長坂No.1「愛の刑事魂」

本放送No.7 (脚本・長坂秀佳 監督・村山三男 助監督・三村道治)1977.5.15放映

ある貧しい家庭の少女が行方不明になった。捜査に乗り出す特命課。家族の境遇に人一倍心を痛める高杉刑事――。

記念すべき長坂特捜脚本第一作。長坂氏もこの作品に愛着があるのか、1986年に出版されたシナリオ集にもこの話が採られた。
今後乱れ打ちにされる長坂傑作群に比べると地味な印象を免れえない本作ではあるが、刑事の心情などきちんとツボを抑えた描写がされてあって(取材を綿密に行ったらしい)、丁寧に書かれた脚本であるといえる。 ちなみにこの時期の長坂氏のメインワークは「快傑ズバット」だった(その他にもいろいろと作品を書いている)。「特捜」の脚本ローテーションを見る限り、この時期まだ長坂氏は「特捜」のメインライターではなかったようである。


 長坂No.2 「爆破60分前の女」

本放送No.17 (脚本・長坂秀佳 監督・佐藤肇 助監督・青木弘司)1977.7.27放映

群馬でラジコン爆弾が使用された殺傷事件が発生した。日本財界首脳会議の妨害を企む一味の仕業によるものだった。彼らは首脳会議妨害を謀るべく、計画の手始めに特命課にラジコン爆弾を送り付けた――。

輝ける長坂特捜爆弾シリーズの第一弾。この作品の成功をキッカケに、以後の長坂特捜作品に「バクダン(もしくはダイナマイト)」は欠かせぬアイテムとして作中に君臨することになる。また作中の「身動きが取れない神代」というモチーフは後の1980年の傑作「バリコン爆弾」前後編に直接受け継がれた。作品の出来、質などはリメイク版のバリコンシリーズのほうが纏まっているかもしれないが、元祖には元祖の輝きや面白さはやはりある。
長坂特捜をもっとも多く手掛けた演出家は天野利彦監督だが(全43本)、初期の作品(〜1978まで)においては佐藤肇監督とコンビを組む機会が多く、この作品がその第一作である。以後、「プルトニウム」前後編、夏子凶弾編、「ナイトインフィーバー」など珠玉の傑作は長坂・佐藤コンビの手から生み出された。


 長坂No.3「北陸路七年後の女」

本放送No.25 (脚本・長坂秀佳 監督・松島稔 助監督・三村道治)1977.9.21放映

二人の男の死体が連続して発見された。そして、それぞれの死体の傍には何故か、山代太鼓の録音されたテープが置かれてあった――。

さてこの作品は長坂氏執筆の吉野メイン作である。が、よくよく考えてみると長坂特捜において吉野メインタイトルは本作を含め僅か五作品と他の刑事たちに比べても極端に少ない(八年半もレギュラーだったのに……レギュラー一年半の滝にして長坂メイン話は四本あったのだが。まあその時期長坂氏が特捜量産体制の真っ最中であったという事実はあるにせよ)。
で、吉野メイン作品だが、それらは本作、「六法全書を抱えた狼!」「裸足の女警部補!」「殺人トリックの女!」「人妻を愛した刑事!」となる(「新宿ナイト・イン・フィーバー」では結構目立ってはいるが、あれは厳密なメインとは言い切れないだろう)。
だが、「裸足」「殺トリ」――「ストスキャ」みたいに流行らないかしらん(爆)――などはそれぞれメインゲストの<裸足の女警部補>(スンマセン、役名忘れました……)や冷前綾子教授のほうに物語の焦点が動いて、どうにも吉野のキャラが薄れてしまった気がする……あくまで私見ではあるけれど。
因みに当方、吉野メイン長坂特捜で個人的にベストを挙げるなら長坂No.98「人妻を愛した刑事!」を推す。シニカルな結末が待ち構えるものの、独特のカタルシスが味わえる佳作であると思う。詳しくはその項で触れてみたいと思う――果たしていつの日になることやら(笑)。


 長坂No.4・5 「プルトニウム爆弾が消えた街」「核爆発80秒前のロザリオ」

本放送No.29・30 (脚本・長坂秀佳 監督・佐藤肇 助監督・中津川勲)1977.10.19・26放映

核再処理工場に四人組のテロが押し入った。警官との銃撃戦の末、犯人グループの大半は死傷、事件は解決したかに思われた。
が、事件のどさくさに紛れてプルトニウムが消失。どうやら再処理工場班員の男が持ち出したらしい――かくして、東京を死の恐怖に叩き込もうとする犯人に特命課は立ち向かうこととなった。

特捜にとっても長坂氏にとっても初の前後編だが、そのスケールは四話連続にしてくれてもいいほど(爆)壮大かつ波瀾万丈なものとなった。初期特捜のなかでは間違いなく傑作と称されてもおかしくない前後編といえる。
長坂氏お得意の爆弾を取り扱った作品だが、バクダン二作目にしてまさか「核爆弾」をテーマとして選択するとは……その辺りの発想・アイデアにまず驚かされた。そして作品のあちこちに散りばめられた「核」「戦争」に対するアンチテーゼの数々。それらの骨太なストーリー性にただただ視聴者は唖然とするばかりである。
そして西田健氏の「特捜」初登場作でもある。西田氏はこのプルトニウムシリーズを皮切りに、「特捜」という番組になくてはならないゲストキャラとなるが、長坂特捜だけに限って言えばこの後、「恐怖のテレフォンセックス魔!」「白い手袋をした通り魔!」「不発弾の身代金!」に登場する(「不発弾」はこの前後編と同じく爆弾を取り扱ったもの。プルトニウムシリーズのリメイク版といえなくもない作品構成に仕上がっている)。
いろいろな方が、それぞれ西田特捜作品には思いいれが深いようで人気も各タイトルに分散しているが、僭越ながら私個人の嗜好としてはこの前後編に一番の思いいれがある。後編ラストで東京の町中を失踪する西田健……小気味いいBGMに乗せて展開されるこのシーンは「特捜」屈指の名場面であると個人的に思ってしまう。この辺り、佐藤監督の辣腕が見事であった。
ただこの傑作シリーズには致命的に残念な弱点も一つ。それは桜井の欠席。おそらく藤岡弘氏のスケジュールの都合があっての事情なのだろうが、桜井が出演していれば特命課の捜査にも更に厚味が出て、物語は更に面白く仕上がったのではと感じた次第である。


 長坂No.6 「傷痕・夜明けに叫ぶ男」

本放送No.36 (脚本・長坂秀佳 監督・松尾昭典 助監督・青木弘司)1977.12.7放映

高杉刑事は朝のジョギング中、一人の浮浪者風の老人と知り合った。その老人は昨夜自分は殺人事件の現場を目撃したと言うが――。

長坂特捜作品のなかでベストを選ぶとなった時、正直この作品が上位に来るというケースは少ないかもしれない。しかしこの作品では長坂作品(「特捜」に限らず)に欠かせぬテーマである「父と子」が初めて生々しく取り扱われた。従って、長坂特捜で以後書かれた「父と子」モノの数々の傑作の源流ともいえる作品ではなかろうか。あと、この作品のゲスト・小林昭二氏は長坂特捜で本作をキツカケにして数々のタイトルに出演している(その他は「東京殺人ゲーム地図!」「トランプ殺人事件の謎!?」「殺人警察犬MAX」)。余談だが、小林氏以外に長坂特捜には欠かせぬゲスト俳優としては筆者は織本順吉・西田健・田口計各氏らが印象深い。
本作でメインだった高杉の長坂特捜主役回は本作、「ナーンチャッテおじさんがいた!」「さようなら高杉刑事!」の以上三作。全て人情系の話で占められているのは(しかも三本とも親子のテーマが色濃い)、長坂氏の高杉に対する思い入れを象徴しているようで興味深い。


 長坂No.7 「非情の罠・金、女、賭博!?」

本放送No.44 (脚本・長坂秀佳 監督・村山新治 助監督・稲垣信明)1978.2.1放映

特命課の桜井刑事は金を受け取った、賭け麻雀をした、負けが込んだら拳銃で脅した、暴力を振るった、女性の服を引き裂いた……ある男女四人組がそう証言し、桜井は告発された。それは何者かが桜井の名を騙って企んだ策略だった。
「金、バクチ、女 三拍子揃った暴力刑事!!」と世間は叩く。罠に嵌まった桜井の運命は如何に――。

桜井刑事が世間から非難の的になり、神代たち警察内部から調査を受けるという構図は翌年の傑作「サラ金ジャック・射殺犯桜井刑事!」に何となく似ているので、本作のアイデアは「サラ金ジャック」の発想の原点になったといえないこともない。


 長坂No.8・9 「兇弾・神代夏子死す!」「兇弾U・面影に手錠が光る!」

本放送No.50・51 (脚本・長坂秀佳 監督・佐藤肇 助監督・辻理)1978.3.15・22放映

――神代警視正の娘・神代夏子が殺される(T)。そして後編の(U)では神代の鬼気迫る捜査が描かれる。←あらすじになってませんが(爆)

特捜の最初期一年間の締め括りに相応しい分岐点となる前後編。実際は次回の52話「羽田発・犯罪専用便329!」にて桜井離脱&紅林登場にて一区切りとなるが、この凶弾編もそれに付随したターニングポイントとなる話である。
長坂氏のチャレンジャー精神あふれる脚本にまず注目して頂きたい。あっさりと神代の娘を殺してしまう大胆さ、そして拳銃を構え人質を盾に抵抗する犯人に刑事が迫り、いとも簡単に人質救出に成功してしまう「刑事ドラマのよくあるパターン」に反発した精神、さらには後編にて神代課長に一言もセリフを語らせぬとままドラマを進めるという企み――「プルトニウム」編と並び初期の傑作シリーズである。無論、二谷氏のエネルギッシュな演技も見逃すことは出来ない。
夏子の死のエピソードは、これより後に九年間も続く「特捜」でいくつかの作品に影響を与えた。「渓谷に消えた女秘書!」「前略神代課長様・天使からの告発状!」や最終回では回想シーンが使用された。また後編の「暴走する神代」のパターンは長坂最終特捜作品である「神代警視正・愛と希望の十字架」のアイデアの一つに組み込まれたと思われる。余談だが、長坂秀佳終幕三部作ではそれぞれ橘編=「虫になった刑事!」、桜井編=「掌紋300202!」、と原型になったアイデアが存在するように思う。そしてラストの神代編が(=本作)なのでは、と思ってしまうのだが。


 長坂No.10 「ナーンチャッテおじさんがいた!」

本放送No.54 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・服部和史)1978.4.12放映

電車内で悪辣な乗車態度の限りを尽くすヤクザ三人組に注意を与えたサラリーマンの男性が、夜道に三人組にリンチを食らい、死んだ。
事件の捜査をする高杉たちはホンボシと思われる男を電車内でマークしていた。男に近寄ろうとする高杉。が、一人の老人が突如割り込む。老人は巷で有名な「ベロ出しおじさん」だった――。

長坂特捜の高杉メイン作の三本のなかでは最も私の好きな作品。が、見るのに人情的には少々キツイ作品でもある。何せこの作品には救いが無さすぎだし、死んだ父親の息子・かつらとその姉の痛ましい演技や、「ベロ出しおじさん」の無常も真に迫っていて、見ていて非常に心が痛む……つまり、それだけ長坂氏の筆力が鋭く、素晴らしいという証明であると思うのだが。珍妙なタイトルとは裏腹に社会派の重い作品に仕上がっている。
また本作にて天野利彦監督がはじめて長坂特捜作品でメガホンを取った。「特捜」にて脚本・演出の最強コンビはやはりこのお二人であることは間違いないだろう――余談だが、お二人とも愛知出身というのは特捜王国・名古屋を象徴しているようでなんだか凄い(爆)。
ま、それはさておき、以後、長坂・天野コンビは「退職刑事船村・仏」まで43本ものタイトルでタッグを組み、世に傑作群を輩出したのである――。本作がその第一作。


 長坂No.11 「ラジコン爆弾を背負った刑事!」

本放送No.62 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・服部和史)1978.6.7放映

郊外で無人車ラジコン爆弾を使い、「黒の義勇軍」が要人暗殺のためのリハーサルを行った。その動きをいち早くマークした神代は、課員に義勇軍のアジトを見張らせるが――。

この作品は「爆破60分前の女」のある程度裏返し的設定となっている。世界観もつながっておりSPの柳沢課長が引き続き登場するし、黒の義勇軍も「爆破〜」と同じ悪の組織だ(まあ「爆破〜」にはバリコン爆弾シリーズという直系が存在するが)。「爆破〜」では動きの封じられた神代だが、今作では神代以外の刑事全ての動きが封じられる仕組みになっており、常に新しいことにチャレンジする長坂氏らしい大胆でユニークなストーリーに仕上がった。ラジコン爆弾も斬新なイメージである。
あと本作のゲストキャラの岡本麗は結構体の張った(?)演技をしている。そういえば岡本は、演出の天野利彦監督とは「はぐれ刑事純情派」で今尚付き合いがあるが、22年にも及ぶ役者&監督の付き合いの最初の作品は本タイトルだったのかも。


 長坂No.12 「スパイ衛星が落ちた海!」

本放送No.70 (脚本・長坂秀佳 監督・村山新治 助監督・辻理)1978.8.2放映

西伊豆の海上で某国のスパイ衛星が空中爆発。衛星の残骸は四散し、警察は部品の回収に努めたが、軍事機密が収められたマイクロフィルムは発見されなかった。捜査に乗り出す特命課――。

長坂氏は「特捜」という番組においてさまざまな実験的試みを行っているが、その例の一つとして「刑事ドラマのなかでは敬遠されがちだった荒唐無稽寸前の大胆な設定を、堂々と作中に取り込む」というのが挙げられる。プルトニウム爆弾にしろ、細菌爆弾にしろ、不発弾にしろ、ともすればリアリティーの欠如につながる道具でも平気で作品に登場させ、視聴者の度肝を抜いた。で、今回のお話に登場するのはスパイ衛星――オドロキである。チャレンジャー長坂氏は常に一歩先を行く発想で「特捜」の屋台骨を支えつづけていた。
ただ話的は結構救いのない展開なので、ワタシ的にはリピートはちょいとキツイ……(詳細には触れないが)。


 長坂No.13 「死体番号044の男!」

本放送No.74 (脚本・長坂秀佳 監督・佐藤肇 助監督・辻理)1978.8.30放映

修学旅行で東京に訪れた息子を訪ねる橘。だが息子からは冷たく拒絶された……。一方、吉野の津上は街で橘とうりふたつの男と遭遇した。が、男は直後に車に撥ねられ死亡する。男は何故か橘の写真を携帯していた――。

長坂氏は変装&潜入モノは大得意なのか好きなのかは分からないが、とにかく「特捜」のシチュエーションには多用した。変装ものの代表作は「ラジコン爆弾を背負った刑事!」「誘拐」前後編あたりで、潜入モノの代表作となると津上殉職編、「非情の街・ピエロと呼ばれた男!」「天才犯罪者・未決囚1004号!」「リンチ経営塾・消えた父親たち!」「裸足の女警部補!」、そしてこの「死体番号044の男!」となる。従って、この作品が以降に続く長坂特捜潜入モノの基本となる作品だろう。長坂潜入ものは大半が橘メインの作品という事実は、少し興味深い(「橘警部逃亡!」も潜入ものの変奏曲といえるし)。
さて本作の直属の後継作としては、紅林のピエロの三次編「非情の街」が存在する。横光克彦氏の名演&シナリオ集にも掲載された作品とあって、「非情の街」のほうが「死体番号」より人気が高いとか。でも、話の展開的には明らかに「死体番号」のほうが無理がないと私は思う。本作では橘が成りすます男が、橘に良く似た人物という設定だ。従って橘の潜入に合理性がある。「非情の街」の場合は、変装する紅林と成りすます男との共通項が「同じ左利き」であるというだけでつながりが弱い気がする……重箱の隅をつつくようだが。 話を本作に戻すと、この作品では本郷氏の大阪弁が堪能できる。その名演に注目である。


 長坂No.14 「新宿ナイト・イン・フィーバー」

本放送No.80 (脚本・長坂秀佳 監督・佐藤肇 助監督・小笠原猛)1978.10.11放映

暴力団同士の抗争で使用された拳銃が偶然の積み重ねから、ある一人の平凡なサラリーマンの鞄に知らず、紛れ込んだ。やがて拳銃の存在に気づいたその男は――。

長坂特捜全109本の中でも、この作品は最も衝撃度の高い作品といえる。昨年「掌紋300202!」を見るまでは、この作品が私の中での特捜最高傑作だった。
人によっては今でもこの作品を長坂特捜ベストに推す人も多いはずたが、あまりに救いのない展開に拒絶反応を示す人もきっといる筈。好き嫌いははっきりと分かれるが、やはりこの作品は紛れもない「傑作」であるといえる。
全16発の弾の発射プロセスにはテロップが多用されている。後期の長坂作品にはテロップが多用される傾向があるが、初期作のなかではこの作品が最も多く使用されたと思う。そして、そのテロップ多用は物語の締め括り方にある大きな意味を持たせている。これも長坂氏の計算の一つなのではないか。
物語には数々の挿入歌が使用された。なかでも余韻を残すのが「この空を飛べたら」――「特捜」において音楽を効果的に使用する監督としてはこの時期より「特捜」演出陣のメインとなった天野利彦監督が印象深いが、本作では長坂特捜初期において数多くのコンビを組んだ佐藤肇監督が味わい深い演出を見せた。


 長坂No.15「死刑執行0秒前!」

本放送No.85 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・小笠原猛)1978.11.15放映

山中で発見された指が三本しかない死体が発見された。その死体は船村刑事が長年探し求めていた男のものだった。その死体の存在が、14年前の高利貸一家殺人で尊属殺人の罪に問われた男・阿久根の無実を証明できる可能性があるのだ。「ホンボシに自白させて阿久根の無実を証明してみせる」と意気込む船村。
が、阿久根の死刑執行は翌日にと迫っていた。タイムリミットはあと一日と少し、残り僅か――。

長坂特捜初のおやっさんメイン作品。以後「恐怖のテレフォンセックス魔!」「完全犯罪・ナイフの少女!」「子供の消えた十字路」「乙種蹄状指紋の謎!」「バラの花殺人事件!」「ストリップスキャンダル!」「一億円と消えた父!」とおやっさん作品は続く(筆者は「退職刑事船村」シリーズは船村がゲスト扱いの作品だと思うので、厳密にメイン作とは考えていない。人によって考え方は違うとは思うが……)。これらの作品群だと「十字路」「乙種蹄状」「ストスキャ」あたりが人気を獲得しているようだ。因みにワタシ的に長坂×船村ベスト3を挙げるとするならば「十字路」「一億円」、そして本作である。というか、長坂特捜のみならず「特捜」全体でも船村メインのベスト1はこれになってしまう。
この時期の長坂特捜はアイデア的には十年=109本のなかでももっともバラエティーに富み斬新だった時期のように思う。主役の娘をあっさりと手にかけたり、ラジコン爆弾を突っ込ませたり、スパイ衛星を登場させたり、「ナイトインフィーバー」のような大胆な衝撃作を書いたり……本作は死刑執行が間近に迫った男という設定を駆使したタイムサスペンスを迫力たっぷりに書きつつ、船村の執念の捜査を併行させながらも、更には真犯人の男の悲哀や家族の情、父親と娘の悲哀まで書き切ってしまうという見事な作品である。一時間で完結させるにはもったいない内容の濃さ。さすがは長坂氏、恐れ入りました……と唸らせてしまう傑作。
因みに参考データ。長坂特捜でタイトルに「0秒前」とつく作品は全部で四本。本作、「悲劇のシンデレラ・復讐0秒前!」「列車大爆破0秒前!」「爆破0秒前のコンピュータゲーム!」。二本ずつ天野監督と松尾昭典監督が分け合っているのはご愛敬か。


 長坂No.16「死んだ男の赤トンボ!」

本放送No.86(脚本・長坂秀佳 監督・佐藤肇 助監督・辻理)1978.11.22放映

犯人逮捕の巻き添えで一人の男が死んだ。その男は日本を代表する大財閥の社長だったが、何故か浮浪者の格好をしていた。そして男が死ぬ直前に口ずさんでいた赤とんぼの歌――。

「殺しがおこる――捜査する――逮捕する」……「通常の刑事ドラマ」だと、このパターンはある種定番となっている感がある。長坂氏はそういったパターンには反撥し、「特捜」においては犯罪にしろ、語り口にしろ、犯人像にしろ、素材や題材のどこかに「通常の刑事ドラマ」とは違う「新しさ」を求めていたという。 本作では、「なぜ大会社の社長が浮浪者の姿で一人佇み、赤とんぼの歌を口ずさんでいたのか」という冒頭の謎を刑事が解くという「通常の刑事ドラマ」ではなかなかお目にかかれない異色の設定に挑戦した、味わい深い佳作である。長坂特捜人情編なら「ナーンチャッテおじさんがいた!」と並び初期の代表作だろう。ゲストの西村晃も名演で応えた。
また本作は、紅林刑事の長坂特捜初メインタイトルでもあった。


 長坂No.17 「ジングルベルと銃声の街!」

本放送No.90 (脚本・長坂秀佳 監督・佐藤肇 助監督・服部和史)1978.12.20放映

クリスマスシーズンの到来で、街は活気付いていた。そんなさなか、一人の男の死体が橋の下で見つかった。特命課が出動、現場のすぐそばでトランペットを吹いていた男に容疑が向けられた――。

「特捜」において年末&クリスマス編というと塙五郎氏の専売特許のイメージが強く、特にクリスマス編は氏の手で数多く執筆された。実際傑作も多く、「サンタクロース殺人事件!」などは筆者も大変好きな作品である。
本作は特捜メインライターである長坂氏が唯一執筆した年末&クリスマス編で、作品の傾向としては全体的にミステリー調。1978年度の11本の中では最もトリックメイキングに趣向を凝らした内容となっている(あと本作は某外国小説の本歌取りともなっているようだ)。あと長坂特捜の津上メイン初作品でもあった。――が、本作以後は「悲劇のシンデレラ・復讐0秒前!」、そしてかの名作殉職前後編と後続は僅かなので、「初」という表現は相応しくないようだ。
さて……この時期、長坂氏は子供番組の仕事をセーブしはじめ(一段落させ)、翌年一月以降「特捜」を活動のメインにと据えるようになった。次作の「恐怖のテレフォンセックス魔!」以降、特捜の量産体制が本格的となる――。


 長坂No.18「恐怖のテレフォンセックス魔!」

本放送No.94 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・小笠原猛)1979.1.17放映

毎晩のようにかかってくる悪戯電話に悩まされる主婦。男の執拗なイタズラ電話の手口は日に日にエスカレート、女はノイローゼ寸前となる。
主婦は知り合いのつてを頼り、ある刑事に相談した。その刑事とは特命捜査課・船村一平――。

本作で取り扱われる事件は冒頭の船村のナレーションにもあるように、これまでの長坂特捜作品内の事件に比べると規模は小さな、悪戯電話というものだ。が、そういった種類の犯罪も、他の巨悪犯罪と同じく平凡な市民にとっては悪質かつ強大な恐怖なのである――と長坂氏はシナリオのなかで問題提起を試みているように読める。氏独特の斬新で、一味違う角度からの鋭い切り口が本作のそのままテーマとなった。
悪辣な電話魔を演じるは西田健氏。長坂特捜ではプルトニウム爆弾で東京を無茶苦茶にかき回したり、不発弾を持ち出したり、区会議員でありながら異常な潔癖症の通り魔に扮したり……忙しい西田氏。そして本作ではテレフォンセックス魔――全く芸域が深い。大滝秀治氏との演技合戦も迫力たっぷりである。
あと、本作は予告編がスリラータッチで怪奇性を前面に推した演出で良く出来ている。予告編はその回のチーフ助監督が作っているのが通例とのこと。従ってその予告編は小笠原猛助監督の手腕が光ったといえそうだ(氏は後に東映特撮シリーズで監督に昇進、数多くの作品で辣腕を振るった)。


 長坂No.19・20 「追跡T・白銀に消えた五億円!」「追跡U・愛と死の大雪原!」

本放送No.97・98 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・辻理)1979.2.7・14放映

北海道・ルスツのスキー場で女性スキーヤーが死体を発見した。その死体は背中が十字に切られ、十字架に架けられた惨殺体だった。
一方、特命課はその死体が七年前の五億円強奪事件で確認された謎の指紋である事実を掴んだ。北海道に飛ぶ刑事達――。

この前後編はこれまでに発表された長坂特捜の前後編に比べるとアクション的要素の高い作品となった。スキー場を舞台とした爆破あり、スキーあり、追跡あり、ヘリも飛び……というふうに派手なシチュエーションの作品になってはいる。
――が、この前後編では、ロケ地のスキー場での撮影中に二谷英明氏が大怪我をし、全治四ヶ月の重傷、「特捜」よりしばらく戦線離脱というアクシデントを生み、もはや「特捜」もこれまでか、といったピンチに見舞われた。結局、二谷氏はその後カムパックを果たしたが……まあ10年というロングランにもなると、こういった出来事が一つや二つは出てきてしまうものなのか。とにかく、皆さんもスキー場での事故には十分気を付けて頂きたい(因みに私はスキーはやらない←どうでもいい話……)。あと「怪我の功名」といってはアレだが、長門裕之氏演じる蒲生警視というキャラクターも、二谷氏のリタイヤがきっかけになったという事実もここに記しておきたい。
それと、長坂氏と天野利彦監督はこの北海道ロケが初めての顔合わせとなったようで、長坂氏はこの時の天野演出を「感動的」と形容している(「特捜」シナリオ集Uより)。


 長坂No.21 「悲劇のシンデレラ・復讐0秒前!」

本放送No.99 (脚本・長坂秀佳 監督・松尾昭典 助監督・服部和史)1979.2.21放映

五年前、アメリカの大富豪と結婚、後に夫は謎の急死を遂げその後、米国籍を取得した悲劇のシンデレラ……そう称されたキャシイ夫人が来日(帰国)した。夫人の来日の目的はある男への「復讐」にあった――。

本作は津上がメイン。前作の長坂特捜津上メインタイトルの「ジングルベルと銃声の街!」がミステリーマインド溢れる作品だったが、今作も謎の洋館に男三人を呼びつけて、「復讐」目的の人物を炙り出すという既存の刑事ドラマでは滅多にお目にかかれない変化球の筋立てとなっている。長坂特捜109本の中では特に目立って高い評価を受けているという話を聞かないタイトルだが、ワタシ的には結構好みの作品である。


 長坂No.22 「さようなら高杉刑事!」

本放送No.105 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・藤井邦夫)1979.4.4放映

高杉陽三刑事のファイナルストーリー。自分は母親を殺したと供述する少女・ユカ。その少女の無実を信じる高杉は、栄転話がフイになるかもしれないのに、無実を証明するために奔走する――。

この話より「特捜」は三年目に突入する。赤いを夕陽をバックにタイトルバックが現れるオープニングもこの回より初めて導入されりするなど、ターニングポイント的要素の高い区切りの作品である。西田敏行氏は初期はともかく中期は「西遊記」の撮影のためか登場機会は極端に少なかったが、本作を持ってリタイヤとなった。前回の「スキャンダル刑事」シリーズでの特捜復帰の藤岡弘氏と合わせ、この頃は「特捜」の変革期であったといえる。
また、助監督の藤井邦夫氏が本格的にローテーションに参加したのもこの回より。それまでは他番組に携わっていたのか、セカンド助監督で「特捜」に仕えていたのか定かではないが……。ともかく「特捜」ではチーフ助監督を務めた経験は18話の天野利彦監督組の一度きりであった。氏は昭和56年に監督昇進、脚本との二足のワラジで「特捜」を盛り立てた。時に長坂特捜では「虫になった刑事!」「殺人クイズ招待状!」「逮捕志願!」などの傑作群に好演出で応えた。


 長坂No.23 「完全犯罪・ナイフの少女!」

本放送No.106 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・藤井邦夫)1979.4.11放映

殺人の過去を持つ少女。刑期を終えて出所した彼女を暖かく見守る船村刑事は、就職の世話などをし少女の第二の人生を陰ながら支えようとした。
そんな時、少女の周りで殺人事件が起き容疑が彼女に。無実を信じる船村だが――。

おやっさんのオープニングカットの印象的な絵というと、やはり傘を差しながら走ってきて、カメラ目線でにっこり笑いながら傘を畳む……であろう(京極夏彦氏の小説「どすこい(仮)」にもそういった記述が見られる)。しかし、この時期のオープニングはおやっさんが、バスケットボールのシュートを決めてにっこり……というバージョンで、本作ではそのバスケットが物語においてわりと大きな役割を示している。それにしても、船村がバスケットをするというイメージは中期・後期の特捜ではあまり考えられない。
それはさておき、本作はサブタイトルから察する通りミステリー色の強いトリッキーな作品となった。長坂特捜の船村メインだと絶対クロの容疑者の無実を信じて捜査をする――というパターンが間々あって、「乙種蹄状指紋の謎!」「一億円と消えた父!」、そして本作がそれに該当する(全て天野利彦演出作品である)。また、本作で犯人役を演じていた佐原健二氏は後の「一億円〜」でも犯人役として登場、大滝氏と対決を繰り広げた。


 長坂No.24 「午前0時に降った死体!」

本放送No.108 (脚本・長坂秀佳 監督・村山新治 助監督・藤井邦夫)1979.4.25放映

滝二郎巡査登場編。午前0時頃、ビルの窓を破って会社重役が転落死した。自殺か、他殺か……。捜査を開始する特命課。現場の目撃者のなかには、刑事になることに憧れを抱く滝巡査がいた――。

滝登場&玉井巡査ファイナルといったインサイドストーリー。高杉刑事離脱編と合わせて特捜が番組のスタイルを変化させていく上で絶対重要な話。――そしてこういった話はメインライターの長坂氏が書かねばならないのである。
長坂特捜における滝メインは本作、「上野発幻駅行!」「地下鉄連続殺人事件!」の以上三作である。これらの中だとやはり人気は「地下鉄〜」が一番高いだろうか。しかしまあこの三作、話は大変に面白いのだが見事に後味は全て悪かったりする――というか、この時期の長坂特捜はそういった話が多い(爆)。なお次回作の「列車大爆破0秒前!」では「誘拐・ホームビデオ挑戦状!」「消えた聖女・恐怖の48時間!」などと同じく全員主役のスタイルでありながら、やや滝がメインの扱いになっていた。詳しくは次項にて。
最後に監督・村山新治氏について。村山監督は大正11年生まれ。特捜以外では「キイハンター」「警視庁物語」「鞍馬奉行」や二時間ドラマなどで辣腕をふるい、特捜は56本、長坂作品に限ると本作含む6本を手掛けた――ワタシ的には長坂×村山コンビだと「特命ヘリ102、応答せず!」が印象深い。特捜終了後は東映・フジテレビの朝の特撮コメディーシリーズ(「美少女仮面ポワトリン」など)に移動、1993年のシリーズ終了まで全作品に携わった。


 長坂No.25 「列車大爆破0秒前!」

本放送No.110 (原案・渡辺栄次 脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・辻理)1979.5.9放映

警視庁110番センターに車の爆破予告の電話がかかってきた。そして予告通り30分後、滝の先輩刑事・和田が車ごと爆破された。直後、現場付近から逃走する不審な車を目撃した滝は、その車を追跡するのだが――。

放送110回記念(110番ということで? ……ということらしい。私はよく分からない・爆)で一般視聴者よりプロットを募って、その入選作を長坂氏がシナリオ化したとのこと。冒頭いきなり110番センターの描写があるが、これも110回記念に合わせた長坂氏一流のしゃれなのであろうか。
「午前0時に降った死体!」の項で書いたが、この作品には特定の主役刑事はなく、全員主役のスタイルである――が、前々回から登場の滝に長坂氏は見せ場を作りたかったのか、わざわざ滝の先輩刑事を爆殺したりするなど、彼をやや重点的に書いたシナリオになっている(言ってみれば「新宿ナイト・イン・フィーバー」における吉野のような役回りなのか)。一方で、後半では復帰直後の桜井に見せ場を移動させたり、この回からスキー事故以来の復帰となる神代課長にポイントを置いたりと、復帰&新参の刑事に「見せ場」を多く用意したシナリオといえる。本作は、長坂氏お得意の爆破&復讐&ヘリといった小道具をふんだんに使用した、スリルとサスペンスに満ちた作品で、「一般視聴者プロット記念作」に相応しい出来。そして最後の最後にはミステリー好きの長坂氏らしい遊び心溢れる仕掛け(トリック)も登場した。「あんこが頭から尻尾までたっぷり詰まったタイヤキ」の如く内容が濃い一作。


 長坂No.26 「サラ金ジャック・射殺犯桜井刑事!」

本放送No.114 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・藤井邦夫)1979.6.6放映

サラ金ローン・クローバー金融に散弾銃を持った男が強盗で押し入った。直後、警察が現場に急行。男と警察、双方は膠着状態にはいった。
事件発生より8時間後、神代は桜井に現場偵察を命じた。桜井は現場に急行したが、内部状況は一切判明せず、朝を迎えようとしていた。そのうち桜井は独断で「武器は持っていない」と宣言した上で建物内に突入した。――そして――直後、桜井が犯人に発砲。強盗は射殺された。
……事件解決後の記者会見で人質になっていた何人かが、犯人に撃つ意志はなかったのだ、桜井はすぐさま発砲した、彼の行為は「殺人」だ、と詰った。正当防衛か、否か? 桜井は査問会にかけられることになる――。

――傑作である。しかし、非常に辛くて、暗くて、後味の悪い話である。従って、作品を見るのに根気をとても要する。私見だが、「救いのない長坂特捜ベスト10」を選ぶとするなら、第一位はこの作品になってしまう。因みにベスト10には他に「少年はなぜ母を殺したか!」「新宿・ナイト・イン・フィーバー」などがランクイン(?)している。
さて本作には「非情の罠、金、女、賭博!?」や夏子凶弾編などにも顔を出す保科警視正が登場していて、アイデア的には「非情の罠」と共通している部分も見受けられる。が、事件展開の妙、シナリオの質、推理展開、華麗なるアイデア、全てにおいてリベンジリメイク版の本作が遥か上をいっているのではないか。また作中、怒りの桜井が橘をブン殴るシーンがあるが、この遺恨(?)のエピソードが三ヶ月後の異色作「6000万の美談を狩れ!」を長坂氏が生み出す原動力になったのかも。


 長坂No.27 「子供の消えた十字路」

本放送No.118 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・青木弘司)1979.7.4放映

物がみな白く見えるある暑い夏の日……一人の子供が船村刑事の目の前で車に撥ねられた。運転手はすぐさま子供を車に乗せ、その場を走り去った。事故を目撃した十数人以上が子供は病院に運ばれたものと信じた。船村もそう信じた。
だが、子供は病院になど運ばれていなかった。そのまま行方不明に……船村は必死に事故の際の記憶を呼び戻そうとするが、一旦は子供が病院に運ばれたと安心したせいで、殆ど何も思い出せない――。

一般的に長坂×船村編で代表作とみなされている作品。長坂氏自身もこの作品に愛着があるらしく、特捜のシナリオ集にも採られている作品だが、シナリオ集発刊前の85年9月号「ドラマ」収録の三本の特捜シナリオにもこの作品の脚本がある(他の二本は「爆破60分前の女」「少年はなぜ母を殺したか!」)。「殺人の起きない」スタイルの刑事ドラマを長坂氏は目指したかったという。おやっさんのテンションの高い名演も冴えわたる、文句なし長坂特捜珠玉の傑作である。


 長坂No.28 「豪華フェリージャック・恐怖の20時間!」

本放送No.123 (脚本・長坂秀佳 監督・野田幸男 助監督・加島忠義)1979.8.8放映

一ヶ月前、ダムの工事現場から大量のダイナマイトが盗まれた。その犯人の車を追って、紅林は単身フェリーに乗り込んだ。
一方その頃特命課に、ダイナマイトを盗んだ男から爆破予告の電話がかかってきた――。

爆弾と復讐――長坂氏お得意のアイテムにシージャックを織り交ぜたサスペンスな一本である。紅林がメインの話だが、この時期長坂特捜では紅林が三本連続で主役を務めている。この3本の中では、「非情の街・ピエロと呼ばれた男!」が最も注目を集めているようだ。
監督・野田幸男氏(現在は故人)は本作が長坂特捜初演出。特捜は57本、長坂作品だと9本演出した野田監督は昭和10年生まれ。「不良番長」などの東映の映画路線を支えた監督で「特捜」と併行した時期の仕事としては映画「ゴルゴ13」や2時間ドラマの演出などがある。
さて長坂×野田コンビで私が印象深い作品となると――長坂特捜二大幻の一つとして名高い(爆)「ストリップスキャンダル!」になるであろうか。「六法全書を抱えた狼!」もそうだが、野田演出の長坂特捜の場合、殴り合いや格闘のシーンに見せ場がある作品がワタシ的には印象に残った。


 長坂No.29 「亡霊・帰って来た幽子!」

本放送No.125 (脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄 助監督・加島忠義)1979.8.22放映

紅林の元に一通の手紙が届いた。差出人は紅林の知り合いの女子高生・幽子でそれには「助けてください。ゆくところにゆけません」と記されていた。
紅林は驚愕する。幽子は一年前車のスリップ事故で死んでいるのだ――。

記念すべき(?)長坂特捜ホラー第一作。この作品を皮切りに長坂ホラーは毎年夏の風物詩(??)となり、以降「高層ビルに出る幽霊!」「殺人鬼を見た車椅子の婦警!」「水色の幽霊を見た婦警!」、そして形は少し異なるが「暗闇へのテレフォンコール!」と作品が書き継がれていく。また本作では紅林がメインだが、次作以降は高杉婦警の独壇場ホラーシリーズ(???)となった。したがって本作はホラーシリーズと婦警シリーズの共に基本・礎となったキッカケの作品である。
長坂氏のホラーシリーズにもそれぞれ色というか、テーマがあって、例えば「高層ビル」ならミステリー&トリック、「車椅子」がサスペンス、「水色の幽霊」がホラー性、「テレフォン」がドラマ性を意識した作品だと私は見ている(詳しくはまたその話の時に説明を試みたい)。で、本作――「幽子」は「高層ビル」と作劇は似ている気がする。不可解な出来事が全てトリックで割り切れる、といった辺りが。被害者のダイイングメッセージを一捻りする辺りなど、長坂氏のミステリースピリッツが感じられる作品。
また本作は後に特捜最終回(長坂特捜ファイナル)を演出した宮越澄監督の特捜初演出作品、並びに長坂特捜初演出でもあった。


 長坂No.30 「非情の街・ピエロと呼ばれた男!」

本放送No.129 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・藤井邦夫)1979.9.19放映

大津田組と水明会……暴力団同士の血で血を洗う抗争には数々の因縁が渦巻いていた。そんな中、水明会が大津田組に爆弾を使い復讐するという情報が特命課にもたらされた。
神代は水明会に呼ばれた爆弾マニア・ピエロの三次を捕らえた。取調室でシメあげるも、三次は一筋縄ではいかぬ独特な人間で、桜井さえも平気でおちょくってしまうのであった。そんな三次の癖や喋り方を観察する神代は、三次に誰かを化けさせて水明会に潜入させようと考えた。そして神代が三次に指名したのはよりにもよって紅林であった。吉野たちは「クソマジメ」な紅林に潜入は無理と反発したが――。

この話の前回にて船村刑事が特捜を一旦降板(「裸の街」……塙五郎脚本、天野利彦監督)、今回から特命課刑事が六人編成となり、その第一弾の話がこれである。「死体番号044の男!」とアイデア的に通じている話だが、長坂氏お得意の爆弾も炸裂し、横光克彦氏のある意味これまでの役者イメージを思い切り捨て去ったキレのある迫真の演技が見物の快作(怪作?)である。長坂×紅林編の代表作として一般的に認知されているのはおそらくこの作品ではないか(長坂氏自身も思い入れがあるのか、シナリオ集に採った作品だ)。 また、「死体番号」が本作の原型になった作品だが、逆に本作のイメージアイデアを継承した「警視庁を煙にまく男!」という長坂作品も存在する。


 長坂No.31 「6000万の美談を狩れ!」

本放送No.131 (脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄 助監督・坂本太郎)1979.10.3放映

大学のキャンパスで深夜、一人の男が建物の屋上から転落死した。男は死の直前「泥棒だっー」と叫んだり、屋上には人と争った形跡があったりと、誰かに突き落とされた痕跡があった。これは殺人――橘はそう考えていた。
しかし、桜井は男の死は自殺と断じた。桜井が自殺と考えた根拠とは? 橘とは真っ向から捜査方針が対立する。他殺か、自殺か。橘VS桜井。真相は果たして――?

長坂氏の異常に「熱い」ストーリー。桜井と橘の対立を主軸に据えつつ(この二人の対決が見れるだけでも貴重なお話)、被害者の死の真相をさまざまな根拠や論理で覆したり、実証を重ねながら真実を追い求めていく骨太な名作。長坂氏永遠のテーマである「父と子の関係」も絡ませて、お話は二転三転と展開され、結末まで全く予断が許されないのである――しかし、この時期の長坂特捜の常、はっきりいって後味は悪い(爆)。しかし、傑作である。
それはさておき、本作には男がサラ金から借金をするという設定が出てきて、そのサラ金会社の一つは「クローバー金融」という会社になっている。この会社――あの「サラ金ジャック・射殺犯桜井刑事!」にも出てくる会社である。こういった部分で世界はつながっている。あとこれは「サラ金ジャック」の項で書き忘れたが、「サラ金ジャック」は実際の三菱銀行襲撃事件をモデルに描かれたシナリオだそうだが、「クローバー金融」という会社名称、私には何となく意味ありげに感じられて仕方ないのだが……。


 長坂No.32 「六法全書を抱えた狼!」

本放送No.133 (脚本・長坂秀佳 監督・野田幸男 助監督・坂本太郎)1979.10.17放映

吉野は街で偶然車の中から「助けて」と救いを求める女と遭遇した。が、直後車が走り去り、吉野が彼女に再び会った時は、既に男に性的暴行を受けた後だった……。
エリート中のエリート・司法修習生の男――彼女を陵辱したその男に吉野は接触するが、その男・五条は予想以上に手強い相手だった……。

数少ない長坂特捜の貴重な吉野メインのお話。犯人キャラを努めるのは叶こと夏夕介氏で(どうやらこの作品が特捜レギュラーに向けてのテスト出演だったとのこと。したがって本作の演技でそのテストに見事パスしたということか)、誠直也氏と夏氏の熱い戦いが、さまざまな法律知識の対決と共に繰り広げられる異色作(前回は「橘VS桜井」の構図だったが、この時期長坂特捜では対決形式が連続している)。ラストのハードな殴り合いのシーンは、野田幸男監督のバイオレンスのセンスが光っている。


 長坂No.33・34 「誘拐T・貯水漕の恐怖!」「誘拐U・果てしなき追跡!」

本放送No.136・137 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・坂本太郎)1979.11.7・14

医師・朝倉の長男が誘拐され、身代金5000万が要求された。その誘拐事件に携わった所轄は身代金は朝倉一人に持たせろという要求を無視し、金の受け渡し現場で派手な張り込みを敢行。その時点で事件を知った特命課の神代は直ちに張り込みの撤回命令を出すが、犯人は現場には現れなかった。
犯人は報復に出る。犯人から電話で指定された場所に朝倉たちが行くと、ドラム缶のなかですでに溺死していた長男・一也の死体が! 残虐極まりない犯人の手口。しかもその後間髪入れず次男・草太が誘拐された――!

この頃の長坂特捜が質量共に最も充実していた時期だと言える(この「誘拐」編を皮切りに一年の間に「殉職」編、「バリコン爆弾」編、「ダイナマイトパニック」編と傑作前後編が集中している)。そのはじめを飾る本作を長坂特捜のベストに挙げる方も多く、長坂氏自身もシナリオ集にセレクトしたほどの作品だ。長坂特捜の一連の誘拐シリーズのなかでは文句なしに史上最強のカードに挙げられるべきタイトルであろう。しかしまあこの作品は観るのにとことんパワーを要する作品だ。Tのサブタイトルに入る前までの一也の死のシーンは、やはり見ていて辛すぎるものがあって、見る者に相当の覚悟が要求される。それ以降も手に汗握るスリルやサスペンスが目白押しで全く油断がならない。
山本学の名演、特命課刑事のいつも以上にアブラギッシュ、ダイナミックな演技合戦――名作である。名作ではあるが、しかし疲れる……。


 長坂No.35 「消えた子連れ刑事!」

本放送No.139 (脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄 助監督・小笠原猛)1979.11.28放映

警察に「闇のN資金」事件の証言をしにいく最中に殺された男。その現場には父親の息子がいたが、少年は飼ってるうさぎと共に姿をくらました。
一年後。「闇のN資金」事件を追う桜井たちは影の黒幕と目される代議士の車を追跡していた。男が到着したのは福島県郡山のとある児童保護施設で、そこには一年前に行方不明となった少年の姿が。少年は男が引き取るつもりだという……。男は少年が一年前の殺人を目撃したと考え、口を封じるつもりだ――そう確信した桜井は、少年を連れてその場から姿を消した!

私はこの作品、すっかりサブタイトルに騙されてしまった。「子連れ」という言葉だからか、「死んだ男と赤トンボ!」や「ナーンチャッテおじさんがいた!」系の人情話を勝手に連想してしまったのだ(そういえば長坂氏は「子連れ狼」という作品を書いているが、きっとそのテイストで攻めてくるのだろうなと妄想した次第)。しかし昨年初めてこの作品を見たのだが、予想に反して爆破あり、カーアクションあり、桜井演じる藤岡弘氏のアクション大満載、桜井の濃い(?)魅力が大炸裂するバトルストーリーであった。
しかし、決してアクション一辺倒のハラハラドキドキだけではなく、長坂氏お得意の「父と子」の関係や、逃走劇を通じて桜井と少年との心の交流も鋭く書かれている。「誘拐」と「殉職」に挟まっている話だけあって、なかなかの佳作である。


 長坂No.36 「脱走爆弾犯を見た女!」

本放送No.141 (脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄 助監督・小笠原猛)1979.12.12放映

連続爆破事件の主犯、通称「爆殺の帝王(オーソリティー)」矢尾崎が裁判所への護送の最中、脱走した。矢尾崎はきっと復讐のために爆弾を使ってくる……そう神代は確信していた。
爆殺の帝王は果たしてどんな奇手で復讐を果たそうとしているのか――?

この話はタイトルにもあるように長坂氏お得意のバクダンものである。そして、本作に登場するコンピュータ爆弾は長坂特捜爆弾シリーズのなかでも一、二を争う大胆で意表を突いた「バスの走行速度が時速30KM以下になったら爆発」というもので、長坂氏の豊富な発想力を窺い知ることの出来る設定になっている。そして併行して紅林と「ウソツキ」と評判の女との交流も味わい深く書かれた。……といったわけで本作は紅林がメイン。1979年度の長坂作品は全部で19本(年間脚本家別では最多量)だが、これらの作品群では紅林メインがうち4本と主役話は最も多く廻ってきた。
さて次回の長坂特捜は――特捜のみならず幾多の刑事ドラマ史に残る金字塔、殉職ものの不朽の名作――「あの」超絶傑作編のいよいよ登場である。


 長坂No.37・38 「殉職T・津上刑事よ永遠に!」「殉職U・帰らざる笑顔!」

本放送No.146・147 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・北本弘)1980.1.23・30放映

荒木しげる氏演じる津上刑事の最後の物語――。
結婚式で発生した50人以上も亡くなった集団食中毒が事件の幕開けだった。その食中毒は計画的に仕組まれた事件で、尚「第二の実験」と称した犯行が予定されているらしい……しかもその毒とは極めて殺傷性の高いボツリヌス菌という細菌。その細菌の拡散を防がねば未曾有の大殺戮へと発展してしまう! 捜査の結果、「山崎」という男が事件に絡んでいることが分かり、津上は山崎の女が勤めるクラブにドラマーとして潜入するが――。

津上殉職編。本作は「細菌爆弾」というともすればリアリティーから外れた道具立てを大胆に物語に取り込んだ長坂氏の豪腕を堪能できる作品であり、母と子・父と子・妹と弟とそれぞれの肉親の情、愛の関係を丁寧に綴った作品であり、涙なくしては見ることのできない感動と興奮の作品であり――ともかく超絶傑作である。「殉職」という制約されたシチュエーションのなかで試みられたチャレンジャー・長坂氏の特捜魂が織り成す一大スぺクタル。スゴスギル。
津上は華々しく(という形容はおかしいかもしれないが)散っていった。荒木氏は時代劇俳優の道を選んで「特捜」を降板したとのことだが、こういった見事な作品で「殉職」できたのだから、それはそれで幸せなことだったのではないだろうか。それを囲む特命課の面々も気合いの篭もった演技で荒木氏の花道を飾った。恥ずかしながら、私はこの作品を見て何度も大いに泣いてしまったものである。最後に繰り返す。この作品はただものではない。傑作だ。
――そしてこの殉職から五年、「津上刑事の遺言!」というストーリーが長坂氏によって書かれた。この殉職編のいわゆる続編というわけでもないが、つながりを持った作品になっており、「遺言」で津上の回想に助けられて捜査が進展していくという手法は、「殉職U」で使用されていた。その手法の共通性から察するに「遺言」はその作品自体、長坂氏が「殉職」編に捧げた壮大なるオマージュであるのだ……と私は勝手に想像する次第である。


 長坂No.39 「警視庁番外刑事!」

本放送No.148 (脚本・長坂秀佳 監督・青木弘司 助監督・藤井邦夫)1980.2.6放映

東京では奇妙なライフル狙撃事件が連続して発生していた。事件を捜査する特命課は、事件直後の110番通報の声、写真、目撃者の証言……これらの証拠から奇妙なことに全ての現場には同じ男が居合わせていることを突き止めた。
その男を追いつめる特命課。男は新宿中央署捜査一係の刑事だった――叶旬一警部補・鮮烈なる登場編!

夏夕介氏演じる叶刑事の登場編である。特捜10年の歴史のなかでもターニングポイントとなる重要な話であるだけに見逃せない。アンチエリートを剥き出しにするアウトロー刑事という初期設定を存分に生かした、長坂氏らしい野心的なストーリー展開に仕上がっている。
長坂特捜において、叶は一番主役話が多い(次いで橘。従って長坂氏にとって愛着というか、思い入れのある刑事はこの二人になるのであろう)。現に叶編では「東京殺人ゲーム地図!」「掌紋300202!」など傑作も数多い。この叶の加入によって、長坂特捜はまた新たなる局面を迎えたのだ。
(あとこれは私の勝手な蛇足だが、それぞれの脚本家の思い入れ刑事を作品から考察してみると一番有名なところで塙五郎氏→船村、他には藤井邦夫氏→桜井、大原清秀氏&佐藤五月氏→紅林、竹山洋氏→吉野、石松愛弘氏→神代……といった案配になるのであろうか。まあ筆者は「特捜」を全て見ていないので、他にもペアは存在するのかも知れぬ)。


 長坂No.40 「上野発“幻”駅行!」

本放送No.153 (脚本・長坂秀佳 監督・青木弘司 助監督・藤井邦夫)1980.3.12放映

男にさんざん貢がされ、挙句捨てられ、絶望し、悲嘆し飛び降り自殺をした女……取り調べにもその男・白川はのらりくらりと交わし、証拠は見つからなかった。結婚詐欺を立証するためには相手側の女の証言が必要になってくるのだ。
自殺した女は死ぬ直前「風烈布」という言葉を口にしていたという。北海道のオホーツク海に面した小さな町。その地名に滝は引っかかる。滝が思いを寄せる女が、また同じく「風烈布」と口にしていたからだ。捜査の結果、彼女もまた、白川に騙された女の一人であることが分かる――。

滝メインの長坂特捜人情編。これは長坂氏の作品らしくない――という言葉は語弊があるかもしれないけれど、そういった肌触りの作品で「長坂特捜っぽくない」という点で逆に新鮮に感じた。多くの長坂特捜に共通してこの作品のラストもハッピーエンドという訳にもいかなかったが、余韻を残す最後でこの締め括りは評価したい。この長坂×滝の人情路線にトリックが加わった作品が滝ラストの「地下鉄・連続殺人事件!」という感じがする。従って本作は「地下鉄〜」の前段階とも言える。ストーリーは全く違うが。
最後に本作の監督・青木弘司氏について。氏は昭和16年生まれ。「特捜」では番組当初より助監督を務め、藤井邦夫脚本の「ハナコ・少女売春の街!」が初メガホン。長坂特捜においては本作含め「警視庁番外刑事!」「天才犯罪者・未決囚1004号!」を手掛けた(個人的には「天才犯罪者」が最も好みである)。「特捜」以外では大映ドラマの「乳姉妹」等を担当、また「深見弘」という変名でテレビアニメ「ドラえもん」のシナリオも書いていた。


 長坂No.41 「完全犯罪・350ヤードの凶弾!」

本放送No.155 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・加島忠義)1980.3.26放映

ある代議士がライフルで狙撃され、殺された。全ては大物代議士・渡来十全の行った完全犯罪であった。渡来に不審を抱いた橘は彼をマークするが、それに渡来が激怒。
一歩も引かない橘は「三日以内に犯罪を立証してみせる」と宣言した。橘は果たして渡来の仕組んだ殺人トリックを暴くことが出来るのであろうか――。

長坂特捜には「完全犯罪」とタイトルのつく作品が全部で3本ある。「完全犯罪・ナイフの少女!」、「午後10時13分の完全犯罪!」、そして本作……これらの中ではやはり本作の出来が一歩抜きんでているような気がする(ワタシ的に)。
この作品のシナリオはライフルが趣味の本郷功次郎氏が、脚本の長坂秀佳氏と綿密な打ち合わせを行った末に完成したものだという。「完全犯罪」とタイトルに銘打つだけあって、いつもの「特捜」とは違い「刑事コロンボ」のような倒叙スタイルを採用するなど長坂特捜の新たな一面を感じさせた作品だ。「事件を解決できない場合は首を差し出す」と大物政治家相手に堂々と渡り合うハードボイルド・橘。彼の魅力がいつも以上に醸し出された作品で、ファンにとっては堪らないことこの上なしだ。
(追伸――それにしても渡来十全とはまた、長坂特捜らしい胡散臭いというか、いかにも悪そうな大袈裟な政治家の名前である)


 長坂No.42・43 「復讐T・悪魔がくれたバリコン爆弾!」「復讐U・五億円が舞い散るとき!」

本放送No.160・161 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・辻理)1980.4.30・5.7放映

東亜銀行の二支店で同日、連続して爆破事件が発生する。爆破に使用された爆弾は時限式ではなく、しかし複雑な機密の爆弾であるという――。
一方特命課に届けられた謎の小包。中に入っていたのは爆弾……犯人の無線によるとそれは「周囲の動きを敏感に感じ取り、動きを察知すると爆発」するバリコン爆弾であるという。連続爆破事件に使用されたのはこのバリコン爆弾であった。しかも特命課のあるビルには各所に消化器型の爆弾もセットされているのだ! 身動きできない神代と高杉婦警。果たして彼ら二人の運命は? そして犯人は一体何をやらかそうとしているのか。特命捜査課、創設以来最大のピンチ――。

二話連続で書かれる長坂氏お得意の爆弾シリーズ。緻密に考えられたストーリー、バリコン爆弾という魅力的(というか圧倒的なアイデア!)な設定、卓越したサスペンス描写――どれをとっても一級で文句無しの超傑作である。本作は「爆破60分前の女」の「身動きできない刑事」というシチュエーションを利用したリメイク版でもあるが、神代だけでなく高杉婦警と共にダブルで身柄拘束されたり、「60分前」とは違い拘束されながらも自力で爆弾処理をする姿を丁寧に綴ったりと変化をつけている。本家とはまた違った面白さを、そして元祖を超える面白さをと長坂氏のエンターティナーぶりが窺えた。「父と子」の関係や、警察や企業のコトナカレ主義を鋭く書いたりと社会派ドラマとしても鑑賞できる秀作である。……ところで滝はどうして欠席なのだろう? キャストについて。犯人役は三ツ木清隆――言わずと知れた犬養巡査部長。またTには高杉婦警の友人役で原日出子女史の姿も(的場の奥さん・爆)。そして長坂特捜常連の田口計も胡散臭さは健在で(←誉め言葉)、しっかりと脇を固めている。


 長坂No.44 「マニキュアをした銀行ギャング!」

本放送No.167 (脚本・長坂秀佳 監督・田中秀夫 助監督・小笠原猛)1980.6.18放映

何の接点もない逃亡中の凶悪犯三人が突如集結して企てた銀行強盗は失敗に終った。彼らを背後で操る者とは一体誰か?
彼らは強奪失敗に終った銀行をもう一度襲撃しようとしていた。ある一人の女が銀行を訪れて――。

長坂秀佳×田中秀夫×叶モノ……「東京殺人ゲーム地図!」「掌紋300202!」とこれらの超傑作が有名だが、本作の出来だってなかなかのもの。長坂氏は「銀行ギャング」といったタイトルからは想像からは掛け離れた変わり種の強奪手口を鮮やかに展開させてみせ、田中監督もテンポのある演出でそれに応え、叶の颯爽とした活躍も同時に描かれた佳作といえる。尚、本作の成功を踏まえてか「包帯をした銀行ギャング!」というタイトル類似長坂特捜もあるが、世界観につながりはない(ただしあるテーマで共通してはいる)。詳しくはその時に。
田中監督は昭和8年生まれ。ずっと東映のテレビドラマ一筋に歩んでこられた監督で長坂氏とは「特捜」以外に「ザ・ボディガード」「怪傑ズバット」「忍者キャプター」と付き合いも長い。他に仕事を抱えていたせいで(「仮面ライダー」「レッドビッキーズ」「宇宙刑事」「スケバン刑事」各シリーズ……)、特捜は16本のみ、長坂特捜も5本のみの参加にとどまった。が、前述した通り長坂×叶の代表作、また「桜井警部補・哀愁の十字架」といった長坂特捜区切りの作品は田中監督によるもので、私にとっては特捜演出陣では天野利彦監督に次いで愛着のある方である。30分もののドラマを多く手掛けているせいか、歯切れの良いカットの冴えやスピーディーなドラマ運びに長けた演出が魅力的だった。


 長坂No.45 「地下鉄・連続殺人事件!」

本放送No.169 (脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄 助監督・藤井邦夫)1980.7.2放映

東京の地下鉄駅構内で連続殺人事件が発生していた。被害者は各々自分達の切符とは別に、犯人によって裏が赤く塗りつぶされた切符を持たされていた――。
被害者同士につながりはなく、犯人の目的も分からない。果たして事件の真相とは? 滝二郎巡査、最後の物語。

長坂×滝編の前回「上野発“幻”駅行!」は人情色の強い内容だったが、本作はその人情色+トリックを融合させた試みがなされた。長坂氏らしい「地下鉄連続殺人」というケレンのある設定のなかにも、「父と子」「母と子」の愛を綴ったストーリーで、この作品を長坂特捜ベストに推す方も多い。そして滝は「午前0時に降った死体!」と同じく刑事として致命的なミスを犯してしまう……彼にとっては最後の事件となった。この作品の長坂氏の筆はいつもにも増して非情――のような気がした。尚、本作ラストはシナリオと映像ではあまりにも違いがあるらしい。
それにしても、物語終盤で明かされる「地下鉄連続殺人」の“トリック”のビジュアルやカタルシスは圧倒的に壮大である。「東京・殺人ゲーム地図!」でも感じたことだが、東京地図や地下鉄路線図という「素材」から人々をアッと驚かせるアイデアを披露してみせる長坂氏のテクニシャンぶりにはただただ感服する次第だ(余談だが、推理作家・島田荘司氏の代表作に「糸ノコとジグザグ」という傑作短編があるのだが、「地下鉄」「東京殺人ゲーム」を評価する方にはこの短編を是非オススメしたい。何となく作品の方向性が共通している気がする)。


 長坂No.46 「乙種蹄状指紋の謎!」

本放送No.172 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・辻理)1980.8.6放映

連続ビル荒らし――既に三人もの犠牲者を出していた。事件を追う特命課だが、犯人のものかもしれない一個の指紋が現金強奪された後の手提げ金庫の底から発見された。その指紋は極めて特徴のある乙種蹄状紋だった。
その指紋の持ち主は森田源三という名で、金庫破りの常習犯でかつて船村が逮捕した男。そして更生した男……無実を訴える森田。その森田を信じる船村――。

前々回より特捜復帰の船村役こと大滝秀治氏に捧げる長坂氏の渾身の力作。長坂×船村の黄金パターンともいえる「おやっさん執念の捜査」を緻密に書いた作品で、この時期の長坂氏の充実ぶりが窺える内容だ。この作品は後に「一億円と消えた父!」というリメイク版も生み出している。
そして特筆すべきは織本順吉氏の長坂特捜初出演作が本作であるという点。以後「逮捕志願!」「摂氏1350度の殺人風景!」「退職刑事失踪の謎! 瀬戸内に架けた愛!!」と長坂特捜のセミレギュラーとなる織本氏。西田健、小林昭二、田口計各氏など長坂特捜に欠かせぬゲスト役はそれなりにいるが、織本氏が他の出演者に比べて違いがあったのは、全て「父親」役での登場であったということか。長坂氏が「父子」モノになみなみならぬこだわりを見せるのは周知の通りだが、織本氏が長坂特捜の父親役常連であったという事実から、長坂氏がイメージする父親像(理想であるとか、ないとかは置いておいて)にわりと近しい位置にいたのが織本氏だったのでは、とついつい考えてしまう今日この頃である。


 長坂No.47 「高層ビルに出る幽霊!」

本放送No.174 (脚本・長坂秀佳 監督・村山新治 助監督・三ツ村鐡治)1980.8.20放映

特命課メンバーは事件で出張、世間は夏休み――特命課の入っているビルはほとんど無人であった。高杉婦警は気のせいか、不吉な予感に苛まれ続けていた。
高杉婦警を襲う恐怖の連続!――衝撃(?)のホラーストーリー。

長坂特捜夏の風物詩(?)、高杉婦警ホラーシリーズ第一作である。作品は全体的にミステリー調。「亡霊・顔のない女!」でホラーに開眼(?)した長坂氏が高杉婦警を主役に据えて企んだホラーミステリー。テンポも良く、快調な出来に仕上がっている。


 長坂No.48 「天才犯罪者・未決囚1004号!」

本放送No.177 (脚本・長坂秀佳 監督・青木弘司 助監督・木戸田康秀)1980.9.10放映

新潟生まれ、49歳の男・小田島――これまで三度結婚し、いずれも妻が不審な死を遂げ、その度警察にマークされるも証拠不充分でなかなか尻尾を掴ませない男。
その小田島が妻である貴金属店女社長を殺害したと自ら警察に自首した。彼は何故今回に限ってそういった真似を? 不審を抱いた橘は、その目的を探るべき行動を開始する。天才犯罪者・小田島VS橘の頭脳対決!

長坂氏のフェイバリット刑事は叶である――そう以前に書いた。だが、叶に次いでこの橘をメインに据えたストーリーも長坂特捜には多く、またかなりの確率で傑作も多い。「虫になった刑事!」にしろ、「少女・ある愛を探す旅!」にしろ、「6000万の美談を狩れ!」にしろ、そしてこの作品にしろ――本作品では長坂氏お得意の「橘の変装」もしっかりと堪能できる。
ただこの作品の最初のうちは当方も「なんだ、単なる潜入モノかい」と油断していた部分があった……が、長坂氏はやはり一枚も二枚も三枚も四枚も上手であった。次々、二転三転と長坂氏は予想もつかないトリッキーな展開を炸裂させ、物語を未知の世界に持っていってしまった。そして最後のシーンの橘のカッコよさに全てが結実するのであった……お見事。ただ、この作品では船村が最初から最後まで思い切り間抜けな役どころを演じているので、おやっさんファンには不評かも知れぬ(爆)。
天才犯罪者・小田島を小憎たらしく見事に演じきったのは梅野泰靖氏。氏は最近では三谷幸喜作品の常連で映画「ラヂオの時間」、テレビドラマ「今夜、宇宙の片隅で」「古畑任三郎」なとで存在感を見せ付けている。


 長坂No.49・50 「ダイナマイトパニック・殺人海域!」「ダイナマイトパニック・望郷群島!」

本放送No.180・181 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・藤井邦夫)1980.10.1・8放映

三重県鳥羽。カーフェリー最終便の船上からある一人の男が消えた。捜索の結果、やがて男は海上で死体となって発見された。男はどうやら何者かに殺害された様子だった。
フェリー内の男の車からはダイナマイト、ヘッセの詩集、一枚の記念写真が見つかった。――これらの奇妙な取り合わせの意味するものは? 特命課は写真で男と共に映っていた化学薬品取扱運転手・氷川を訪ねる。が、トラックで大量のダイナマイトを運搬中だった彼の車の無線からは、数人の男から銃で脅されていると切羽詰まった声で救いを求める氷川の叫びが! ……氷川のトラックは崖に転落、爆発炎上する。そして、300キロにも及ぶ大量のダイナマイトは何者かによって盗まれていることがわかった!

長坂特捜旅情編(ロケ編ということデス)。すべて挙げてみると、北陸編の「北陸路七年後の女」、北海道編の「追跡」前後編、三重鳥羽編の本シリーズ、ローマ・パリ編の200回記念シリーズ、会津編の「雪国から来た逃亡者!」、瀬戸内編の「退職刑事失踪の謎! 瀬戸内に架ける愛!!」となる。本前後編ではロケーション以外にもヘリは飛ぶは、船も出てくるわ、爆発はやたらとあるわととにかく予算のかかった作品であることが伺え、作品のスケールも長坂氏らしく奇想に富んでいる。10月しょっぱなの作品&そして長坂特捜50本目といろいろと区切りの話であることから、長坂氏も相当気合が入ったのであろう。


 長坂No.51 「東京・殺人ゲーム地図!」

本放送No.186 (脚本・長坂秀佳 監督・田中秀夫 助監督・辻理、木戸田康秀)1980.11.19放映

東京の町中で発生した不可解な通り魔事件が発生していた。……オートバイに乗った全身黒革服姿の男が、男性と女性を襲って服のボタンを切り取るという謎の事件。
この事件を新聞紙上にて予言していた元警視庁幹部・鹿沼護国。叶は彼に早期の事件解決を宣言するが、謎の通り魔事件は手口をエスカレートさせながら次々と発生するのであった――。叶は果たして事件を解決することができるのであろうか?

長坂×叶モノ――私の場合、やはり最高作となると「掌紋300202!」となってしまうのだが、本作の出来だってやはり素晴らしいのである。「掌紋――」は大々傑作だが物語後半で橘が美味しい(?)部分を少し持って行く部分があったが、本作では最初から最後まで叶の魅力が満載で、夏夕介氏のファンにはやはり応えられない作品であろう。
本作はシナリオ集に収録されている。高橋正樹プロデューサーが「外国小説でチェスを使った殺人ゲームがあるが、それを東京で応用できないか」と長坂氏に相談し、それに応えて本作が仕上がったとあとがきにはある。日本を舞台にするということで、チェスを××に置き換えるという長坂氏のアイデアには素直に舌を巻くし、トリックメイカーとしての長坂氏の想像の翼は圧倒的な広がりを見せている。犯人役も長坂特捜常連の小林昭二・田口計各氏の豪華ダブル共演、一時間ものに凝縮するには勿体無いぐらい贅沢に詰め込まれた内容、田中秀夫監督のサスペンスフルでスピーディーなテンポ良い演出――非の打ち所のない、まさに大傑作!
あと、本作のラストは脚本と映像では異なりを見せている。シナリオでは叶が犯人・宗家を殴る部分でストップモーション――なのだが、田中演出バージョンでは変化を見せている。個人的な意見を言わせてもらうと、シナリオより映像のラストを私は評価したいのだが、長坂氏は「刑事が殴って、ストップモーション」に余程のこだわりがあったのか、「午後10時13分の完全犯罪!」のラストにて……あ、この続きは長坂No.70の項にてまた改めてまして。


 長坂No.52 「プラットホーム転落死事件!」

本放送No.188 (脚本・長坂秀佳 監督・村山新治 助監督・三ツ村鐵治)1980.12.3放映

去年の12月20日に一家七人殺しの容疑をかけられた男は、自らの潔白とアリバイを主張した。自分は駅前北口に駐車していた車の中で仮眠をしていて、近くの運送屋の青年がそれを目撃したはずだというのだ。
紅林があたると青年はそれを否定した。が、調査の結果青年が嘘をついていたことが分かる。彼は何故嘘を……?
調査が進むにつれ、去年の12月20日には駅で一つの事件が発生していたことが分かった。それはヤクザから痴漢に遭っている女性を救うために否応なく発生してしまった転落死事件の悲劇――。

電車内での出来事が引き金になって事件が起きる、というパターンは「ナーンチャッテおじさんがいた!」と通じる部分もあり、「ナーンチャッテ」同様人情系スタイルの内容ではあるが、紅林の刑事としてだけでなく人間の思いなどもしっかりと描かれていて、これは秀作。「東京・殺人ゲーム地図!」と時期が接近していて、「東京――」の派手さが目立ってあまり目立たない(と私は勝手に思っているが)作品だが、大変勿体無い話であると思う。
昭和55年の長坂特捜は全16本。津上殉職編、バリコン爆弾編、そして前述の「東京――」とメガトン級の傑作が多く目立ち、その他佳作、秀作、意欲作がマシンガンの如く連発。また叶登場編といったターニングポイントとなる話もあったりして、長坂氏の充実ぶりが特に目立つ年であった。


 長坂No.53 「判事・ラブホテル密会事件!」

本放送No.194 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・坂本太郎)1981,1.21放映

特命課へのある密告電話が事件の始まりであった……桜井刑事の長兄であり、東京地裁の桜井修一郎判事が、ある公判中の女性被告人とある特殊な関係にあるというのだ。
そして間もなくマスコミ各社には、修一郎判事が女性被告人とラブホテルから出てくる写真がバラまかれて――。

昭和56年度の初回の長坂特捜は桜井三兄弟の物語。長男に福田豊土氏、次男に岸田森氏、そして三男・藤岡弘氏……この他脇役に左時枝氏、田中浩氏と役者が固まっていてキャスティングは豪華である。長坂氏が桜井の家族について書いたシナリオはこの作品と、終幕三部作の「桜井警部補・哀愁の十字架」の計二本。今回の作品では兄弟を描いているが、「哀愁――」では父と子の関係図を書き上げた。「哀愁――」は傑作だが、できることなら本作以降の桜井と兄弟との関係も、後にどのように展開されていたのか見たかった気もした。


 長坂No.54 「殺人メロディーを聴く犬!」

本放送No.195 (脚本・長坂秀佳 監督・野田幸男 助監督・三ツ村鐵治)1981.1.28放映

ある夜、叶が町で拾った犬――その犬は衰弱しきって、いつ命が果てるとも分からない状況であった。叶はその弱り果てた犬に自分の人生をオーバラップさせていた。彼は思う。この犬を死なせはしない……叶の必死の思いと治療が報われたのか、犬は奇跡的に回復した。叶はその犬に「テツタロウ」と名づける。団地住まいの叶は犬が飼えなかったので、叶はテツタロウを知り合いの家に預けた。
だが、犬を預けたその知人は何者かによって殺害された。一体何故? テツタロウには何か「事件」にまつわる謎が秘められているようだった――。

長坂特捜犬シリーズ第一弾。この他に昭和59年の疑惑前後編や「殺人警察犬MAX」などの作品が書き継がれるが、犬シリーズではやはり元祖・本家である本作が一番の人気を獲得しているようだ。噂によると叶刑事役の夏夕介氏自身もこの作品には愛着を感じているとのこと。
物語の序盤に叶がテツタロウを特命課に連れてきて、刑事たちの前で披露するシーンがある。殺伐とした(?)話が長坂特捜には多い中、なかなか微笑ましく思える場面なのだが、やはり後半に進むにつれ話の展開は坂道を転がるが如くダークゾーンに突入していく。後半のハードなストーリーは、前半の和やかムードとのギャップを余計に際立たせた。それによって、「救いの無さ」が余計に際立った感があり、長坂氏の高度な物語作法が窺い知れる作品に仕上がったと感じた。


 長坂NO.55・56 「ローマ→パリ 縦断捜査!T」「ローマ→パリ 縦断捜査!U」

本放送No.200・201<放送4周年・200回記念作品>(脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・T−藤井邦夫 U−辻理)1981.3.4・11放映

ローマのポポロ広場、一人さまようイタリア留学生の女――香川晶子。彼女は記憶喪失の状態で保護された。 一方、パリのセーヌ川を流れるトランク――中身は、首と手足を切断された腐乱状態の人間の胴体……。調査の結果、この死体はICPO捜査官の岡本警部と推定された。また、岡本は香川晶子と婚約関係にあったという――。
インターポールから特命課に捜査依頼が。海を越え、異国の地で刑事達が捜査を開始する(おやっさんと幹子以外)!

200回記念。長坂×天野とゴールデンコンビが堂々とコンビを組み、チーフ助監督も前編が藤井邦夫氏、後編が辻理氏(氏はこの回が最後の助監督作品)の二人体制で、当時の助監督ローテーションでは最強のお二人が携わった。まさに、制作スタッフは盤石の布陣が整えられた。ローマ・パリ二都市の雰囲気をとにかく前面に出そうと長坂氏は心掛けたのか、旅情色の濃い作品で、長坂特捜としては異色。また、香川晶子の「記憶」の問題がサスペンスを盛り上げている。


 長坂No.57 「包帯をした銀行ギャング!」

本放送No.202 (脚本・長坂秀佳 監督・野田幸男 助監督・三ツ村鐵治)1981.3.18放映

三件の不可解な銀行強盗事件――いつも顔をすっぽりと隠し、手に包帯を巻き、歩き方に特徴があり、首を不自然に横に曲げる男。そしていつも盗む金額は少額。しかもそれらの金は、最近頻繁に発生している「現金投げ込み事件」で使用されているふしがある……。
犯人の男像は昨年発生し、いまだ未解決の銀行強盗事件の犯人像と共通していた。その点に着目した橘は捜査を開始する――。

「マニキュアをした銀行ギャング!」に続く(?)長坂特捜銀行ギャングシリーズ第二弾。「銀行ギャング」とタイトルに付されてはいるが、ストレートに「銀行強盗」を扱うわけでなく展開を一捻りしている部分は「マニキュア――」と共通しているが、世界観につながりはない。
ただ、どちらの話も事件の中心人物が「女」である点で通じている気がして、そこら辺りに長坂氏の作品に対する思いはあったのかも。ま、それは単なる偶然で、私が勝手に深読みしているだけかもしれないけど……。


 長坂No.58 「雪国から来た逃亡者!」

本放送No.205 (脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄 助監督・坂本太郎)1981.4.8放映

バイクに轢かれそうになった子供を助けようとして、身代わりに男が死んだ。その男は叶の知り合いだった。叶は男の自宅を訪ねたが、男は身元を騙っていて、履歴書での申告とは別人であった。宙に浮いた男の本当の身元……。
捜査を続ける叶。やがて男は福島の生まれだと判明する。そして浮かび上がってくるのは10年前、雪が舞い落ちる冬の福島猪苗代で発生した不可解な謎の殺人事件――。

長坂×叶編となると、やはりミステリー色の強い作品がぴたりと当て嵌まる。本作では、雪の猪苗代を舞台としたロケーション編であるが、10年前の謎の殺人事件の真相はトリッキーなことこの上なしで、非常に魅力的なものであった。人によっては怒り出すかもしれない真相ではあるけれど、私は大いに評価したい。
また、決してパズルのみのタッチの作品でもなく、母と子、父と子、それぞれの絆や複雑な関係もしっかりと描かれている。まさに長坂氏でしか書けない特捜作品である。


 長坂No.59 「フォーク連続殺人の謎!」

本放送No.208 (脚本・長坂秀佳 監督・野田幸男 助監督・三ツ村鐵治)1981.4.29放映

橘の警察大学院の14期同期生が殺害された。凶器は、先端が鋭利に研ぎ澄まされたフォーク――それで胸を一突きされたのだ。
それ以降も次々と発生する謎のフォーク殺人。しかも狙われるのは全て警察のエリート幹部達だった。捜査を開始する橘達。果たして犯人の目的とは? そしてフォークに秘められた秘密とは――?

何故凶器はフォークなのか、そして何故男達は狙われるのか……こういった不可思議な謎が示され、それを解き明かしていくというまさに長坂特捜ミステリーモードのお手本のような作品。
また、橘の警察大学院時代の同級生が次々と殺害されるというシチュエーションは、仲間を次々と失っていく橘の、刑事としてではなく一人の人間としての、傷や痛みも鋭く描写される結果となった。従って、長坂氏の橘に対する思い入れの深さも、同時に図ることのできる作品といえる。


 長坂No.60 「特命ヘリ102応答せず!」

本放送No.210 (脚本・長坂秀佳 監督・村山新治 助監督・藤井邦夫)1981.5.13放映

長野で犯人逮捕の巻き添えを食って一人の少年が負傷した。手術にはさしたる危険はなかったが、少年の血液型は特殊なタイプで、東京中央血液センターにしか輸血用血液のストックは存在しなかった。一刻も早く東京から長野に血液を運ぶべく、紅林はヘリで血液を空輸しようとする。
ヘリを発進させる紅林。が、直後無線で「その血液は誤り」と男の声。男の誘導に従ってヘリを着陸させると、警官姿の男は紅林に銃を突き出した! 偽警官に成りすました男によってヘリはジャックされる。果たして男の目的とは? 操縦する紅林の運命は? そして少年の元に無事血液は到着するのであろうか――?

長坂×紅林編の最高峰を選ぶとなると、私にとっては「殺人クイズ招待状!」と並んで双璧なのがこの作品。何といってもこの回の紅さんはハードボイルドで、カッコイイことこの上なしである。颯爽とヘリの操縦をする紅さん。犯人の理不尽な要求に対し時に屈辱にも耐える紅さん。最後の最後のヘリ内で犯人と死闘を繰り広げる紅さん――全てにおいて横光克彦氏の魅力満載の作品である……傑作。また、長坂特捜ヘリ活躍編としては他に「特命ヘリ緊急発進!」という姉妹編も存在する。
さて、こういった主役側の魅力に対抗するには、悪役側にも力量ある俳優のキャスティングが要求される。魅力的なワルが配されてこそ、対する主役の存在感も尚一層輝きを増すのである。で、この回の悪役を見事に演じきったのは山本昌平氏。特捜では他にも「硝煙の中に立つ女」にも出演されておられるが、悪独特の美学や論理を感じさせる、個性的で説得力のある大迫力の演技は特筆に値する。


 長坂No.61 「バラの花殺人事件!」

本放送No.214 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・藤井邦夫)1981.6.10放映

公園で一人の男の死体が発見された。後頭部を石で殴打され、トドメに腹部をナイフで一突き……そして死体の側には一輪のバラが添えられてあった。
容疑者として船村の知り合いの花屋の娘が連行される。彼女の無実を信じ、捜査を開始する船村――。

1978年後半より続いた長坂特捜量産体制も前回の「特命ヘリ102応答せず!」までで落ち着いた感がある。この時期は、長坂氏が特捜以外の仕事にも重点を置きはじめたという事情があるにはある。が、作品の数が少なくなったせいかは分からないが、本作以降の長坂特捜は、どれもこれまでの作品より時間がかけられて執筆されている気がする。アイデアの斬新さは1979・1980年度の作品が頂点を極めていたが、セリフやストーリーの完成度はその頃の作品より飛躍的に高まったと感じた。
本作は老人達の事情なども織り交ぜた社会派タッチの雰囲気を漂わせた作品だが、何よりラストシーンの鮮やかさに舌を巻く。おやっさんファンも納得の一作ではないか。


 長坂No.62 「深夜の密告ファクシミリ!」

本放送No.217 (脚本・長坂秀佳 監督・野田幸男 助監督・木戸田康秀)1981.7.1放映

深夜の特命課に届いた一枚のファクシミリ。それは、二ヶ月前にとあるラブホテルで大学教授夫人が絞殺された新聞記事のコピーであった。事件はいまだ未解決……。
何故特命課にこの新聞記事が? そしてファクシミリを送信したのは果たして誰か? そしてこの人物の真意とは――?

当時は最先端であったろう、ファクシミリというハイテクアイテムを駆使した作品。長坂氏のこうした「今はともかく、当時としては時代の先取り」特捜作品となると、他にはクロマキー=「誘拐・ホームビデオ挑戦状!」、留守番電話=「暗闇からのテレフォンコール!」、サーモグラフィ=「銃弾・神代課長撃たれる!」などが代表例だろう。
本作はそんな道具を駆使しつつも、親子の愛情を描きつつ、密室トリックや入れ替わりトリックも物語に組み込んだ、とても凝縮された内容。叶メイン作品である。


 長坂No.63 「殺人鬼を見た車椅子の婦警!」

本放送No.221 (脚本・長坂秀佳 監督・松尾昭典 助監督・坂本太郎)1981.7.29放映

カラスの夢を見た高杉婦警は、不吉な予感が頭からこびりついて離れない……。そしてその不吉な予感は不幸にも的中する。幹子は白昼、偶然通り魔がナイフで男を突き刺す現場を目撃してしまった。そして通り魔を追いかける幹子は、運悪く暴走族のバイクに撥ねられて右足を負傷する。
最近連続して発生している通り魔事件のうち一件であった。入院する幹子は、通り魔の現場近くに赤い自転車がパークされてあったのを思い出しつつ、事件のことを考え続ける。そして友人のアパートの隣の家に、たまたま記憶の自転車が停められてあった事を知った幹子は、犯人がその家の浪人生である事を確信するが――。

高杉婦警ホラーシリーズ第二弾は、一連の長坂ホラーの中ではもっともサスペンス性を重視した作品となった感がある。ミステリー的な仕掛けは「亡霊・帰って来た幽子!」「高層ビルに出る幽霊!」には敵わないけれども、ラスト付近の幹子と犯人との攻防戦は緊張が途切れず、ハラハラドキドキの展開で見逃せない。
……それにしても、劇中の「ノーパン喫茶」とやらの登場は、何と言うか時代を偲ばせるアイテムといえなくもない。


 長坂No.64 「警視庁を煙にまく男!」

本放送No.227 (脚本・長坂秀佳 監督・田中秀夫 助監督・木戸田康秀)1981.9.23放映

「爆弾を仕掛けた」……特命課に一本の爆破予告電話。特命が電話元を割り出し駆けつけると、現場の電話ボックスでは一人の老人が病で既に事切れていた。
老人の言葉は嘘でも酔狂でもなく、爆弾はどうやら本当に仕掛けたらしい。爆弾は果たしてどこに? 紅林は老人の知り合いで、通称「パンパカの平三」に接触するが、奴は一筋縄では行かぬ男で――。

魁三太郎氏の登場、そして彼のいわゆる「ハジけた」演技、紅林がメインでラストは爆弾の爆発を阻止させようとする趣向――ストーリー展開はともかくとして、器的に「非情の街・ピエロと呼ばれた男!」の姉妹編として考えられる作品。シナリオも巧く纏められていて安定感が抜群の作品だが、「パンパカの平三」というニックネームが印象的(というか奇抜)で目を惹く。長坂氏のニックネーム好きはつとに知れ渡っているが、このセンスは異色。


 長坂No.65 「ストリップスキャンダル!」

本放送No.230 (脚本・長坂秀佳 監督・野田幸男 助監督・藤井邦夫)1981.10.14放映

現職のエリート警部補・曽根弘がストリップ小屋で、通称”泡踊りショー”の相手方となり、舞台に上がっていたところを公然猥褻で現行犯逮捕された。
何故エリート警部補がこんな失態を――? 疑問に感じた船村一平は捜査を開始する。捜査が進むにつれ、やがて事件は思わぬ方向へと発展していく。曽根の真意は? そして、悲しい真実が明らかとなり……。

遂に「少女・ある愛を探す旅!」と並び、長坂特捜”幻”の逸品の登場である。「少女――」と本作は放送コードの問題上、現在、地上波ではオンエアー不可能の状態にある作品で、おそらく今後も余程の天変地異が起こらぬ限り放送は望む事ができないであろう。
欠番理由がどうにもはっきりとしない、いまいち曖昧模糊な「少女――」に対し(まあ、その筋にはかなりの危険に映る内容なのであろう。詳しくはその項で)、「ストスキャ」(以後は、この明快な略法で)の欠番理由は実に単純明快。以下列挙すると、
@ 物語序盤の泡踊りショーのシーンがシナリオの指定以上に、極めて露骨に仕上がっている(野田監督のバイオレンス趣味が冴え渡った演出といえる)
A 作中でヤクザが女の手首を切り取って、トルコに売り飛ばすというとんでもなく残酷な設定
B そして最大の理由にして、致命的なのが「トルコ」の看板・言葉が頻繁に登場
――とまあ、これだけトリプルに原因が出揃うと、地上波での再放送は一生望めないであろう……残念な事に(なので、ファミリー劇場には否が応にも期待が高まる)。
で、「ストスキャ」の肝心の内容について。上記の@Aの理由もあるが、内容的にはかなり救いのない話で、結構見るのに根気を要する作品ではある。が、実話をモチーフにしたという長坂氏のシナリオは意外性のある内容に纏められていて、大滝秀治氏と風間杜夫氏の雨の中での格闘も迫力十分。余韻を残す痛烈なラストシーンなど、全編見応えたっぷりの傑作――なのである。
欠番は本当に勿体無い……。


 長坂No.66 「リンチ経営塾・消えた父親たち!」

本放送No.234 (脚本・長坂秀佳 監督・辻理 助監督・長谷川計二)1981.11.11放映

二人の男が行方不明の状態にあった。その内一人は河原で撲殺死体として発見される。もう一人の男の行方は未だ不明のままであった。
二人の男には共通点があった。共に中小企業の経営者、資金繰りに奔走している、十月から出かけるといって行き先を言わず家を出る……そして何故か経営塾「三望会」の影。だが、「三望会」と男達のはっきりとしたつながりはまだわからない。
橘はその関係を探るべく、自ら「三崎和夫」と称して入塾、「三望会」の潜入捜査を試みようとするが――。

昭和56年ラストの長坂特捜を飾るのは、長坂氏お得意の橘潜入シリーズ。その頃の話題になっていたスパルタをモチーフにしたシナリオで、森山周一郎と戸浦六宏といった胡散臭さには定評(?)のある役者たちを迎えて繰り広げられるストーリー。橘は最初から最後まで活躍のし通しで、ラストも派手なアクションで話を盛り上げた。
そして、辻理監督の長坂特捜初演出作でもある本作。辻監督は昭和23年生まれ。45年に東映テレビプロダクションに入社以降、大泉撮影所で助監督として数々のテレビ作品の現場に従事。長坂作品でも「ザ・ボディガード」「人造人間キカイダー」「快傑ズバット」と現場を経験、「特捜最前線」も番組当初より助監督として活躍。1980年、塙五郎脚本の「男達のセプテンバーソング!」で監督デビューを飾り、以降天野利彦監督に次いで特捜演出陣の要となった(特捜演出本数は59本と天野監督に次ぐ数)。「特捜」と併行しながらは、その腕を見込まれ「大戦隊ゴーグルファイブ」「宇宙刑事シャリバン」「宇宙刑事シャイダ−」「巨獣特捜ジャスピオン」などの特撮作品でも活躍、「時空戦士スピルバン」では初のパイロット監督も務めた。また昭和58年にフリーになって以降は、東映作品以外でも作品を手掛けるようになり、「西部警察PARTV」「どうぶつ通り夢ランド」などにも参加、現在に至っている。
ワタシ的には長坂×辻コンビだと「少年はなぜ母を殺したか!」やはり印象深い(ダントツ!)。で、特捜全体の辻作品になるとおそらく皆も認める、塙五郎作品「哀・弾丸・愛 七人の刑事たち」であろう、やはり。


 長坂No.67 「トランプ殺人事件の謎!?」

本放送No.243 (脚本・長坂秀佳 監督・辻理 チーフ助監督・坂本太郎 助監督・中島匡)1982.1.13放映

ある夜、地裁判事補、都議会議員、大学教授が何者かによって襲撃された。奇妙な事に犯人はそれぞれの現場にトランプのクラブのカードをバラ撒いていった。おそらく、同一犯人によるこの奇妙なトランプ猟奇事件。大学教授は事件のさ中、命を落とした。
犯人がトランプのカードに込めた復讐の怨念とは――?

1982年度初回の長坂特捜は、叶主役のミステリーテイストの内容。「東京・殺人ゲーム地図!」や「雪国から来た逃亡者!」、「深夜の密告ファクシミリ!」と同じ系譜の作品といえる。当時、実際にあったらしいジャック・ニクラスのゴルフクラブ盗難事件をモチーフに長坂氏がシナリオを書いたとか。
個人的には、都議会議員・木曽の女性秘書役(演・鹿沼エリ氏)のキャラ造型が印象深い。主役と堂々とタイで渡り合う度胸、全体的に気取ったセリフ口調、不敵な笑顔……そういった要素が諸々似合って、とても魅力的な女性キャラに思えてしまう。その他の人物造型も個性的に描かれてあり、構成やセリフも十分に練られている作品である。


 長坂No.68 「消えた聖女・恐怖の48時間!」

本放送No.244 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・小笠原猛)1982.1.20放映

国際的慈善家、マザー・ラーサが特命課の高杉婦警と共に何者かによって誘拐された。
マザー・ラーサには静脈の病があり、八週間に一度、常に病院で薬剤注入を施さなければならなかった。その注入の日は今日にあたる……医者の話では最大限に見積もっても一日以内に薬剤を注射しなければ、彼女の命はないという。リミットは24時間――。
その頃特命課に犯人からの身代金要求の電話。要求金額は三億円也。犯人は奇手を駆使して三億円強奪を計画していた――それに立ち向かう特命課。

長坂氏お得意の誘拐を取り扱った作品。ヘリが飛び、鳩は舞う……空中戦が特に印象深い派手な内容の作品に仕上がっている。特命課VS犯人の頭脳戦もたっぷりと描かれていて、ミスター特捜・長坂氏ならではのテンポよい傑作。また、マザー・ラーサを介した24時間以内に制限されたタイムサスペンスは、話を盛り上げるのに十分すぎる効果を発揮した。
ところで本作には、非常に気になる箇所が存在する――たったの一ヶ所だけなのだが、物語の展開の流れからして完璧に不自然なカットがあるように思う(ヘリでの鳩の追跡シーンにて)。さすがの名手・天野利彦監督もちょいとミスってしまったのでは? と思わずには居られない今日この頃……しかし、ともあれ本作は傑作デス。


 長坂No.69 「殺人クイズ招待状!」

本放送No.248 (原案・岸牧子 脚本・長坂秀佳 監督・藤井邦夫 助監督・三ツ村鐡治)

帰りを急ぐ紅林を誰かが尾行している……紅林は背後で闇に身を潜めている何者かに問い掛けた。「誰だ、俺に何か用か!」
男の笑い声。続けざま男は自分で「救世主(メシア)の使い」と名乗り、スーパースターを殺すと予告する。 翌日特命課に、男から一通の手紙が届く。謎の暗号がそこにはあった……「メシアの使い」から紅林への挑戦の始まりであった。紅林、そして特命課は男の殺人予告にどう立ち向かうのか――?

「私の青空」「ひらり」「あしたがあるから」などの作品のシナリオを手掛ける人気脚本家・内舘牧子氏(当時は岸牧子名義)の原案をもとに長坂氏が書き下ろした作品。長坂×紅林編では……個人的な好みだと「特命ヘリ102、応答せず!」と双璧でベストとして挙げたい。紅林は叶のミステリーモードの如く颯爽と活躍。最後の爆発寸前のダイナマイトを阻止するシーンなども気合いが篭っていた。が、最後の最後、犯人に止めを刺すシーンは(詳細は省く)神代が美味しい部分をそっくり持っていってる気がしないでもない……まあ、「スパイ衛星が落ちた海!」程の持って行き方ではないが。
この作品に横溢する暗号趣味とクイズは強引といえば強引すぎるし、こじつけがすぎるキライも確かにある。が、細かい部分を恐れず、とことんエンターテイメントに拘ったダイナミックな作劇はやはり賞賛されるべき。しかし、この作品、内舘氏と長坂氏のそれぞれのアイデアがどこら辺りまで融合しあったのか、その境界線が気になっている。
そして、本作は印象的なカットを効果的に織り交ぜて、斬新な演出で「特捜最前線」を盛り立てた藤井邦夫監督の長坂特捜初演出作。昭和21年生まれ、「特捜」では脚本と監督の両輪で活躍し続けた藤井氏は、長坂特捜でも「虫になった刑事!」等数々の傑作を世に輩出する。演出代表作では他に「特捜」の姉妹編とも言うべき(?)「ビジネス最前線」も手掛けていて、脚本では「特捜」と併行して「超電子バイオマン」「電撃戦隊チェンジマン」「超新星フラッシュマン」と続く東映戦隊シリーズにも参加し人気を得た。そして「特捜」終了後も、特撮、時代劇、刑事モノとさまざまなジャンルのシナリオを発表し続け、現在に至っている。


 長坂No.70 「午後10時13分の完全犯罪!」

本放送No.251 (脚本・長坂秀佳 監督・松尾昭典 助監督・三ツ村鐵治)1982.3.10放映

少女売春で辞職に追い込まれた元区議会議員・富岡が何者かによって銃殺された。富岡はその夜、東新宿署副署長・浦部と待ち合わせの予定があった。
手際よく捜査を指揮する浦部。そのあまりの手際のよさに疑問を抱く特命課の桜井警部補――。

「長坂氏のラストシーン・リベンジ」が印象深い本作。本作のラストは、桜井が浦部をぶん殴ったところでストップモーション――である。実はこの情景は「東京・殺人ゲーム地図!」でシナリオ指定されているシチュエーションと同一のものである。が、「東京――」では、田中秀夫監督が独自の演出でそのシーンを変更した。だが、長坂氏は「刑事が殴る。犯人が吹っ飛ぶ。ストップモーションになる」に余程拘りたかったのか、本作のラストは先述の通りになった。おそらく長坂氏のシナリオ通りであったと思われる。それにしても、「東京――」と本作で最後に殴られる犯人役が、同じ田口計氏というのは偶然なのか、それとも……。


 長坂No.71 「虫になった刑事!」

本放送No.256 (脚本・長坂秀佳 監督・藤井邦夫 チーフ助監督・三ツ村鐵治 助監督・北浜雅弘)1982.4.14放映

金貸しをしている、ある一人の老女が殺された。被疑者として逮捕されたのが、二浪の予備校生・大川豊。彼は暴れたり、平気で嘘をついたりと、特命課の刑事たちを散々てこずらせる。駄々っ子の如く手のつけられない男……どうしようもなく救いようのない男・大川の容疑は揺るぎ無いものに思えた。
だが、ある事実に引っ掛かりを覚えた橘は、事件をもう一度洗い直そうと神代に進言、再捜査に着手する――。

老女殺しという地味な設定である。容疑者はどうしようもなく、救いようのない男。一見、ケレンのない事件だが、長坂氏は橘の「職業としての刑事観」を描きつつ、緻密に、そして見事な脚本を作り上げた。正直、作品を見るまではあまりタイトルに魅力を感じなくて、この作品に対する期待感はさほどなかった(失礼!)。しかし、ハードボイルド橘の面目躍如たる活躍(先述した橘が吉野に自身の「職業としての刑事観」を語るシーンは絶品。特捜全作品でも屈指の名シーンであり、コクのあるセリフ。いやはや、素直に長坂氏に脱帽)、場面場面で意表を突かれる展開を万遍なく施した見事な構成、容疑者・大川の印象深い人物造型、そして彼が吐く意外性のあるセリフの数々、橘との微妙な関係図……全てがハマリに嵌まって、これは超傑作。ラストシーンも非常に余韻を残し(さりとて不快なものでもない)、藤井監督の見事な演出とあいまって最高の出来に仕上がった。個人的には長坂×橘編ではベストとして挙げておきたい。
長坂氏もこの作品には思い入れがあったのか、終幕三部作の橘編「父と子の十字架」は本作を意識した作りとなっている気がするのだが、いかがなものか。たとえば、「金貸しをする女が殺される」という設定が共通しているし、「絶対的にクロに近い男」が容疑者というのも同じで、橘が疑問を覚え無実を信じて捜査をするという点でも一致している。ただ、本作がその無実の証明に「容疑者のアリバイを証明」する方法をとっているのに対し、「父と子の十字架」では、「真犯人の犯行を証明」することによって明らかにしており、微妙な変化はつけている。


 長坂No.72 「逮捕志願!」

本放送No.260 (脚本・長坂秀佳 監督・藤井邦夫 助監督・三ツ村鐵治)1982.5.22放映

ある日、叶が知り合った老人・笹垣は自分は十五年前に息子を殺したと語り、逮捕してくれと頼む。だがその事件は既に犯人が居て、裁判も終了し解決済のもので、所轄は笹垣の言葉を信用せず、彼の自首を何度も突っぱねていた。
叶は老人のひたむきな目を忘れる事が出来ず、神代に頼んで一人事件の再捜査を開始した。しかし事件は15年前のもの、当然困難な状況だった。しかも、事件の時効成立までふと6日に迫っていた――。

まず、長坂氏のアイデアが何よりも斬新で素晴らしい。「時効寸前の殺人者」という素材を、「彼は無罪ではなく、有罪の証拠を得たいと願っている」というアイデアに昇華させたその手腕。正直、このアイデアと設定だけで既に本作は成功を収めたといいきっても過言ではない。この時期は「虫になった刑事!」、そして本作と内容が濃くて、丁寧で見事な味わいのある佳作が連続している。長坂特捜常連の織本順吉氏をゲストに迎え、長坂特捜ミステリーモード全開の叶の活躍が冴えわたる、見逃せない必見作。


 長坂No.73 「白い手袋をした通り魔!」

本放送No,264 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・木戸田康秀)1982.6.9放映

叶は単身、最近連続して発生している通り魔事件の容疑者として都議会議員・西条寺をマークしていた。叶は通り魔事件の現場の一つで、たまたま西条寺に似た男を目撃していたことから、ひっかかりを覚えていた。ただし、確たる証拠は何一つない。果たして通り魔の正体は本当に西条寺なのであろうか――?

長坂氏お得意の通り魔モノ、そして潔癖症の都議会議員で、しかも通り魔というややこしい犯罪者を演じたのが、癖のある役どころを演じさせると右に出るものが居ない天下無敵の西田健氏。……面白くないはずがないのである。快作! そして何気に脇を固めるゲストは岡本麗氏、黒田福美氏と密かに豪華。
しかしこの作品、西田氏の怪演も見応え十分だが、何といっても西条寺が登場する度にバックで流れるクラシック音楽(曲目不明……)のBGMが効果満点で素晴らしい。天野利彦監督お得意の「特捜以外の音楽を効果的にBGMに取り入れる」手法が抜群に冴えていた。天野監督のこの技巧は昭和59年以降の中後期作品で頂点を極めた感があって、こと長坂特捜だけに限っても「津上刑事の遺言!」における「いい日旅立ち」、「挑戦」「退職刑事船村」前後編などでの音楽センスはさすがであった。


 長坂No.74 「裸足の女警部補!」

本放送No.267 (脚本・長坂秀佳 監督・藤井邦夫 チーフ助監督・三ツ村鐵治 助監督・北浜雅弘)1982.6.30放映

吉野は警視庁の白水麻子警部補とコンビを組んで”カメラマンとその助手”に扮し、風俗店にかたっぱしから潜入、「外山マチコ」という女性を探していた。
四ヶ月前、ホテルファイブスターで発生した大火災は155名もの死傷者を出した。捜査の結果、ホテル経営者・建部川の指示で外山、そして妻のマチコが放火をした疑いが浮かび上がる。だが、外山は口封じで殺され、マチコは行方不明のままだった。
事件直後にマチコは整形手術を施し、顔を変えている事が分かった。そして脇腹にアズキ大のほくろがあることも判明した。そしてどうやらどこかの風俗店で働いているらしい……これらの手がかりをもとに吉野たちは外山マチコを探し求め続けている――。

この作品もこと名古屋地区に限定するなら、一時期は「ストリップスキャンダル!」「少女・ある愛を探す旅!」と共に”再放送不可の幻の逸品”と化していた状態もあったらしい(原因は度重なる「トルコ」の看板とセリフ)。しかし前回の再放送では無事にオンエアーはなされた模様。
ただでさえ、長坂×吉野編は希少価値のある作品なのに……実に「六法全書を抱えた狼!」以来となる長坂特捜吉野メイン編。吉野と相棒の白水警部補との関係図はなかなか面白い。共に反発しあった二人が、やがてお互いを尊重しあうプロセスを、長坂氏はじっくり丁寧に描いている。二人のラストシーンもなかなか粋で良い――のだが、このラスト、シナリオと藤井演出バージョンとでは違いがありすぎる気も……。


 長坂No.75 「水色の幽霊を見た婦警!」

本放送No.273 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・木戸田康秀)1982.8.11放映

高杉婦警は朝から嫌な予感に苛まれていた。以前にもこうした不吉な感覚の後、恐ろしい事件に巻き込まれた経験が去年とおととしの夏にあったのだ。
気になる幹子は占い師に手相を見てもらう。占い師は「災難の相」が出ている、「水色」に関するあらゆる物に御用心をと幹子に告げる――。

毎年夏の時期に散々怖い思いをする高杉婦警の「長坂ホラーシリーズ」も遂に三作目である。一連の特捜ホラーの中では個人的には最もこの作品が怖かった気がして、本作では長坂氏は特に徹底して「怪奇性」に拘ったように思えた。あと、本作の演出を担当した天野利彦監督と長坂氏は前年の夏頃に「菊村到の暗い穴の底で」(「特捜」スタッフが制作を担当)という作品でコンビを組んでいるが、「暗い――」の中で使用されたトリック(仕掛け)が、本作で一部リメイクされた形で使用されていたりもする。因みに本作の翌週は藤井邦夫脚本・監督による異色作「恐怖の診察台!」で、この頃の特捜ホラーの充実・隆盛ぶりを窺い知れる。
ところで……長坂氏はこの後「橘警部逃亡!」などの五周年記念プロット入選作三本をシナリオ化した後、昭和58年の「掌紋300202!」まで「特捜」では七ヶ月間の沈黙に入る。従って厳密な長坂氏オリジナルの特捜作品は本作以降、「掌紋」までの実に10ヶ月間もの長きに亘って途絶えることに――。


 長坂No.76 「橘警部逃亡!」

本放送No.277 (原案・谷口義正 脚本・長坂秀佳 監督・野田幸男 助監督・北本弘)1982.9.8放映

覚醒剤組織・山根組の撲滅作戦を新宿中央署と協力しながら進行している橘。だが、何故かその作戦はいつも失敗に終っている……。
そんな時、橘に組織の末端で働く息子を救いたい一心で、息子の母親が覚醒剤取引の情報を提供した。だが――その手入れもまたもや失敗に終わり、母親とその息子は何者かに殺害された。
警察内部に、新宿中央署のなかにスパイがいる――確信する橘。スパイを洗い出すべく彼は一人、ある決意をする。

放送5周年を記念した一般視聴者のプロット入選作三本は全て、メインライター長坂氏の手によって脚色された。この作品が第一弾。長坂氏はこれまで「橘の変装or潜入」をストーリーに取り入れた作品を数々発表してきた。「死体番号044の男!」「天才犯罪者・未決囚1004号!」「リンチ経営塾・消えた父親たち!」……これらの先行作品を踏まえた上での本作の橘の潜入行動は、よりスリリングかつ危険に描写されていて、橘ファンならずとも特捜ファン必見の迫力十分の出来。さながら「橘潜入モノ」究極の作品に仕上がったといえる――実際、橘のこのシリーズ(?)は本作が結果的には最後である。桜井との友情(というより信頼関係)を窺わせる数々のエピソードも忘れ難い……手錠と手帳を手渡すシーンにしろ、橘が桜井を狙撃するシーンにしろ、そしてあのラストシーン! 谷口義正氏の見事なアイデアを得て、長坂氏の筆はどこまでも冴えまくっていた。


 長坂No.77 「誘拐・ホームビデオ挑戦状!」

本放送No.279 (原案・小久保英治、小久保昌治 脚本・長坂秀佳 監督・辻理 助監督・木戸田康秀)1982.9.22放映

白昼、少女が誘拐された。少女の家の経済的事情はさして豊かではなく、恨まれる理由もどうやらない。やがて少女の家に一本のビデオテープが送られてくる。
それには少女が縛り上げられている映像が映し出されていた。さらに、テロップスーパーにて母親の姉にあたり、著名慈善家・笹垣専心の妻が所有する高額なネックレスを要求! 何者かが仕掛けた究極のハイテク犯罪に、特命課の「心優しき戦士たち」が挑む――。

一般公募プロットシリーズ第二弾は長坂氏お得意の誘拐が主題。それプラス、当時としてはおそらく最新鋭のクロマキーセットなどの合成を組み合わせたハイテク描写もなされており、如何にも「新らしモノ」好きの長坂氏の面目躍如たる作品に仕上がった。全編ハードなストーリー運びの本作だが、ラストシーンは特命課の面々の心洗われるシーンで救われた思いになる。
ところで本作の原案者のお一人――小久保英治氏は後に長編推理小説の公募の賞である東京創元社主催の鮎川哲也賞の第一回に「ゴールド・イリュージョン」という長編を投じて最終候補に残るが、惜しくも賞を逃す。しかしその後、同じ社が主催する第三回創元推理短編賞を「高搭奇譚」で受賞する(この時期より筆名を「伊井圭」と改名している)。そして、同作品を含めた短編集「啄木鳥探偵処」を昨年東京創元社より上梓、本格的に推理作家としてのスタートを切った。


 長坂No.78 「リミット1.5秒!」

本放送No.287 (原案・葛西裕 脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・北本弘)1982.11.17放映

ある夜――女性が謎の男に連れて行かれ、現場に残された傘には何故か謎の数字「72839」と記されてあった。
同じ夜――特命課の桜井のもとに「霧子」と名乗る謎の女からの呼び出し電話。指定場所に桜井が駆けつけると、何者かに背後から殴打。桜井は拉致されてしまう……。特命課がその現場に赴くと、地面には謎の数字「72839」と記されてあった。
二つの事件の共通性。数字の意味は? ……そこに隠されたある人物の思惑とは? そして桜井と女の運命は――。

プロット入選作第三弾は桜井刑事と、その元同僚だった元警視庁エリート警部との因縁を絡めたストーリー。刑事ものではある種定番の「刑事監禁」ネタなのか――と油断していたら、後半意表を突いた思わぬ展開を見せて驚かされる。さすが多数のプロット応募作品から厳選された選りすぐりのアイデアだけあって、一筋縄では行かなかった。
そして――この作品を最後に長坂氏は「特捜」では初の長期ブランクに突入する(この間は七ヶ月間)。それにまつわる事情については当然詳細は不明だが(というか、別に事情はないかもしれないけど)、ともあれ本作の七ヶ月後に、<長坂秀佳シリーズ>という特別ワクの「掌紋300202!」という大々傑作にて復帰を果たすことになる……。


 長坂No.79 「掌紋300202!」

本放送No.317 (脚本・長坂秀佳 監督・田中秀夫)1983.6.15放映

特命課はある政治事件の不正の証拠が詳細に綴られた「さくらノート」なるものを探していた。そのノートの所在には政治家・城所徳永が一枚噛んでいると特命課は睨む。
やがて城所が人を使って「昭和30年2月2日」生まれの男を探しているという事実を掴む。特命課はこの男が、事件に関係あるのではと捜査を開始するが――。

長坂氏が七ヶ月の沈黙を破り(というか、映画「小説吉田学校」「ゴルゴ13」のシナリオを書いていたのだが)、「特捜」に帰ってきた。番組の冠には華々しく「長坂秀佳シリーズ」と銘打たれた記念すべき第一作でもある。
シナリオ制作には実に40日もの日数がかけられた。当時長坂氏が「特捜」脚本制作にかける日数は一本につきだいたい5日〜15日ぐらいだったと聞く。それだけにこの作品に賭ける労力・意気込みは半端なものではなかった。結果、大変見事な傑作に仕上がった。あくまで個人的な感想だが、この作品が私の長坂特捜ベストとなった。
この作品には私は賞賛の言葉を惜しまない。まずこの作品は全編セリフに隙が無い。一つ一つの言葉が非常に緻密で、心に残る。そして、特命課・叶刑事の出生の過去が明かされるという「特捜」ファンにとっては堪らない趣向も盛り込まれたサービス精神旺盛な作品だ。「父と子」のテーマは「特捜」のみならず長坂作品のなかでは切っても切れないものだが、全編シリアスな雰囲気を漂わせつつ、緊張感を持続したまま話を展開させ見事に成功を収めた本作品……是非一人でも多くの方に見て頂きたい。 尚、長坂氏自身、この話には愛着があったのだろう、終幕三部作の「桜井警部補・哀愁の十字架」は、「掌紋」の展開を踏襲したストーリーとなっている。監督は「掌紋」と同じく田中秀夫監督。


 長坂No.80「不発弾の身代金!」

本放送No.318 (脚本・長坂秀佳 監督・藤井邦夫)1983.6.22放映

工事現場から何者かによって不発弾が盗まれた! 果たして犯人の目的とは――。
(↑って、あらすじこれだけ……)

昭和五十八年の長坂秀佳シリーズ第二弾。この話を含め「掌紋300202!」「一億円と消えた父!」「特命ヘリ緊急発進!」全四本は全て質が高く話として大変面白く仕上がっている(無論、演出陣の天野利彦、田中秀夫、辻理、藤井邦夫各氏の力も見逃せないが)。
長坂氏はこのシリーズ四本で、それぞれ「特捜」の長坂脚本でこれまで扱ってきた得意テーマを一本ずつ主題としているような気がする。具体的には「掌紋」で父と子、「一億円」ではトリッキーな本格ミステリーな作風、「特命ヘリ」ではヘリを扱ったアクション主体の作品、そして今回の作品では長坂氏名物の「爆弾」だ。それも「不発弾」をネタにしてしまうのだから、さすがは我らが長坂氏である。 そして犯人役には西田健氏が登板。昭和五十二年の「プルトニウム爆弾」前後編にも登場した西田氏が登場しているので(長坂=爆弾)つながりで、ストーリー的には「プルトニウム」編のリメイク版と言えなくもない。 どちらが優れているか、といった話は横におくとして、シナリオ的には明らかに「不発弾」のほうが時間をかけられて執筆されたのでは、と予想している。西田氏演じる犯人の取調室での神代との対決は実に緊密なセリフ運びとなっている。
あと、この作品では「特捜」最多(?)の子役エキストラが動員されたと思われる……おそらく。


 長坂No.81 「一億円と消えた父!」

本放送No.319 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦)1983.6.29放映

とある銀行内より一億円を持ち逃げして失踪されたとされる男……船村はその男の娘が、父親の無実を訴える場面をたまたま目撃、捜査を開始するが、状況は決して平坦なものではなかった――。

船村メイン、そして絶対的にクロである容疑者の無実を信じて捜査する、「指紋」が物語の核心の決め手になる、演出が天野利彦監督……ということで、昭和55年「乙種蹄状指紋の謎!」をある程度意識した作品といえなくもないが、ストーリーは全くの別物である。本格ミステリーを痛烈に意識した作品で、全編見応えたっぷりだ。
尚、この話が長坂作品で船村メインの事実上最終作である(まあ「退職刑事船村」前後編という特別作はあるのだが、「船村刑事の捜査」を主題としたものは、やはりこの話が最後といえる)。


 長坂No.82 「特命ヘリ緊急発進!」

本放送No.320 (脚本・長坂秀佳 監督・辻理)1983.7.6放映

神代課長は偶然ある外国人の男を目撃した。気になった神代は男を追跡する。やがて男の身元が判明、彼の正体は殺し屋だった――。

この作品は特命ヘリを主題にしているという点で「特命ヘリ102、応答せず!」の姉妹編といえる。番組後半にて特捜の長坂作品では珍しく「刑事VS犯人」の構図の銃撃戦を展開させたりするなど、アクションを重視した作品となった。怪しい魅力(爆)の中田博久氏もいい味を出している。尚、この作品の雰囲気を継承したのが「銃弾・神代課長撃たれる!」だと個人的には思っている。外国人の暗殺者、神代のメイン話、辻理監督作……ま、これぐらいしか根拠はないのだが。
長坂氏はこの作品を最後に12時間ドラマの執筆に入ったため、また「特捜」を半年間お休みすることとなる。次に帰ってくるのが長坂No.83「新春・窓際警視の子守歌!」。


 長坂No.83・84 「新春・窓際警視の子守唄!」「新春U・窓際警視の大逆転!」

本放送No.345・346 (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・北本弘)1984.1.4・11放映

新春。蒲生警視は駅である一人の幼児・乙平と出会った。乙平は蒲生に「パパを助けて」と訴える。乙平は持っていた新聞を蒲生に手渡して、ある記事の写真を指差し、これが自分の父親だと言う。蒲生はその写真を見て目の色を変え、特命課の神代の元に急ぐ。
乙平の父は四年前、代議士畑中が事件の犯人と黙された、一家四人が災禍に見舞われた通称「白樺高原事件」の重要証人で、畑中の運転手・河田なのであった。しかし河田はこれまで姿を暗まし続けている。河田はまだ生きている――?
稲妻の蒲生、堂々と冴え渡る! 感動の前後編。

長坂秀佳シリーズ。テレビ東京12時間ドラマの脚本執筆を終えて、長坂氏はまた半年ぶりに「特捜」の「最前線」に帰ってきた。長坂氏にとっては番組のセミレギュラー・蒲生を登場させた初の作品だが、全編練りに練られたストーリー運び、後編における蒲生の捜査の大胆な奇想、そして涙・涙の感動のラストシーン……長坂氏しか書き出せない「特捜」ワールドがそこにはあった。1984年の「特捜」スタートを華麗に飾った文句ナシの傑作前後編であろう。長坂氏はこの後、放送九周年記念の犯人当てシリーズでも蒲生を再登場させた。しかし、その話がまさか殉職編になろうとは……(蒲生はその間、「特捜」での出演はなかった)。
それにしても、乙平役の子役の方の演技が堪らなくいいですなあ!


 長坂No.85 「暗闇へのテレフォンコール!」

本放送No.347 (脚本・長坂秀佳 監督・藤井邦夫 助監督・三ツ村鐵治)1984.1.18放映

ある夜、“コアラ”と呼ばれる女が殺された。死体の傍に転がっているコアラの人形、そして特命課・高杉婦警の名刺。
――一方、“コアラ”を殺害した殺人者は「ある目的」を持って、高杉婦警の自宅のマンションに侵入していた。殺人者の目的とは? そして幹子はまたもや恐怖のドン底に叩き込まれるのであった……。

長坂秀佳シリーズ。これまで高杉婦警を主役に据えてきた、夏のホラー三部作の外伝形式の作品。また、長坂氏にとっては最後の幹子メイン作品でもある。ホラー三部作と合わせ、長坂×幹子モノでは私はこの作品が最も印象深いし、実際シナリオ的にも高度な出来であったと感じる。たとえば、本作は長坂特捜唯一の“一晩限りの話”で、実にテンポよく小気味いいドラマ運びの作品である。大半を一日限りで占める話(「特命ヘリ102、応答せず!」「特命ヘリ緊急発進!」「爆破60秒前の女」などの傑作)はシナリオの密度や構成が濃密かつ緻密でないと、面白くはならない気がする。それにしても、本作を担当した藤井組のロケ班は撮影が大変であったろうなと考える次第。何せ撮影時期は冬で、しかも大半がナイトシーン……。
それはさておき、ホラー三部作では徹底的にホラー性に拘ったせいか、長坂氏が本来重視しているドラマ性をあまり感じることは出来なかったが(少なくとも私には)、本作ではハラハラドキドキのサスペンス性を前面に押し出してはいても、要所要所でさりげなく伏線を張っておき、ラストシーンにて“コアラ”の真意が、作品の重要アイテムで当時は最新鋭だった留守番電話によって明らかにされる仕組みなどはさすがに巧い。特捜の魔術師・長坂のまさに本領発揮、ファンにとっては堪らない展開である。
脇役も下条正巳、高橋みどりと豪華だった本作は、10年にも及ぶ「特捜」の歴史において、最高視聴率を記録した作品でもあった。
その数字は――27.4%!(ビデオリサーチ調べ)


 長坂No.86 「爆破0秒前のコンピュータゲーム!」

本放送No.348 (脚本・長坂秀佳 監督・松尾昭典 助監督・北本弘)1984.1.25放映

東都大病院に仕掛けられたコンピュータ爆弾……爆破時刻は刻一刻と近づきつつあった。
――それとは別に、特命課の橘、紅林、早見は東都大病院の医師達の要請によって病院を訪れていた。何者かによって病院のコンピュータがハッカーされた恐れがあるという。そして捜査の結果浮かび上がる犯人像は、16歳の少年……。

長坂秀佳シリーズ。当時としてはまだ目新しかったコンピュータを題材にしていて、それに長坂氏お得意の爆弾を組み合わせた作品。……面白くないわけがないのである。また、未成年の少年達による凶悪犯罪という、何やら昨今の日本を連想させる社会派テーマが目を惹く。時代を先取りした感がある犯人像で、長坂氏ならではの斬新な視点が印象に残った。「特捜」写真集の長坂氏のエッセイから察するに、この作品での長坂氏はどうやら「コンピュータ犯罪を犯す少年達を、家庭内暴力の変形として」描きたかったようだ。それにしても――少年達が爆弾を仕掛けた場所のアイデアは非常に狡猾で残忍極まりない(誤解のないよう。別に長坂氏が狡猾というのではなく、長坂氏の描く少年達が狡猾といいたいのである)。少年の心の奥の冷たさを怜悧に描写した長坂氏の筆力は当然評価されるべきだが……作品で描かれる少年達の空恐ろしい想像力には少々参ってしまい、本作は多くの「特捜」作品と同じくやっぱり後味の悪い作品といえるかも。ただ、ラストの救いの無さは「橘の怒りの拳」で多少は救われた感もある。
尚――本作が早見ラストの回。


 長坂No.87 「殺人トリックの女!」

本放送No.350<350回記念作品@>(脚本・長坂秀佳 監督・山口和彦 助監督・三ツ村鐵治)1984.2.8放映

警視庁が、麻薬の組織撲滅のための一代プロジェクト会議を設けてから十二日目、組織関係ではないかと見られる男の水死体が上がった。捜査を開始する特命課だが、死体の検屍は法歯学の第一人者・金沢医大の冷前綾子教授が担当することになる。何故か冷前教授は神代や特命課に対抗意識を燃やしていた――。
殺人事件に秘められた犯人の思惑とは? 巧緻なトリックや謎を女法歯学者が解き明かしていく物語。

350回記念作品第一弾は、神代課長役の二谷英明夫人である白川由美氏をゲストに迎えた特別編。白川氏出演の経緯は「特捜」シナリオ集@の長坂氏のあとがきに詳しい。本作は長坂氏が白川氏のために書いたシナリオであるそうで、作中、シーン状況で夫妻が直接対面するシーンは残念ながらないが(それだけに大阪・東京間での電話のシーンが楽しい)、冷前シリーズ第二弾となる「女医が挑んだ殺人ミステリー!」、特番の「疑惑のXデー・爆破予告1010!」では共演シーンはしっかり用意されている。入り組まれたプロット、考え抜かれたトリックと長坂氏ならではの見事なシナリオに仕上がった快作。冷前と吉野の凸凹コンビぶりも楽しく描かれている。また、作中の「裏の裏をかく」パターン展開は、以降の冷前シリーズで踏襲された。結局、本作内では神代と冷前の因縁の理由は明かされないまま話は終るが、その理由は「女医が挑んだ殺人ミステリー!」で明らかにされる。
本作で取り扱われる法歯学知識にはその道の権威で、著書「法歯学の出番です」で知られる東京歯科大教授(当時)・鈴木和男氏がブレーンとして協力。氏は「女医が――」でも続けて作品に協力をしている。本作担当の山口和彦監督はこの時期だけ集中的に「特捜」に参加していて、長坂氏と顔合わせも本作のみであった。従来は「特捜」組ではなく、「Gメン75」や大映作品「スクールウォーズ」などで辣腕を振るわれた方で、時代劇や二時間ドラマを手広く手掛けたりと幅広い活躍で知られている。


 長坂No.88 「津上刑事の遺言!」

本放送No.351<350回記念作品A>(脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・荒井俊昭)1984.2.15放映

特命課・津上明刑事が殉職してはや四年になる――。最近、特命課に子供と思しき拙い筆跡で津上宛に”殺してやる!”といった文面のハガキが度々舞い込んできていた。その種のハガキは津上の妹・トモ子の元にまで――。
捜査の結果、差出人は秋本忍という少年であることが判明した。忍少年の父親は横断歩道の信号を無視して歩行し車に轢かれて交通事故死――とされていた。だが忍はそれに反発し、津上も忍に父親の無実を証明することを約束した。――直後、津上は殉職し約束は果たされないまま四年たち、現在に至った。特命課刑事達は約束を果たさないままこの世を去った津上の無念を噛み締めつつ、忍に父親の無実を証明することを再度約束した。少年のために。津上のために……だが、四年前の交通事故で被害者に落度がなかったという証明は至難の道のりだった――。

350回記念作品第二弾は荒木茂氏、桜木健一氏、そして特別出演として西田敏行氏とこれまでの特捜レギュラー陣が登場、豪華なキャストに恵まれた作品。それに触発されたのか長坂氏の脚本も気合いが篭っていて、「交通事故」という刑事ドラマでは一見地味とも言える設定ではあっても(メインスポンサーが某自動車会社なのに、よくこの設定でNGが出なかったものだ。今なら絶対アウト・爆)、物語序盤で神代の口を借りて「交通事故」も立派な犯罪であると説いてみせ、作品に社会性を盛り込ませた。「父と子」の関係や、今も絶えることない特命刑事たちの津上への熱き思いをふんだんに描写しつつも、ラストの華麗なる大逆転を鮮やかに決めてみせる……実に緻密で高度な脚本。そして天野利彦監督の演出も冴えに冴え、山口百恵の「いい日旅立ち」の唄&メロディーを効果的に使用した映像作りは本当に見応えがあって、「特捜」メイン監督の技量をまざまざと見せつけた(本作ラストは長坂シナリオでは「夕陽に向かって刑事一同が立ち尽くす」というものだが、天野映像では「いい日旅立ち」をBGMに、夕陽を背にして刑事たちの影が坂を降りてくる――場面に改変されている。この演出によって、刑事たちのカッコよさが抜群に際立った感があり、「特捜」マイフェイバリットラストシーンのなかでも個人的にはベスト。何はともあれ、文句なしの名シーン)。とにかく出演者、脚本、監督、すべてのスタッフの力がフルに結集した350回記念に相応しい傑作。余程キャスト・スタッフのテンションも盛り上がったのか「特捜」には珍しく俗に言う”楽屋オチ”も登場した。桜井が事件の鍵を握る「ミソノ薬局」の場所を報告するシーンがシナリオでは「渋谷のどことか」になっているのだが、本編のセリフでは何故か「長坂町」に(笑)。
また「回想の津上の言葉に助けられて捜査が進展していく」展開は津上刑事殉職後編で使用された手法だが、本作でもその手法が登場した。おそらく、この「津上刑事の遺言!」という物語自体が長坂氏なりに津上殉職編に捧げたオマージュであると考えるのだが、いかがなものか――。


 長坂No.89・90 「疑惑・警察犬イカロスの誘拐!」「疑惑U・女捜査官の追跡!」

本放送No.361・362<七周年記念作品シリーズBC>(脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・北本弘)1984.4.25・5.2放映

麻薬捜査の訓練を受けていた警察犬・イカロスが何者かによって誘拐された。犯人の目的は不明で、イカロスの足取りは掴めないままだった。
一方特命課は街にはびこる覚醒剤の”Mルート”を追跡していた――。

七周年記念作品シリーズ。この前週に記念作品として制作されたのが、「特捜」10年にも及ぶなかでも、とりわけ最高傑作と誉れ高い塙五郎脚本・辻理監督の「哀・弾丸・愛 七人の刑事たち」前後編でだったが、本前後編では「特捜」の脚本・監督のそれぞれメインの長坂氏、天野利彦監督がコンビを組んだ。作品からは長坂氏が麻薬や警察犬の世界について徹底取材した跡がうかがえ、タイトルには「誘拐」「追跡」「疑惑」との文字が躍っているが、サスペンスの雰囲気より社会派ムードが強い仕上がりとなった。また、ゲストとして長坂作品の「快傑ズバット」早川健役で印象深い宮内洋氏の登場というのも嬉しい(「ズバット」ファンなら必見でしょう、やはり)。
しかししかし――本作を最後に長坂氏は再び「特捜」のローテーションを外れてしまった。理由は小説「嵐学の時代」執筆専念のため。翌年一月長坂No.91「銃弾・神代課長射たれる!」で復帰するまで、その間実に八ヶ月と七日(「特捜」の話数にして34本!)の長期離脱……嗚呼。


 長坂No.91 「銃弾・神代課長射たれる!」

本放送No.397<400回記念作品シリーズ@>(脚本・長坂秀佳 監督・辻理 助監督・荒井俊昭)1985.1.9放映

ある深夜、神代課長が何者かに狙撃された。重傷を負った神代は緊急手術に入るが手術室に入る直前、橘に「電話」とだけ伝えた。その言葉は特命課の秘密電話を表すメッセージだったが、会話記録は誰かが強力なマグネットで消去した後だった。神代の狙撃には大物のプロが絡んでいる――。
偶然、別件で狙撃現場で見張りを敢行していた渋谷南署の的場刑事も捜査メンバーに加わり、事件の捜査が開始された。捜査が進むにつれ、神代は新戦闘機購入に絡む日本政府高官が関与した”第二の航空機疑惑”の謎が浮上してくる……。

長坂秀佳シリーズ。長坂氏は「嵐学の時代」執筆のため「特捜」を含む脚本活動を長らく中断していたが、本作含む”的場四部作”で見事復帰を果たした。的場登場はおそらく、船村役の大滝秀治氏が舞台のため「特捜」を一ヶ月近く離れることになったための窮余の策であったろうが、本シリーズはおやっさん欠場のピンチを見事に帳消しにした長坂氏の充実ぶりが窺える傑作はがりが揃った。見応えのあるシリーズに仕上がっており、見逃すことが出来ない。
神代が物語の中心で、外国人の暗殺者が暗躍し、重要事件の証言者が消されようとする――展開は「特命ヘリ緊急発進!」をなんとなく踏襲した感じがしないでもないが、勿論ストーリーは全くの別物(演出が同じ辻理監督なので、私が勝手に雰囲気を混同してしまったか?)。おそらく当時は時代の最先端を走っていたサーモグラフィを話に採り込む辺り、新らしモノ好きの長坂氏の面目躍如といったところ。氏お得意の爆弾も登場し、その爆弾を止める役目を本作初登場の的場に託す辺り、お約束通りの展開とはいっても長坂氏のストーリーテーリングの巧さはキラリと光った作品といえる。
本作の後、橘主役編で的場が捜査の補佐につく「亜紀・戸籍のない女の証言!」、紅林VS的場の対決人情編で最終作への伏線(父と子の関係図)をチラリと織り交ぜた「摂氏1350度の殺人風景!」を経て、的場の壮絶な父と子の関係を綴った「父と子のエレジー!」へと流れ込み、的場の刑事としてだけではなく、人間としての思いをも重厚に描写した傑作四部作に完成――するハズだった。
しかし。
しかし。
……。(以下、長坂No.92・93にて)


 長坂No.92(93?)「摂氏1350度の殺人風景!」

本放送No.398<400回記念作品シリーズA>(脚本・長坂秀佳 監督・松尾昭典 助監督・三ツ村鐵治)1985.1.16放映

指名手配で逃亡中だった、不正投資グループの幹部・中尾の死体が河原で発見された。特命課は死体のコートの裾や靴に付着していたガラスを手がかりに、近くのガラス工芸工場を割り出した。そして、紅林は工場内で中尾を撲殺したと見られる凶器の石を発見し、殺害現場は工場内であると考えられた。 工場の社長・岩倉勇作には中尾と犯罪の濡れ衣を押し付けられた過去があり、殺害の動機がある。そして工場の鍵も持っている――的場は犯人は勇作であると考えた。一方、紅林は十年前に家族を捨て蒸発した、工場の前社長で鍵も所有する勇作の父・仁衛門に会い、仁衛門がかつて息子に罪を被せた男を殴り殺した可能性を考えていた。
確かに岩倉親子は互いに憎みあっている。しかしその実、お互いをどこかで求め合っているのではないか……紅林はそう感じていた。直感から仁衛門犯人説に考えを固める紅林。 ――互いに捜査方針や主張が真っ向から対立する紅林と的場。伝統工芸の世界を舞台とした父と子の葛藤。事件の真相は如何に……?

長坂秀佳シリーズ。前週の予告編では「亜紀・戸籍のない女の証言!」が予告されていたが、放映当日になって急遽予定変更、翌週放送予定の本作がオンエアーされることになった。何故こんなアクシデントが発生したのか? ……詳しくは次項にて説明を試みたい。
「父と子のエレジー!」にて明かされる的場の過去の伏線が見え隠れしつつも、本作はれっきとした紅林メイン。因みに長坂特捜では紅林メイン最終作品でもある。この作品では過去の長坂×紅林編では試みられなかった「親子(父と子)」の関係図を中心設定に組み込んでいる。今迄の長坂特捜の紅林メインでは、アクション系・パズラー系・人情系の話は占めていても、長坂氏お得意の親子関係がモチーフに盛り込まれた話は登場していない(「警視庁を煙にまく男!」にそれに近かった設定はあったともいえるが)。また、紅林の長坂特捜以外の話でも母や妹とのエピソードは数あれど、父と子の関係を綴った話はそんなに目立っていなかったはず(多分……;)。そうした事情を長坂氏が考慮したかどうかは知らないが、本作のアイデアは紅林ストーリーとしては新機軸であり、目新しい発想であると感じた。的場編としても堪能できるし、紅林VS的場の刑事間の対立も十二分に描かれている。ゲストも長坂特捜父親役常連の織本順吉氏を迎えて味わい深さが1350倍増し、ガラス工芸の世界の取材も行き届いた、実に奥深い話といえる。
――のだが、この作品の真の価値は「父と子のエレジー!」に直前に放映されてこそより生きるハズだったと思わずにはいられない今日この頃……嗚呼。


 長坂No.93(92?)「少女・ある愛を探す旅!」(「亜紀・戸籍のない女の証言!」)

本放送No.399<400回記念作品シリーズB>(脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・白井政一)1985.1.23放映

ビルの屋上から飛び降りようとする少女。だが間一髪、特命課は少女の自殺を未然に防ぐ。
橘と的場は病院で少女に本籍地・氏名などを尋ねる。だが、少女は「自分には戸籍がない」と嘯き、実際彼女――上村亜紀には戸籍がなかった。戸籍を作成すべく、橘は彼女の母親を探そうとするが、亜紀の母親・上村栄子は四年前の府中のスーパー強盗殺人事件の共犯者と目され、逃亡中の身だった……。

遂に「ストリップスキャンダル!」と並ぶ、長坂特捜”超幻の逸品”の登場である。現在地上波で再放送のオンエアーが99%不可能に近い、この作品。その幻度は「ストスキャ」(……略称)をも遥かに凌ぎ、長坂特捜史上最強の闇に覆われた神秘的作品である(「ストスキャ」はシナリオ集に収録された作品だし、ごくごく短期ではあったにせよ再放送の機会もあった。が、本作においては再放送の機会も全くといっていいほどないらしい)。そもそも本放送時からこの作品は曰く付きであったようで、前週に放映される予定が一週延びて、サブタイトルも変更になって、やっとオンエアーになった(個人的には「少女・ある愛を探す旅!」のほうが好きなタイトルではあるのだが)。で、その理由だが、サブタイトル並びに物語における「戸籍のない人間」という設定が徹底的にマズかったらしい。――詳細な理由は一切不明だが、何しろまずいらしい。また、作品内では桜井の台詞で外国人差別を匂わせるニュアンスの言葉も発見できる。……とにかくまずいらしい。
本来なら的場シリーズ第二弾のこの作品、メイン主役は橘。事件の発端の少女の自殺未遂という地味な設定はケレン味たっぷりの「銃弾・神代課長射たれる!」とは対をなすもの。母と子の情愛を軸に据え、テロップスーパーの多用によるドキュメンタリーテイストのストーリー仕立て(後の「女未決囚408号の告白!」もこれとよく似た雰囲気を継承している)、そして橘の魅力も満載で、感動の大団円のラスト。全体的に人情風味とはいえ、しっかりとトリックも用意されていて、本当に味わいの深い名作であった。的場四部作の傑作群のなかでも、私は特にこの作品が好みで、余計に現在の欠番状況が悔やまれてならない。
さて、的場四部作の放映順の変更によりストーリー展開の弊害も発生し、本作が「摂氏」と「父と子のエレジー!」の間に挟まったことで、本来の”的場の人間としての思い”の流れがぐちゃぐちゃに乱れたしまった。本来ならこの四部作、「銃弾」での的場初登場、本作で橘の補佐について事件捜査をする的場を見せて、「摂氏」での紅林VS的場(的場の過去の父親との確執もからめて)、そして最終作の「エレジー」で「摂氏」での伏線を活かしつつのストーリー……といった按配に長坂氏の巧みな計算が働いていたはず。しかし「摂氏」と「エレジー」にクッションが挟まったことでその緊張感が壊され(内容の善し悪しが問題ではなく、何事においても”順番”は大切なのである)、その計算も全て御破算となってしまう。
……今や本作抜きの「銃弾」「摂氏」「エレジー」の”的場三部作”が「特捜」の常識に落ち着いてしまい、本作は本当に長坂特捜幻の逸品として、霞みの如く消えつつある――。


 長坂No.94 「父と子のエレジー!」

本放送No.400<400回記念作品シリーズC>(脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・白井政一)1985.1.30放映

ある事件を通じて父と子の情愛に触れた的場刑事は、昔、自分と母親を捨てて家出した元刑事の父親・軍三のもとを訪ねることを決意した。
だが的場が軍三宅に到着すると、家は火事に見舞われ焼失寸前だった。的場は中に突入し、部屋で倒れていた軍三を救出する。しかし軍三は首を絞められており、既に事切れた状態だった。なぜ軍三は殺されたのか……? 特命課は事件の捜査を開始する。すると18年前に軍三が最後に担当した「良明ちゃん誘拐事件」の不可解な謎が改めて浮き彫りにされて――。

長坂秀佳シリーズ。並びに区切りの良い400回記念作品。的場四部作の最終作である本作では、「摂氏」で断片的に提示された的場と父親との過去の因縁が全て明らかにされる。そして何故父親は殺害されたのか――父親を殺した犯人の捜査を担当しなければならない宿命を背負わされた的場の悲哀が、物語にシリアスな雰囲気を漂わせた。長坂氏の筆は二組の「父と子」の悲しい関係を深く、大胆丁寧に掘り下げて描写している。
「摂氏」「少女ある愛」と同じく人情風味の話ではあるが、長坂氏お得意の誘拐ネタが過去の事件として取り上げられ、当時の不可思議な謎を現代で解き明かす点などは、スリルとサスペンス性を感じさせる絶妙な構成だ。小気味よいトリックやカーアクションも盛り込まれた見所満載の名編で、的場四部作ラストを飾るのに相応しい作品に仕上がっている。
的場は四部作の後は長坂脚本ではないが、「追跡・ラブホテルの目撃者!」(脚本・山田隆司 監督・天野利彦)にて再登場を果たす。しかしその作品が「特捜」での最後の顔見せ……個人的には、的場がその後、時田と犬養、杉らと共に特命課の本メンバーに参加する展開だったら面白かったのにとも思ってしまった。長坂氏が作り上げた的場のキャラクターをたったの五回で捨て去るのは惜しいし、何より1クールドラマでは絶対真似の出来ない、長期番組故に許される「昔のキャラクターが成長して、おお、こんな姿に!」と「渡る世間は鬼ばかり」的大河ストーリーの如く、”番組内での時間の流れ””歴史の深さ”、そして番組の”懐の大きさ”を視聴者に感じさせる絶好の機会であると感じていたのだが……。


 長坂No.95 「少年はなぜ母を殺したか!」

本放送No.418(脚本・長坂秀佳 監督・辻理 助監督・三ツ村鐵治)1985.6.5放映

有明塁次(21歳)は自宅アパートにおいて同所を訪れた母・有明公枝(45歳)を絞殺……尊属殺人に問われた塁次の裁判が開始された。起訴状の事実内容を全て認め、「自分が母を殺しました」と証言する塁次。 だが弁護士の沖田亮子は「被告人は無罪」と主張する。全ては傍聴席で裁判を見守る神代達特命捜査課の筋書きであった。被告人は自分が殺したと証言し、弁護人は無罪を主張した今回の事件の、意外極まる真相とは――?

長坂秀佳「女」シリーズ@。ドラマはずっと法廷内のみで進行するという野心的な作劇方法に、まずはチャレンジャー・長坂氏の高い意欲が窺い知れる。作品舞台を極端に限定する手法は、現在のテレビドラマ界では脚本家・三谷幸喜氏が得意とするシチュエーションだが、長坂氏は今より15年前も昔に、困難が予想される”画期的な1セットドラマ”ヘの挑戦を敢えて志している。そしてその挑戦は見事に成功を収めたと感じた次第。 長坂氏ならではの緊密な台詞運び、綿密で巧みな構成もさることながら、特命課刑事達それぞれの意外極まる法廷への参加のプロセスも意表を突かれ、面白い(桜井が証人で叶が弁護人席……という構図など、見ていて何となく燃える←意味不明;)。そして長坂氏永遠のテーマである「父と子の関係」が物語全体に暗い影を落とす本作には、その関係がずっしりと重くのしかかる「破壊的なラスト」が待ち構えている。……正直言って後味はかなり悪い。”長坂特捜後味悪いランキング”でもかなりの上位にきそうな予感。しかも長坂氏のシナリオのラストはその後味の悪さがメチャメチャ尾を引いて余韻をひきずる――設計になっていた(詳細には触れないが)。しかしそこは、辻理監督が独特のアレンジでそのショックを幾分かは緩和する画面作りを施していて、そこにはまだいくらかの救いが残った。
シナリオ集や85年9月号の「ドラマ」にもシナリオが収録された本作だが、この作品は「特捜」のみならず、長坂氏の作家生活においても重要なキーポイントとなる作品であった。即ち、長坂氏「法廷モノ」開眼! である。本作には弁護士の新井宏明氏がブレーンとして長坂氏に協力しているが、新井氏は以後「都会の森」「七人の女弁護士」といった長坂法廷ドラマにも参加協力。長坂氏は新井氏と本作で初めて出会ったことで、以後の長坂流法廷ドラマが次々に生み出されるキッカケになったことは、おそらく間違いないのでは。……といったわけで、長坂氏の法廷ドラマの源流はこの「少年はなぜ母を殺したか!」にあると私は勝手に考えている。余談だが、”源流”つながりでいうと、この長坂秀佳「女」シリーズでは第四作の「人妻を愛した刑事!」が後の長坂氏の第35回江戸川乱歩賞受賞作「浅草エノケン一座の嵐」のルーツになった作品であると私は勝手に考えていたりする――その話はいずれ、また(でもまあ、そんな大した話じゃありませんけども・爆)。


 長坂No.96 「女医が挑んだ殺人ミステリー!」

本放送No.419(脚本・長坂秀佳 監督・松尾昭典 助監督・荒井俊昭)1985.6.12放映

――ある日、金沢医大の冷泉綾子教授がぶらりと特命課を訪れ、神代に「勝ちます」と自信たっぷりに挑戦してきた。綾子はあるホステス銃殺事件に着目し、その事件で容疑者と目される男・岩堀の無実を主張していた。その根拠は現場で偶然にも録音されていた銃声紋が、警察で警部補以上しか持つことの出来ない拳銃のものだからという。当時現場近くに居たのは、キャリア組の警視・伊予田と叩き上げの警部補で伊予田の部下である乾であった。冷泉綾子教授はこの二人のどちらかがホステスを銃殺したのだと考え、わざわざ特命課に乗り込み、事件の解決を根底からひっくり返してやると宣言してきたのだった――。

長坂秀佳「女」シリーズA。昨年「殺人トリックの女!」で冷泉綾子教授役を演じた白川由美氏の再登板である。本作では「殺人トリックの女!」のように神代課長役の二谷英明氏とすれ違いのシーンばかりの”異色共演”でなく、同一画面上でのやりとりがしっかりとある正真正銘の”夫婦共演”を見事に果たしている。そしてこの流れは特番「疑惑のXデー・爆破予告1010!」にも受け継がれる。
「殺人トリックの女!」と同じく東京歯科大の鈴木和男氏がブレーンとして参加し、「裏の裏をかく」展開も踏襲されて「殺人トリックの女!」と姉妹編といっていい本作。ラストシーンは前作が綾子が関係者一同を集めて謎解きをする古典推理小説によく出てくる黄金パターンだったが、本作では真相に辿り着いた綾子が危うく犯人に殺されるところを、危機一髪特命課に救われる――といったシチュエーションだった。これらのクラスマックスでは、ドラマが最高に盛り上がること間違いナシであろう。
いずれにせよ、両作品には白川由美氏の見せ場が最後にちゃんと用意されており、長坂氏のスペシャルゲスト・白川氏に対する配慮が窺い知れる。シナリオ設計もかなりの苦労があったのではないだろうか。


 長坂No.97 「女未決囚408号の告白!」

本放送No.420(脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・吉野晴亮)1985.6.19放映

薬研真沙子は十数年連れ添った夫・孝介を刺殺した。その死体は油をかけて焼却するつもりだったと嘯く真沙子。特命課の捜査は完璧で、証拠もあり、動機もあり、本人も自白し、裁判まであと6日に迫り――何の問題もない事件のはずだった。
だが桜井だけはどうにも腑に落ちなかった。解決されない疑問は2つあり、凶器の刺身包丁から欠落した2つの疑問の謎、そして犯行直後真沙子が放心状態で妹宅に訪れて電話を借りる様子を目撃した、三歳の幼女・里美の謎の証言――「うン、あのネ、お電話がね、”メリーさんのひつじ”ッて。そう言ったの」。……これら2点が引っかかり、桜井は一ヶ月も真沙子に会うための拘置所通いを続けていた。
気の済むまでやってみろという神代の言葉を受けて、単身桜井は捜査の洗い直しを改めて開始した。……果たして、桜井の捜査は”完璧”だったのであろうか?

長坂秀佳「女」シリーズB。「特捜」シナリオ集にも収められた作品で、あとがきによると長坂氏自身「特に好きな作品の一つ」だそうで、「たまには悪女を書きたかった」とのことだ。地味な設定で、母と子の関係を主題とし、テロップスーパーの多用、人情系でドキュメンタリータッチの構成……これらは同年の長坂作品「少女・ある愛を探す旅!」と共通しているテイストであると感じた。事件や物語は地味と言っても、台詞や内容は「少女……」と同じく見事に凝縮されている。何度見ても繰り返し楽しめる作品で、この長坂「女」シリーズでもおそらく「少年はなぜ母を殺したか!」と人気を二分しているであろう名作。当方にとっても長坂特捜の桜井主役編ベストとなると、「桜井警部補・哀愁の十字架」に次いでこの作品をベストに推したい。
「”心”が違う」という絶妙な長坂ゼリフが飛び出す下りのシーンも印象深いが、とりわけ素晴らしいのが”メリーさんのひつじ”の謎の仕掛けであろう。人間の音感に訴えかけるこのトリックの解明シーンは迫力十分。推理小説の「字」では表現できない、長坂氏が「音」で描いたインパクトありまくりの必殺トリックは、多くの視聴者のド肝を抜いたハズである。


 長坂No.98 「人妻を愛した刑事!」

本放送No.421(脚本・長坂秀佳 監督・辻理 助監督・北本弘)1985.6.26放映

吉野が人妻の堀尾伊久世に恋をした。伊久世の夫で人気カメラマンの堀尾喜明はある女優殺害の疑いで逮捕され、収監中の身だった。吉野はその事件捜査中に伊久世と知り合い、喜明の潔白を証明するための再捜査を決意するのだった。
「伊久世が好きだから、捜査をやる」――はっきりと神代にそう言いきる吉野。神代は吉野に五日間の猶予を言い渡した。吉野は五日の間に事件を解決せねばならない……。

この6月の時期になると、既に10月からの時間枠変更も視野に入った状態であったと思うので、吉野役の誠直也氏の降板も確定していた時期だったのかもしれない――と私が勝手に思うのは、水曜10時ラストの長坂特捜が吉野メインであるからだ。これまでにも何度か書いてきたが、長坂氏が吉野メインで特捜を書いたのは過去数えるほどしかない。だが長坂氏のローテーションではこの421回目の作品を逃すと吉野出演の機会は二度とない。だから長坂氏は誠氏に捧げて主役編を書いた――という気がしてならない。
……という事情はさて置いたとして本作は――傑作であった。これまでの長坂×吉野編の中でも私はベスト作品として挙げたい。過去のメイン編である「裸足の女警部補!」や「殺人トリックの女!」ではもう一方の女警部補や女法歯学者にスポットが当たって、吉野が引き立て役に甘んじ、彼の存在が薄らいだ印象も少なからずあった。また、一般的に長坂×吉野編で最高作と認知されているであろう「六法全書を抱えた狼!」は確かに面白いが、では誠氏がイメージする吉野竜次のキャラクターと、長坂氏が作品で描写した吉野のキャラクターは双方、果たして一致したイメージであっただろうか。――誠氏的には複雑な思いであったかもしれないと私は思う(註。「新宿ナイト・イン・フィーバー」は私は吉野主役編と考えていないので、この作品は対象外としている)。
それら過去の作品群に比べ、本作の吉野は刑事としての恋を苦悩するシーンなど見応えがあるし、台詞も素晴らしく、吉野は「吉野らしい」魅力で颯爽と活躍していた。従って本作は長坂氏、誠氏両氏にとって幸せな作品であった気がする。また特筆すべき名場面として、吉野の知らないところで他のメンバーが捜査していた下りにおいて、橘が「堀尾のためじゃない、吉野、お前のために動いてみた」と吉野に告げるシーンが出色だ。吉野を思いやる橘の暖かい心情が浮き上がった感動的な台詞だった。
また長坂氏は殺人トリックの解明を主役の吉野ではなく、吉野以外のメンバー全員に託している。主役を助けて他のメンバーが推理する――という構図は後年の長坂氏の江戸川乱歩賞受賞作「浅草エノケン一座の嵐」における、エノケンとその仲間という構図に何となく似ているような、似てないような……。といったわけで「浅草エノケン――」のルーツが「人妻を愛した刑事!」だと一人勝手に想像してしまっている私だが、そんなわけはないか(爆)。エノケン(榎本健一)=誠直也――やっぱり無理がありすぎ? しかし「浅草」の単行本親本のカバーにあるエノケンの写真が誠直也氏に何となく似ているような、似てないような……。さて話が脱線してしまったが、本作の語り部を叶が担当している点も、密かにチェックすべきポイントであろう。 誠氏はこの後、水曜10時枠でのファイナルとなった「特命課・吉野刑事の殉職!」を最後に作品を降板した(その回の担当の脚本の竹山洋氏、演出の三ツ村鐵治監督は共に誠氏のリクエストであったらしい)。船村役の大滝秀治氏もその直前に「特捜」を降板している。「特捜」は時間枠変更という一大転機をキッカケにし、プロデューサー陣総交替、新レギュラー加入というイベントを経て、風雲急を告げ、新たなる時代の扉を徐々に開けようとしていた――。
1985年10月のことである。


 長坂No.99 「疑惑のXデー・爆破予告1010!」

特番(2時間スペシャル)<脚本・長坂秀佳 監督・野田幸男 チーフ助監督・北本弘 助監督・三好雄大、北川敬一>1985.10.10放映

――今、都内では二つの重要事件が進行している。一つはラジコン爆弾を使用して、次々と発生した連続爆破事件。もう一つは法曹界の重鎮である別所大造の一人息子・里司の誘拐事件だった。
そして10月4日、特命課のもとに「バクハ予告1010」と記された謎のテレックスが送られてくる。犯人は警察に対して挑戦をしてきた……。
所轄との合同会議において、特命課はこの「1010」の予告を足がかりに、一見無関係に見えた爆破事件と里司誘拐事件に関連がある可能性を指摘した。また神代は特命課の新メンバーとして時田伝吉警部補、犬養清志郎巡査部長を迎える。
やがて犯人から身代金と子供の交換条件が提示される。犯人の目的とは? 二つの事件のつながりは? 果たして特命課は事件の真実に迫ることが出来るのであろうか――?

時間枠変更第一弾。渡辺篤史氏、三ツ木清隆氏ら新レギュラーの加入や企画の高橋正樹プロデューサー以外の旧制作陣の五十嵐文郎・深沢道尚・武居勝彦各氏から、新制作陣である浅香真哉・阿部征司・東一盛各氏への交替など、本作にて「特捜」は最大の転換期を迎えることになった(註・本作のみテレビ朝日の五十嵐プロデューサーは制作に加わっている)。
本作は「特捜」では唯一無二の二時間スペシャル。長坂氏も気合いを込めたのか、試みとしてこれまで長坂氏がお得意とし、好んで使用してきた「誘拐」「爆弾」といった二大シチュエーションを合体させた。内容も放送日の10月10日を意識した「1010」の予告に始まり、21年前の未解決事件、「体育の日」にからめたオリンピックの話題、幼稚園バスジャックあり、カーチェイスも――と、とにかく相当スケールの大きな作品に仕上がった。
予算も相当かかっているようだ。再々登場と相成った冷泉役の白川由美氏、大場久美子氏や浅茅陽子氏といった豪華なゲストキャスティングに加え、サブタイトルにもある通り爆破は満載だし、ヘリも二台飛ぶし……(高速道路を走るバスをヘリが追跡する空撮シーンは現在のテレビドラマにおいては、予算の関係上なかなか成立し得ない画面作りであった)。制作陣も万全で、演出は長坂作品ではこれまで「ストリップスキャンダル!」「六法全書を抱えた狼!」などの異色作を手掛けた野田幸男監督(結果的には野田監督は本作が最後の長坂特捜担当となる)、チーフ助監督には後期特捜の演出陣の要となる北本弘氏がついている。
さて本作は再放送の際は、二時間バージョンを二分割した前後編バージョンで放送されている。オリジナルバージョンと違ってカットされている箇所がなきにしもあらず……のような気がするので、具体的にどの辺りに差異があるのか気になるところ。是非是非CSのファミリー劇場様にはオリジナルバージョンでの再放送を切に望みたいと思う(ただ数年前にフルサイズが特別枠で放送されたという噂もあるが、真実は定かではない)。
ともあれ本作をもって、「特捜」にまた新たなる伝説の1ページが刻まれることとなったのだが――。


 長坂No.100 「退職刑事失踪の謎! 瀬戸内に架けた愛!!」

本放送No.443(脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄 助監督・宮坂清彦)1985.12.5放映

橘の知り合いの元刑事で、皆からかつて”鬼吉”と称され、恐れられた堂本に四国で発生した警官殺人の容疑がかかった。家族の元を数年前に飛び出して以来、時折気まぐれに送られてくる堂本の土産の品だけが彼の消息の唯一の手がかりだった。
――事件の捜査のため、特命課は四国に飛んだ。

この放送の三週前に幹子ラスト&杉登場編、二週前に江崎愛子婦警登場と「1010」の余韻も冷めないうちに「新・特捜最前線」への大きなうねりを見せた時期の真っ只中の作品。後期スタートを祝してか、瀬戸大橋がまだ開通してない(昭和60年だから当たり前ですね……)高松などを舞台とした四国ロケを敢行。演出は長坂特捜は「雪国から来た逃亡者!」以来四年八ヶ月ぶりとなった宮越澄監督。そういえば「雪国……」も長坂特捜ロケ編だった。ゲストには長坂作品父親役常連の織本順吉氏を迎えている。
後期の長坂特捜の特徴として、長坂氏はその都度ポイントとなる重要作品を主に執筆した(後期スタート第一弾の二時間スペシャル、放送9周年記念犯人当て特賞付きでしかも蒲生殉職前後編、おやっさんと吉野もどき;復活の500回記念前後編、一般視聴者プロット入選作二編、そしてあの伝説の終幕三部作……)。しかしこの作品だけ単発モノなので、面白い面白くないは別にして、当方にとっては何故だか孤立した印象が残った。――そして、よくよく考えてみるならこの作品は長坂氏にとって記念すべき100本目の「特捜」なのであった。
最後に本作のサブタイトルについて。後期特捜はサブタイトルの決定をそれまでの担当者であったテレビ朝日・五十嵐文郎プロデューサーより同局の浅香真哉プロデューサーと交替したようなので、今迄のものとセンスが異なっている。一言でいうと、少し長くなっている。本作も長坂氏の命題と、サブタイトル担当の浅香プロデューサーのアイデアに違いがあると思う。長坂氏が考えた本作のサブタイトルが気になるところ。余談だがサブタイトルについては、個人的には後期までのあまり長めでない方が好みであった。「橘警部逃亡!」などは短く抑制されているのにインパクトがあり、「果たしてどんな内容か?」とワクワク期待させ、迫力を感じさせて、見事だったと思う。でも、このサブタイトルも後期風になると、「橘警部逃亡の謎! 桜井警部補に架ける愛!!」とかになってしまうのだろうか(爆)。あと「殺人メロディーを聴く犬!」は「殺人メロディーを聴いたテツゴロウの謎! 叶に架ける愛!!」へと……冗談です(笑)。
こうして昭和60年度の「特捜最前線」は終っていった。


 長坂No.101・102「挑戦・この七人の中に犯人は居る!」「挑戦U・窓際警視に捧げる挽歌!」

本放送No.459・460<放送9周年記念作品シリーズ@A>(脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・宮坂清彦)1986.4.3・4・10放映

フィリピンから流れた大量の銃器密輸事件を捜査する特命課は、さる情報をもとに銃器が眠っているという操車場のある貨車を急襲する。が、何者かによって銃は既に持ち去られた後だった。
一方その頃――血相を変えた蒲生大助警視が特命課の神代を訪れた。蒲生は神代に自分の代理で、「冬木心子」という女性に会ってくれと頼み込んだ。冬木心子は妻子ある蒲生が十数年前、他の女性に産ませた隠し子であった。出産以降、その女性と心子は蒲生の前から姿を消し音沙汰がなかったものの、最近になって急に心子が蒲生に会いたいと言い出した……心子に済まなくて合わせる顔のない蒲生。そのために神代に代理を申し込んだのだが――。
やがて事件は思わぬ方向に発展した。冬木心子が銃器密輸事件に関与している事実が明らかになる。そして、神代と待ち合わせの公園に一人佇んでいた心子は何者かによって銃殺されたのだ……。
果たして犯人は、誰?

あの「退職刑事失踪の謎! 瀬戸内に架けた愛!!」から約四ヶ月――少々のブランクを置いて長坂氏が特捜に帰ってきた。今回の長坂氏は放送9周年を記念した前後編の担当。また「懸賞付き犯人当てクイズ」という新機軸がみどころである。前編が問題編で、「犯人は果たして誰か?」との挑戦がある。翌週の後編のオンエアーまでに視聴者から解答のハガキを募り、解決編の放送……という当時としては画期的な企画であったのだろう。因みにクイズの商品はメインスポンサー日産自動車からのサニーが一台、それとハワイペア旅行六名三組分であったという。
さて、あの昭和59年の「新春」編から約三年と三ヶ月――長門裕之氏演じる蒲生警視が特捜に帰ってきた。長門氏だけでなく、今回の前後編には他にも豪華なゲスト陣が彩りを添えている。名バイプレイヤーの蟹江敬三氏、当時フジテレビを退職したばかりの元アナウンサー・山村美智子氏、その他北村総一朗、大谷朗、堀田真三各氏……とりわけ蒲生の娘婿・西岡良介刑事役の蟹江氏は後期の長坂特捜のキーマンとなった。本作、そして「退職刑事船村」編にて胡散臭さを存分に発揮した魅力ある演技を経て、あの特捜最終回での華々しい活躍! ――西岡があそこまでの重要なポジションを占めるとは視聴者の誰しもが予想し得ない事態だったのでは?(もしかして創造主の長坂氏自身も?・爆)。余談だが、長門氏と蟹江氏は当時「特捜」と同じ曜日に放送されていた東映制作「スケバン刑事U」にも上司と部下の関係で出演していた。「特捜」では父と子……。
そして蒲生はこの前後編で殉職を果たす。滅多に殉職者を出さないことで有名な特捜であったのだが……(因みに、この前後編にて蒲生は正式な特命課員に任命される。従って彼は最後は特命課の一員として命を散らした。つまり特捜最終回においての紅林の「(特命課の)刑事は二人死んだ」という台詞は???)。何はともあれ、長門氏の迫真の名演技は見る者の心を打った。――長坂氏はこの前後編にてミステリーを主題とした謎解きを緻密に書きつつも、父と子の関係を丁寧に書き、蒲生のキャラクターも物語に強烈に印象づけさせている。当方にとって初めて見た長坂特捜はこの前後編なので(リアルタイムで小学四年になる前の頃!)、実のところこの作品には人一倍の愛着がある。
それにしても、長坂氏にはもっと後期作品を書いて頂きたかった……長坂氏の昭和61年度の特捜は結局、この2本のみであった。以後、翌年の一月まで特捜に関しては9ヶ月の沈黙を守る。もしかしたら、この間は長坂氏は特捜を降板していたのだろうか……真実は長坂氏と番組制作スタッフのみぞ知るである。後期特捜のシナリオは藤井邦夫・佐藤五月・宮下隼一各氏が中心となってローテーションを組んでいた。
こうして昭和61年度の「特捜最前線」は終っていった。
――そして。
――遂に。
――伝説は最終章に辿り着こうとしていた。


 長坂No.103・104 「退職刑事船村・鬼」「退職刑事船村U・仏」

本放送No.499・500<500回記念作品シリーズ@A>(脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦 助監督・竹安正嗣)1987.1.22・1.29放映

”呑む覚醒剤”が日本社会に蔓延し、汚染していた――覚醒剤の密売組織撲滅を狙う警察だったが、組織に内部情報を流す警察関係者の存在があって、事はそううまくは進まなかった。内部密通者を探り当てるためには、その警察関係者を知る人物・通称”ヤシマ”に接触を持つ必要があった。しかし”ヤシマ”の顔を知る者は今の警察には誰一人としていなかった。ただし、元・警察の人間になら一人いる。その人物とは……元特命課刑事・船村一平であった。船村なしには捜査は始まらない。
神代は、今は一般の民間人に戻った船村に捜査協力を求めることに否定的な立場だが、橘と桜井は船村に協力要請を行うのだった。だが、船村はその要請を頑なに拒み続ける。だが、四課の西岡良介刑事に覚醒剤被害に遭って自殺した者の家族の写真を見せられ、心が動き……遂に捜査協力を承諾した。
だがその矢先、船村に”ヤシマ”と接触されては困る組織が、先手を打って船村の孫・太平を誘拐した――!

長坂秀佳シリーズ。「特捜最前線」も丸十年、放送回数も500回を数えようとしていた頃、三月末をもっての放送終了がとうとう決定した……。昭和62年度に入っての特捜はいよいよ終幕の気配が強く漂ってくる。放送500回目前になって、「特捜」を長期離脱していたメインライター・長坂秀佳氏が不死鳥の如く舞い戻ってきたのだ。そして500回を記念した前後編が制作されることとなり、ゲストとして「特捜」元レギュラーの船村一平こと大滝秀治氏、吉野役だった誠直也氏も吉野とうりふたつの暴力団員役として出演するという豪華作品に完成した。また、後期長坂特捜キーパーソンの四課西岡役の蟹江敬三氏も相変わらずの胡散臭さで楽しませてくれている。……久々の長坂「特捜」節はやはり快調な筆さばきであった。
あと本前後編は長坂氏の見事さもさることながら、天野利彦監督の華麗なる演出ぶりにも拍手。あの耳に残って仕方のない印象的な和太鼓の(ようなもの? 曲目不明!)BGMを随所に散りばめたり、前編ラストの余韻を残す幕切れのカットの素晴らしさ、大滝氏の迫真の表情の数々の描写、ラストの廃工場での緊張感――長坂氏との「特捜」での顔合わせは本前後編が最後となったが、それに相応しい巧みな演出だった。直後、天野監督は「特捜」は504話が最後の担当。その後1年ほどのブランクを経て、「特捜」の後継である「ベイシティ刑事」以降、「はぐれ刑事純情派」「さすらい刑事旅情編」「風の刑事・東京発!」に参加。現在も尚、「はぐれ〜」を手掛けていて、東映の刑事ドラマ路線を支える第一人者として活躍している。また長坂氏とは「特捜」終了後に、藤岡弘氏主演の「オジロの海」という作品でもコンビを組んだ。
さて個人的な感想だが、ラストの神代のナレーション「これがおやじさんにとって、本当に最後の事件となった」が印象深い。”最後の事件”というコトバに何故だかジンと来る。船村だけじゃなく、神代達特命課にとっても”最後”は目前に迫ってきている……私はそう勝手に思ってしまい、一人悲しくなってしまうのだった。ともあれ長坂氏復帰という一大事があった本作をもって、「特捜」も本格的に終幕へのカウントダウンが始まってしまったと実感した次第である。

『「特捜最前線」終幕まで――あと8回』(←元ネタは明かさぬが華・爆)


 長坂No.105 「殺人警察犬MAX」

本放送No.501(原案・会川昇 脚本・長坂秀佳 監督・辻理 助監督・長谷川計二)1987.2.5放映

特命課の犬養刑事がかつて飼っていた愛犬「アマデウス」は現在は優秀な警察犬「マックス」として第一線で活躍していた。そんな中、最近になって警察犬が次々と何者かに攫われる謎の事件が発生し、捜査にマックスも参加する事となった。
ところが、マックスも同じ誘拐犯人によって攫われてしまった……マックス自身が”誘拐された警察犬”のうちの一頭になってしまった。
そして、スーパーで客が犬に噛み殺される事件が発生する。店内の防犯カメラによると、どうやらその噛み殺した犬はマックスのようだった――。

長坂秀佳シリーズ。一般視聴者から募った入選プロットを長坂氏が脚色する特別シリーズの第一弾。原案者の会川昇氏はこれ以前より、朝日ソノラマ社刊の長坂氏のシナリオ集「さらば斗いの日々、そして」や氏の代表作「快傑ズバット」コレクション本の編集に携わってこられた方。長坂氏とは師弟関係にあるという話も聞くが、詳細は分からない。当時からシナリオライターとして活動していて、現在でも主にアニメの脚本やラジオドラマ、小説などで活躍している。尚、プロット原案題は「殺人警察犬レオ!」だそうで、何故「マックス」に摩り替わったのかは不明である。もしかして、「レオ」というコトバからはレオがシンボルマークの球団・西武ライオンズをイメージさせ、しかもテレビ朝日は西武球団と密な関係だから、そのタイトルはNGだったのかなあ――と、無責任に勝手な憶測をしてみたものの、多分違うでしょう。
さて本作は長坂特捜で最初で最後の犬養メイン。物語で取り扱われるモチーフは「犬」で、これまでの長坂特捜で”犬”モノとなると(=叶)の図式が定着していたが、本作ではその専売特許を犬養が譲り受けている(というか、次回作の「黄色い帽子の女」が叶メインなので、主役刑事のバランスを考えた結果だったのかも)。
名前が犬養だから、”犬”モノの主役は犬養――だったのだろうか。まあ、単純にそういう理由だったのかもしれない。ただ長坂氏の後期作品を見ると、時田・犬養・杉の新メンバー三人のなかでは、犬養が特に目立って印象深く描かれていた気がした。たとえば、「挑戦」編では蒲生と二人きりのシーンが一番多くあったし、「退職刑事船村」編・後編では西岡と殴り、殴られの応酬も繰り広げた。――後期には多く参加していない長坂氏だが、犬養はやっぱり目立ってたなあと改めて思った次第。でも杉だって「挑戦」編・前編ラストにて「神代の”カ”だ!」「蒲生の”ガ”だ!」といったトンチンカン推理で独特の存在感が醸し出されていた気も(爆)。でもまあ個人的には、時田メインの話を一本で良かったから長坂氏に書いて頂きたかったと悔やまずにはいられない……時さんファンとしては、やはり。
それはさておき本作に話を戻すと、会川氏が原案したであろう「犬の脳手術」という奇抜なアイデアに、まずは唸らされた。その案に長坂氏の巧みな筆が加わり物語の展開・筋立てはまさに波瀾万丈、印象深い一本に仕上がった。ゲストとして、長坂特捜常連の小林昭二氏が最後の登板。「退職刑事船村」編に出演の同じく長坂特捜常連の田口計氏と合わせ、”「東京殺人ゲーム」犯人コンビ”が連続しての登場と相成った。
「特捜」も終幕に近づいてきたせいで、総動員態勢であったのだろうか……。

『「特捜最前線」終幕まで――あと7回』


 長坂No.106 「黄色い帽子の女」

本放送No.502(原案・永井道子、野口小春 脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄 助監督・宮坂清彦)1987.2.12放映

ある晩、叶は娘を連れて線路に飛び込み、無理心中を図ろうとした女と遭遇する。叶は間一髪、それを阻止した――その女・可奈子と叶との出会いの夜だった。
その後しばらくして、特命課の叶の元に可奈子からの電話が。娘が何者かに誘拐されたとの連絡だった……。

長坂秀佳シリーズ。一般視聴者プロット入選作第二弾である本作は、同時に「特捜」における長坂氏最後の単発作品であり、長坂氏がもっとも愛した刑事(多分;)叶のファイナルメインストーリー。また長坂氏は”誘拐”というテーマを長年お得意としてきたが、本作をもって誘拐ネタは最後である。これまでの長坂特捜誘拐編では、人質救出がメインストーリーでその解決シーンをクライマックスに持ってきた内容がほとんどだったが、本作では物語が中盤に差し掛かる前に誘拐事件そのものは解決し、それ以後の展開が肝である。ミステリー色が全体的に強い作品で、捻りの利いたプロットの妙、細かだが味わいのある伏線の数々が楽しかった。さすが選りすぐりの視聴者プロット入選作だけに、一筋縄ではいかない。
こうして「特捜」のシナリオ最前線に舞い戻ってきた長坂氏復帰記念の四連チャンは幕を閉じた。
そしていよいよ――多くの人々の奥深い感動を呼び(?)、壮大にして華麗、大興奮の連続にして波瀾万丈の一大絵巻、見事なまでに完成度の高いシナリオに話題騒然(?)、長年「特捜」のメインライターを勤めてきた作家の意地とパワーが炸裂する渾身の超絶傑作スぺクタル――「長坂秀佳終幕三部作」へと突入するのである。

『「特捜最前線」終幕まで――あと6回』


 長坂No.107 長坂秀佳終幕三部作@「橘警部・父と子の十字架」

本放送No.506(脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄 助監督・竹安正嗣)1987.3.12放映

新宿東署にたまたま立ち寄っていた特命課・橘剛警部は、管内で発生した強盗殺人事件の犯人・尾崎の逮捕に立ち合った。尾崎は日本各地で発生し、いまだ未解決のままだった六件の強盗殺人事件についても犯行を自供した。だが、橘は柏山不動産女社長殺しに関する尾崎の犯行については疑問を抱いていた。さしたる根拠は特になかった。だが、長年の刑事生活に裏打ちされた勘が、女社長殺しだけは尾崎の犯行ではないと橘に訴えかけている。――所轄署の迷惑も顧みず、橘は一人捜査に黙々と没頭していた。
しかし橘は最近、長年一緒に同居していた長男・信一が橘と別居中の妻のいる長崎に帰り、また妻から離婚届が送られてきたりと――捜査以外の家庭の問題にもいろいろと頭を悩ませていた。
そんな折、長崎にいるはずの橘の次男・健二が、新宿で暴れて警官に逮捕されるという知らせが特命課に舞い込んできた……。

「特捜」史上最大の作戦・いよいよ長坂秀佳終幕三部作のスタートである。終幕三部作は各々「特捜」で長年中心メンバーとして活躍してきた神代・桜井・橘の名を付し、それぞれ彼らがどういった十字架を背負っているのかを象徴させてみせる印象深いサブタイトル群である。
終幕三部作最初を飾るのは橘。本作の大まかな筋立ては長坂×橘編で名作と名高い「虫になった刑事!」をある程度踏襲していて、絶対的にクロの男の無実を橘だけが信じ、一人捜査に打ち込むという構図が相似している。また本作では、長坂脚本ではこれまで「死体番号044の男!」のみにおいてかすかに触れられていた、橘と息子のエピソードにも鋭く、深く踏み込む目的も持合せている。結局、「死体番号――」は展開が事件中心となり、息子との問題はほとんど収束されないまま終ってしまっていて、その後の長坂特捜では、橘の家庭問題には殆ど触れられていない(ただ「虫になった刑事!」にて容疑者の予備校生の無実を信じる橘に神代が「(容疑者が)息子さんに似ているのか?」と尋ねるシーンがある)。だがようやく本作において、「死体番号――」にて披露された消化不良の父と子のエピソードを、「虫になった刑事!」の衣を纏いつつも解答を出す――時が訪れたのだ。実に9年ぶり、大河的ドラマな展開。長坂氏の奥深い計算が何となく伺える興味深い筋立てだ。
長坂氏はこの話で、橘の息子に対する父親の思いを実に深く、濃く、丁寧に描写してみせている。長坂氏が年齢的に最も近しい特命刑事は橘なのだが、やはりそれだけに気合いが篭ったのだろうか。長坂氏永遠のテーマ「父と子」を改めて実感させる充実の内容である(この三部作のなかでは、本作が最も「父と子」のテーマを強く実感できた)。緊密な台詞運び、橘の息子と紅林・叶との絡みなど物語の計算もぬかりなく、一級の人間ドラマとして堪能できること請け合いだ。また人間ドラマの魅力だけでなく、長坂氏お得意のトリッキーなアイデアも満載。特に特命課刑事が、複数のモニターカメラを駆使して真犯人を指摘する場面は長坂氏ならではの冴えを見せた。
といったわけで、橘は尾崎の内一件の強盗殺人だけは無実である事を証明できた。嗚呼、めでたしめでたし……とは終らないのが終幕三部作の油断の出来ないところ。ラスト近くの神代と桜井のやりとりのなかで、事件は解決してもまだ謎は残っていると、視聴者にそれとなく知らしめた。――終幕三部作は各話独立しているのではなく、それぞれ関連しているのだと暗に仄めかしている場面だ。やがて話が進むごとに徐々に謎や闇は拡大していき、主役はリレー方式でバトンタッチしていく――長坂氏は最後の「特捜」で実に野心的で挑戦精神に溢れる壮大な試みを目論んでいたのだった。……素直に長坂氏に脱帽である。まさに「特捜」史上最大の作戦! ……事件はこの後意外な方向へと発展していくのであった。
――さて、本作のラストでは橘と息子達のあいだに、ある一定の和解が成立する。ラストの夕焼けの丘で歩く橘を息子達が追いかけるシーンは、かなりの余韻と感動を見る者に残した。ひとまず特命課・橘剛警部の十字架の物語は決着を見せて、終幕三部作第一の物語は幕を閉じた。

『「特捜最前線」終幕まで――あと2回』


 長坂No.108 長坂秀佳終幕三部作A「桜井警部補・哀愁の十字架」

本放送No.507(脚本・長坂秀佳 監督・田中秀夫 助監督・宮坂清彦)1987.3.19放映

柏山不動産女社長殺しは尾崎ではなく、新宿東署警邏課本庁交番巡査・上岡の犯行だった。上岡巡査は、不動産業という表の顔とは別にモグリで金貸しをしていた柏山に100万の借金があった。柏山の留守中に出来心で借用書探しをしていたところ、その現場を目撃され、頭に血が上った上岡は女社長を突き飛ばしたのだった……。
だが殺しについては認めたものの、それ以外の話になると上岡は黙秘を通し、特命課・桜井哲夫警部補らをてこずらせるのだった。まだこの事件に関しては二つの疑問が残っている。@なぜ上岡は100万の借金の必要があったのか、Aホンボシの上岡しか知らない事実をどうして尾崎が知っていたのか――これらの謎が解明されない限り、まだ事件は終りを迎えられない。
更に取調べを行おうとした矢先、上岡の担当弁護士が特命課に訪れた。その人物は法曹界の重鎮・桜井正規弁護士で、桜井警部補の父親であった――驚愕する桜井。意外なる大物の出馬は、この事件がただの巡査の殺人事件ではない事を予感させる。特命課刑事たちは桜井の指示の元、桜井弁護士の足取りを追っていった。やがて、事件は予想もつかない方向へと走りはじめていった――。

終幕三部作第二作目は前作の橘から、桜井が主役を引き継いでいる。そのあたりの事情説明も、前話の上岡巡査による殺人でまだ解決されていない謎を冒頭で示し視聴者に改めて謎や興味を喚起させた後、桜井の父親である正規弁護士が登場して、本作の主役が桜井である事を知らしめて――と非常にスムーズな流れで、冒頭のサブタイトルテロップまでに凝縮して語られる。長坂氏は冒頭部にこだわる作家だが、視聴者の”掴み方”はさすがにうまい。
さて本作は、桜井親子の関係図がある一つの事件を通してどのように変遷していくのかがポイントなのだが、それと同時に日本の警察機構が抱える問題点・矛盾点にも果敢にメスを入れようとする長坂氏のチャレンジャー魂が冴えている。警察キャリア官僚の存在や、警察内部の不祥事といったテーマは昨今の日本で大問題となっている事項だが、これらの問題を既に13年前に長坂氏は社会派テーマとして問題提起している。氏の先見性のある筆さばきにはただただ感服する次第である。そういった重い内容の作品ではあるものの、当然本作はエンターテイメントであって、長坂氏もその辺り抜かりなく、名台詞を要所要所で惜しみなく配置した、小気味良いストーリー展開であることは言うまでもない。また、”悪徳弁護士”そのものとして描かれていた正規弁護士が、その些細な言動の数々から、やがて彼の本当の目的や心が次第に浮き上がっていく展開は、かの長坂特捜殿堂入りの名作「掌紋300202!」を意識したのではと思う(終幕三部作は長坂氏が各話、それぞれ母体となった話を下敷きにして書いているのでは?)。――桜井の深い哀しみが心に痛む手錠の場面、ラストの公園での会話など、最後まで目が離せない、実に緻密な作品。本作のシナリオの完成度は恐ろしくレベルが高い。
そしてその見事なシナリオに、重厚な演出で応えたのは「特捜」では久々の登板となった田中秀夫監督。「特捜」の演出本数自体はそんなに多くないが、長坂特捜ではこれまで「掌紋300202!」「東京・殺人ゲーム地図!」といった超傑作を手掛けてきた。この終幕三部作当時、田中監督はフジテレビの「スケバン刑事」シリーズに参加していて、南野陽子主演の劇場版「スケバン刑事」の撮影を終えて編集作業を終えた直後とのこと。「掌紋300202!」を意識した作品の演出もということで「掌紋」を手掛けた田中監督に依頼があったのだろうか? それはさておき、田中監督は細かなカットの積み重ねでドラマを描くテンポ良い演出が特徴だが、本作は映画を取り上げた直後のせいか長回しの映像も目立っている。とはいっても一定のリズム感が巧く醸し出されたと良い意味でのメリハリの利いた演出はさすがで、ベテランの貫禄を見せつけた堂々たる演出ぶりだった。特に桜井の運転する車が父親の車を追いかけるラストシーンは絶品で、おそらく脚本の指定であったとは思うけれど、巧みに映像化した素晴らしいカットだ。脚本と演出が高いレベルで見事に調和した本作が、個人的には終幕三部作のなかではもっとも好みである。

……しかし物語はまだ終らない。特命課が真に対決するのは、警察そのものである。この複雑な問題への神代なりの挑戦が終幕三部作完結作品のテーマであり、「特捜」終幕への鍵となる。
終幕は目の前に近づきつつある。

『「特捜最前線」終幕まで――あと1回』


 長坂No.109 長坂秀佳終幕三部作B「神代警視正・愛と希望の十字架」

本放送No.508<最終話>(脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄 チーフ助監督・竹安正嗣 助監督・三好雄大、保坂直輝)

上岡巡査の殺人、また桜井正規弁護士の行動がきっかけとなって特命課は新宿東署内の強制捜査に着手した。結果、新宿東署の腐敗の構図が明るみに出て、大量の署員が摘発を受けた。だが、キャリア組の署長・銀城の処分は諭旨という形式的なものだった――逆に特命課の捜査が行き過ぎではないかとの警察上層部内での批判が巻き起こり、課の長である特命課・神代恭介警視正が査問会に呼び出された。そしてその後特命課解散、神代課長解任との噂が流れ出した――。
やり場のない怒りを抑えることの出来ない特命課の面々。すると課に神代が戻ってきた。だが様子がおかしい。神代は橘や桜井達には目もくれず、ロッカーから拳銃を取り出すとさっさと特命課を飛び出していくのだった……直後、神代は新宿東署を襲撃し、銀城署長を殴り飛ばしたとの知らせが! 神代の目的は一体……?

終幕三部作完結編は十年もの長きに亘った「特捜」の歴史に終止符を打つ作品で、そしてこれまで数々の傑作を世に送り出してきた「特捜」メインライター長坂秀佳氏にとっても当然、ラストの作品となる。長坂氏にとって「特捜」109本目の作品。
三部作ラストの主役は当然、番組全体のメインの神代に巡ってきた。「哀愁の十字架」の中盤以降で浮上してきた”警察内部の悪”に対する神代なりの挑戦が本作ではメインプロットとして描かれる。重い社会派テーマを長坂氏がどういう切っ先で料理しているのかに要注目。また終幕三部作各ブロックは、過去の長坂特捜作品での元ネタが存在しているが、本作の「怒り、暴走する神代。無茶苦茶な行動。誰もが神代の常軌を逸した行動に戸惑う。しかしそれらの行動には意味がある。で、最後にやっぱり無茶をする神代」という内容はどう考えても昭和53年の「夏子凶弾編」を痛烈に意識したものだと思われる。作品中盤には神代夏子の墓前を神代が訪れ、生前の夏子や射殺時の夏子を回想するシーンがあった。また回想といえば、特命課現メンバーの活躍場面、元メンバーの殉職・退職シーンも用意されていた――最終回に相応しく、それぞれのキャラクターの躍動感が凝縮された映像の数々は、いよいよ本当に「特捜」の終りを改めて予感させるのである。
閑話休題。
さて実は当方、今年になってひょんなことからこの「神代警視正・愛と希望の十字架」のシナリオを読むという貴重な機会を得た。改めて言うことでもないが、「特捜」に限らずあらゆうテレビドラマは、シナリオと完成作品は当然別物である。シナリオ通りに映像が仕上がるケースなど稀で、これまでの数々の長坂特捜作品においても脚本と映像の差異はかなり見受けられる。しかしこの作品、「神代警視正・愛と希望の十字架」に限っては……その差異について特に二点、記しておきたい。長坂氏のシナリオ通りに映像化されていたら、と悔やんでも悔やみきれないポイントが二つ、存在する。
@ 高杉と幹子――これは以前からネット上でもかなり有名な話かもしれないが、特命課元メンバーの回想録には西田敏行氏演じる高杉陽三刑事の姿が何故か、ない。長坂氏のシナリオにはちゃんと「高杉」の指定はある。だが、高杉の代わりに映像では関谷ますみ氏演じる高杉幹子婦警の退職シーンがあった。少なくとも長坂氏のこれまでのシナリオのト書きでは幹子婦警は「幹子」と称されているので、これは明らかに「高杉」と「幹子」をとり間違えた演出サイドのミスではないだろうか。確かに監督・ブロデューサー共に「特捜」への参加は高杉退職以降であるので、そもそも高杉の存在を把握していなかったかもしれない。ただ幹子婦警の回想はシナリオに指定はなかったが、挿入して正解ではあったと思う。幹子は在職年数ナンバー1の婦警で、番組に対する貢献も計り知れないものがある。ただだからといって、高杉刑事の回想が抜けてしまったというのはどうにも; A 神代、娘を想う――ラスト近く、崖に車をパークし、カメラに向かって一人語る神代の場面は本作でも屈指の肝となるシーンだ。そしてやがて犯人の乗った車が近づいてくる……長坂氏のシナリオではここで、神代の「ふしぎなものだ……こういていると、死んだ娘のことしか思い出さない」と亡き娘・夏子に対する切ないモノローグの指定がある。そして神代と夏子の回想場面の指定もあった後、「夏子……もうすぐお前のところに行く」という神代の感動的な台詞が用意されていたのだった!
――しかし、本編をご覧になればお分かりのように、そんなシーンの片鱗すら窺えないし、余韻すらない。本作が「夏子凶弾編」の内容を意識している以上、このシーンの下りのカットは誠に惜しまれる。ラスト直前のクライマックスに向けて、テンションが最高潮に盛り上がる、格好の長坂氏渾身の語りであると私は思ったものだが。
で、話を元に戻しますと。
――物語が最終局面に差し掛かると、後期長坂特捜のキーマンだった西岡刑事の意外な正体が明かされる。これまでの西岡の(怪しい・悪そう→でも実は良い人)という過去のパターンから察すれば、本作での西岡の位置も見る者は自ずと見当はつくはずのだが、私はすっかり騙されてしまった。長坂氏の筆がスリリングかつ、巧妙であるからこその、これも一つのトリックであった。氏が本作に仕掛けた企みは油断極まりない。緻密な台詞の数々や構成の妙はいうまでもなく長坂節だった。終幕三部作は野心的で挑戦精神溢れる作劇だったが、長坂特捜ファン並びに特捜ファンも納得の質の高い作品群ではなかっただろうか。

――感動の大団円のシーン。ラストの特命課の始まりを予感させる、新たなる旅立ち。神代の感無量の表情……「完」マーク。


全509本(特番含む)「特捜」のうち、長坂氏は全体の5分の一以上を占める109本もの作品を執筆した。無論「特捜」には長坂氏以外のライターも数多く参加し、見事な傑作・佳作を世に送り出している。しかし長坂氏が「特捜」を代表する名脚本家の一人であることはやはり間違いのないところであろう。 長坂特捜の数多くの傑作群は時代を越えて、今も多くの視聴者やファンを心を掴んで魅了し続けており、その面白さはいつまでも色褪せずに輝き続けている……と最後は綺麗(?)に纏めてみました;

『「特捜最前線」終幕――』




執筆(ALL):蒲生亭さん