■ 稽古の基本 初めてのお稽古に行く 先ずはそうじから 畳を歩く 初歩のお点前 * 初めてのお稽古に行く やはりこれを書いておかないけないようです。これまで何人もの方が、お願いし ますとやって来られました。初めてお社中に習いに行く場合の心得を少し述べてお きたいと思います。いきなりですが、ジーパンはダメです。茶道はTPOを大切に します。女性の場合靴下は白、ストッキングのままではいけません。白のソックス は一応足袋の代わりということです。お化粧は控えめに、香水はつけません。せっ かくのお香の香りがだいなしになります。それに光物、時計や指輪に腕輪など。イ ヤリングも付けていってはだめです。アクセサリーで自分を引き立てるのでなく、 自分の言葉や所作で勝負するのが茶道です。とは言っても永年茶道やっている人で も、結構飾り物を付けてやって来るのですがね。困ったことです。 お月謝と水屋料を多分、当日払うことになるでしょう。まあ、いきなり頼もうと というより、誰かに聞いて行くことの方が多いと思います。その場合なら、あらか じめ金額は分かっているはずです。お金は裸で出したりしてはいけません。懐紙に 包むなり、ポチ袋に入れるなりして用意しておきましょう。もし金額が分からなか った場合のウルトラ・テクニックを披露。家にある扇子をともかく持って行き、扇 子を開いてその上にお札を載せましょう。そして柄の方を相手に向けて、すっと差 し出します。ちょっと慣れつけないことなので、恥ずかしいです。実は小生も一度 しかやったことはありません。扇子にもいろいろ種類があって、何でもいいという わけでもないです。まあ、普通の扇子です。これで扇いだりしてはいけませんよ。 手土産までは持って行くことはないでしょう。でも、本当は初対面のところに行 く場合は何がしかの土産を持参すべきだと思います。若い方なら無くてもどうって ことはないですが、一とし拾った人は考えた方がいいですね。小生、人に出すのも もらうのもあんまり好きではないです。でも初めて来られた方に、先生お願いしま すと風呂敷きを開けられると、えーえこんな丁寧なことするのーと思っちゃいます。 お茶の経験のある方は、必ずと言っていい程、羊羹一本でも持って来られます。経 験のない方は、これまた必ずと言っていい程、手ぶらで来られます。この違いはな んなんでしょう。カルチャーセンターに習いに行く場合は関係ないとしても、普通 のお社中は一般家庭ですからね。考えないけません。 小生のとこは最初はお客様ということで、お代は頂きません。まんじゅう買う練 習だと思って、和菓子を少し持ってきてもらおうかなー。饅頭なら五個でいいです よ。全く人間というのは現金なものです。まあ、これぐらいにして。その他注意点。 勝手な判断であれこれやらないで下さい。茶道具の扱いはそれぞれあるのです。茶 杓なんか水で拭いたら一発でだめになります。抹茶茶碗をたわしでこすられた日に は真っ青です。初心者の方は、言われるまで道具類は触ってはいけません。そして 触ることになった場合は言われた通りやって下さい。稽古の最中は私語は慎むこと。 もし休憩なんかがあっても、だんなさんや子供の話しなど、井戸端会議的な話題は しないこと。これをやられると茶道ではなく、ただの茶話会になってしまいます。 最後に、余分に気を回すことはしないこと。はなはだ迷惑になります。茶道は本 当微妙な部分で成立しているところがあるのです。一般の常識には当てはまらない ところもあるのです。襖の開きが悪かったことがありました。そしたら初めて来ら れた方が、次の時には早々とやってきてロウを塗りたくっているのです。思わず止 めて下さいと声が出ました。するともう少しだからと言ってやめないのです。大き な蝋燭で一生懸命やってくれたはいいのですが。襖の開け閉めが非常に重たいもの になってしまいました。襖はすっと開けて、最後はぴっと閉める。全く往生しまし た。気を回すようになるのは、何年も通ってからのことです。これは茶道に限らず 何でもそうだと思います。最初は白紙で、先生お願いしますでいいのです。 * 先ずはそうじから といいたいところですが、なかなか一般の社中の稽古では掃除をする機会があり ません。それと現代は畳の部屋がろくにない家が多くなり、またあっても掃除自体 することがへってきたようでもあります。畳の雑巾掛けもできないのが当り前とい うご時勢です。困ったものです。なにも掃除というのは本当は茶道に限ったことで はありません。小生らが子供の頃では、どこの家庭でも毎日掃除するのが当り前で した。今でもそうした習慣を、お家によっては続けていらっしゃるかも知れません。 小生が車を置いている前の家は、毎朝戸を開け放ち掃除していますね。すがすがし いものです。 茶室の掃除は一般的にいう掃除の他に清めるという意味もあります。ゴミも落ち ていないし、昨日掃除したからいいやというものではありません。ちょうど書道に おける墨をすって、心を落ち着かせるプロセスにも似ています。つまり心の掃除で もあるのです。手抜きの教室はろくに掃除もせず、点前の畳に髪の毛が落ちていて も平気というのでは茶道を習う必要はありません。茶道では部屋の掃除から始まっ て、さまざまな道具類を洗ったりふいたりしながら清めていきます。そして清め終 わった後の様子は何とも感じないものでなければなりません。また日本の家屋では 自然とそうなるものなのです。大体において茶室とする部屋は何も置いてありませ ん。それ故、少しの汚れやゴミが非常に目立ってしまうわけでもあります。 そういえば家元のお茶事の様子がビデオになったのがあるのですが、それが企業 の新入社員の研修に使われたことが話題になったことがあります。どうも茶事の準 備の画面で、玄関生(家元に詰めて修行している人達)が葉っぱを1枚1枚ふいて いるのをその企業は見せたかったらしいのです。忠誠心を植え付けたかったのでし ょうね。小生もそれを見て、え−そこまでやるのと思ったものでしたが、やはり自 然とそういうことになってきますね。さすがに1枚1枚というわけにはいきません が、少しでも目立つと葉っぱに限らず松葉の一本でも拾ってしまいます。もっと面 白い昔の話が残っていますので、それも紹介しておきましょう。茶室をきれいに掃 除した後、空気中にただよっている小さなほこりを取ろうと、シ−ツを濡らし広げ 茶室の中を持って歩いたのだそうです。江戸時代の話ですがね、これは。 * 畳を歩く 茶道の稽古の基本は歩くことといっても過言ではありません。やさしそうで、な かなかそれがどうして。畳半畳を三歩で歩くことが表の場合の決まりです。それに 畳は真ん中をあるきましょう。これだけのことが、初心者の方はまるでできません。 なんかすると十年以上稽古されている方でも、できない場合があるぐらいです。小 生の稽古場では、毎回歩くことを注意しています。ハイ、二歩で出ましたよ、やり 直しってな具合に。本当きれいに歩けるようになるまでだいぶかかるようでありま す。来られる生徒さん、生徒といっても60に近い女性が多いのですが、畳を歩く のがこんなに難しいとは思わなかったと感想をもらしています。最初の内は、もう ロボットみたいにガシャガシャとやっています。いや、本当です。 だんだん無理なく歩けるようになってくると、座っている姿もよくなり、点前も なんとか格好になってきます。自分自身教えていて、不思議だな−と思います。茶 道とはほど遠いぎこちない人でも、様になってくる。大してこまごま指導している 訳ではありません。毎度言っていることは、足の運びぐらいものです。小生の会は 月に一回だけですが、それでも一年たつとだいぶらしくなっているのです。これは、 茶道の基本を繰り返すことによって、自然と身に付くよう計算されたものなのかし らんと思ったりするのです。 そうそう男子の場合の注意点も書いておかなければなりません。畳半畳を三歩と いうのは男子ではややきついものがあります。どうしても歩幅が大きくなり、二歩 ぐらいになってしまいます。特に畳のサイズが昨今はまちまちで、団地サイズなん かだったら目もあてられません。茶道での畳は京間で幅が約90センチあるのです。 するとへたすると20センチぐらい狭い畳を三歩では無理ですよね−。お寺の畳は 約85センチで、これなら許せる範囲だと思います。ともかく、ちまちま歩かない いように気を付けなければなりません。特に男子は。そうですね−、やはり畳をす り加減で、心の中で1、2、3と数えるぐらいのつもりだと、いいかも知れません。 * 初歩のお点前 お辞儀や歩き方のお稽古が済むと、割稽古になります。茶酌のふき方、茶碗の仕 組み、服紗さばきを稽古していきます。そして次に必ずといって、お盆点てに進み ます。お盆点てができるようになって、茶道の第一関門突破ということになります。 先に、ここで男子はもう嫌になると書きました。小生のとこの稽古では、めったに お盆点てはやりません。割稽古の次はすぐに、風炉の平点前をやってもらうように しています。なぜお盆点てにいってしまうのか小生は理解に苦しみます。どうして、 風炉の点前にいかないのでしょうか。どうもお茶の先生方は、よく茶道の歴史が分 かっていないのじゃないか、あるいは昔自分が教えられた順番をただ追っているだ けでないのか、そう思われて仕方ありません。 もともとお盆点ては、先の大戦が終わり、ものがなくなった時代にともかく有り 合わせの道具でお茶をたてましょう、頂きましょうと、時の宗匠らが考案されたも のでした。ですからどこの家庭にもある、ただのお盆に茶碗を仕組み、釜がなけれ ば鉄瓶でもいいでしょう。現代ならポットでもいいということなのです。茶道のお 点前の基本は、何といっても風炉の平点前です。茶道は利休さん以前からあります が、利休によって炉の点前が始まりました。もともと茶道のお点前は風炉だったの です。そうなるとお盆点てというのは、お点前の中では変種になるわけです。急遽、 あみだされたお点前を、茶道の点前の第一歩にもってくるというのは、いかがなも のでしょうか。 お盆点ての他に、茶箱とか立礼卓といった変形点前があります。どうもこういう お点前が好きな先生方がいらっしゃる。ろくに平点前が身につかないうちに、こう した点前を入れると、もう頭がこんがらがってきます。立礼卓は、野点にはつきも ので、そうした茶会でもやることなら稽古も必要ですが、あまり力を入れ過ぎるの は禁物です。先ずは基本をきっちり習得させることが大切です。ちょっと立礼卓を 説明しておきますが、これは一説によると明治になって、洋風化の流れにそって考 案されたという話しです。茶箱の方は昔からありますが、旅先でちょっと一服しよ うかというお点前です。言ってみれば、各自好きなように扱っても一向さしつかえ ないものです。しかしその割りには点前は結構ややこしかったりするのです。