『2001年 宇宙の旅』
 えっ!?ラストがよく分からない?そんな事はいいの。それでも十分楽しめます。どうしても知りたいなら何度でも観て、何度でも考えればいいんです。そんな素敵な映画です。


『2001年 宇宙の旅』(再見)
 本作品は、ルーカス、スピルバーグを生み出した、SF映画の金字塔。音声言語を排し、映画言語に徹した語りを体験できることは感動的なことだ(始めは、冒頭の「人類の夜明け」の部分にナレーションがついていたらしいが、視覚的な作品に仕上げようとしてキューブリックが消したとのこと)。
 ラストが難解なことで有名な本作品だが、誤解してはならないのが、キューブリックは、エンターテナーであり、全編を通して、本作品でも観客を楽しませようとする努力を惜しんでいないということ。決して観客を困らせてやろうなどと意地悪な考えを持っていないこと。ただ、ラストだけは、確かに突拍子もなかった。本編とはジャンルが違う作品であるかのようにぶっ飛んでいる。まずは、それを置いておいて、この作品の5つの楽しみについて見てみたい。

@音響・音楽の楽しさ
 シーンによっては、クラシックのミュージックビデオを観ているような錯覚に陥るだろう。特に、「ツァラトゥストラかく語りき」「美しく青きドナウ」と映像の融合は見事だった(宇宙船を撮るキューブリックのゆったりとしたリズムが音楽にマッチしていた)。音響効果も素晴らしかった。宇宙遊泳するシーンの効果音がほとんど呼吸音で満たされているのは緊張感があったし、モノリスを取り巻く「蚊の大群の羽音のような音」の不気味さは何とも言えない。音楽は、この作品のためのオリジナルが用意されていたようだが、キューブリックがクラシックと「呼吸音」に変えてしまったらしい。音楽担当のスタッフには申し訳ないが、正しい選択だったと言わざるを得ないだろう。

A世界観の楽しさ
 近未来の世界観の目新しさ、セットのデザインの面白さでもっているシーンもかなりあった。本作品を言語音声がなくとも成立させることができたのは、美術の素晴らしさも大きな要因だろう。また、今となっては目新しさはないかも知れないが、特撮の素晴らしさも印象的だ。当初、プロダクション・デザインは手塚治虫に依頼が来ていたらしい。彼がスタッフだったら、どんな世界観を提示してくれただろう。手塚版の方も観たかったですね。

Bサスペンスの楽しさ
 第一部「人類の夜明け」には、「モノリスとは何か」というサスペンスが用意されている。台詞のない猿のシーンで、観客は彼らの行動を読みとろうと想像力を刺激される。
 第二部「月旅行」には、「月に何があるのか」というサスペンスを用意し、月でモノリスを掘り出すまでのシークエンスを盛り上げる。
 第三部「木星探査」は、「木星探査の真の目的は何か」というサスペンスとともに、キューブリックの真骨頂である狂人(=HAL9000)との闘いで盛り上げてくれる。それは、「博士の異常な愛情」の軍人との闘いや「シャイニング」の小説家との闘いに匹敵する面白さだ。狂人=HAL9000の声が非常にソフトでコンピュータっぽくないのが怖かったし、彼の赤い目(?)のアップも冷たくて怖かった。彼が冬眠中の宇宙飛行士を殺すところをパラメーターの波長だけで見せるのは、彼の冷酷さがよく表していて出色のシーンだろう。

Cショットのつなぎの楽しさ
 キューブリックは、刺激的な編集で観客にショックを与える。第一部の「人類の夜明け」で見せた編集は凄かった。キューブリックは、モノリスに触れた猿が骨を振り下ろすショットと獲物が倒れ落ちるショットを重ねた。これによって、モノリスから「道具使用の啓示を受けたこと」と「道具によって獲物を捕れるようになった未来」を同時に表すことに成功している。
 猿が投げた骨のショットと宇宙船のショットが重ねた編集も驚きだった。こちらは、「過去から未来へと急速な時間の流れ」をつなぐと同時に「道具の進化」を表すことに成功している。
 いずれの編集も奇抜なつなぎによる驚き以上の効果を狙っているのがキューブリックの深いところだろう。

Dカメラワークの楽しさ
 この作品は、宇宙の無重力状態を生かして、画面内の上下左右を自在に扱う。キューブリックが、まるで大きなおもちゃを与えられた子供のようにはしゃいで宇宙船内の撮影をしている様子が目に浮かぶ。無重力状態の世界は、キューブリックのカメラワークの魅力をさらに広げてくれた。

 そんなわけで様々な楽しさを詰め込まれた本作品だが、最後に問題のラストについてちょっとだけ触れてみたい。
 本作品は、ラストでいきなり精神世界に突入し(初見の人は、おそらくそれまでの物語を見事なまでにぶっ潰し、あまりに毛色の違う語りへの移行に戸惑うことだろう)、作品の最大の謎「モノリスとは何か」を曖昧にしたまま終わる。公開当時は、一般観客や批評家にかなり困惑させたようだが、このラストのお陰で、この作品は歴史に残る名作になったような気がする。最近で言うと、アニメの「エヴァンゲリオン」も同じ盛り上がりを見せていたました。
 「?」マークだらけのラストの描写。そして「モノリスとは何か」。これらについての解釈をキューブリック自身がインタビューで語っている。もちろん、それはあくまで、表面的なものであり、内面的な部分は人それぞれに考えればいいと思う。
 ちょっと長い引用になるが、そのキューブリックのインタビューを載せておく。どうしても自分なりの解釈を見つけられずに眠れない人には安らぎを与えることになるだろう。謎を謎のままにしておきたい人は読まないことをお薦めする。

「あの映画は、400万年前のヒトザルの行動を観察し、その進化の影響を与えようと決めた、地球外の知性生命の探検家によって、地球に残された人工物から始まった。第二の人工物は、月の表面に埋められていて、人類の宇宙への最初の稚い歩みの信号を発するよう、プログラムされていた。宇宙の盗難警報機といったところだ。そして最後に、第三の人工物が木星の周囲の軌道上に置かれていて、人類が自分の太陽系の外縁に達する時を待っていた。生き残った宇宙飛行士ボーマンが、ついに木星の到着すると、この人工物は彼を力場、あるいはスター・ゲイトへ運び込む。それによって彼は、内なる宇宙と外なる宇宙の旅に投げ込まれ、最後に銀河系の別の場所へ運ばれる。そこで彼は、彼自身の夢と想像からつくられた、地球の病院のような環境の人間動物園に置かれている。時間のない状態で、彼の人生は、中年から老年、そして死に至る。彼は生まれ変わる。高められた存在、スター・チャイルド、天使、スーパーマン、何とでも呼んでくれ。そして彼は地球に帰り、人類の進化上の運命である次なる飛躍に備える」


『ニキ−タ』
 ベンソン監督の作品は「サブウェイ」、「グレ−ト・ブル−」そして本作品、三度目の出会いだ。退屈したことは1度もない。しかし、見終わった後いつも同じ欲求不満に襲われるのだ。「楽しかったけど、中身が薄い。」そういう意味ではハリウッド映画のようだ。


『憎しみ』
 ドラマティックな出来事もなく淡々と悪ガキの一日を見せる作品。最後に拾った拳銃で警官を撃つだろうというオチも見えていて(本当は違うのだが)、前半はちょっと退屈した人もいるかもしれなけどが、あれこれトリッキーな撮り方をするなどして観客を引っ張ろうと頑張っています。
 例えば、鏡に映っている人物を正面から捉えているのにカメラが映っていなかったり(鏡と見せかけているものはただに枠だけで、その枠の向こうにいる人物を撮っているだけのように思われる)、宙に浮かんだカメラがアパートの間をスルスルと抜けていくショットがあったり、手前に顔のアップに背景にその人物が見たものを入れるショットもある(ヒッチコックが、人物が想像している心の中の情景を見せるときに使う手だ)。閃光が画面を覆い、そのショットと次のショットを急速なオーバーラップでつなぐ手法もよかった。

 お話の方は本当に大したことがないのだが、悪ガキたちのキャラクターで見せてくれる。唯一、好感が持てるのは、主人公の友人で黒人のユベールだけ(この感情移入の調節がラストで利いてくる!)。主人公のサイードも、もう一人の友人ヴィンスもどうしようもない奴ら。出てくるのは、「トレインスポッティング」の登場人物同様、鼻持ちならない人間ばかり。何処へ行ってもトラブルを巻き起こす。それもいつもこの連中たちに問題があるからしょうがない。そんなどうしようもないエピソードを連ね、ラストまでは彼らのキャラクターでとことん引っ張っていく。「こんな奴らどうしようもねえなあ」と飽き飽きしてしまった人は退屈してしまったかも知れない。

 しかし、しかしだ。ラスト近く、警察に重傷を負わされた少年が死亡してからの展開は見事なのだ。ヴィンスの警察を撃ち殺す妄想とスキンヘッドのチンピラとの銃殺未遂。この緊張感ある二つのエピソードで、観客に作品を観た価値有りと思わせるほどの満足を与えることに成功。しかし、その後にオマケも付けてくれるからうれしい限り。主要人物の中で最もキレてたヴィンスから最も冷静だったユベールに拳銃が手渡され、観客は安心して静かに幕を閉じる・・・と思いきや、冷静なユベールの前で、警察に重傷を負わされて死亡した少年を上回る出来事が起きてしまうのだ(具体的に書くと面白さが半減するので伏せておく)。警察に対する憎しみをヴィンスからユベールにバトンタッチして描き続ける。ユベールにはすでに警察にいたぶられるという布石もしっかり打ってある。さあ、冷静なユベール君、警察に対してどうする?彼の「憎しみ」はどこへ行くのか?
 このラストのオマケがなかったら、この作品もそれほど評判にならなかったでしょう。観客の想像を超える満足を与えたこの新人監督。お見事でした。


『二十四の瞳』
 これは、木下恵介監督のリメイク版ではないもの。私は、日本の古い映画をほとんど観てなく、不届きにも木下恵介の監督作品とも初めての出会いです。木下恵介と言えば、黒沢明と同時代に一世を風靡した監督さん。しかも、当時、日本では黒沢より人気があったらしい。で、その名匠の代表作のお味はどうだったかというと・・・。

 一言で言えば、昔懐かしいお袋の味だが、今の食生活になれすぎた私には美味に感じられなかったといったところ。
 本作品には、「七つの子」「仰げばとおとし」「ふるさと」「岬巡り」「おぼろ月夜」など小学校唱歌がバンバン登場し、大衆向け&日本的な叙情世界が全開する。選曲の仕方も凝っていて、場面に合ったものやキャラクターに合ったものがちゃんと選ばれている。例えば、菜の花畑のシーンでは「おぼろ月夜」が流れ、海辺のシーンでは「岬巡り」が流れる。また、何度も登場する「七つの子」は、子どもたちに対する大石先生の気持ちを表しており、この歌のお陰で先生が戦争によって子どもたちを失うことの辛さが伝わってくる。
 この作品は、長い年月をかけて撮られた作品だが、その重みはしっかり伝わってくるし、足を怪我した大石先生を子供たちだけで見舞うシーンや目が見えなくなった教え子が昔の写真だけは見えるというシーンなどは涙を禁じ得ない。

 しかし、物語の展開がかなりゆったりしていて、今の映画のスピードに慣れきった私には、ちょっと辛かった。また、お話が生活に密着しすぎていたり、時代背景を反映しすぎていて、今の状況との違いの大きさから、お話にノルことが難しい。その時代の人が観れば、時代を見事にすくいとったリアルな設定のため、強烈に胸に迫るものがあるのだろうが、その反面、時代が変わればリアルさが薄まっていき、風化してしまうさだめから逃れることができなかったのだろう。
 その点、黒沢作品のようなメッセージ性の弱い純娯楽作品は、時代を超えた普遍性を獲得できるのだなあと思ったりしました(黒沢作品の中にも、かなり時代背景の濃い作品が多く、風化してしまいつつあるものもあるけども)。

 主人公の教え子たちが生活が苦しいために、転校してしまったり、「未来の希望」という作文が書けなかったりと、この作品で描かれる当時の生活の苦しさは身につまされるものがある。その苦境の中で助け合う教師と子供の姿。教員が観れば、羨ましく思うことは間違いないだろう。主人公の大石先生は、全く教師冥利に尽きる。
 しかし、今の現実を振り返れば、家庭崩壊、学校崩壊のニュースが飛び交う日々。戦争がなくなった日本が作り上げた世界は、子供の有り余ったパワーの吐き出す時間と場所を奪い、他人との協力の場も奪い去った。日本は、もう一度戦争でもおっ始めないと、立ち直ることはできないのだろうか。今の時代における、この作品の価値は、反戦映画としてでなく、崩壊した日本社会の在り方を問い直すところにある気がする。


『ニュー・シネマ・パラダイス』
 映画の自信と誇り、そして限界・・・映画に対する愛を詰め込んだ宝箱。映画賛美だけでなく、人間そして人生賛美になっているこの作品が映画ファンだけのものにならないことを願いたい。


『ニュ−・シネマ・パラダイス 3時間完全オリジナル版』
 この作品との出会いはもう数回目になるが,感傷過多な作品は1回だけ観るに限る。過って2度観ると損をしてしまうので気をつけたい。また,傑作は削って削って生まれるんだなということも改めて知らされる1本。シ−ンが増すことで監督の意図は明確になるが,弛緩したり,膨らみが欠け作品の質は落ちていく。すべてを明確にせず,神秘的な部分を残しておいた方が作品にしても人間にしても魅力的なものに映るのだろう。つまり,プロデュ−サ−あっての作品だったといってよいだろう。「情は自分自身を見失わせる。感情は真実を曇らせる」といった内容を感傷的なタッチで綴るのは妙だが,やはりこの作品は愛さずにはいられない。果たして結ばれた恋に何ができるか。実らぬ恋こそが想い出となって永遠となるのでないか。


『女人、四十』
 面白い。良くできてます、ホント。最初の十分で、主人公のキャラクターに引き込まれ、老人問題が絡む深刻なシーンをほとんど全編をユーモアで処理し、伏線を張りまくって、ラストが近づくとその伏線をきかせたシーンの連発とサービス満点。
 まず、キャラクターありき。そのキャラクターを事件に遭遇させ、そのリアクションが作品のテーマとなる。台詞でテーマを語りすぎているところも、少々あるが、ちゃんと映像でもみせてくれてる。(「人生は歓びである」ってテーマを口でも言っちゃうけど、この作品全編がなんと歓びに満ちていることか!特に、中秋の祭りの踊りのシーンは良かった。) いやあ、良くできてる。映画の手本だね、こいつは。


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