『 徳林寺・花まつり茶会によせて 』 平成十年、四月、一日 インタ−ネットに自分のホ−ムペ−ジを開いてから、書きたいことが山のように出て きて、そうはいっても時間は限られているし困ったことだと思っています。一応小生の ホ−ムペ−ジの名前は "よいこのお部屋" としてあります。これは一般的になじみがな く、やや難解なことをできるだけ簡単に解きほぐすという意図があります。この中に小 生の趣味である表千家茶道も入れてあるわけです。茶道をやっておられる人、これから 始めようとする人で、インタ−ネットを自由に見ることができるのは、まだ少数かと思 います。しかし直にテレビのようになることは間違いありません。その時のために、こ れまでの小生の体験を元に、実際的な茶道の話しをつづっていこうと思っています。 しかし改めて茶道の周辺を見渡してみると、なんか茶道どころではないという状況が 目につきます。茶道は日本人の衣食住の総合文化なわけですが、どれをとっても悉く崩 れてしまっている。かつては当り前であったことが、ほとんどが非常に特殊なものにな ってしまっているのです。例えばと書きだすと切りがないわけですが、味噌汁一杯。に ぼしで出しを取って毎日作っている家庭が今どれだけあろう。また家族一緒に食事をと っている家庭がどれだけあるか、はなはだ疑問なわけです。勝手にごはんを銘々食べて、 味噌汁はパッパッとインスタントで湯を入れてできあがり。そんな味噌汁は吉野屋ぐら いだろうと思っていたのですが、どうもそれが一般的らしいのです。驚きですね−。 茶道の稽古はお茶事といって懐石料理を出して濃茶をふるまうことが目標となります。 懐石料理は決して特別なものでなく、季節のものを手をかけて作るだけのことです。小 生も最近は試しに魚を三枚におろして、いろいろ作っています。先ずは魚屋を幾つも回 り、生きのいいのを選ぶことから始めます。後は懐石料理の作り方の本をみてだいたい その通りやればなかなかの料理ができあがります。汁ものでも、いい昆布でさっと出し をとれば、へたな料理屋よりはるかにおいしくできます。しかし総じて日本料理という のは淡泊で、インスタントの味に舌が慣れてしまっていると、そのおいしさはもう分か らないと思います。このことは問題の一面に過ぎません。 小生は、四国に生まれ親が魚の本当の味を知っていますから、その味を教えてもらう ことができました。野菜はお寺で自分たちで作っていますから、これも分かります。し どうも知らないうちにこんなもんだと思っている可能性があるのです。なんとか鯛とか いうのを買ってきたら、深海魚だったとか。生きがよさそうにみえたのに、ちっとも味 がないと思えば、保存技術のなせる術だったりして。野菜は年から年中なんでもありま すが、温室で育てて旬の時期にはないという現象もあったりします。味の方もだいぶオ リジナルとは違うようであります。おまけに農薬もだいぶかかっているようです。きわ めつけは遺伝子組み換えです。注意していてもし切れないのが現代の状況です。 衣食住の食についてざっとみてもこれだけのことがあります。衣も住もダメです。水 も空気も土地も汚染されてしまっている。さらに心までも相当病んでしまっている。こ れは一体どうしたことか。豊かになることを目標に戦後皆ながんばってきたはずなのに。 どうやら便利になることが豊かになることイコ−ルだと思ったのが間違いのもとだった のかも知れません。その中で不便をよしとし、かたくなに昔の生活の規範を守ってきた のが茶道だと思います。茶道こそが世の中を立て直す鍵となる。今こそ声を大にして一 層広めていく必要がある。愛知万博の反対運動のように立ち上がるべきだ。あるいは比 叡山の僧侶の如く一揆だ。ひょっとするとこのような声が沸き上がってくるかも知れま せん。しかし茶道はそのような立場はとらないのであります。 表千家の家元は大手ス−パが元日営業することに対し、小冊子に少しだけ残念ですと 書かれた。日本人の生活習慣の一番のけじめの日を、営利主義によってなし崩しにされ るのを憂慮されてのことでした。茶道を行う者はそこまでなのです。決して社会運動家 であってはならないのです。それよりも自分自身が昔ながらの正月の飾りをし、おもち なら杵つきのものを求めることが大切なのです。普段の稽古では、おいしいまんじゅう を探しそのお店と永く付き合い、育てていくこと。抹茶もしかりです。このように日常 の中で茶道を実践し、ささやかな範囲でありますが茶道の空気を周囲に伝えていくこと が一番大切だと思うのです。いささか消極的だと思われるかも知れませんが、生活文化 というのはスロ−ガンではないのです。1人1人の生活にかかっているのです。 今日茶道を志そうとする人は、点前を覚えるだけが全てではなく、こうした背景があ ることも忘れてはなりません。あなた1人1人の言動が、真に豊かな国にかえていく力 になるのです。豊かである意味はそれぞれが考える問題でありますが、茶道の中にはそ のヒントがあちらこちらに隠れています。そうはいっても、茶道はだいぶ現代生活とは かけ離れてしまっています。基礎的な知識を獲得するだけでも簡単に十年はかかってし まいます。これでは点前だけを覚えるので精一杯です。世の中との関係を考えるどころ ではありません。そんなために、小生のホ−ムペ−ジ "よいこの茶道" が役にたてれば と思っているのです。なかなか筆はすすみませんが、小生の体験全てを書くつもりです。 なんか茶会の案内のつもりが、ホ−ムペ−ジの宣伝になってしまいました。えらそう にのたまうこの男はどんな奴だ、一度顔を見に行ってやろ。どうぞお越し下さい。多分 拍子抜けすると思いますよ。これが茶道なのです。..と煙に巻いたところで。 花まつり茶会 − 四月四、五日 方丈にて 来山お待ちしております          徳林寺・茶道指南  かとう いっけん