言してきたのだった――。
長坂秀佳「女」シリーズA。昨年「殺人トリックの女!」で冷泉綾子教授役を演じた白川由美氏の再登板である。本作では「殺人トリックの女!」のように神代課長役の二谷英明氏とすれ違いのシーンばかりの”異色共演”でなく、同一画面上でのやりとりがしっかりとある正真正銘の”夫婦共演”を見事に果たしている。そしてこの流れは特番「疑惑のXデー・爆破予告1010!」にも受け継がれる。 長坂No.97 「女未決囚408号の告白!」
本放送No.420(脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・吉野晴亮)1985.6.19放映
薬研真沙子は十数年連れ添った夫・孝介を刺殺した。その死体は油をかけて焼却するつもりだったと嘯く真沙子。特命課の捜査は完璧で、証拠もあり、動機もあり、本人も自白し、裁判まであと6日に迫り――何の問題もない事件のはずだった。
長坂秀佳「女」シリーズB。「特捜」シナリオ集にも収められた作品で、あとがきによると長坂氏自身「特に好きな作品の一つ」だそうで、「たまには悪女を書きたかった」とのことだ。地味な設定で、母と子の関係を主題とし、テロップスーパーの多用、人情系でドキュメンタリータッチの構成……これらは同年の長坂作品「少女・ある愛を探す旅!」と共通しているテイストであると感じた。事件や物語は地味と言っても、台詞や内容は「少女……」と同じく見事に凝縮されている。何度見ても繰り返し楽しめる作品で、この長坂「女」シリーズでもおそらく「少年はなぜ母を殺したか!」と人気を二分しているであろう名作。当方にとっても長坂特捜の桜井主役編ベストとなると、「桜井警部補・哀愁の十字架」に次いでこの作品をベストに推したい。 長坂No.98 「人妻を愛した刑事!」
本放送No.421(脚本・長坂秀佳 監督・辻理 助監督・北本弘)1985.6.26放映
吉野が人妻の堀尾伊久世に恋をした。伊久世の夫で人気カメラマンの堀尾喜明はある女優殺害の疑いで逮捕され、収監中の身だった。吉野はその事件捜査中に伊久世と知り合い、喜明の潔白を証明するための再捜査を決意するのだった。
この6月の時期になると、既に10月からの時間枠変更も視野に入った状態であったと思うので、吉野役の誠直也氏の降板も確定していた時期だったのかもしれない――と私が勝手に思うのは、水曜10時ラストの長坂特捜が吉野メインであるからだ。これまでにも何度か書いてきたが、長坂氏が吉野メインで特捜を書いたのは過去数えるほどしかない。だが長坂氏のローテーションではこの421回目の作品を逃すと吉野出演の機会は二度とない。だから長坂氏は誠氏に捧げて主役編を書いた――という気がしてならない。 長坂No.99 「疑惑のXデー・爆破予告1010!」
特番(2時間スペシャル)<脚本・長坂秀佳 監督・野田幸男 チーフ助監督・北本弘 助監督・三好雄大、北川敬一>1985.10.10放映
――今、都内では二つの重要事件が進行している。一つはラジコン爆弾を使用して、次々と発生した連続爆破事件。もう一つは法曹界の重鎮である別所大造の一人息子・里司の誘拐事件だった。
時間枠変更第一弾。渡辺篤史氏、三ツ木清隆氏ら新レギュラーの加入や企画の高橋正樹プロデューサー以外の旧制作陣の五十嵐文郎・深沢道尚・武居勝彦各氏から、新制作陣である浅香真哉・阿部征司・東一盛各氏への交替など、本作にて「特捜」は最大の転換期を迎えることになった(註・本作のみテレビ朝日の五十嵐プロデューサーは制作に加わっている)。 長坂No.100 「退職刑事失踪の謎! 瀬戸内に架けた愛!!」
本放送No.443(脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄 助監督・宮坂清彦)1985.12.5放映
橘の知り合いの元刑事で、皆からかつて”鬼吉”と称され、恐れられた堂本に四国で発生した警官殺人の容疑がかかった。家族の元を数年前に飛び出して以来、時折気まぐれに送られてくる堂本の土産の品だけが彼の消息の唯一の手がかりだった。
この放送の三週前に幹子ラスト&杉登場編、二週前に江崎愛子婦警登場と「1010」の余韻も冷めないうちに「新・特捜最前線」への大きなうねりを見せた時期の真っ只中の作品。後期スタートを祝してか、瀬戸大橋がまだ開通してない(昭和60年だから当たり前ですね……)高松などを舞台とした四国ロケを敢行。演出は長坂特捜は「雪国から来た逃亡者!」以来四年八ヶ月ぶりとなった宮越澄監督。そういえば「雪国……」も長坂特捜ロケ編だった。ゲストには長坂作品父親役常連の織本順吉氏を迎えている。 長坂No.101・102「挑戦・この七人の中に犯人は居る!」「挑戦U・窓際警視に捧げる挽歌!」
本放送No.459・460<放送9周年記念作品シリーズ@A>(脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・宮坂清彦)1986.4.3・4・10放映
フィリピンから流れた大量の銃器密輸事件を捜査する特命課は、さる情報をもとに銃器が眠っているという操車場のある貨車を急襲する。が、何者かによって銃は既に持ち去られた後だった。
あの「退職刑事失踪の謎! 瀬戸内に架けた愛!!」から約四ヶ月――少々のブランクを置いて長坂氏が特捜に帰ってきた。今回の長坂氏は放送9周年を記念した前後編の担当。また「懸賞付き犯人当てクイズ」という新機軸がみどころである。前編が問題編で、「犯人は果たして誰か?」との挑戦がある。翌週の後編のオンエアーまでに視聴者から解答のハガキを募り、解決編の放送……という当時としては画期的な企画であったのだろう。因みにクイズの商品はメインスポンサー日産自動車からのサニーが一台、それとハワイペア旅行六名三組分であったという。 長坂No.103・104 「退職刑事船村・鬼」「退職刑事船村U・仏」
本放送No.499・500<500回記念作品シリーズ@A>(脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・竹安正嗣)1987.1.22・1.29放映
”呑む覚醒剤”が日本社会に蔓延し、汚染していた――覚醒剤の密売組織撲滅を狙う警察だったが、組織に内部情報を流す警察関係者の存在があって、事はそううまくは進まなかった。内部密通者を探り当てるためには、その警察関係者を知る人物・通称”ヤシマ”に接触を持つ必要があった。しかし”ヤシマ”の顔を知る者は今の警察には誰一人としていなかった。ただし、元・警察の人間になら一人いる。その人物とは……元特命課刑事・船村一平であった。船村なしには捜査は始まらない。
長坂秀佳シリーズ。「特捜最前線」も丸十年、放送回数も500回を数えようとしていた頃、三月末をもっての放送終了がとうとう決定した……。昭和62年度に入っての特捜はいよいよ終幕の気配が強く漂ってくる。放送500回目前になって、「特捜」を長期離脱していたメインライター・長坂秀佳氏が不死鳥の如く舞い戻ってきたのだ。そして500回を記念した前後編が制作されることとなり、ゲストとして「特捜」元レギュラーの船村一平こと大滝秀治氏、吉野役だった誠直也氏も吉野とうりふたつの暴力団員役として出演するという豪華作品に完成した。また、後期長坂特捜キーパーソンの四課西岡役の蟹江敬三氏も相変わらずの胡散臭さで楽しませてくれている。……久々の長坂「特捜」節はやはり快調な筆さばきであった。 長坂No.105 「殺人警察犬MAX」
本放送No.501(原案・会川昇 脚本・長坂秀佳 監督・辻理 助監督・長谷川計二)1987.2.5放映
特命課の犬養刑事がかつて飼っていた愛犬「アマデウス」は現在は優秀な警察犬「マックス」として第一線で活躍していた。そんな中、最近になって警察犬が次々と何者かに攫われる謎の事件が発生し、捜査にマックスも参加する事となった。
長坂秀佳シリーズ。一般視聴者から募った入選プロットを長坂氏が脚色する特別シリーズの第一弾。原案者の会川昇氏はこれ以前より、朝日ソノラマ社刊の長坂氏のシナリオ集「さらば斗いの日々、そして」や氏の代表作「快傑ズバット」コレクション本の編集に携わってこられた方。長坂氏とは師弟関係にあるという話も聞くが、詳細は分からない。当時からシナリオライターとして活動していて、現在でも主にアニメの脚本やラジオドラマ、小説などで活躍している。尚、プロット原案題は「殺人警察犬レオ!」だそうで、何故「マックス」に摩り替わったのかは不明である。もしかして、「レオ」というコトバからはレオがシンボルマークの球団・西武ライオンズをイメージさせ、しかもテレビ朝日は西武球団と密な関係だから、そのタイトルはNGだったのかなあ――と、無責任に勝手な憶測をしてみたものの、多分違うでしょう。 長坂No.106 「黄色い帽子の女」
本放送No.502(原案・永井道子、野口小春 脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄 助監督・宮坂清彦)1987.2.12放映
ある晩、叶は娘を連れて線路に飛び込み、無理心中を図ろうとした女と遭遇する。叶は間一髪、それを阻止した――その女・可奈子と叶との出会いの夜だった。
長坂秀佳シリーズ。一般視聴者プロット入選作第二弾である本作は、同時に「特捜」における長坂氏最後の単発作品であり、長坂氏がもっとも愛した刑事(多分;)叶のファイナルメインストーリー。また長坂氏は”誘拐”というテーマを長年お得意としてきたが、本作をもって誘拐ネタは最後である。これまでの長坂特捜誘拐編では、人質救出がメインストーリーでその解決シーンをクライマックスに持ってきた内容がほとんどだったが、本作では物語が中盤に差し掛かる前に誘拐事件そのものは解決し、それ以後の展開が肝である。ミステリー色が全体的に強い作品で、捻りの利いたプロットの妙、細かだが味わいのある伏線の数々が楽しかった。さすが選りすぐりの視聴者プロット入選作だけに、一筋縄ではいかない。 長坂No.107 長坂秀佳終幕三部作@「橘警部・父と子の十字架」
本放送No.506(脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄 助監督・竹安正嗣)1987.3.12放映
新宿東署にたまたま立ち寄っていた特命課・橘剛警部は、管内で発生した強盗殺人事件の犯人・尾崎の逮捕に立ち合った。尾崎は日本各地で発生し、いまだ未解決のままだった六件の強盗殺人事件についても犯行を自供した。だが、橘は柏山不動産女社長殺しに関する尾崎の犯行については疑問を抱いていた。さしたる根拠は特になかった。だが、長年の刑事生活に裏打ちされた勘が、女社長殺しだけは尾崎の犯行ではないと橘に訴えかけている。――所轄署の迷惑も顧みず、橘は一人捜査に黙々と没頭していた。
「特捜」史上最大の作戦・いよいよ長坂秀佳終幕三部作のスタートである。終幕三部作は各々「特捜」で長年中心メンバーとして活躍してきた神代・桜井・橘の名を付し、それぞれ彼らがどういった十字架を背負っているのかを象徴させてみせる印象深いサブタイトル群である。 長坂No.108 長坂秀佳終幕三部作A「桜井警部補・哀愁の十字架」
本放送No.507(脚本・長坂秀佳 監督・田中秀夫 助監督・宮坂清彦)1987.3.19放映
柏山不動産女社長殺しは尾崎ではなく、新宿東署警邏課本庁交番巡査・上岡の犯行だった。上岡巡査は、不動産業という表の顔とは別にモグリで金貸しをしていた柏山に100万の借金があった。柏山の留守中に出来心で借用書探しをしていたところ、その現場を目撃され、頭に血が上った上岡は女社長を突き飛ばしたのだった……。
終幕三部作第二作目は前作の橘から、桜井が主役を引き継いでいる。そのあたりの事情説明も、前話の上岡巡査による殺人でまだ解決されていない謎を冒頭で示し視聴者に改めて謎や興味を喚起させた後、桜井の父親である正規弁護士が登場して、本作の主役が桜井である事を知らしめて――と非常にスムーズな流れで、冒頭のサブタイトルテロップまでに凝縮して語られる。長坂氏は冒頭部にこだわる作家だが、視聴者の”掴み方”はさすがにうまい。 長坂No.109 長坂秀佳終幕三部作B「神代警視正・愛と希望の十字架」
本放送No.508<最終話>(脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄 チーフ助監督・竹安正嗣 助監督・三好雄大、保坂直輝)
上岡巡査の殺人、また桜井正規弁護士の行動がきっかけとなって特命課は新宿東署内の強制捜査に着手した。結果、新宿東署の腐敗の構図が明るみに出て、大量の署員が摘発を受けた。だが、キャリア組の署長・銀城の処分は諭旨という形式的なものだった――逆に特命課の捜査が行き過ぎではないかとの警察上層部内での批判が巻き起こり、課の長である特命課・神代恭介警視正が査問会に呼び出された。そしてその後特命課解散、神代課長解任との噂が流れ出した――。
終幕三部作完結編は十年もの長きに亘った「特捜」の歴史に終止符を打つ作品で、そしてこれまで数々の傑作を世に送り出してきた「特捜」メインライター長坂秀佳氏にとっても当然、ラストの作品となる。長坂氏にとって「特捜」109本目の作品。
全509本(特番含む)「特捜」のうち、長坂氏は全体の5分の一以上を占める109本もの作品を執筆した。無論「特捜」には長坂氏以外のライターも数多く参加し、見事な傑作・佳作を世に送り出している。しかし長坂氏が「特捜」を代表する名脚本家の一人であることはやはり間違いのないところであろう。
長坂特捜の数多くの傑作群は時代を越えて、今も多くの視聴者やファンを心を掴んで魅了し続けており、その面白さはいつまでも色褪せずに輝き続けている……と最後は綺麗(?)に纏めてみました; |
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