電動貨車「デワ10形」
The electric freight car Dewa10 Class

−渥美線を走って七十三年−
It's works for 73 years at the Atumi Line

山田 貢
YAMADA Mitsugu

電動貨車(貨物電車)は、戦前から1960年代にかけて、各地の私鉄で小口の貨物輸送用として活躍していました。今では、ほとんど姿を消してしまい、全国でも数両現存しているにすぎません。
豊橋鉄道・渥美線の新豊橋駅から電車で十分、電車は松並木の中を通り過ぎると、高師駅に到着します。ホームに降り立つと、三河田原寄りに渥美線の車庫が見えます。クリーム色に赤帯の電車に混ざって、真っ黒な貨車のような電車が目に付きますが、これがデワ10形(11)電動制御貨車(電動貨車)です。唯一、渥美線開業時から今日まで現役で走っている車両です。

渥美線の歴史

1900年代、地域の鉄道敷設要望が高まる中で、渥美半島にも鉄道敷設が計画され、1909(明治42)年、渥美軌道株式会社が設立されました。しかし、この時は着工にまで至りませんでした。
1918(大正7)年頃、鉄道敷設の機運が再燃し、地元の資産家・実業家が中心となり、渥美軽便鉄道(株)を設立しました。その後、会社を郡営とするか民営とするかで論議されましたが、民営鉄道とすることになり、名称を渥美電鉄(株)と改め、1922(大正11)年3月6日、渥美郡役所において渥美電鉄(株)創立総会を開催し、今に続く渥美線の歴史が始まりました。
1924(大正13)年1月22日、高師〜豊島間(11.3q)の営業を開始しました。さらに、線路延長を続け、1926(大正15)年4月10日、三河田原〜黒川原間が開通したことにより、渥美線の、新豊橋〜黒川原間が全通となりました。その後、伊良湖岬まで延長の計画もあり、一部区間で着工しましたが、結局実現できませんでした。太平洋戦争が激化した、1944(昭和19)年6月、軍需路線へ資材と要員を供出するため、三河田原〜黒川原間が休止されてしまいました。同区間は1954(昭和29)年11月、営業廃止となりました。
渥美電鉄(株)は、1940(昭和15)年9月1日、名古屋鉄道(株)に合併されました。1954(昭和29)年10月1日、豊橋鉄道(株)に譲渡されて、現在の豊橋鉄道渥美線となりました。
その後、電車の大型化・自動閉そく化・冷房化などの改良を重ね、所要時間の短縮、運行を15分間隔にするなどの利便性の向上をはかり、現在の渥美線は、通勤・通学路線として地域の重要な足となっています。

電動貨車 デワ10形

電動貨車、デワ10形は、初めから電動貨車として製造されたわけではありません。渥美線開業に向けて、1923(大正12)年12月、日本車輌製造(株)が4輪の旅客用電車デハ100形として3両製造した電車なのです。渥美線では、他のボギー電車3両とともに、開業時からこのデハ100形を使用していました。定員、46人(座席24人、立席22人)と小型のため、主に三河田原〜黒川原間で使用していました。
名鉄との合併に伴い、電動客車モ1形(1〜3)と改番になり、1943(昭和18)年9月、戦時輸送の増加に備えて、定員の少ないモ1形3両は、電動貨車デワ30形(31〜33)に改造されました。ところが、積載重量5tのデワ30形では、増大する貨物には対応できず、本来の目的で使用されることはほとんどないまま、専ら柳生橋駅構内で貨車の入換に使用されていました。
1966(昭和41)年に、2両廃車され、33の1両だけとなりました。1968(昭和48)年に改番されて、電動貨車デワ10形(11)となりました。1984(昭和59)年、豊橋鉄道が貨物の取扱を全廃した後は、デワ10形は高師電車区での車両入換と、レール輸送くらいにしか使用されていませんが、夏休みには、「おもしろ電車教室」で子どもたちの人気の的になったこともありました。
電動貨車に改造後、トロリーポールを小型パンタにしたり、車体を大改修するなど、製造当初からの部品は、台枠・台車・電動機・コントローラー・ブレーキハンドルくらいが残っていません。車体の正面は、製造時の面影を残していて、今でも豊橋鉄道の努力で改造時の状態が保たれています。
渥美線は、平行する道路の混雑が激しくなったこともあり、通勤・通学路線としての役割はさらに大きくなっていくでしょう。本年(1994年)夏には、1500V昇圧と全列車冷房化が予定されています。その時には、600V用のデワ10形の役目も終わってしまいますが、渥美線の歴史を語る貴重な車両として、大切に保存してほしいものです。
(やまだ みつぐ・名古屋市立大高南小学校)

◇メモ
◆現在(1997年3月)の渥美線の車両

(旅客用)
・名古屋鉄道、西武鉄道等から豊橋鉄道へ移籍して きた電車 24両
(事業用)
・電動貨車デワ10形 1両
・元愛知電気鉄道の電気機関車デキ210形 1両

◆形式記号

国鉄、私鉄などでは、古くからカナによる形式記号が用いられてきた。「デ」は電動車、「ワ」は有蓋貨車を表している。「デキ」の「キ」は、機関車を表している。ほとんどの鉄道会社で、共通の記号を用いていた。

■アクセス

高師車庫へは、JR・名鉄豊橋駅前の豊橋鉄道「新豊橋」駅より渥美線電車で約10分、「高師」駅下車。線路沿いに三河田原方面へ徒歩約5分。

写真キャプション
写真1 電動貨車「デワ10形」
The electric freight car Dewa 10 Class

写真2 「デワ10形」の運転台
In the cab of Dewa 10 class

写真3 「デワ10形」の前身、四輪旅客用電車「デハ100形」(日本車輌製造株式会社『車輛案内』大正14年より)
Dewa 10 class was a electric passenger car before remodeling