『 徳林寺・花まつり茶会によせて 』 平成十一年、三月二十二日 いつも堅い話しにこの案内はなってしまうので、今回は少しくだけて見ようかなと 思います。遊芸というテーマでどうでしょうか。茶道というと、これは武士道とか空 手道とか精神的なことになります。でも茶の湯というと、少し遊びが入っているかな というニュアンスになります。茶道も茶の湯もやることは同じなのですが、そこは茶 の融通無碍といいましょうか。どんな風にでもとれるわけです。実際茶会で精神論な んか説いていたら、お客様は怒って帰ってしまうでしょうね。できるだけ、なごやか に楽しい一時を過ごしてもらう。そうでなければねー。さてさて、テーマは遊芸。 小生、茶道だけでなく日本的なものは全て興味がありまして、先日もお能を見にい ったばかりです。3月22日、雪がちらつく中、名古屋城能楽堂に赴きました。よか ったですねー。出し物のメインは班女。もちろん素晴らしかったです。それに囃子方 というのでしょうか。能管は藤田六郎兵衛に鼓は鬼頭喜太郎。一流な演奏者です。能 管のピーという冴えわたった音。以前にも聴いたはずなのですが、改めて惚れ惚れし ました。鼓の方は、なんと平成元年如庵の初釜で同席し、話ししてた人でした。その 時名刺を頂き、尾張藩に代々仕えた観世流太鼓方とありました。十年も経って、姿を 拝見しようとは。んー、どこかしこで繋がっているものだと思いました。 本当は小生が行く予定ではなく、母が行くはずだったのです。大風邪を引いてしま い、小生が代わりにということでした。母はもうだいぶ前から短歌を作っていまして、 ここ二年ぐらい前にある会に入りました。その会員のお一人から券をもらったのです。 その方が何とシテを務めるという。もうどれだけ費用がかかるか分からない世界です。 自宅には茶室もあるという話しです。一度押しかけてみよう。そうそうお能の他、お 仕舞いや素唄などもありました。仕舞いというのは初めて見ましたねー。もっと長い のかと思えば三分ぐらいですか。女性の方も袴を付けられて、なかなかかっこいいも のです。信長の人生五十年、と少しやってみたくなった?。 母の幼友達が四国で仕舞いをやっていると聞いています。夫婦でやっておられて流 派が違ってましてねーと笑っていたのを思い出します。松山で年に一度会があるそう です。一度どんなものか見てみたいと思っていましたが、こうしたお披露目をするの だなと思いました。名古屋に来た折り、小生にも茶道だけではダメです。お仕舞でも やりなさい、少しは遊びもできなければネと言ってました。その人、女学生時代の写 真を見たことがあるのですが、本当品のいい人です。字もうまいです。年賀状はいつ もちょっと絵もあしらって。もちろん茶道だって、できない訳がありません。若かり し頃四国に裏千家の家元がおいでになった時に、お点前したという。ここで母の名誉 回復。その時、母も習っていました。ちゃっかりお家元と写真に収まっています。 更に小生の名誉回復。小生茶道だけではありませんよー。熱田神宮に雅楽の稽古に、 これでも3年ぐらい行きました。やっていたのは龍笛。五條の橋で牛若丸が吹いてた のが龍笛です。結婚式の時の越天楽、それに小乱声(こらんじょう)。何とか吹けま す、今でも?。最近雅楽の貴公子って、かっこいい男が出てきていますが、これで少 し身近に雅楽も感じられるかも知れません。しかし習っている時は、ひたすらトーレ ーロで、何が何やらさっぱりで。理屈も何もなく、ただ先生のまねをするのみという 世界。これには参りました。何が楽しみだったかって、誘ってくれた友人と月に一回、 稽古の後飲みに繰り出し午前様になる。これしかありませんよ。 そういえば舞踊、邦楽全般に興味を持ち始めたのはまだ学生の頃、豊橋でみた鷺娘 がきっかけでした。西川流の名取りになったお披露目の会でした。新聞で無料とあっ たので、暇潰しに行ってみようかなという程度でした。それが襲名披露で気合が入っ ている、踊り手も若い。ストーリーがいい、早変わりはある。ラストがいいと、何も 知らない小生でしたが感動しました。去年、御園座の新春歌舞伎で坂東玉三郎が鷺娘、 演じました。よかったけど、最初に見た豊橋の方がはるかによかったように思います。 そりゃ鷺娘に玉三郎ときたら最高なんですがね。舞踊を初めて見るなら、ともかく鷺 娘が一押しですね。素晴らしい、芸術的だ。単なる日本舞踊とは言えない。 大学を出て名古屋に戻り、今度は三曲の方にはまってしまいました。三曲は筝、尺 八、三味線をいいます。岩田律園氏とその息子さん達が、がんばって演奏会をやって くれています。若い方がたくさん出られて楽しませてもらいました。そこで半分運命 的な出会いがあった?。勝手にそう思っただけかも。素晴らしくうまい筝の演者がい ました。今でもあの人は、日本で一番うまいと思っています。オードリヘップバーン のようにショートカットで、それが和服によく似合っていて。やっぱり筝は華ですよ ね。よたったおばあさんが、幾らうまく弾いても半分さっぴかれます。でもうら若き 乙女でも末摘花では困るけど。 さて花が出たところで、そろそろ落ちに致しますか。秘すれば花、秘せずば花なる べからず。初心の花、真の花。全ての遊芸のバイブルといってもいい、風姿花伝の花 のことです。この花の花芯は初心忘るべからずにあると思います。茶道も筝もお能も、 短歌に俳句も、はたまた武道でも時分の花でなく、真の花を求めることに変わりあり ません。今回は、広く芸道にはげんでおられる方に向けてメッセージを送りたいと思 います。茶道のお点前にも花があるのですよ。来山お待ちしております。ちょっと待 った。もう少しお遊びを。万場の忠太郎食堂に入ったことがある方はタダ。沓掛時次 郎は豊明の沓掛出身か。さー、さー、さあああーーー。 花まつり茶会 − 四月三、四日 方丈にて 一服三百円。           徳林寺・茶道指南  かとう いっけん