ネットワークを生かした健康教育  =コーディネーターとしての養護教諭の立場から=

丹羽郡扶桑町立山名小学校 桑 原 朱 美

1 テーマ設定について

 近年,厚生労働省からの「ヘルスプロモーション」に加え,新学習指導要領においても,健康教育に対する期待がさらに高まっている。あらためて,健康教育をどうとらえるかを整理し,健康教育の特徴を考えてみた。
(1)子どもたちが学校生活を送る上での基盤となるものであり,家庭生活や子育てと直接的な結びつきがある。
2)子どもたちのライフステージにおける人生観・生命観・性意識とつながっている。
(3)社会環境の変化と大きな関連があり,それによって健康教育に求められる内容が大きく変容する。
 
 時代の流れの中で,養護教諭は,「学校保健」としての立場や視点だけではなく,校内や保護者・地域を巻き込んだ健康教育を推進していくことが必要になっている。そこで,今後の健康教育を進めていくための課題を次の2点にまとめた。
(1) 保健室でとらえた子どもたちの健康課題を「対応」だけに終らず,どう教材化し,学校教育全体の計画にとけこませていくのか?
(2)
 健康教育の計画や教材化した内容を子どもたちの「生きる力」につなげる取り組みにしていくために,職員,地域の教育力,保護者の理解や協力をどう得ていくのか?
 これらの課題をクリアしていくために,養護教諭は「保健室における子どもたちへのこまやかな視点と対応(スタンツ1)」とともに,「スタンツ1から把握した健康課題を校内や地域のネットワークの中で取り組んでいくためのグローバルな視点と実践(スタンツ2)」の両方が必要となってくる。こうした考えから,健康教育を「あらゆる機会を生かす・より多くの視点で企画・より多くの連携の中で実践・より多くの人で評価」という一連の流れとして,学校教育計画の中に位置付け,子どもたちの「生きる力」の育成につなげたいと考えた。
 本研究では,養護教諭のもっとも重要な専門性ともいうべき「スタンツ1」を根底に置き,健康教育のコーディネーターとしての「スタンツ2」の視点で,ネットワークを生かした健康教育を推し進めていくための実践を試みた。

2 研究の仮説
 本校の子どもたちは,落ち着いた地域の中でのびのびと育ち,やさしい気持ちと素直な心をもっている。反面,主体性・生活経験に乏しく,周囲に振り回され,自分の意見を持って行動する力が弱いという面を持っている。また,ここ数年,保護者の価値観が多様化し,その対応とともに,学校の意図をきちんと「伝えていく」という教師側のコミュニケーション能力も問われるようになってきた。健康教育についても,双方向のコミュニケーションを大切にしながら進めていく必要性が,以前にもまして強くなってきたと感じている。このような実態から,新学習指導要領に先駆け,数年前から,「いのちの学習年間計画」の再編を行ってきた。
 子どもたちが持つ「自ら伸びようとする力」は,すばらしいものである。本校職員の願い『私たち教師は,子どもたちの伸びる力を引きだし,≪自分の心とからだは自分のもの≫という生き方をあらゆる方向から支援していける存在でありたい。』から生まれた本校の現職教育のテーマは,長年にわたり「心とからだの主人公づくり」である。
 これをうけて,健康領域においては,めざす子ども像を≪自分の心とからだの責任者≫としての心構えを持ち,生きる力としてのライフスキルを身につけた子ども」とした。 本研究における仮説を,次のように考えた。 

◎ 養護教諭が,健康教育の企画・実践において,校内組織・地域・外部講師・他分野とのコーディネートを行うことにより,子どもたちは,より広い視点からのライフスキルを習得することができ,生涯を見とおした健康観を持つことができる。

3 研究の計画 
≪健康教育の構想図≫

≪養護教諭のスタンツ=コーディネーター≫ 

  キーワードは「連携」「発信」「交流」


 

4 取り組みの実際

 ここでは,本校の健康教育において重要な位置付けがされている「すこやかママクラブの活動」,連携と交流を生かした実践例として「さぁ,どうしよう!携帯電話」,健康教育への関心を高めてもらうための「発信」について述べる。

 (1)すこやかママクラブの活動
 平成9年度,健康教育に保護者の視点を入れたいとの願いから,全家庭から有志を募りこの会を運営している。本年度は6年目を迎え,メンバーは14名である。養護教諭とメンバーを中心に(必要に応じて担任も参加)月1回の定例会の他,授業のリハーサルや教材づくりのために集まることもある。
 現在の主な活動は,授業企画と授業実践・学校保健委員会の企画・健康教育全般についての意見交換・子育て座談会企画など多方面に渡る。本校の健康教育になくてはならない大切な組織である。
 「お母さん先生」と呼ばれるメンバーと企画する授業のテーマの多くは「さぁ,どうしよう!」シリーズ(セルフディフェンスにかかわる内容)である。平成10年ごろから学区内に起こっている変質者の出没,いたずら電話,電話による個人情報収集の被害などは,多くの保護者の心配事であった。こうした背景から,学校保健委員会(H11)でCAPによるワークショップを開催した。これがヒントとなり,「ロールプレイや寸劇を取り入れたオリジナル授業を作りたい。」という気運がメンバーから起こった。担任からも保護者からもこうした問題に対する指導の要請が非常に高かった時期であり,さっそく授業考案を行った。この時できたのが,「さぁ,どうしよう!誘拐諞(1年生)」「さぁ,どうしよう!電話諞(3年生)」である。(※電話諞については,学事出版 上條晴夫編著「ゲストティーチャーと創る授業」に執筆)
 平成12年には,メンバーの紹介によりセルフディフェンストレーナー・矢野ゆき氏を学校保健委員会の講師に招き,保護者向けに学習会を行った。この学習会をきっかけに生まれたのが「勇気を持って,NO!と言おう(3年生)」の授業である。(※この授業のようすは,平成12831日尾北ホームニュースYOUNETで紹介) すこやかママクラブとの授業は,「公開授業」として,一般の保護者に公開したことで,健康教育に対する保護者の関心も高まり,「健康」の授業は違和感なく受け入れられている。
 (2)地域との連携を生かした実践例
 扶桑町では,中学校と小学校の連携に力を入れている。その取り組みの一つとして小中交流会があり,それぞれの立場からの相互理解に役立っている。養護教諭の立場からこの取り組みに積極的に参加し,意見を出している。養護教諭同士の情報交換はもちろん,小中が抱える問題を共通理解していくことが,9年間を見とおした教育で必要だと感じている。その実践例として,中学校生徒指導担当者とのTT授業について紹介したい。以下「連携」「交流」「発信」にかかわる部分を,アンダーラインで示した。

5年生総合的な学習(健康領域) 「健康とメディア」Dさぁ,どうしよう!ケータイ電話 =ケータイマニュアルを作ろう!=】

ア この授業が生まれた背景
 平成12年ごろから,すこやかママクラブで,「携帯電話の危険性を授業としてとりあげるとはできないか?」という意見が挙がるようになった。また,本校でも,携帯電話について「中学校へ行くと携帯電話を買うものだ,という感覚が親にも子どもにもあるのでは?」「中学生ってどのくらいの割合でもっているのだろう?」などという話題が出るようになっていた。また,携帯電話を購入した高学年女子が「携帯電話持っているよ」と自慢したことが原因で仲間はずれにされ,保健室に相談にやってきたのもこの時期であった。こうした背景から,本校でもこの問題に取り組んでいこうという動きが出てきた。

イ 授業の企画
 平成12年度から,5年生の総合的な学習(健康領域)で「メディアリテラシー学習」に取り組んでいる。携帯電話に関する授業は,「メディアと健康」の一環として,「いのちの学習」の中に組み込んでいくことにした。授業企画の段階で,すこやかママクラブでは,次のような意見が出た。
@保護者も一緒に学習し,危機感を持ってほしい。保護者が参観したいと思うような引きつける内容にしたい。
Aテレビの中のできごとだという感覚があるのかもしれない。できれば,身近な例を紹介してくださる方を招いたほうがいいのではないか?B子ども達も事前にいろいろな事件について調べておいたほうが,理解しやすいし主体的な取り組みになるのでは?
D携帯電話について,子どもたち自身がマニュアルとかポスターを作成するなどして,発信することもできるのではないか?

ウ 中学校への働きかけと連携づくり
 扶桑中学校の学校保健委員会で「携帯電話」を取り上げることを知り,参加した。会では,犬山警察署の方と生徒指導担当者からのお話があった。生徒指導担当者の話はたいへん分かりやすく,また興味を引くものであった。 会終了後,扶桑中養護教諭と携帯電話にかかわる中学生の実態について,情報交換を行った。この中で,生徒指導担当の先生にゲストティーチャーとして,本校へ来てもらえないかを相談した。話し合いの結果,扶桑中養護教諭には,そういう依頼が小学校から来ているということを,担当者本人に伝えてもらうことになった。その後,携帯電話についての授業の必要性と中学校の先生を講師に迎える意義を本校の学校長に話し,扶桑中へ正式な依頼をお願いすることができた。

エ 指導案づくりと教材作成
すこやかママクラブの意見などを参考に,養護教諭が授業案を作成した。授業案については,自主研究会(ひだまり)やメディアリテラシー研究会中部支部で検討した。自分だけの視点だけではなく,多くの人の意見を参考に授業案を練っていくことは,よりよい授業を作り上げるために手を抜けない部分である。 また,扶桑中学校の携帯電話の所持率や生徒たちの意見などは,扶桑中学校の許可をいただいて授業の資料とした。実際に中学校で起こっている問題などを聞き,教材の参考にした。授業で使用する紙芝居については,本校職員に協力してもらい,楽しいものができあがった。総合における健康領域についての取り組みは,養護教諭が企画し,担任の先生には,時間調整と授業内容の報告やまとめカードのとりまとめなどをお願いした。

オ 授業の実際
○授業の意図とその内容
 便利な道具であるはずの携帯電話にまつわるトラブルは,日常の中で多く起こっている。特に最近のインターネットやメール機能の充実は新たな問題を引き起こしている。携帯リテラシーを教育現場で取り扱う時,子どもたちの学習と同時に,保護者への啓発も必要である。そこで,この授業の前後では,保健だよりで,携帯電話に関する内容を取り上げ,公開授業にすることで保護者の意識を高める機会とした。
 この授業の前にとったアンケート(56年生94名対象)では,63%の子が「ほしい」と思っていることがわかった。また,子ども達が携帯電話についてさまざまな意見やイメージを持っていることや,多くの子ども達は,「80%以上の中学生が携帯電話を持っている」という予想を持っていることなども明らかになった。そこで,「急速に広がった携帯電話は,人々の想像をこえた使い方がされ,そのことがトラブルや事件を引きおこしている点」「社会の対応が間に合っていない点」を中心に授業を進めた。最終的には,使用する人の責任は重大であることを理解させたいと考えた。子どもたちが携帯電話について,自分なりに考えていく第1歩の授業とし,学んだことを家族や地域に伝えるメッセンジャーとしての活動として広げたいと考えた。

1時「だってみんなが持ってるもん?」
 「携帯電話は,発売当初,ずいぶん高価であったが,機能向上と低価格化により急速に普及した点」「機能充実により開発当初には予想もされなった使い方がされるようになってきた点」を,養護教諭が説明した。次に「中学生の携帯電話所持率」「どんなトラブルが起こっているのか」を,中学校の先生に,紙芝居(携帯電話事件簿)を使用して話してもらった。子どもたちは,中学生の中にも『必要ないから』と持っていない子が多いこと,テレビの中の出来事と思っていたことが,実際に近隣の中学校で起こっていることにたいへん驚いていた。子どもたちの感想(p46)などから,携帯電話と上手に付き合うには,使う人のマナー・使用の目的・危険に対する意識がポイントであることを理解したと評価している。この授業には,学年外の保護者もたくさん参観し,関心の高さが伺われた。

第2時「ケータイマニュアルを作ろう」
 第2時は,この授業をもとに子どもたちがグループごとに話し合い,携帯電話について注意すべきことや,企業にお願いしたいことをまとめた。この意見を集約し,「山名っ子が提案するケータイマニュアル」(別添資料)を作成した。

カ 地域の組織や中学校へ発信
 マニュアルは,町内中学校や犬山扶桑地区の生徒指導連絡協議会にも配布
 (本校の生徒指導担当者に依頼)した。生徒指導連絡協議会のこの日のテーマが偶然にも携帯電話であったことが幸いして,小・中・高の実態について,生徒指導担当者からその内容について報告があった。その後,6年生からも,中学校の先生(扶桑北中の先生)をお呼びしての携帯電話も含めた中学校生活の話をしてもらおうという企画が持ちあがり「さぁ,「どうしよう!中学校生活」として実現した。
 生徒指導連絡協議会へのケータイマニュアル配布や研究会での実践交流がきっかけとなり,扶桑東小学校でも,さらに検討を重ねての取り組みが行われた。ひとつの実践を交流することで,追試が行われ,実践がバージョンアップしていくことは,地区の健康教育自体のレベルアップや地区全体での健康教育の取り組みにつながるという手応えを少しずつではあるが感じている(※この授業は,授業作りネットワーク2002 8月号に掲載) 授業の内容や子どもたちの感想は,保健だよりにまとめ,全家庭に配布した。

キ 子どもたちの感想
○ 迷惑メールがとても怖いことや迷惑メールが来ても無視すればいいことがわかりました。携帯電話は,責任を持てる年になったらほしいと思いました。○ とてもわかりやすくて勉強になりました。私も,先生の授業を聞くまでは携帯電話をほしいと思っていましたが,授業が終ってよく考えてみると,(携帯電話を持っている=自分もねらわれる&あぶない)と思いました。携帯電話を使うならマナーをきちんと守り必要なときだけに使いたいし,携帯電話を甘く見てはいけないとわかりました。
○ 携帯電話でマナーを守れない人は,携帯電話を持ってはいけないというお話をしてくださって,いい勉強になったので,自分が携帯電話をもったらマナーをしっかり守って使いたいと思います。
○ 保健の授業はすごく楽しかったです。携帯電話でうそをついて周囲の人をこまらせたり,関係ない人が巻きこまれることもわかりました。携帯電話は役に立つように作ったのに,いじめなどにも使う人がいることがわかりました。ぼくたちは,先生が帰った後,「どうすればトラブルに巻き込まれないか」「携帯電話を作る企業もどんな機能をつければいいか」いろいろ考えました。(マニュアルの完成を)楽しみにしていてくださいね。
○ 携帯電話は少しほしかったけど,そんなに必要ないかもしれないと初めて思いました。私のお母さんは,携帯電話に夢中であまり話を聞いてくれなくなりました。私は,もし,携帯電話を持ってもちゃんと話を聞いてあげたいと思います。
○ 今日の授業で驚いたことは,中学生の人達が携帯電話をみんな持っていると思ったのに25%しかいなかったことです。それから携帯電話でいろいろな事件が起きていることです。携帯電話を作っている企業は責任をもって作ってほしいと思いました。

(3)健康教育の取り組みを発信する。
 養護教諭が健康教育をどのようにとらえ,どんな取り組みをしているのかを発信していくことは,校内だけでなく保護者や地域に健康教育への関心を高めてもらうために必要なことである。以下に,本校での「発信」の方法についてまとめた。

保健だより

養護教諭としての方針・子ども観・健康観を伝える。
授業実践や学校保健委員会の報告をする。
公開授業のお知らせをする。
保健室での子どもの様子を伝える。

公開授業

学校公開日や授業参観日に授業をする
学校訪問で公開授業・学校訪問で指定授業をする

実践報告

実践報告を全職員に配布する
町教研・教育論文等を積極的に書く
自主的な研究団体などに参加し,自分の実践を報告する。

ホームページ

学校のHP,個人のHP,研究会のHPに実践や取り組みを公開する。

5

雑誌等への投稿

各種教育誌へ実践報告や投稿をする。

 保健だよりは,養護教諭がもつ健康観・こども観・健康情報・子育て情報などを発信できる最もポピュラーで重要なものである。本校では,年度当初に養護教諭としての子ども観・健康観についての内容を伝えている。授業実践や学校保健委員会については,授業の内容や子どもたちの反応をまとめ,全家庭に発行している。保護者からは,「毎月楽しみにしています。」という反応が届くようになった。読む人の立場として,すこやかママクラブのメンバーから,感想や意見をもらっている。かなりシビアな意見もあるが,よりよい内容やレイアウトの参考となっている。

5 考察と課題
 子どもの変容についての考察
 本校に赴任して7年目となり,その間に学校教育の流れも健康教育の流れもとらえ方も大きく変わった。学級活動等で,年に数時間という枠の中で行ってきた健康の授業も,総合的な時間での取り組みとなり,まとまった時間の中で子どもたちがさまざまな活動を行う時間として確保された。6年間にわたって,担任や養護教諭だけでなく,外部の様々な立場の人とともに「いのちの学習」に取り組む中で,子どもたちは,「大切な自分」「未来へつなぐ自分のいのち」「自分の心とからだは自分で守る」という意識を持つことができるようになってきた。具体的な例を次に挙げる。

◆『さぁ,どうしよう!シリーズ』の取り組みでを通じ,子どもたちの「断ることはいけないこと」という意識に変容が見られた。子どもたちから,「自分の安全のためにはことわってもいいんだね!」ということばが聞かれたり,個人情報を聞き出す電話が実際にあった場合にも,きちんと断ることができた,などの例もあった。
◆総合的な学習で「健康」に取り組んできた子どもは,「これまで好き嫌いがあったけど,健康のためにちょっとは頑張ってみようと思えるようになった。」と話し,給食を残さなくなったということもあった。
◆4年生の総合「2分の1成人式」の取り組みから「私自身がすてきな宝物だと言うことが分かった。すごくうれしい」という自己肯定観を高める感想がいくつも見られた。目に見える部分は,実に些細なことではあるが,こうした小さな意識の変化を大切にしたい。6年間を通して,心の根っこの部分「自分自身を大切にし,自分の心とからだの主人公として生きていこう」とする気持を育て,中学校へ送り出したいと考えている。

連携・交流・発信についての考察
 健康教育の助っ人としてのすこやかママクラブを組織したことは,大きな収穫であった。学校主体で進めてきた健康教育に,保護者の視点が入ったことは,固定観念を打ち砕くものであった。まさに目からうろこ,という場面が数多くあった。すこやかママクラブを組織したことによるプラス面を以下にまとめてみた。
@ 家庭や地域でのようすが具体的にわかり,それを具体的に授業内容に生かすことができる。
A 授業や行事に有効な情報収集がメンバーによって積極的に行われ,活用できる。
B 授業や行事の準備について,側面的なサポートがある。
C 授業や保健だより,保健室での対応,健康診断など,健康教育全般についての家庭の反応や疑問を直接聞くことがきる。
D メンバーの口コミで,健康教育全般への理解が広がる。
E メンバーが養護教諭の執務や取り組みをよく理解してくださり,学校教育全般への信頼感と親近感につながる。
  授業では,子どもたちは,お母さん先生のお話や寸劇,説明などを大変興味をもって聞くことができた。教師とは立場の違う「お母さん」の働きかけにより,授業の内容を身近な問題として感じ取ることができた。また,授業におけるロールプレイでは,自分のからだと頭を使って主体的に取り組んだ。子どもたちは,授業をとおして,「大切な自分」「自分の心とからだを守ることの大切さと具体的な方法」を学ぶことができた。すこやかママクラブのメンバーとともに行う授業は,今後も子どもたちのライフスキルを高めるための大きな力となっていくだろうと確信している。
  「さぁ,どうしよう!携帯電話」の取り組みについては,子どもたちにも保護者にもたいへん意味ある機会となった。中学校での問題は,小学校に芽がある。中学校での様子を子どもたちだけでなく,保護者が聞くことは,意義が大きいと感じた。また,子の取り組みが養護教諭や小中のつながり,地域への広がり(連携)・外部組織での指導案検討や実践報告,追試(交流)・保健だよりやホームページでの実践紹介,研究雑誌への掲載(発信)など,さまざまな形でつながったことは,まさしく「ネットワークの中で取り組まれた実践」となったといえる。養護教諭がコーディネーターとしての立場で進めたことは意味があったと評価している。
  さまざまな研究組織への参加や交流という面では,総合的な学習の進め方,授業後の振り返りの方法,教育の新しい流れ(ポートフォリオの活用,ディベートや学習ゲーム,メディアリテラシー,ブレインストーミング等々…)などを健康教育に生かすことができ,新学習指導要領時代の健康教育についてのあり方を考えていく材料になった。同時にいろいろな立場の人の養護教諭への見解を知ることができた。養護教諭同士の実践交流は,「携帯電話」の授業以外でも,健康教育の多くの場面(「エイズ学習教材」「分煙学習」「バリアフリー学習」「保護者への連絡カード」「健康診断前資料」など)で生かすことができた。
  多くの組織や人々との交流をとおして人脈に恵まれ,多くのアドバイスが聞けたことは,養護教諭のひとりよがりにならず,広い視点での健康教育の推進に役立った。岐阜大学・近藤真庸氏や千葉大学・藤川大祐氏をはじめとした,たくさんの外部講師が,本校の健康教育に関わっている。学校の中だけでは,子ども達に伝えることはできなかったことも,こうした外部の人の力を借りることができた。子どもたちは,さまざまな分野の人から,これまでにない授業をたくさん受けることができた。そのことは,子どもたち自身が「心とからだの主人公」として生きていく上での力のひとつとして積み重ねられている。
 今後も,反省をもとにコーディネーターとしてのスタンツからの働きかけを研究していきたい。


 今後の課題
  小規模校では,職員一人あたりの校務分掌がたいへん大きいため,担任の負担にならないように,養護教諭が企画・調整・まとめのメインとなっている。とはいえ,養護教諭以外の校務分掌等も小規模校では多い。現在の課題として,「養護教諭の授業数の増加とその間の保健室への来室者への対応の体制づくり」「養護教諭が行う部分,担任が行う部分をどう分けていくか」「裏方に徹しすぎず,表に出すぎず,健康教育のおもしろさを担任に伝えていく方法」などが挙げられる。  ここ数年,転勤した先生から,「山名でやっていた○○の授業の指導案と教材貸して。新しい学校で自分でやってみるから」という問い合わせがある。こつこつと授業をし発信したことが,こうした形でつながっていくことは,やってきたことが無駄ではなかったのだという証であろうかとも思う。

6 おわりに
 「教育職」としての養護教諭を考える時,保健室を拠点に,学校全体あるいは地域全体を見通し,どのように健康教育を推し進めていくのかをグローバルに見つめていくことが必要だと考えている。「生きる力」「学力」について,養護教諭の立場からどう考えていくのかという,自分なりの見解も必要になってくるであろう。 現在,授業や執務にかかわるたくさんの実践が,養護教諭同士のネットワークによって,追試され議論されて,高められ,共有財産となっている。こうした養護教諭同士のネットワークによって,自分の実践や執務のあり方を多くの目で見てもらい,「実践−議論―追試−議論−バージョンアップ」という段階をたどり,ひとりよがりな実践や執務から抜け出すことができる。そのことは,養護教諭としての資質の向上に役立つだけでなく,結果として,子どもたちに還元されると考えている。今後も一つの実践を交流させ,縦・横・面につなげて,子どもたちの生きる力を高めていく健康教育をめざしたい。