愛知の産業遺産を歩く 22


だるま窯

−消えゆく伝統の技術−

Darumagama

Traditional kiln, made japanese roofing tile.


石田正治

ISHIDA Shoji


黒瓦の美

 「いらかの波と雲の波、重なる波の中空を、たちばな香る朝風に、高く泳ぐや、鯉のぼり」と唄われた日本の瓦屋根、澄み切った青空の下、黒瓦は陽光を反射して、銀色に輝きます。和風建築の美しさを際立たせているのがこの黒瓦の屋根です。日本家屋の屋根は、西洋の家屋と比較して軒出しが大きく、勾配がゆるやかです。家々の瓦屋根が、波となって見える様は、郷愁の風景です。
 黒瓦は、いぶし瓦とも呼ばれています。瓦を焼き上げる時に松葉や松材で燻して造られるからです。それはまたいぶし銀の輝きを有しているからでもあります。
 この日本家屋の美を象徴する黒瓦を焼く窯がだるま窯です。日本有数の瓦の産地、高浜市に最後まで残った伝統の技術、だるま窯を今回は紹介しましょう。
往時のだるま窯  写真:高浜市郷土資料館蔵


日本瓦の歴史

 瓦とは、本来は「粘土を成形し焼いたもの」を指し、屋根瓦の他に壁に貼る壁瓦、床に敷く敷瓦がありますが、一般に瓦と言えば屋根瓦のことを言います。
 日本で瓦がいつ、どこで、どのようにして焼かれ始めたのか、定かではありません。史実に最初に現れるのは日本書記で、588(崇峻元)年に百済国(朝鮮半島)から瓦博士と呼ばれた四名の瓦職人が来て飛鳥寺の瓦を造った、と記録に残されています。
 当初、瓦葺屋根は寺や城、大名屋敷だけでした。瓦が庶民の家の屋根に葺かれるようになるのは、江戸時代で将軍吉宗の治世の頃です。江戸に大火があって防火の為に瓦屋根を奨励したのです。以後、瓦の生産が各地で盛んになりました。
 西三河の地に瓦製造の技術がいつ伝えられたのか、これもまた定かではありませんが、17世紀のはじめに、安城市南部から西尾市にかけての矢作川沿岸部で瓦が焼かれたようであります。次第に生産の中心地が移動し、現在は、高浜市、碧南市が三州瓦の中心地となっています。瓦に適した良質の粘土が豊富にあったことと、重い瓦の運搬に船が便利であったことなど立地条件に恵まれて有数の瓦の産地に発展したのです。三州瓦が産業として飛躍するのは、大正から昭和の初期の時代です。瀬戸や常滑の影響を受けて石炭窯や土練機の導入、瓦製造機などの発明が行われ、また、素焼瓦、塩焼瓦、釉薬瓦などの新製品が焼かれるようになって、今日では全国一の生産高を誇っています。


だるま窯

高浜市最後のだるま窯 だるま窯の内部

瓦を焼いた初期の窯は、山の斜面に穴を掘って造られた穴窯でした。この形式の窯が飛鳥寺や法隆寺近くで発掘されて保存されています。それが時代を経て、平地に造られたのが平窯です。手前に焚口があり、その奥に焼成室があります。焼成室の床には、火の通りを良くするためにロストルの役割を果たす畦が造られています。瓦を焼くこの平窯は外見がだるまが座ったような形であったので、だるま窯と呼ばれました。その後、なるべく大量に焼くことができるようにと二基のだるま窯を背中合わせにし、煙突も付けられて、今日のだるま窯の構造となりました。火室口と呼ばれる焚口が二つあり、瓦の出し入れは、横腹の戸口から行われました。 だるま窯では、当初は燃料に薪を使用していましたが、明治のおわり頃から石炭が使われるようになり、戦後は重油、そして天然ガスが使われるようになりました。
 高浜市で最後まで残った高橋栄氏(田戸町五丁目)のだるま窯は、1994年1 月まで黒瓦を焼いていました。一度に焼く700枚の桟瓦を焼く能力があります。瓦を焼くには、一般にあぶりから始めて本焚きに12時間から15時間、最後に松葉や松材を焚いて、燻すという還元炎焼成を行います。この燻し作業によって、燃料の炭素が瓦に固着して、瓦みごとな黒色に変色し、瓦の表面が一様に気密となって雨水の浸透を防止するのです。
 高浜市、最後のだるま窯は、道路整備により取り壊される運命にあります。三州瓦業発展の礎であったこのだるま窯、なんとか産業遺産として保存できないものかと思うのです。
     (いしだ しょうじ・愛知県立豊橋工業高等学校)


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