愛知の産業遺産を歩く 30


トマト加工用具

Tomato ketchup and Worcestershire sauce manufacturing equipment

日本におけるトマト加工業の足どり

History of the tomato processing industry in Japan


斎藤 修啓

SAITO Nobuhiro


日本へのトマトの普及とカゴメ株式会社

カゴメ記念館外観(撮影:石田正治)
The KAGOME Museum
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 食卓の彩りを豊かにしている赤いトマトは、今でこそ家庭料理の食材として欠かせないものとなっていますが、日本の食卓に迎えられたのは古くありません。食用としてのトマトが日本で栽培されるようになったのは幕末以降のことです。当時のトマトには独特のくさみがあり、日本人の嗜好にあいませんでした。食事の西洋化、品種改良の進んだ結果、トマトは生食用として広く受け入れられ、また、トマトケチャップやソース類などのトマトを加工した調味料も広く普及しました。その様子は、トマトの栽培面積の拡大にあらわれています。1909(明治42 )年に39haであったのが、明治末には89ha、大正末には600ha、1935(昭和10 )年には9000haへと、急速に栽培面積が拡大されました。

 日本におけるトマトの普及に少なからぬ役割を果たしたのが、1914(大正3)年に「愛知トマトソース製造(資)」として発足したカゴメ株式会社です。同社の歴史は、日本のトマト加工業、トマトの品種改良の歴史と深く重なっています。


展示品にみるトマト加工技術の発展

端反鍋(左)と水嚢(右)。
上と手前にあるのは、原料の受け入れに
用いた秤とそのおもり。
(撮影:石田正治)

Kettle (left) and Sieve (right)
回転式二重釜
(撮影:石田正治)
Rotary double kettle

 カゴメ記念館は、東海市にあるカゴメ株式会社上野工場内にあります。今でもソースをつくっている上野工場は、カゴメ創業の地です。 カゴメ記念館の展示構成は、大きく分けて三つのコーナーからなります。ひとつは、製造に用いられた道具、装置類とそれらでつくられた製品など、カゴメのトマト加工業の発展を示すコーナーです。たとえば、創業者蟹江一太郎がトマト加工業に取り組みはじめた時代の製造過程を示すものとして、トマトの煮熱やソースの調味に用いた端反鍋、トマトの裏漉しに使った水嚢などの装置があります。これらの装置は、当時の作業が人力に大きく依存していたことを示しています。
 日本における近代的製造業としてのトマト加工業の技術進歩の過程を物語る資料として、回転式二重釜、自動裏漉機の一部が展示されています。端反鍋は、1921 (大正10)年頃には、熱効率がよく作業のしやすい回転式二重釜にかえられ、水嚢も自動裏漉機へとかえられていきました。

 トマト果汁の濃縮やトマトを破砕する装置の改良など、設備の機械化、自動化の面で同社の取り組みは先進的でした。現代の連続真空濃縮装置に至る、同社におけるトマトの濃縮技術の移り変わりは、ジオラマで説明されています。

 製品品の容器、その中でもケチャップ容器の改良の歴史は興味深いでしょう。当初、口の細い壜につめられていたため、粘性が高く半流動体であるケチャップは、たいへん取り出しにくいものでした。1957(昭和32)年には広口壜が導入され、スプーンなどで簡単にすくえるよう便利になりました。そして、1966(昭和41 )年にプラスチックチューブ容器が市販され、ケチャップの使用が一層手軽となりました。

 ソースもお酒などと同じように、長い間、店先で計り売りされていました。同社では、陶器製の斗壜に入れられたソースが1960年代まで売られており、当時までこの習慣は続いたようです。

 「広告活動の変遷」「看板の歴史」「ラベルの歴史」を展示しているコーナーがあります。製品のラベルの歴史は、カゴメの開発した製品の多様さをしめす反面、それぞれの時代の食料事情の一端を物語っています。たとえば、戦中戦後の食糧難の時代には、「チキンライスの素」、鳥貝や海苔の佃煮の缶詰など、現在の同社製品にはみられないようなものもありました。

 創業者蟹江一太郎に関するコーナーは、事務机など彼の愛用品、ゆかりの品によって彼の社長時代の社長室を再現しています。製品見本を詰め込んで商用旅行に携行したという信玄袋もあります。

(さいとう のぶひろ・名古屋大学大学院)


◇メモ

カゴメ記念館

〒476 東海市荒尾町東屋敷108番地。電話:052(603)1161 。
見学希望の方は、事前に予約が必要。


■アクセス

カゴメ記念館へは、名鉄常滑線聚楽園駅か新日鉄前駅を下車し、いずれも東へ徒歩約15分。あるいは、名鉄太田川駅よりバスで「寺中」下車(所要時間12分)。


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