愛知の産業遺産を歩く 20


三河ガラ紡の遺産

−日本独創の技術−

Industrial Heritage of the Garabo Spinning in Mikawa

Original spinning technology by Gaun Tacchi


石田正治

ISHIDA Shoji


ガラ紡と呼ばれる紡績技術をごぞんじでしょうか。豊田市と岡崎市には現在わ ずかながらにガラ紡が営まれています。この三河地方、矢作川流域一帯はかつて 全国一のガラ紡産地でした。それゆえに、この地域にはガラ紡に関する産業遺産 が各地に残っています。
小野田和紡績工場のガラ紡績機、工場は2000年に廃業、その後、ガラ紡績機は岡崎市美術博物館に保存された

◆発明者臥雲辰致

ガラ紡の機械を発明したのは、信州安曇郡出身の臥雲辰致(1842〜1900)です。臥雲とは珍しい姓ですが、旧姓は横山と言いました。26才の時に臥 雲山孤峰院の住持となりましたが、明治4年、廃寺となって還俗し、臥雲辰致と 名乗るようになりました。臥雲辰致がガラ紡績機を発明したのは明治6年のこと です。糸のムラと太さを調節する自動制御機構を備えました、世界に類例のない 独創的な技術でした。明治9年には細糸を紡ぐことに成功し、このガラ紡績機を 明治10年の東京上野公園で開催された内国勧業博覧会に綿紡機(木綿糸機械) として出品しました。内国勧業博覧会への出展者は1万6千人、出品点数は八万 4千点におよぶ中で、「本会第一の好発明」と最高位の鳳紋褒賞を受賞したのが 臥雲辰致の綿紡機でした。一躍有名になり、これを契機に臥雲辰致の発明した紡 績機は三河をはじめ全国の綿業地帯に普及していきます。
ところでこの臥雲辰致の綿紡機、当初からガラ紡と呼んでいたわけではありま せん。運転中にガラガラと音をたてるためにいつしかそう呼ばれるようになりま した。また、三河山間部では水車を動力に用いたので「水車紡績」、矢作川下流 では船のへりに水車をつけてガラ紡績機を運転したので「船紡績」と呼ばれまし た。あるいは、西洋から移入された近代紡績技術に対して、「臥雲紡」「和紡」 とも呼ばれました。現在ではガラ紡績、略してガラ紡と呼んでいます。
平成6年4月、安城市歴史博物館が歴史的な綿紡機を復元 しました。その設計は筆者が担当したのですが、この復元作業により臥雲辰致 の発明の本質が明らかになっています。
矢作川下流の中畑の船紡績

◆澤永存

岡崎市の中心部、朝日町に岡崎市郷土館があります。郷土館は、ガラ紡史研究 の宝庫で、臥雲辰致とガラ紡に関係した多数の文書資料が残されています。
その岡崎市郷土館の前にはガラ紡績機の発明者、臥雲辰致の顕彰碑が立ってい ます。台座と本体で約4メートルの背丈の立派な石碑です。大正10年、三河紡 績同業組合が建立したもので、題額には『澤永存』と篆書で刻まれています。「 偉人の恩沢、永遠に」の意味です。また碑文には「発明益世、其業大慈」と述べ て、臥雲辰致の発明を称え、三河紡績業がガラ紡で繁栄したことを感謝していま す。

◆三河ガラ紡発祥の地

青木川の堰堤の遺構、川岸の工場はすべてガラ紡工場であった(滝山寺前あたり)
 矢作川の支流、青木川は急流です。川は、岡崎市の北部、東から西に向かって 流れ、本流矢作川に合流します。青木川沿いには、鬼祭りで知られる名刹滝山寺 があります。この滝山寺のある滝町一帯は、ガラ紡績の工場集落でした。それも 三河では最初にガラ紡績が営まれた発祥の地なのです。
大正3年版の愛知県史によれば、明治10年に宮島清蔵が滝村(現滝町)の野 村茂平次方の水車を借りて紡績をはじめたとあります。その翌年、甲村瀧三郎が 手回しガラ紡績機を動かし、明一二年に高岡村(現豊田市)で水車による臥雲式 機械の運転に成功しています。水車紡績のはじまりでした。その後、甲村瀧三郎 は野村茂平次らとともに額田紡績組合を結成し、ガラ紡の普及発展に努めたので す。この滝町、米河内町地区のガラ紡業者は、明治22年に50、戦後の最盛期 には94を数えましたが、現在ガラ紡を営むものはありません。
滝山寺の前の日陰橋に立ちますと、川に沿って両岸に集落ができているのが一 望できます。かつてのガラ紡工場です。青木川の流れを利用して、水車紡績が栄 えたのでした。写真に見るように取水のために築かれた堰堤が遺構として残り、 階段状になって水を落としている風景はガラ紡の往時を語っています。遺構は、 三河で最初にガラ紡がこの地はじめられたゆかりの地であることの証人でもあり ます。(いしだ しょうじ)

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