『續 姿三四郎』
 好評だった黒澤のデビュー作の続編。仕上がりは並程度なので、黒澤崇拝者のみチェックをしておけばいいと思います。この作品も、その他の黒澤映画らしく、指導者の元で善人に近づこうとする男の物語であり、女は添え物なのです。

 この作品で目を引くのは、編集によって感情描写をしようと努力していることでしょうか。感情描写をするときの基本である「クレショフ効果」の実践例として、紹介したくなるようなシーンを連発している。「クレショフ効果」というのは、人物の顔のショットに様々なショットを挿入することによって、人物の感情を表現するというものだが、本作品で目立つのは、主人公の顔のアップに様々なショットを挟み、三四郎の感情を絵で表現しています。例えば、@招待されたボクシング場で、KOされたボクサーのアップとそれを観て歓喜する観客のアップを挿入し、勝負を見せ物にすることに対する「怒り」を表し、A武術家とボクサーの闘いで、打ちまくられる武術家と歓喜する観客のアップを挿入し、日本武道が負かされているの目の前でを観ながらも、何もできない「苛立たしさ」を表した。そして、B道場での飲酒に対して師匠が酒のとっくりに技をかけるショットを挿入して、道場の掟を破ってしまったことからの師匠に対する「申し訳なさ」を表している。

 ハイライトシーンは、「柔道とボクサーの闘い」や「柔道と空手の闘い」といった趣向を凝らしたものを用意しているが、どちらも全然緊張感がない。特に、空手家との闘いの方は、張り上げ声ばかり目立っているだけだ。「用心棒」にしろ、「椿三十郎」にしろ、「隠し砦の三悪人」にしろ(・・・きりがない)、黒澤作品の決闘シーンは常に凄い緊張感がみなぎっているのに、まだ監督3作目の本作品では、まだその片鱗も見られない。

 また、結果的には、どのキャラクター描写も散漫になっているが(主人公のキャラクターも浅くて単純)、すべての登場人物に深みを与えようとする姿勢は、のちの傑作につながるものであると思う。まだ発展途上なんですね。


『そして船は行く』
 やああ、素晴らしい。怖ろしく芸術的で感動的な作品。こんな映画を観たのは、初めて。フェリーニの作品は、「道」と「8 1/2」しか観ていなく、何の予備知識もなく本作品を観たので、冒頭のセピアの無声映像が続いたときは(セリフも字幕)、無声映画の焼き直しを2時間も見せられたら堪らないなあと思ったんです、正直言って。
 ところが、いつからか音楽が流れ始め、画面のセピア色が抜け始め、有名歌手の棺が船に乗せられるところではカラー映像に変わって、「おおっ!これは面白くなるぞ」と思っていたら、合唱が始まったんでビックリ。それも半端じゃない。そして、その音楽と映像が完璧にシンクロしている。合唱が終わっても音楽は流れ、その音楽の調子に合わせて、役者を始めとするフレーム内すべての動きが音楽との整合を保っている。にぎやかな音楽が流れている時は派手な映像。ゆったりとした音楽の時は優雅な映像。この後、ようやく普通の映画のリアリティがこの作品に戻ってくる。
 しかし、冒頭からここまでの10分間強。「無声映画」「カラー映画」「ミュージカル映画」など映画の歴史を語るような映像でたたみかけ、それぞれの映像の良さを堪能できるとは、なんて贅沢な時間だっただろう。圧倒的な映像魔力である。

 また、調理室でワイングラスなどでの演奏シーン、機関部の労働者のリクエストに応えてオペラを歌うシーン、どちらも素晴らしかった。音楽に魅了させられる映像の数々に酔いしれることが出来て、私は大満足なのです。
 ただ、惜しむらくは、難民たちが登場して、話が広がりと深さを持ち始めると、作品自体の面白味が欠け出してきてしまったことです。私の中では、後半の歌も踊りも前半の音楽シーンを越えるには至らなかった。その辺も乗れた人は、全編楽しむことが出来たと思うのですが。それでも、最後まで完成度を落とさず、作品はラストまで突き進んでいきます。

 少女、陛下とその姉、総理大臣、有名歌手の元恋人、指揮者夫婦、霊能者、オペラ歌手たち、際の飼育係、難民たち・・・。様々な人生を積んで船は沈没する。ところが、新聞記者を道化的な語り手にしたこと、それと監督の映画に対する客観性がこの作品を軽いタッチに仕上げ、決して悲観的な物語にさせなかったところはさすがです。


『そして僕は恋をする』
 「天使の涙」「カップルズ」に続く群像青春映画をトリュフォーが撮って、ラストの部分だけカットしたような映画。なんて書いてもよく分からないか。観てもらえば分かってもらえると思うけど。登場人物がよくしゃべるし、ナレーションまであるから、字幕追うのに疲れます。
 観た感想?それも登場人物が語ってくれてます。


『卒業』
 自主映画っぽい作りに多少嫌悪感をもよおす人もいるかも知れない。けだるい雰囲気を嫌がる人もいるかも知れない。もしかしたらダスティン・ホフマンに嫌悪感をもよおす人がいるかも知れない。でもこの映画を観た後、自分の人生に嫌悪感をもよおす人がきっと沢山いることだろう。


『ソナチネ』
 演技や演出にあざとさが目に付き,どうも映画は嘘っぽくていけないとお嘆きの貴兄に武の映画はいかがでしょうか.死への憧憬を淡々と,そして強烈に綴った傑作.ヴェネチアで賞を取った「HANA-BI」より断然お薦め.死について思うことのある方,必見.


『それから』
 夏目漱石の本を一冊読み終えたような気持ちになれたことが驚きであった.漱石の世界を十分に作り上げることに成功していたのだろう.これで,「メイン・テーマ」の失敗をチャラにし,奇才・森田が巨匠になる日は近いと思ったのは,私だけではなかったと思う.しかし,実際は・・・.「(ハル)」が傑作だとか,「失楽園」は凄いとか言っても,あの頃の森田にはおよびはしない.優作とともに森田も去ってしまったのか?


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