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『Le Cafe de la Plage』ムーン・ライダーズ | |
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ムーンライダーズほど海の似合わないバンドは無い。もう一つ似合わないものは、制服。 この、未だかってないタブーを見事に徹底して侵したのが『Le Cafe De La Plage』だ。 ムーンライダーズ自身によるセルフカバー集。一筋ならではいかないのは判っていた。が、夏だ、レゲエだ、武道館だ、には参った。 ヒネクレも三千五百二十七回転すればこうなるのだ。やっぱり40歳以上の奴等は信じられない。 遥か彼方、1万哩先を疾走するコンセプトだけのアルバム、と思っら大間違い。シャイな鎧もたまには功を博す。今聴き直すと、このアルバムはこのスタイルでしか存在し得ない。 選りすぐりの曲を、レゲエという共通のオペレーション・システム上に置く。この事によって均していくのではなく、逆に、より旋律を際だたせ、19年間の内部循環機関を外部に放出するデバイスを配したのだ。 甘美なラバーズ・ロックあり、のたうち回るようなラガマフィンあり、まるでリズムボックスのプリセットのような記号としてのレゲエや、永遠にカットアップされ続けていくようなダブと、果てしない。 それにしても「ボクハナク」の雄々しいまでに強靭なイントロ、まるで月夜の浜辺で繰り広げられるブウードウーの祭りのように混沌とした「真夜中の玉子」、ハイテックな廃虚から亜熱帯の湿り気のある汗の匂いに変化した、「G.o.a.P.(急いでピクニックへ行こう)」。 真冬の浜辺のキャンプファイアーで、誰ともなしに歌いだしたような「くれない埠頭」。真っ白なパンツ、揃いのチェックのシャツ、真っ赤なウィンドブレイカー、これは勿論ビーチボーイズな記号。ウママ〜な、コーラスは、「パパ・ウー・モウ・モウ」(「イン・コンサート」、オリジナルはリヴィングストンズ)からの引用。 このアルバムとなら海に行ける。 柵の無い突堤に着いても、きちんとブレーキが踏める。 夕日を眺めても、ハンドルにうっぷす事も無い。 塩の香りを嗅ぎながら、少しだけ昔の話をしたりも出来る。 涙の跡を見せないで。 96/06/15 *久田頼 |