愛知の産業遺産を歩く 28


電動貨車「デワ10形」

−渥美線を走って七十三年−

The electric freight car Dewa10 Class

It's works for 73 years at the Atumi Line


山田 貢

YAMADA Mitugu


 電動貨車(貨物電車)は、戦前から1960年代にかけて、各地の私鉄で小口の貨物輸送用として活躍していました今では、ほとんど姿を消してしまい、全国でも数両現存しているにすぎません。
豊橋鉄道渥美線の新豊橋駅から電車で十分、電車は松並木の中を通り過ぎると、高師駅に到着しますホームに降り立つと、三河田原寄りに渥美線の車庫が見えますクリーム色に赤帯の電車に混ざって、真っ黒な貨車のような電車が目に付きますが、これがデワ10形(11)電動制御貨車(電動貨車)です唯一、渥美線開業時から今日まで現役で走っている車両です。


渥美線の歴史

 1900年代、地域の鉄道敷設要望が高まる中で、渥美半島にも鉄道敷設が計画され、1909(明治42)年、渥美軌道株式会社が設立されましたしかし、この時は着工にまで至りませんでした。1918(大正7)年頃、鉄道敷設の機運が再燃し、地元の資産家実業家が中心となり、渥美軽便鉄道(株)を設立しましたその後、会社を郡営とするか民営とするかで論議されましたが、民営鉄道とすることになり、名称を渥美電鉄(株)と改め、1922(大正11)年3月6日、渥美郡役所において渥美電鉄( 株)創立総会を開催し、今に続く渥美線の歴史が始まりました。
 1924(大正13)年1月22日、高師〜豊島間(11.3q)の営業を開始しましたさらに、線路延長を続け、1926(大正15)年4月10日、三河田原〜黒川原間が開通したことにより、渥美線の、新豊橋〜黒川原間が全通となりましたその後、伊良湖岬まで延長の計画もあり、一部区間で着工しましたが、結局実現できませんでした太平洋戦争が激化した、1944(昭和19)年6月、軍需路線へ資材と要員を供出するため、三河田原〜黒川原間が休止されてしまいました同区間は1954(昭和29)年11 月、営業廃止となりました。
 渥美電鉄(株)は、1940(昭和15)年9月1日、名古屋鉄道(株)に合併されました1954( 昭和29)年10月1日、豊橋鉄道(株)に譲渡されて、現在の豊橋鉄道渥美線となりました。その後、電車の大型化自動閉そく化冷房化などの改良を重ね、所要時間の短縮、運行を15分間隔にするなどの利便性の向上をはかり、現在の渥美線は、通勤通学路線として地域の重要な足となっています。


電動貨車 デワ10形

 電動貨車、デワ10形は、初めから電動貨車として製造されたわけではありません渥美線開業に向けて、1923(大正12)年12月、日本車輌製造(株)が4輪の旅客用電車デハ100形として3両製造した電車なのです渥美線では、他のボギー電車3 両とともに、開業時からこのデハ100形を使用していました定員、46人(座席24人、立席22人)と小型のため、主に三河田原〜黒川原間で使用していました。
 名鉄との合併に伴い、電動客車モ1形(1〜3)と改番になり、1943(昭和18) 年9月、戦時輸送の増加に備えて、定員の少ないモ1形3両は、電動貨車デワ30形( 31〜33)に改造されましたところが、積載重量5tのデワ30形では、増大する貨物には対応できず、本来の目的で使用されることはほとんどないまま、専ら柳生橋駅構内で貨車の入換に使用されていました。
 1966(昭和41)年に、2両廃車され、33の1両だけとなりました1968(昭和48) 年に改番されて、電動貨車デワ10形(11)となりました1984(昭和59)年、豊橋鉄道が貨物の取扱を全廃した後は、デワ10形は高師電車区での車両入換と、レール輸送くらいにしか使用されていませんが、夏休みには、おもしろ電車教室で子どもたちの人気の的になったこともありました。
 電動貨車に改造後、トロリーポールを小型パンタにしたり、車体を大改修するなど、製造当初からの部品は、台枠台車電動機コントローラーブレーキハンドルくらいが残っていません車体の正面は、製造時の面影を残していて、今でも豊橋鉄道の努力で改造時の状態が保たれています。
渥美線は、平行する道路の混雑が激しくなったこともあり、通勤通学路線としての役割はさらに大きくなっていくでしょう本年(1994年)夏には、1500V昇圧と全列車冷房化が予定されていますその時には、600V用のデワ10形の役目も終わってしまいますが、渥美線の歴史を語る貴重な車両として、大切に保存してほしいものです。
         (やまだ みつぐ名古屋市立大高南小学校)
電動貨車デワ10形

The electric freight car Dewa 10 Class
デワ10形の運転台

In the cab of Dewa 10 class


◇メモ

◆現在(1997年3月)の渥美線の車両

(旅客用)
名古屋鉄道、西武鉄道等から豊橋鉄道へ移籍して きた電車 24両
(事業用)
電動貨車デワ10形 1両
元愛知電気鉄道の電気機関車デキ210形 1両

◆形式記号

国鉄、私鉄などでは、古くからカナによる形式記号が用いられてきたデは電動車、ワは有蓋貨車を表しているデキのキは、機関車を表しているほとんどの鉄道会社で、共通の記号を用いていた。


■アクセス

高師車庫へは、JR名鉄豊橋駅前の豊橋鉄道新豊橋駅より渥美線電車で約10分、高師駅下車線路沿いに三河田原方面へ徒歩約5分


写真3 デワ10形の前身、四輪旅客用電車デハ100形(日本車輌製造株式会社『車輛案内』大正14年より)
Dewa 10 class was a electric passenger car before remodeling


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