「透明ドリちゃん」長坂作品エピソード あらすじ・解説


※俳優のキャスティングは、テロップではなく声から割り出したものの為、誤りがある可能性があります。ご了承ください。尚、もし誤りに気づかれた方がおりましたら、ご指摘いただけると助かります。

第3話「涙のラーメン勝負」

放送日:1978/01/21
脚本:長坂秀佳
監督:山田 稔
ゲスト:栗原 敏(チンピラ)、鈴木弘道(チンピラ)/真夏 竜(シンヤさん)、春田二三夫=現・春田純一(ボクサー・黒崎ジュンジ)、吉田昌雄(?)、相馬剛三(コーチ)/多々良 純(好々園の大将)

 ミドリと虎男が慕うラーメン屋の見習い、シンヤ(真夏 竜)はボクサーの卵。上京する母のために試合に出たい彼は「負けたらボクシングをやめる」ことを条件に同じジムの黒崎(春田ニ三夫=現・春田純一)に挑戦。乾布無きままに打ちのめされてしまう。もう俺に残された道は「ラーメン」しかないと、今度は自らの独立を賭けて店の大将(多々良 純)にラーメン勝負を挑むシンヤ。透明の術を使い、それを助けようとする虎男を、ミドリは制止する。「シンヤさんは自分の力だけで勝とうとしてるのよ‥‥‥!」──。

 長坂脚本1本目は、ダメな男の自立を描く根性もの。ファンタジー作品でありながら、その魔法的要素はあくまで傍流で、物語はつねに人間ドラマが中心というのがこの『透明ドリちゃん』の魅力でもあります。この第3話も、本来なら主人公のミドリが「魔法」を使ってシンヤを助けるといった展開にしそうなところを、逆に「魔法」を否定させることで「真の思いやりとは何か」という物語のテーマを描き出している部分が重要です。ちなみにシンヤを演じている真夏 竜さんは、『ウルトラマンレオ』の主役として有名です。


第6話「泣くな!コロッケ」

放送日:1978/02/11
脚本:長坂秀佳
監督:竹本弘一
ゲスト:野口元夫(おかめ屋の爺さん)/宮寺康夫(息子・カズヒコ)、藤森政義(孫・太郎)、加瀬悦孝(正くん)

 「おかめ屋」という駄菓子屋の爺さん(野口元夫)と虎男たちとの間で、ささいな誤解から争いが勃発。一方的な「かめ爺」の態度に姉のミドリも腹を立てるが、彼女はひょんなことから爺さんが現在息子のカズヒコ(宮寺康夫)や、コロッケが大好きだったという最愛の孫・太郎(藤森政義)と絶縁状態の孤独な日々を送っていることを知る。かつては祭りの名物「かめ踊り」の名コンビであったという、この親子を何とか仲直りさせたいと考えるミドリ。だがそんな折、透明術を悪用した虎男の嫌がらせに「かめ爺」の怒りが爆発し、彼は恐ろしい般若面の怪人と化して子供と見れば片端から脅かすようになってしまう──。

 物語の密度の濃さがいかにも長坂先生らしい、完成度の高い1本。頑な爺さんの憎しみの心を解くためにミドリは透明術を使い、般若の面を「おかめ」にスリ換えてしまいます。子供たちの前で、かつての「かめ踊り」のスタイルに戻ってしまった爺さんの耳に、懐かしい息子カズヒコの笛と、孫・太郎の太鼓の音が──。思わず手足が動き、子供たちの喝采を浴びて踊る「かめ爺さん」の面の隙間から、いつしか流れる一筋の涙 ‥‥‥というのが本作のクライマックスです。 おそらく長坂先生は、この「面の下から伝う涙」という1カットが描きたいがために、わざわざ「かめ踊り」や「般若面の怪人」といった妙な設定を敢えて考えたのでしょう。「ラストシーンから逆算してシナリオを作る」というケースの典型と言えるのではないでしょうか。 「かめ爺さん」を演じた野口元夫さんは、円谷プロのスパイドラマ『マイティジャック』の傑作中の傑作「爆破指令」というエピソードで、二谷英明さんを罠に掛ける悪徳警察署長役を演じていたことで印象に残っている方です。


第11話「仮面の優等生」

放送日:1978/03/18
脚本:長坂秀佳
監督:山田 稔
ゲスト:長谷川真砂美(河田理江)、萩生田千津子(母・ヒロコ)、香取菅子(PTA役員)/杉野邦夫(出前持ち)

 教育評論家の河田ヒロ子(萩生田千津子)の娘・理江(長谷川真砂美)は、学校で生徒会の副会長を務めるほどの優等生。ところがある日、彼女はこっそりタコ焼きを買い食いしている所を虎男やミドリに目撃されてしまい、「優等生」という仮面を守るため、嘘の告げ口で2人を陥れようとする。怒ったミドリたちは、透明術を駆使して理江の部屋のあちこちにお菓子を忍ばせる秘密工作を・・・・。娘の部屋でこれを発見したヒロ子は激怒し、「愛のムチ」と称して理江を激しく折檻。打ちひしがれた彼女は、その夜家を出たまま行方不明になってしまう──。

 この第11話は『ドリちゃん』全体の中でも一際重いテーマを含んだ作品で、この回を今でも強烈に覚えている人は多いみたいです。教育評論家という立場でありながら、肝心な自分の娘の心と実体が見えていない母親の描き方が巧いです。 また、本当は普通の女の子なのに、第三者の目があると途端に冷たい「優等生」に変貌するという理江のキャラクターは、少し深読みするならば長坂先生お得意の「ジキル・ハイド(二面性)ネタ」のバリエーションとも言えるでしょう。 ゲストの長谷川真砂美さんは、映画『犬神の悪霊(たたり)』(1977年・東映)で鬼気迫る「犬神憑きの少女」を演じたことで知られる実力派。角川映画『ねらわれた学園』(1981年・東宝)での「高見沢みちる」(これまた優等生!)役も有名です。

※備考──当時、小学館の雑誌「てれびくん」に掲載されていた第11話のストーリー紹介によると、理江が買い食いしたのは「タコ焼き」ではなく「ソフトクリーム」となっています。おそらく、脚本段階ではそうだったのでしょう。


第16話「二人の泥んこ大将」

放送日:1978/04/29
脚本:長坂秀佳
監督:冨田義治
ゲスト:岩本 巧(ノブオくん)、中村 肇(太一くん)/望月賢一=現・藤堂新二(太一の兄)

 四年生の太一(中村 肇)に、いつもイジメられるという泣き虫のノブ夫(岩本 巧)を助けるミドリたち。だが事実は逆であった。ノブ夫が父のいない太一を、大会社の社長の子である自分と比較し、職人を務める彼の兄(望月賢一=現・藤堂新二)を蔑んだことが原因だったのだ。これを知ったミドリは、「勝った方が相手をぶん殴る」ことを条件に「駆けっこ」で正々堂々と決着をつけることを提案する。ところが試合前日、どうしてもノブ夫を許せない太一は、コースに落とし穴を掘るという卑劣な行動に出てしまう──。

 往々にして用いられる「イジメる側=悪」「イジメられる側=善」という構図を、敢えて否定したという趣の作品です。あらゆる争いの根本にあるのは、結局はちっぽけな意地の張り合いであり、相互理解の欠如であることを、この第16話は巧みに表現しています。 そんな男どもの争いを第三者として静かに見つめ、最終的な解決はあくまで当事者2人に託すという、この回のミドリの姿には、厳しくも優しい母性のようなものを感じます。 「父と子」という構図は長坂脚本によく登場するテーマですが、今回はその「父」に相当するポジションを、そのまま女性に転化させたという見方もできるでしょう。 さらに、この回ではガンバス大王も人間界に下りてきますが、演じる藤村有弘氏が劇中「ワシだって昔はバンチョウじゃ」というシーンが登場します。これは、かつてのNHK人形劇『ネコジャラ市の11人』(1970〜1973年放映)で藤村氏が声を担当していたキャラクター「バンチョ・ホーホケキョ」のことを指したお遊びでしょうか?


第23話「超能力おじさんの正体」

放送日:1978/06/17
脚本:長坂秀佳
監督:冨田義治
ゲスト:平井幸代(芦川千鶴ちゃん)、角谷美佐子=現・門谷美佐(千鶴の母)/天本英世(死神老人)

 ミドリの級友・芦川千鶴(平井幸代)は、愛犬のプティーが交通事故死して以来、すっかりふさぎ込んでいた。そんな彼女の前に「不思議おじさん」と名乗る、奇怪な黒づくめの紳士(天本英世)が現れる。実は彼の正体は恐ろしい「死神老人」で、その姿が見えた者は、死神に狙われた証拠なのである。さらに声が聞こえ出したらますます危険、そしてもし「死神老人」の呼びかけに答えてしまったら、その者は4時間以内に死んでしまうのだ‥‥‥! この事実をドンパから聞かされたミドリは、何とか千鶴を立ち直らせ、「死神老人」の死の誘いから救おうとする。だが、「死神老人」の姿は、健康な人間には見ることができないのだ──。

 『ドリちゃん』における最後の長坂作品で、一人の少女が辛い現実を乗り越えて成長していく過程を「見えない敵との戦い」という形に託して描いた一編です。同じ石ノ森章太郎原作による『仮面ライダー』の「死神博士」役でお馴染みの天本英世氏が、又しても「死神」役で登場というのは強烈です。 天本さんは、長坂ファンには『特捜最前線』第317話「掌紋300202(サンマル・マルフタ・マルフタ)!」の「マルチュウ=北丸忠国」や、『小さなスーパーマン ガンバロン』の「ワルワル博士」でもお馴染みですね。とくに『ガンバロン』の主役だった大ちゃん(安藤一人さん)とは、まさに運命の再会!?





執筆(ALL):T.Yoshikiさん