お母さん先生とつくる「いのちの学習

 お母さん先生の「有志」を募って,健康教育に「親の視点」でかかわってもらう「すこやか会議」が誕生し3年目をむかえました。お母さん先生と作った授業の中から,6年生「私のルーツを探る旅」について,紹介させていただきたいと思います。(学校保健委員会の公開授業として全職員参加で実施しました。)

1.授業の意図

 この授業は,岐阜大学・近藤先生の授業シナリオを参考にた。この授業をとおして,自分自身の存在のすばらしさを感じとり子どもたちの「セルフエスティーム」を高めたいと考えた。子どもたちが主体的に活動できる授業をつくるために,次の点を考慮した。

@     抽象的な事柄についての思考が苦手な学年であるので,寸劇を取り入れ課題を具体化する。

A子どもたちが自分の意見を持ち発表する場面づくりをする。

.授業の展開

使用したもの

@パネル(子宮・胎児),フラッシュカード

A卵巣モデル(仁丹をつめたもの)・胎児モデル(スポンジボール)

B名前入の台紙に貼った仁丹(各自に配布)

 お母さん先生は子どもに扮し,保健の授業を受けているという設定。教師役は養護教諭。「寸劇」と「実際の子どもたち(「フロアの子ども」と表現)を対象にした活動」を併行して進た。担任は,フロアの子どもたちの支援を行った。

課題1「へその緒はどちらから伸びたのか」

意見A:母親から(ガソリンスタンド方式)

意見B:胎児から(掃除機方式) 

 劇の中の子どもたちが課題についてなぜそう思うのか,の意見を出し合う場面を見ながら,フロアの子どもたちにも,自分の意見を持たせました。その後,ABそれぞれの意見ごとに分かれ,各グループに,子ども役のお母さん先生が入り,子どもたちの意見を聞き出した。

課題2「みんなは,いつから母親の卵巣に存在していたか」

 この課題についても,同様に,劇の中での意見を聞いて自分の考えにあわせて意見ごとに分かれた。こうした方法により,普段は,意思表示をしり込みする子どもたちも,自分の意見を「グループへの移動」という形で,表現することができた。また,教師とは立場が違うお母さん先生との意見交換により普段より活発な意見が子どもたちから出た。以下は,各課題についての説明部分である。

「皆さんは,砂粒ほどに小さい時から,『育とう』として,自ら子宮にもぐりこみ,胎盤とへその緒を作り出しました。それは自分自身がもっていた生命エネルギーに他なりません。」「あなたの命のもとは,お母さんが胎児だった頃から卵巣の中にあったのです。600万個もの卵子があって,その中のひとつがあなたになったのです。すごい確立の中からうまれたすばらしい存在なのです。」

最後に,お母さん先生の一人が,排卵障害や不妊・流産・受精のタイミングの奇跡についてのお藩死を通して,この世に生を受けることのすばらしさを語っていただきました。「まさに奇跡と奇跡の出会いによってあなたが生まれました。友だちも同じ。奇跡と奇跡が隣に座っているのです。」

 フロアの子どもたちは,寸劇と自分たちの活動がひとつになった感覚で,前向きに授業に取り組むことができました。お母さん先生のことばは,教師とは違ったものとして子どもたちの心に染み入ったようだ。授業後の感想には「胎児の時,あれほどがんばってきた命。皆がんばって生まれてきた。もっと優しく強く生きたい。」など,「感動した」という感想が多かった。先生方からは,「お母さん先生が上手に子どもたちの意見を引き出していた。」「お母さん先生のお話に涙が出た。」など,好意的な反応が寄せられた。また,参観した保護者の方からも,「自分や友だちの存在を大切にする心を育てるという意味ですばらしい授業だと思う。家で話すのとは別の感じ方をしたと思う。」などの意見があった。

 3・エピソードから

 1つ1つの授業を作る過程は,限られた時間内で大変な思いをすることもあった。授業に「寸劇」を取り入れるという発想は,お母さん先生のアイディアである。TTというとメインとサブがいて,という固定観念しかなかった私にとって,この提案は「目からウロコ」の出来事のひとつだった。授業案の検討においてもリハーサルにおいても,お母さん先生たちは,先生と保護者という枠を越え,「授業を作る仲間」として自分の意見を率直に出してくださった。保護者と教師の心と心が触れ合えば,素敵な教育の形ができる。お母さん先生とのかかわりの中で,私が見つけた答えのひとつである。