更生保護サポートセンターで実施する処遇協議
《更生保護》2020年4月号
愛知 南保護区保護司会長 藤井 一夫 
 名古屋市南区の簡単な紹介
 南区更生保護サポートセンター
 担当保護司が抱える対象者の問題
 サポートセンターは身近な処遇協議の場
 行政機関と一体となったサポセン
 おわりに

名古屋市南区の簡単な紹介
   名古屋市の南部に位置する南区は、面積18.46平方km、令和2年2月1日現在の人口は13万5667人、当会の保護司定数は65人です。
 南区と言えば、「きんさん・ぎんさん」の愛称で全国的に親しまれた双子の長寿姉妹が生前暮らしていたところです。

南区更生保護サポートセンター
 南区更生保護サポートセンター「ひまわり」(以下「サポセン」といいます。)は、平成30年8月、南区役所庁舎1階にオープンしました。ひまわりは”社会を明るくする運動”のシンボルフラワーであると同時に、南区の区の花でもあります。
 区役所庁舎内のフロア案内図は英語も併記され、サポセンも、Community Reintegration Support Centerと表示されています。これは、サポセン開所当時の杉山多恵名古屋保護観察所長からの御提案です。
 サポセンの広さは約20平方メートル、最大で15名程度の会議などが開催でき、保護司会・更生保護女性会の役員会や専門部会、関係団体との協議、保護観察官の定期駐在、保護観察対象者(以下「対象者」といいます。)との面接などに活用されています。 開所時間は平日の午前10時から午後4時まで、企画調整保護司25人が午前と午後の当番制で常駐しています。

担当保護司が抱える対象者の問題
 対象者の面接に対する態度は各種各様です。例えば、往来訪の約束の時間を守れる対象者、時々で守ったり守れなかったりする対象者などがいます。約束の時間を守れる対象者は担当保護司の精神的負担が少なく、反対に約束を守られない対象者には振り回される場合があります。
 来訪しないので電話してみると、「今日でしたか。明日だと思っていたので、明日行きます」。その翌日、来訪の約束時間を経過した後に電話がかかってきて、「仕事で行けないので、明日行きます」。また、その翌日、来訪しないので電話してみると、携帯電話がつながらないことなどがあります。
 担当保護司が対象者に来訪の約束を守るよう、幾ら話しても、対象者自らが「約束を守ろう」という気持ちにならない限り、順調な保護観察処遇とは言えないと思います。 保護観察期間中に改善更生する対象者がいる一方、約束を守ろうという気持ちに至れないまま保護観察を終了する対象者もいます。

サポセンは身近な処遇協議の場
 保護観察を担当する中で生じる諸問題に対し、保護司自らがその処遇方法を即断しなければならないような場合、極めて重い精神的負担を感じます。
 サポセンに保護司が集まると、ときに話題が保護観察処遇のことになり、自然と処遇協議に発展していきます。 どのように処遇すればいいか、あるいはよかったのか、企画調整保護司やほかの保護司と処遇協議をする中で、同じような意見や違った意見を聞き、経験豊富な保護司から助言を受け、語られる経験談は大変参考になり、保護司の負担を軽減すると思います。

 ある日サポセンで、A保護司が、来訪の約束を守れない対象者について話し出しました。
 「約束の来訪日に、私は、ストーブで部屋を暖め、来訪がある旨話すと、妻はお茶の用意をして、本人の来訪を待っていた。約束の時間を過ぎても連絡がなく、結局本人は来なかった。こんな場合、どうしていますか?」 と企画調整保護司や居合わせた保護司に問い掛けました。
 「私の場合は、約束の時間を30分ぐらい過ぎたら電話している。本人が出ない場合もあるけどね」とB保護司が言います。
 「私も保護司なりたての頃は、来訪時間を過ぎるとすぐ電話していた。対象者にもよるけれど、最近は本人の自立更生を促すため、「昨日はどうしちゃた?」とその翌日電話するようにしている」とベテラン保護司が言います。
 「携帯を持っていなくて連絡が取れない対象者はどうしている?」「約束がきちんと守れる人もいれば、そうでない人もいるしね」など、様々な意見が出され、処遇協議は熱を帯びていきます。
 しかしながら、これだという特効薬のような処遇方法があるわけでなく、十人十色の対象者をよく観察し、最善と思われる一手を打つしかないという結論に達します。

 また、ある日曜日の夜、「対象者がいなくなり、電話がないので連絡が取れないが、どうしたらよいか」とC保護司から相談がありました。そこで、その翌日、サポセンで話し合うことになりました。
 企画調整保護司から「保護観察所へその旨連絡して、往訪したり対象者から連絡をしばらく待ったらどうか」とのアドバイスがありました。C保護司は自分が考えていた処遇方法と同じであったことから、「そうですね。私もそう考えていたので、安心しました」と言って帰りました。
 一人で考えていると不安になってくる対象者の問題でも、経験豊かな先輩保護司から同じような経験談を聞きアドバイスを受けることで、不安が軽減したり解消されたりして、その後の保護観察処遇に対する自信につながっていくように思われます。

行政機関と一体となったサポセン
 当会のサポセンは、前述したように区役所庁舎1階の市民課や保険年金課、福祉課などと同じフロアに開設されています。
 ある日、家族のことで区役所の相談窓口に来た夫婦がサポセンに案内されてきました。 駐在していた企画調整保護司が話を聞いたところ、家族が薬物使用で近々判決が出るので、執行猶予になり家に帰って来た場合、薬物を断つための相談機関を教えてほしいとのことでした。
 企画調整保護司は保護観察所に事情を話し、支援機関である県の精神健康福祉センターなどをその夫婦に紹介いました。夫婦は、「裁判の結果はまだ分からないが、準備する心構えができて良かった」とお礼を述べ帰っていきました。
 また、ある日サポセンを訪ねて来た人がいました。話を聞くと区役所で用事を済ませ帰ろうとした時、サポセンの看板が目に留まり、訪ねてみたとのことでした。 その人には、矯正施設を満期で出所してから話し相手がいないこと、悩みや困りごとを相談する人がいないことが分かりました。
 企画調整保護司が区役所の相談窓口に案内し、いつでも話に来るよう伝えたところ、その後サポセンにも寄るようになり、日常の出来事、健康状態や昔の話など話すようになりました。
 このように、サポセンは行政機関と一体となり、安全で安心できる南区づくりの一翼を担っていると感じています。

おわりに
 日々、保護観察を担当していて生じる問題や処遇に関しては、速やかな対応が求められます。特に夜間や休日など緊急を要する場合、担当保護司が一人でどのように処遇したらよいか、思い案ずることがあります。 そのようなとき、経験豊富な保護司に相談し助言を得ることで、精神的な負担が軽減したり、解消されたりして、その後の処遇に役立っていくと思います。
 当会ではサポセンが開所されたことで、保護司一人ひとりが抱える問題や対象者の処遇等について、保護司同士が意見や情報を交換したり、新任保護司が先輩保護司の経験談に耳を傾け、話し合ったりする処遇協議の場ができたように思います。