『 徳林寺・花まつり茶会によせて 』 平成十六、三月二十六日 菜の花の化身として、利休さんを登場させての案内を書いたのは、もう何年も前に なるのだろうか。今日も会社の帰り、すぐ横の川の土手で菜の花を一杯摘んでいまし た。小刀ですぱっと切って川の水を濡らした布で包んで持って帰りました。萎れてな かったです。どうじゃ、少しは茶道というものが分かったか。そんな声が聞こえてき たとしたら、この一年ちょぴり前に進みましたと答えることにしよう。昨年の五月に 表千家の茶道の先生としての資格を取ったこと。二十歳の時から教えて頂いている小 生の先生、されなりに歳を召された。それにお寺で釜を懸けて十八年、そろそろ先生 らしきものを申請してもいいのでないか。これまで、あまりその気もなかったのです が、お家元から送ってきた木札を見て、一つのけじめだなと気持ちを新たにしました。 もう一度、先生にしっかり習いたい。お弟子さんを誘って犬山まで月に一度伺うこと にしました。お寺ではめったにやらない濃茶や炭点前も復習させて頂いています。  これまで花まつりの茶会は、先ずは茶席の雰囲気をどなたさんにでも味わってもら おう。それを第一にやってきました。でも、そろそろその役目は小生終わりかなと思 っています。これからは分かる人の茶道をやっていこう。子供さんや通りすがりに茶 店代わりに茶席に入って来られる方も多々。こんな世界もあるんだね、子供の躾に習 わせたいけどと話される人もちらほら。どうか茶道を志す若いお方、小生の意思を継 いで、そうした人のために茶を振舞ってあげて下さい。小生は二十七歳の時からずっ とやってきました。言ってみれば、家元での玄関を卒業という訳です。そうして視点 を変えたことによって、これまで風炉だけで年中やってきたのを、炉もやはり何とか 切りたい。炉のお点前も披露したい。お寺で始めて数年ぐらいの時、和尚さんに切ら せて欲しいと言ったことがあります。その時だめだと言われその後ずっと封印してい たのですが、改めて和尚さんにお願いしたのです。  いざ炉を切るとなると費用が問題です。本格的にやろうとすると五十万円ぐらいか かるみたい。表千家の会誌、同門に炉壇の何やら書いてあったのを思い出し、引っ張 り出してきました。ひょっとすると、らしいものはできるかも知れないと思いました。 さあ、それからです暇に飽かせて取り組み始めたのは。それでもいろいろ用事もあっ たりして月二回ぐらいですかね、作業できたのは。極めて資料が少ないものなんです が、その気になればいろいろ見つけることができるもので。そう、もう後一日で完成 します。最後の上塗りを残すのみになったんです。明日、犬山の木曽川河畔で川砂を 取ってこようかと今週、ずっと考えていたんです。でも今朝、会社行く道中の川に降 りてみたら、使えそうなのがありました。上塗りの土に混ぜる砂は、きれいで細かく なくてはだめなんです。こんなようにして材料やら道具やらを集めて行った訳なんで す。久しぶりに頭をフル回転させたという感じです。  仕上げの一歩手前の状態で、自画自賛してもいいできなんです。まだ最後、気が抜 けないのは勿論ですが。だらーとしたお点前、茶話会やサークルでの乗り。そんな雰 囲気を寄せ付けないぴしっとした凛とした姿に仕上がりそうなんです。一年がかりで 作った本物の炉壇を、いいねと分かってくれるような人にお茶を差し上げたい。幸い なことに、最近お寺に集うのはそんな方が自然と増えてきました。これも自分の心持 の変化に伴うものなのでしょうか。しかし形あるものを作る残すというのは楽しいも のですね。身近なことでは茶杓削りがあります。それでも結構面白いのに、一人すっ かり面白い目をさせてもらいました。一年、大工部屋の片隅を占拠して作業させて下 さった和尚様に先ずはお礼を言わねばなりません。徳林寺というお寺がなかったらで きなかったことです。今度はお茶室を作ろうと和尚さんと話しています。この自然を 活かして、心身ともにおいしいお茶を頂くことができるような茶室です。和尚様、何 卒これからもよろしくお願い致します。   花まつり茶会 − 四月四日 方丈にて 一服三百円           徳林寺・茶道指南 加藤 一見